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星芽寮交響曲

10話『休み明け』

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5月9日 夕方
 

「ふぅ~、今日も疲れたね~」
夕方‥仕事を終えた帰り道。
久しぶりに感じた疲れから、僕はそんな声を漏らしてしまう。
「せやな‥休み明け、しかも長期の休みやったとなると‥疲れるわなぁ」
僕に同意するようにそう言ったのは‥勿論ディルだ。
ディルは「疲れた」を全身で表すように首を回しながら言っていて‥やっぱりそうだよね。
今日は5月9日、火曜日。
火曜日と言えばそもそも「休み明け」って事もあって、疲れるイメージがあるんだけど‥今日はそれが特に出てる。
それというのも‥そう、残念ながら昨日で、長かったお休み「ゴールデンウィーク」が終わっちゃったからなんだ。
ああ、楽しい時間って‥過ぎ去るのが早いよね‥本当に。
ともあれ、昨日までゆったりと過ごしていた分、休み明けの勤務初日は‥疲れちゃうよね。
いや、本当は僕もディルも、お休み中に「出勤日」があったんだけど‥
‥まぁ、楽なお仕事だったから、それほど「働いた!」って実感が無くって。
だから本格的な仕事の始まる「今日」が、とても疲れて感じたのかもしれない。
「でも‥今からは楽しい時間の始まりだよ!今日は‥ふふ、何を食べようかな」
だから‥そんな僕達の疲れを癒してくれる「とっておきの場所」へと僕達は向かってるんだ。
‥そう、そこは勿論‥!
「ふふ、ピノ‥嬉しそうやなぁ。ボクは‥‥まぁ、いつものやろうけど」
僕達の友人、ユランが勤めているお店‥『マッシュとナロンのスィーツショップ』だ。
あれから‥そう、僕達が初めてこのお店に来てから。
僕達はよくこのお店に通ってるんだ。
あ、勿論僕とディルだけじゃないよ?
ヤダンも、フリストも来るし‥テルだって。
流石に毎日‥って訳じゃ無いけど、そうだなぁ‥一週間に一回くらいかな?
‥もうちょっと多いかも‥。
まぁ、専ら僕とディルの二人で来る事が多いんだけどね。
そこはやっぱり、同じ水の区にある目の院に勤めているから‥っていうのが大きいかなぁ。
ヤダンの勤める口の院は港区だし‥フリストの勤める鼻の院は水の区でもずっと南の方だし‥
その点、僕達なら帰り道にちょっと寄り道感覚で来れるもんね。
‥でも、食べ過ぎないように注意しないと‥美味しいから、パクパクって沢山食べられるんだよね。
うん‥お腹とお財布がピンチになっちゃうんだよね‥。

「お、ピノは‥チョコレートケーキか。アルザビコーヒーとセットで‥黒いセットやな」
テーブル席に着くなり、ディルは僕の頼んだメニューを覗き込んでそう言う。
黒いセットかぁ‥言われてみると、確かにそうだね。
でもね、見た目とは裏腹に‥甘~いチョコレートケーキと、苦~いアルザビコーヒーの組合せがほんっとに美味しいんだよ。
ふふ、食べる前から楽しみになっちゃう。
っと、そういえば‥ディルのメニューは‥って、見るまでも無かったね‥。
「ディルは‥やっぱりジンジャークッキーにサンドリアティー、なんだ」
ディルは昔から「甘い物が苦手」らしいんだ。
だからケーキ類はどうしても口に合わなくて‥甘さ控えめのクッキー類を頼むんだって。
でも‥クッキーって言えば普通「甘い物」ってイメージがあるんだけど‥甘くは無いのかな?
