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 ←その50『タルタル娼館にて -ティルとガラン- 3』 →コメントのお返事など
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まんどらたん組曲

三十七話『二つの奥の手?』

 ←その50『タルタル娼館にて -ティルとガラン- 3』 →コメントのお返事など
『とにかく‥みんなが来る迄耐えるんだ。‥大丈夫、絶対になんとかなる‥!』(マリン・タリン)

「マリン‥ごめ‥ん‥ね‥ボク‥ボク‥‥」
合わせた背中‥そこに感じる熱い体温‥そして息も苦しそうな声。
言うまでも無い、アタリナのものだ。
申し訳なさそうに‥いや、自分の事を責めるように謝っているが‥別にアタリナだけのせいじゃねぇ。
‥俺だって悪いんだからな。
なんだか‥どこかで見たような光景‥いや、こんな光景、見たとしたら‥忘れるハズも無いんだが。
ここはアラパゴ暗礁域‥常に空は暗雲が立ちこめ、光の差す隙間は無い。
そんな暗闇の中‥俺とアタリナの二人が、モンスター達と戦っている。
まぁ、戦ってるって言っても‥俺達が一方的に追い込まれてる、って言った方が良いな。
俺とアタリナは背中合わせになって、二人だけで周囲から襲い来るモンスター達を相手にしているんだ。
寝かせられるモンスターは寝かせ、そうでないヤツにはヘッドバットでしのぎ‥
くそっ、こんな状況がいつまで続く‥いや、いつまで保つんだ‥
でも‥弱音は吐かねぇ。
‥絶対にな。
「アタリナ、さっきの事は気にするなって。とにかく‥みんなが来る迄耐えるんだ。‥大丈夫、絶対になんとかなる‥!」
俺は絶対にこの修羅場をくぐり抜けてやる‥そんな意気込みを込めてアタリナに言ってやるんだ。
‥ややあって、小さな声で‥でも、強い意志を込めた「うん」という声が背後から聞こえてきた。
よし‥大丈夫だ。
俺はその日、何本目かのヤグードドリンクと‥エーテルを口にした。


「うーん、何度来ても‥嫌なトコだよね‥」
ここへ着くなり、アタリナが嫌そうな顔をして呟く。
‥まぁ、俺だって同意見だ。
アラパゴ暗礁域‥そこはラミアやインプ、そしてクトゥルブやソウルフレア等、死者の軍団の巣窟となっている場所。
闇の魔力が強い土地‥なんていう風にも言われているな。
そのせいなのか‥一日中、暗雲が立ちこめ、日の差す時間は無い‥っていう話も聞く。
現に‥最寄りの監視哨は洞窟の中にあり、そこから歩いて数分‥ようやく洞窟を抜けられるんだが‥
抜けた先の空だって、洞窟内とさほど変わらない位の暗闇が広がってる。
俺はそんな空を見上げて‥やっぱりため息が出ちまう。
‥俺もここへ来る度に思うが(そうそう足を運んでいる訳じゃねぇが)ここが晴れ上がるのを見た事は無ぇ。
まったく‥嫌な所だぜ。
「みんな‥すまんな、こんなトコに‥」
そんな悪い環境だ‥当然俺達の雰囲気だって沈みがちになっちまう。
まぁ、ここに来た理由は‥俺のラーニングの為、だしな。
一言、謝っておかないとな。
「マリン、気にしないで下さい。あの‥わたし、頑張ります!」
「オイラも頑張るゾ。さっさと終わらせて、美味いもの食べに行こうヨ」
俺の言葉に、ラルテもクリストも優しく言ってくれて。
‥うん、頑張らないとな‥よし。
「ああ、さっさと終わらせて、美味いモン食いに行こう!今日は俺のおごりだ!」
あんまりお金は無いけどな‥って言おうとしたんだが‥
「もう、お金無いんだから、無茶言わないの。その気持ちだけで充分、だよ」
それを言う前に、アタリナに茶々を入れられてしまった。
そう言うアタリナもにっこりと笑っていて‥まぁ、なんだ。
‥嬉しいやら恥ずかしいやらで‥俺は自分の心を誤魔化して言う位しか出来なかったんだ。
「と、とにかく‥行こうぜ、早くさ」

「あ‥‥ちょ、ちょっとごめんなさい」
目的地‥そう、クトゥルブの居るポイントだな‥そこを目指して歩いていた俺達。
道中スニークやインビジを掛けて進んでいたが‥ああ、そうだ、説明しておかないとな。
スニークやインビジ、ってのは魔法の一種で‥姿を消したり、歩く音を消したりする事ができるんだ。
ここらへんに居るモンスターは凶暴な奴が多くてな‥俺達の姿や、足音を聞いて襲い掛かって来る奴も居るんだよ。
だから魔法でそれらを消して進む必要があるんだ。
え?この魔法を使ったら、悪い事だってできるんじゃないかって?