「せやな‥ここのジンジャークッキーは逸品やで?ジンジャーのええ香りと、香辛料が良ぅ効いとる。
 甘さは抑えとるし、クッキー自体薄めやろ?パリパリした食感がまた、ごっつぅええねん」
確かに‥ディルの言う通り、一般的な「クッキー」と違って‥とっても薄いみたい。
ディルが食べてる時だって、パリパリって音がしてる位だし。
‥僕も今度、頼んでみようかな。
なんて思いながら‥僕がじーっとクッキーを見つめていたから‥かな。
ディルはそっとクッキーを一つ掴んで‥僕の方に差し出してきたんだ。
「ほら、一つ食べてみぃな。『百聞は一食にしかず』やで」
そう言ってにっこり笑うディル。
ふふふ、一食にしかずって‥ディルってば。
ともあれ‥これは折角のチャンス!僕は「いただきます」と一言断って、ディルの手からクッキーを‥
‥手に取ってみると、やっぱり薄い‥って、それよりも味、味!
どんな味なのかな、って思いながら、僕はパクっと一口‥‥ん!
確かに甘さは強くなくて、ジンジャーの香りや風味を強く感じる‥でも、勿論嫌な味じゃなくて。
なるほど、確かにこれなら甘い物が苦手な人でも大丈夫!‥‥の様な気がする。
‥僕はやっぱり、もうちょっと甘い物が食べたいけどなぁ‥。
僕のそんな気持ちも「お見通し」とばかりに、ディルは少し笑いながら言葉を掛けてくる。
「ふふ、ピノには物足らん様に思うかもしれんけどな‥ボクには丁度ええわ。
 ‥これとサンドリアティー‥でも、出来れば‥」
ディルの顔から、笑顔が消えて‥うっすらと「悩む」様な表情になったとき‥
そのディルの会話を遮る様に、テーブル席に現れた人が居たんだ。
勿論その人は‥
「ふぅ、お待たせ。っと、ディル‥「出来れば」‥何かな?」
僕達と同じ様に、トレイにケーキ‥ブッシュオショコラだね‥とアルザビコーヒーを乗せた、ユランがやってきた。
どうやら仕事が終わったみたいだね。
でも‥ユランの中では、まだ仕事が終わっていないみたい。
ディルの言葉を、「お店に対する要望」と受け取ったんだと思うから。
ユランは遮ってしまったディルの言葉、その先を促すように‥ディルに声を掛けたんだ。
「お、ユラン、お疲れさん。うん、えーっと‥サンドリアティーもええねんけどな、やっぱり‥
 ほら、折角ウィンダスに居るんやから。‥ウィンダスティーは無いのん?」
ウィンダスティー‥言わずとしれた、ウィンダス連邦の特産品、ウィンダス茶葉を元に作られたお茶‥だね。
ちなみに、ディルが飲んでいるサンドリアティーは、サンドリア茶葉を使ったお茶‥ではなくて。
ウィンダス茶葉を発酵させた物を、茶葉として使ったお茶‥なんだよ。
って、それはどうでもいい話だったかなぁ‥ええっと‥。
ウィンダスティーかぁ‥確かにウィンダスの名物だけど‥
確かにこのお店には置いてないね‥どうしてだろう。
「うーん、ウィンダスティーは‥確かにそうだね、あの味は甘いケーキには合わな‥‥いや。
 味の好みは人それぞれだし、それに‥そうだ、甘い物と飲むなら、濃く煎れればいいんじゃないかな‥
 そうだ、苦いウィンダスティー‥それならあるいは、甘いケーキとも合って‥うんうん」
ディルの言葉を受けて、考え込みながらも言葉を続けるユラン。
熱心に‥そして一心にスィーツの事を考えるユランは‥ふふ、なんだか格好良くて。
なんていうのか‥昔の「泣き虫ユラン」の面影は‥全然見えない。
寂しい様な‥嬉しいような‥なんだか‥
「‥あっ、ごめん、つい夢中になっちゃった‥」
しばらく話した後‥ユランは我に返ると、慌ててそう言って。
ふふ、ユランってば‥恥ずかしいのか、顔を赤くしてる。
「いや、ええよ。仕事にそれだけ夢中になれるんは、ええこっちゃ。うんうん」
そう言いながらポリポリとクッキーを食べるディル。
「うん‥夢に向けて邁進してるユラン。‥格好いいよ」
僕もディルに負けずに、そんな事を言ったんだけど‥
ちょっと言葉が恥ずかしかったかな?