そう思ってると‥痛い目みるぜ?この魔法には弱点があって‥っと、話がそれちまったな。
とにかく、俺達は目的地目指して進んでいたんだが‥ラルテが声を上げた事で、俺達は歩くのを止めた。
近くにモンスターとかは見えないが‥何かあったんだろうか?
「どうしたんだ、ラルテ?何かあったのか?」
俺達が進んでいる道は、この先一本道で‥周囲は海に囲まれている。
歩幅もそれほど広くなく、自然と1列になって歩いていた中、先頭を進んでいた俺は‥ラルテの言葉に振り返る。
ラルテの方を見ると、どうやら‥進行方向の右手、海の方を指さしていて‥ん?
‥見ると、海を隔てた先に‥うん、道が見えるな。
あの道に何か‥‥む、あれは‥‥タルタルが倒れている‥のか?
「あ、あれ‥誰か倒れてるのかナ?おーい、聞こえるカ-!?」
クリストも気がついたのだろう。
そのタルタルに向けて、手を振って声を上げている。
見ると、俺達の声に反応するように、手を少し動かしている様で‥まだ生きている!
「ごめんなさい、わたし‥あの人の所に行っても良いですか?」
なるほど‥ラルテは白魔道士‥ケアルでは回復できそうにないものでも、レイズの魔法で‥回復できるだろう。
更には‥白魔道士たるもの、誰かは解らなくても、この様な所で倒れている人を見捨ててはおけない‥か。
「勿論だ、行ってやってくれ‥しかし、どうやって行けばいいかな‥」
俺は改めて地図を見て、ルートを探してみる。
どうやら、来た道を少し戻って‥分岐道を進んで‥しかも大きく回り込まないと到達できないようだ。
まぁ、それでも‥行く他に道は無いし、な。
「あ、いえ‥わたしだけが行きます。皆さんは先に目的地へ向かって下さい。すぐに追いつきますよ」
と、笑って答えるラルテ。
いやいや、白魔道士一人を行かせる訳にはいかないだろう‥。
ここはみんなで行動した方が‥
「ん‥いや、オイラも行くヨ。ほら、近くにモンスターが居たら、オイラの力が役に立つだロ?