ユランってば、さっきまで以上に顔を赤くして‥照れてるみたい。
「そ、その‥こ、このことは店長とかに相談してみるよ‥うん」
ユランはそう言うと、まるで照れ隠しをするかの様に‥慌ててブッシュオショコラを食べ始めたんだ。

「そういえばユランは‥どうだったの?ゴールデンウィーク中は忙しかった?」
各々ケーキやクッキーを食べながら、雑談している中で‥
ふと出てきた話題がこれだったんだ。
ゴールデンウィーク‥練武祭の日を挟んで、前後三日間‥計七日間もお休みの日が続くんだよ。
でも、それだけお休みの日が続いても‥ユランの勤めるこのお店は営業していて。
そりゃまぁ、お仕事がお休みの日の方が‥お客さんだって入るだろうしね。
ともかく、そうなると‥やっぱりユランは忙しかったのかな‥
「ぼくは‥うーん、そうだね‥‥毎日が光曜日、ってくらいに忙しかったよ‥」
その光景を思い出したのか、軽くため息をつきながら話すユラン。
ユランの言葉から、そして表情から察するに‥「計り知れない程の大変さ」がうかがえるね‥。
僕達は大体、平日の夕方‥お仕事を終えた時間ばかりに来るから、お休みの日の事は分からないけど‥
この時間ですら結構お客さんが居るのに、それ以上にお客さんの居るお休みの日って‥。
しかもそれが毎日、ってなると‥大変だよね‥。
「うーん、大変そうやな‥やっぱり、休日はかき入れ時やもんな」
ユランの言葉に、ディルはこくこくと頷きながら答えてる。
そんなディルに相づちを打ちながらも‥ユランは再び話し始めた。
「そうだね‥ぼくはまだ、スィーツを作るお手伝いくらいしか出来ないから‥その分、カウンター対応にも回ったりとかしてね」
なるほど‥普段の休日並み‥いや、きっとそれ以上に忙しくて‥
ユランはお手伝いだけじゃなくて、接客対応までしてたんだ‥。
っと‥そうそう、ユランは勤め始めて一ヶ月と少しなんだけど‥まだ「お手伝い」の域を出ないらしい。
でも、勿論ユランはそれを嫌とは思って無くて‥「修行の一環」だと思ってるんだって。
僕にはよく解らないけど‥「先輩の腕を見て、技を盗む」とか‥そういう世界なのかな。
ま、まぁ‥ともかく。
「接客‥慣れないと大変だよね‥」
そうだ‥接客の大変さは解る‥。
僕だって最初、魔法図書館の受付をした時は大変だったもの。
‥え?受付とカウンター係は違うって?‥そ、そう言われたらお終いだけど‥。
「うん‥ぼく、接客の仕事はしたことなかったから‥あ、でも、今はもう大丈夫だよ。慣れてきたし」
でも、ユランもすっかり慣れたみたいだね。
今は自信満々、って風に話しているんだもの。
「ユランは、順応性高いねんなぁ‥ボクなんか、ほんまに受付‥慣れへんかったわぁ‥」
「ふふ、ディルの場合、方言が影響してる、ってのもあるよね」
ディルの言葉に、僕ちょっとだけからかう意味を込めて‥そんな言葉を言ってみる。
ふふ、ディルの最初の受付時は‥面白かったんだよ。
はじめて僕と会ったときみたいに、慣れない共通語で対応していて‥
どことなくぎくしゃくしていた感があったからかな?利用者の方もつられてぎこちなく喋っていたりしてね。
‥まぁ、今となっては「普通」に感じられる「オルジリア訛り」で受付してるけど‥
でも、利用者さんからは悪い話は聞かないどころか、「どことなく暖かみを感じる」なんて言われてる位なんだよ。
実際、僕もそう思うんだよね‥ディルの喋り方って「温かいな」って。
ディルは、僕達みたいな友達じゃなくて、利用者さんに対してはとても暖かな「オルジリア訛り」の言葉を使うんだ。
うん、言葉だけじゃなくて、表情や声色まで優しくってね。
だから‥おっと、話が逸れちゃったね。
ええっと、どんな話だっけ‥そうだ、僕がディルの「オルジリア訛り」を揶揄してたんだよね‥。
「それを言われるとなぁ‥やっぱり辛いわぁ」
「あ、ごめん‥気にしてた‥かな?」
僕の言葉に、ディルは額に手を当てて「やられた」とばかりの表情を見せて‥
‥思いの他、ディルに‥酷い事言っちゃったかな‥傷つけちゃったかな‥?