 アタリナとマリンは二人で仲良く、先に行ってくれヨ」
そう言って、俺とアタリナにウィンクしてみせるクリスト。
なるほど。
こういう時は獣使いとしての腕が役に立つか‥って、おいおい。
最後のウィンクは何なんだ‥しかも二人で仲良く、って。
全く‥どこまで本気なんだか解らないな‥。
「まぁ、クトゥルブ1体なら、青魔道士が二人居ればラクラクだよ!‥という訳で、仲良く行こうね、マリン」
アタリナは‥クリストの言葉を本気に受け取ったんだろう‥。
そう言って俺の腕に腕を絡ませてきて‥おいおい。
全く、仕方無いな‥。
「じゃあ、俺達は先に目的に向かって、始めておくよ。‥二人共、気をつけてな」
俺はそう言うと、クリストとラルテに向かって軽く手を振ってみせる。
‥クリストが居れば、まぁ大丈夫だろう‥うん。
いざというときには(まだ今日は呼んで居ないが)母さんも居るしな。
「あの‥マリンも、気をつけて‥あ、あまり『らぶらぶ』してちゃ、だめですよ‥?」
ラルテ‥何を言ってるんだ‥。
‥いや、俺の手に腕を絡ませているアタリナが居るんだ、俺にそんな事は言えないな‥。
「ふふふッ。いちゃいちゃしてたらダメだゾ。あと、オイラ達が行くまでに終わらせるのもダメだからナ」
クリストまで言うか。
いや、クリストだから言うか。
まぁ‥しょうがないな。
「へへーん、二人が来るまでに終わらせちゃうもんね♪」
アタリナは‥そう言って更に身体をくっつけてくるし‥まぁいい。
ともかく‥俺達は二手に分かれて、各々の目的地へと向かったんだ。

「さってと‥目的地到着。‥そして早速第一クトゥルブ発見!やっちゃう?」
場所はどんよりしていても‥アタリナは明るい声で俺に聞いてくる。
まぁ、こういう時はアタリナの明るさに助けられるが‥
なんだよ、第一クトゥルブって。
まぁ良いが‥とりあえず、準備しないとな。
しかし‥クトゥルブって、そんなに弱かったか?
「アタリナ、やっぱりみんなを待った方が良く無いか?その、何かあったら‥」
心配性だ‥と言われても良い。
‥でも、俺はまだしも、アタリナが‥その‥‥
と、とにかく。
安全に行った方が良いんじゃないか、って事だ。
まずは周りを見渡して‥周囲に他のモンスターは‥うん、リーチ族が居るだけだな。
‥リーチ族‥なにやら、ふにふにしたボールの様な生き物で‥一見すると可愛い様にも見える。
しかし、物理による攻撃が効きにくく、更には特殊なガスや霧を使ったりと、戦うのが困難な相手だ。
まぁ‥ここのリーチ族は好戦的じゃない‥こちらから手を出さない限りは、手を出してこないハズだ。
さて、そうなると‥周囲は安全だ。
それでも、やっぱり‥
「うーん、それがね‥ここまで来て言うのも何だけど‥」
心配している俺を余所に、珍しくもアタリナが照れくさそうに頬を掻いて話し出した。
よくよく話を聞いてみると‥どうやら、アタリナがスパイナルクリーブを覚えたときは、拍子抜けした位だったらしい。
アタリナ、そしてもう一人の青魔道士‥それから白魔道士のルカリ、三人で臨んだらしいのだが‥
ルカリは開始早々に弱体魔法を入れると「暇です」って言う位に、する事が無かったんだとか。
‥なんでも、青魔道士二人でほどほどにヘッドバットを回していると、びっくりするくらいダメージも喰らわなくて‥と。
ま、まぁ‥そういうものなのかもしれないな‥。
「じゃあ、とりあえずやってみようか‥まぁ、武器を壊すのがちょいと骨が折れそうだが‥」
そこまで言われたら‥まぁ、やってみるしかない。
‥なに、最悪危うくなりそうなら‥青魔法の連打で一気にとどめを刺す!
それくらいに考えておけば問題ないだろう‥うん。
「ま、やってみようよ、うんうん」
俺の言葉に、アタリナもにこにこと微笑みながら頷いて‥
‥俺達は二人、剣を抜いた。

「‥なんだ、思った以上にラクだったな‥」
最初の一体を倒して‥そのラクさ加減に俺は戸惑ってしまう。
俺のフィラメンテッドホールドや、アタリナのマインドブラストといった行動阻害を起こさせる弱体魔法‥
きちんとそれを喰らわせて、後は二人でほどほどにヘッドバットをしていたら‥
クトゥルブの攻撃は空蝉で充分かわせる位だった。
‥俺の心配は一体なんだったんだ‥。
その‥肝心のスパイナルクリーブを覚えられなかったのは残念だったが。
「でしょ?‥まぁ、覚えなかったのは残念だけど‥次いこう、次!」
俺の言葉に、アタリナはにっこりと微笑んで言ってくれる。
まぁ‥これなら二人でもなんとかなりそうだな。
よし‥次のクトゥルブに掛かろう。
俺はアタリナの言葉に頷いて、二人で歩を進める。
‥もう少し奥地、クトゥルブの居る所に‥。

「よし‥スパイナルクリーブ、覚えたぞ!」
運良く‥そう、本当に運良く。
次に戦ったクトゥルブで‥俺はスパイナルクリーブを覚えることが出来たんだ。
クリストやラルテには悪いが、これで‥うん、目的達成だな。
「おめでとう、マリン!‥ふふ、クリストとラルテは悪いけど、これでもう‥あっ!」
‥アタリナもどうやら、気付いたみたいだ。
俺達の事に気付いたクトゥルブが居る‥しかも二体も。
油断して、周囲の確認を怠っていたか‥しまったな。
「アタリナ、とりあえずクトゥルブを寝かせて逃げようか‥」
目的は済んだ‥あいつらと戦う理由はもう無い。
しかも一体ならまだしも、二体となると‥厄介だしな。
「マリン、クトゥルブは寝ないんだ‥少なくとも、僕達の魔法じゃあ‥ね。‥足止めをして逃げよう」
そうだった‥クトゥルブは寝ないんだったな。
‥事前に調べていたハズだったが‥大事な事を忘れていた。
だが、そうなると‥アタリナの言う通り、足を止めて逃げた方が良さそうだ。
俺は咄嗟に‥気付かれたクトゥルブの内、1体‥手前の1体に青魔法を唱える。
「‥リガージテーション!」
俺の唱えた魔法により、緑色の様な粘液体が実現化し、クトゥルブめがけて飛んでいく。
粘液体はクトゥルブに当たると、まとわりつくように溶けて‥クトゥルブの歩みを止めた。
‥リガージテーション‥元はペイスト族の使う、確か‥胃酸を吐く技だったと思うが‥
胃酸が何故バインド効果‥つまり足止めの作用を起こすのかは謎だ‥。
「やるね、マリン‥よし、ボクだって‥!」
アタリナはそう言うと‥俺と同じ様にリガージテーション‥じゃない。
あれは‥そうか、炸裂弾か。
‥炸裂弾‥その魔法を唱えると、名前とは似つかぬ物体‥果物であるカザムパインが飛んでいって‥
いやいや、正確にはカザムパイン型の爆弾なんだが。
それがモンスターに着弾すると、周囲に火炎を巻き起こすと共に、バインド効果を与えるというものだ。
‥何故カザムパインの形なのか、何故バインド効果になるのかは‥その技を使っていた「オークの戦車」に聞いてくれ。
まぁ、ともかく‥アタリナの放った炸裂弾により、後方にいたクトゥルブも足止めを喰らって‥
後は俺達が逃げるだ‥け‥‥んっ!?
アタリナの炸裂弾が炸裂して‥しばらく後。
俺達が剣を収め、その場を去ろうとしたときに‥そいつらは現れたんだ。
「なっ‥リーチ族‥‥まさか、さっきの‥」
そうだ‥本来は好戦的ではない、リーチ族。
そいつらが明らかに俺達を敵視して‥襲い掛かって来る。
しかも‥二体‥いや、三体‥‥くっ、これは‥
「‥そうか‥ごめん、ボクの炸裂弾‥巻き込んじゃったんだね‥‥」
‥アタリナを責めるつもりは無い。
俺だって‥見た限り、リーチは見えなかったんだ‥
岩場の影にでもいたんだろうか‥。
ともかく、こうなったらリーチを眠らせて‥
「とにかく、話は後だ‥‥シープソング!」
こちらに向かってくるリーチに向かい、俺は範囲睡眠魔法であるシープソングを放つ。
が‥わずかながらも詠唱が遅れて‥アタリナの身体にリーチの攻撃が襲い掛かる。
「‥‥ぐっ‥‥!」
三体から攻撃されたからか、アタリナの空蝉は‥すぐに剥がされてしまった様だ。
アタリナはくぐもった声を漏らしたが‥リーチ達の二撃目が来る前になんとか眠らせる事が出来た。
「アタリナ、大丈夫か!?」
俺は慌ててアタリナに駆け寄ろうとするが‥そんな俺をアタリナは手を出して止める。
そして‥空蝉を唱えはじめたんだ。
‥リーチのやってきた方を指さしながら。
「マリン‥気をつけて‥ッ!」
まだ、モンスターが‥‥うっ!?
アタリナの指さす方向を見ると、もう1体のリーチと‥そしてクトゥルブ達。
俺がさっき足止めしたクトゥルブ‥そいつらに対するバインドが解けたのだろう。
俺達めがけて‥やってくるんだ。
‥くそっ‥この数‥流石にマズい‥!
俺は慌ててバッグからヤグードドリンクを二本、そしてエーテルを何本か取り出す。
ヤグードドリンクの内、一つは自分が飲み‥そしてもう一つはアタリナへと渡した。
‥これを飲めば、少しずつだが‥魔力が回復していくしな。
更に、エーテルも適当な数をアタリナに無理矢理押しつける。
エーテルはヤグードドリンクと違い、瞬時に‥だが、わずかな量の魔力を回復することができる。
数を飲めばまぁ‥少しは足しになるもんだ。
‥そうなんだ‥クトゥルブ二体を倒してから、魔力の回復が出来ていない。
この先、長期戦になりそうだからな‥飲んでおくに超したことはないさ。
俺は、アタリナもヤグードドリンクを飲むのを確認すると‥改めて剣を構えた。
「‥シープソング!」
開口一番、アタリナがシープソングを放つ。
‥クトゥルブには勿論効かない‥が、もう一体居るリーチには効くはずだ。
予定通り、リーチが眠ったのを確認すると‥俺達はクトゥルブの方へと向き直った。
だが‥これからどうすればいい。
リガージテーションで一体ずつ足止めして逃げるか‥
‥いや、そこまで連続して魔法は使えない。
そうだ、ならばアタリナの炸裂弾で‥
‥いや、炸裂弾はリガージテーションに輪を掛けて時間を要するんだ。
とはいえ‥それまでは耐えて‥それしかないか。
「アタリナ、炸裂弾を使えるようになったら‥それを使ってその間に‥」
俺はアタリナに言うが‥アタリナは首を振っている。
何故だ‥それならあそこから来た道へと逃げられ‥‥くっ。
俺は来た方へと軽く視線を流して‥そしてアタリナが首を振った理由がわかった。
‥俺達が来た方向に、姿が見えるんだ‥そう、クトゥルブの。
これでは、例え炸裂弾で足止めをしたとしても‥逃げ切れない。
寧ろ襲い掛かって来るモンスターの数が多くなって‥どうしようもなくなる‥。
くそっ、どうすれば‥‥
考える俺だったが、考えがまとまる前に‥
クトゥルブ達は襲い掛かってきた。
‥一撃‥そして二撃。
襲い来るクトゥルブの刃‥俺はそれを片手剣で受け流し、あるいは空蝉の幻影で無効とする‥。
が、やはり与するのはラクじゃない‥一撃の重さがそれを感じさせる。
二対一なら、二人でヘッドバットをまわしつつ‥とできるもんだが‥
二対二の現状、それも有効ではない‥。
くぅ‥これは‥‥厳しいな‥
俺が苦戦を感じたとき、アタリナから‥声が聞こえてきた。
「マリン‥‥マリン、逃げて‥‥‥このままだと、二人共やられちゃう‥」
その言葉に‥俺は一瞬耳を疑う。
ここで俺に‥アタリナを置いて逃げろだって?
何を言ってるんだ、アタリナは。
そんな事をしたら、お前は‥
「‥逃げる途中に居るクトゥルブは、ボクが引きつけるから‥だから‥」
「バカ言うんじゃねぇ。お前を置いて逃げられるか!
 ‥そうだ‥俺は‥‥もう誰も失いたく無い‥‥そうだ、俺は‥もう誰も置いて、逃げはしないっ!」
俺は‥アタリナに向けて‥
‥いや、自分に向けてそう叫ぶと‥クトゥルブへと斬りかかっていった。


そして‥今に至るという訳だ。
リーチは‥目を醒ます度にシープソングを放って来たが‥これもいつまで保つのか解らない‥。
そんなリーチに取り囲まれている中、俺達はそれぞれクトゥルブと向き合い‥互いが背を向けあった陣形を取っている。
このクトゥルブを倒しさえすれば、まだ道は開けるんだろうが‥だめなんだ。
あれから、俺は果敢に斬りかかっては居るものの‥決定的なダメージを与えきれずにいる。
何しろ、クトゥルブの攻撃が早く‥空蝉を唱えていても、間に合わないんだ。
幾ら幻影を作っても、クトゥルブ達は次々と幻影をかき消していく。
次第に身体に喰らうダメージが多くなり‥それを回復しようとして青魔法を多用する‥
だが、魔力だっていつまで保つか‥。
「くっ、ハイポーションとエーテルで、腹がたぷたぷ言うぜ‥」
俺は誰に言うでもなく呟くと、改めて気合いを入れる。
そうだ‥こんな時のためにハイポーションやエーテルを用意したんだ。
‥まだまだ‥戦えるんだ、俺はっ!
‥だが、アタリナはどうだ‥さっきは弱音を言っていたが‥
「アタリナ、大丈夫か!?‥もうすぐクリストやラルテが来てくれるからな‥!」
俺は迫り来るクトゥルブに、片手剣を振り回しつつも‥アタリナを元気づける。
アタリナも‥俺の言葉に、小さいながらも「うん」と言ってくれる‥。
大丈夫‥大丈夫だ。
アタリナもまだ‥戦えている。
「‥あのね‥マリン。‥帰ったら、キスしてくれる‥?」
‥アタリナの‥力のない言葉‥。
初めて聞くような‥そんな弱々しいアタリナの言葉に。
俺は‥どうしようもない不安に駆られる。
‥‥いや、だめだ‥ここで俺まで弱気になってちゃ、だめなんだ。
「ああ、キスしてやる‥キスどころか、もっと良い事してやるから‥だから‥!」
そうだ‥帰ったら‥無事に帰ったら、何でもしてやる。
だから‥だから‥!
「うん‥頑張る‥ボク、頑張るよ‥!」
アタリナの声に‥少し力が戻った様な‥そんな気がした。
‥俺だって‥俺だって、負けちゃいられない。
俺は‥力を込めて片手剣を振るう。
力の限り振るい‥そして青魔法を放つ。
負けるもんか‥絶対に、負けるもんか‥!

しばらく‥俺とクトゥルブとの剣劇が続く。
互いに剣で凪ぎ、俺は時折ヘッドバットを唱え‥空蝉を張り‥。
だが、そうこうしている間にも、寝かせていたリーチ達が起き、俺達に襲いかかって来るだろう。
‥しっかりとタイミングを見て、モンスターを再び寝かせる魔法を‥
なんて、考え込んでいた俺が悪かったんだろうな‥
目の前に居るクトゥルブが、刀の握りを持ち替えて‥くっ、得意技の構えを取り始める。
これは‥ぐっ、まずい‥ヘッドバットで抑える事が出来ない‥っ!
‥しかも、間の悪い事に‥さっき最後の空蝉がかき消されたばかりだ。
今特殊技を放たれたら‥俺は‥!
‥ここまで‥なのか。
半ば諦めつつある俺に‥何故か。
何故か‥クトゥルブの次の動きが見えた様な気がした。
‥「一刀両断」‥!?
いや、迷っている暇は無い。
何故かは解らなくとも、それが来る‥そんな直感があるのなら、それに従うだけだ。
俺はクトゥルブが技を放つ瞬間、身体一つ分横に身体をずらしてみる。
‥これで違う技‥そう、例えば「マングル」とかが来たら‥絶望的だけどな。
だが‥クトゥルブは‥‥そう、「一刀両断」を放ったんだ。
軽く飛び上がり、真上から切り下ろす技を。
‥見事に俺の読みは当たり、そして‥俺はまたと無いチャンスを得た訳だ。
相手が剣を振り下ろし、地面を叩いたその隙に‥
俺は渾身の力を込めた一撃を‥喰らわせてやる。
「アジュールロー‥!」
青魔道士の奥の手‥青魔法の真の力を解き放つ、その技を使って。
俺は‥青魔法をクトゥルブめがけて放つ。
「‥フレネティクリップ!」
俺がその魔法を唱えた時‥クトゥルブはうずくまるような姿勢だったが‥
頭上からの悪魔の腕による攻撃を喰らうと、そのまま動かなくなった。
これで‥後はアタリナが対峙するクトゥルブを‥
俺がそう思って振り返ったとき‥しかし、アタリナは‥
「大丈夫か、アタリナッ!‥マジックフルーツ!」
俺が見たアタリナは、苦しそうに膝をついていたんだ‥くそっ、クトゥルブの攻撃を喰らってか‥。
俺は慌ててアタリナにマジックフルーツの魔法‥体力を回復させる魔法だな‥これを唱えると、補助に回る。
マジックフルーツを受けたアタリナは、少しは体力が回復したのだろう‥息を切らしながらも呟く。
「はぁ‥ごめん、マリン‥。‥ボク、魔力が‥‥もう、無いんだ‥」
なんてこった‥アタリナ、魔力を使い切っちまったか‥。
‥いや、この状況だ‥それも仕方無い事だろう。
俺だって‥残りの魔力はあとわずか‥薬品だって、もう‥無ぇ。
だったら、せめて‥せめて、アタリナの体力を回復した上で、俺達二人の剣を駆使するしかない‥!
‥どうやら、さっきのマジックフルーツだけでは、アタリナの体力は回復しきっていない様だし‥
よし‥!
俺はクトゥルブにヘッドバットを入れると、再度アタリナにマジックフルーツを放つ。
これだけ回復すれば、きっと‥
‥思った通り、アタリナはすっくと立ち上がり、そして‥
「‥マリン!?」
アタリナの慌てた声を聞きながらも、俺はクトゥルブに剣でなぎ払われていた。
ぐっ‥ヘッドバットは‥は、外れていたのか‥?
‥更に‥俺がアタリナを回復したことで‥クトゥルブは俺を狙う様になったか‥
それにしても、さっきのまま‥空蝉を張り忘れてるたぁ‥俺も間抜けだぜ‥。
地面で軽く一回転した後、立ち上がろうとしたが‥くっ、結構大きいダメージを喰らっちまったか‥
膝が‥笑ってるぜ‥
立ち上がれずに膝を突く俺に‥しかしクトゥルブはやってくる。
絶対‥絶命か。
‥しかし、どうしてだろうな‥なんだか‥時間の進むのが凄く遅く思えて‥。
クトゥルブのやってくるのが、凄く遅く感じる‥まぁ、死ぬ時はこんなもんなのかもしれねぇな。
そうか‥悪い予感は‥これだったのか。
まぁ‥それならそれで良い‥アタリナがそうなるよりは、余程‥いい。
俺は‥覚悟を決めて、目を閉じた。

‥しかし‥いつまで経っても、クトゥルブの攻撃は来ない‥。
おかしい、幾ら遅く感じても、どうしてクトゥルブが‥‥
俺はおそるおそる目を開けてみると‥そこには‥
「あ‥アタリナ、お前‥何をしてるんだ!」
俺の前に立つ‥アタリナの姿。
‥そうだ‥まるで俺を「かばう」様に。
バカな‥ナイトじゃあるまいし、そんな‥
「マリンは‥マリンはやらせない‥っ!」
そう言うアタリナは‥もうとっくに空蝉の幻影を切らせて‥身体に傷を負っていく‥
勿論、アタリナだって‥クトゥルブ相手に剣で受け流し、身を守ろうとしている‥。
でも、次第に受けていく傷‥傷‥。
更には‥クトゥルブはまた‥特殊技の構えを見せる‥。
マズい‥いくらなんでも、あれを喰らったら‥アタリナは‥アタリナは‥っ!
やめてくれ‥アタリナに‥‥やめてくれ‥そんなの‥そんなの‥!
俺は‥俺が死んでも良い。
でも、アタリナは‥アタリナだけは‥ッ!
「アタリナ‥どけっ!お前が攻撃を受ける必要は無いっ!」
俺は大声でアタリナに怒鳴りつける‥そんな、そんな事をするなって‥
でも‥アタリナは‥泣きそうな声で‥叫び返してきたんだ‥。
「嫌だ!‥守るんだ‥‥マリンを‥‥私は‥護るんだッ!」
その‥アタリナが叫んだとき‥
アタリナの身体が一瞬、光った様に見えて‥更には‥
俺には‥幻が見えたんだ‥。
そんな俺を余所に‥クトゥルブは「マングル」を放つ。
その刃は、アタリナの身体を三度、切り裂いた‥かのように見えたが。
‥しかし、まるでその刃を跳ね返すかのように‥アタリナの身体に傷を負わせることは出来なかった。
バカ‥な‥一体、これは‥
戸惑う俺に‥しかし、突然襲い来るものがあった。
「‥ケアルガ!」
ややあって‥光に包まれる、俺とアタリナの身体。
その光が優しい風の様に感じ‥みるみる間に身体の傷が癒えていく。
これは‥!
「ラルテ!‥クリスト!」
振り返らなくても解る‥あの声、あの優しい光‥二人が来てくれたんだ。
「マリン!アタリナ!無事ですか‥とにかく、急いで体勢を立て直しましょう!」
「すまん、二人共無事カ!?」
助かった‥いや、油断していてはダメだな。
とにかく、ラルテが来たのなら‥逃げの一手だ。
「ラルテ。回復は俺がする‥急いでテレポを頼む。クリストは‥すまん、クトゥルブの相手を」
俺の言葉に、二人からは「わかりました!」「わかっタ!」と返事が聞こえ‥そして各々が動いていく。
俺は周囲のリーチ達がまだまだ眠っているのを確認した後、
慌ててアタリナに‥そして俺にも、マジックフルーツの魔法を掛ける。
ああ、空蝉だって掛けておかないとな。

‥ともあれ。
その後‥無事にラルテのテレポが発動し、俺達は難を逃れた。
ラルテのテレポの光に包まれた時‥ようやく安堵の息をついたもんだが‥
しかし‥
俺があの時見た、あの幻は‥なんだったんだろう。
そう、アタリナが‥クトゥルブのマングルを喰らう直前に見えた‥あの紋章。
‥二本の剣が、盾の前で交差している‥あの紋章は‥
‥‥まるで、ナイトの使うインビンシブルじゃないか‥‥。
インビンシブル‥ナイトの使う奥の手で、あらゆる物理攻撃を無効化する事ができるという‥
‥そうだ、そういえば‥インビンシブルだ。
アタリナは、インビンシブルを使った時の様に‥クトゥルブのマングルを受け付けなかった。
でも‥そんなバカな事があるのか‥アタリナは青魔道士だ。
そんな技、使えるハズが無いのに‥。
‥だとしたら、あれは一体‥。
俺はそんな疑問を抱えたまま‥テレポの光に包まれていった。
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いつも拝見してます

続き楽しみですー!
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