僕は慌てて謝ったんだけど‥
「そんなことあらへんよ。うん‥それより、ユランはいつになったらスィーツ作れるんやろな‥?」
ディルは「全然気にしてない」とばかりに表情を一変させて、にこにこ笑いながら答えたんだ。
‥ふぅ、よかった‥。
「うーん、そうだね。でも、ここで焦っても仕方無いよ‥挫けずに、一歩ずつでも進んで行ければ良いな‥って」
ディルの言葉に‥ユランはそう答える。
‥はっきりとした、意志の籠もった‥力強い言葉で。
うん、きっとユランなら大丈夫‥すぐに名パティシエになるよね。
「そ、それよりもさ‥二人はどうだったの?ゴールデンウィークは‥」
ユランは‥自分で言った事に照れちゃったのかな‥顔を赤くしながら、慌てて話題を変えようとする。
僕達‥僕達のゴールデンウィークは‥うーん。
確かに、折角の長期休日なんだから‥田舎に帰ったりだとか、ジュノに遊びに行く、なんて考えもあったのかもしれない。
でも、僕‥いや、僕とディルは‥
「それがね、ゴールデンウィークの丁度真ん中辺りに‥お仕事が入っちゃってね」
「お仕事?」
僕がため息と共に言った言葉に、ユランはオウム返しで聞いてくる。
確かに‥「書物の管理がメイン」っていう目の院のイメージからして、
休日出勤しないといけない仕事なんてあるのか、なんて思われるかもしれない。
ディルも、ユランの言葉にそんな空気を察したんだと思う‥ユランに対して簡単に説明を始めたんだ。
「ああ、仕事言うても管理・研究業務やのうて、通常業務の一部で‥魔法図書館の受付があるんや」
「なるほど‥そういえばお休みの日でも、図書館の方は開いてるもんね」
ユランだって、僕とおんなじで読書好きだから‥魔法図書館だってよく利用しているだろうに。
それなのに知らないなんて‥「お休みでも図書館は開いてる」って事、知られてないのかな?
‥いや、ユランは最近までマウラに居たんだっけ‥だったら仕方ないよね、うんうん。
それはともかくとして、目の院がお休みの日でも、魔法図書館は一般の人達に開放してるから‥
書物の貸し出しや、返却に来る人は居る‥最も、そんなに沢山の人は来ないんだけどね。
そんな人達の対応だとか、返却書物の片付けだとか‥そういった仕事を少人数で行うんだよ。
僕もディルも、丁度当番に当たって‥それがまた、丁度ゴールデンウィークの真ん中だった訳で。
‥まぁ、そうでなくても‥どこかに遠出する予定なんて無かったんだけど。
「でも、それほど忙しくは無かったしね。それに‥ふふ、僕は受付の合間に、本を読むことが出来たし」
うん‥僕としては、確かにお休みが一日潰れちゃったのは残念だけど‥
その分、お仕事の合間に本を読むことが出来たしね‥それは良かったかなぁ、なんて。
なんていうか‥まぁ、お仕事、って言う程身体を動かしてないし‥ホント、お休みの延長みたいな感覚だったから。
だから、そんなに嫌でも無かったんだ。
「せやなぁ‥ボクも一緒に仕事をしてた、ジックさんと色々話して‥楽しかったし」
どうやらディルも、僕と同じ様な感じ‥だったのかな。
ジックさん‥良い人だし‥何より楽しい人だし。
ふふ、事ある毎に弟さんの自慢話とか、かわいくてたまらない‥なんて話をするんだよ。
そこが面白くて‥あ、悪い意味で言ってるんじゃないんだよ?とっても‥うん、嬉しそうに話していてね。
ジックさんは、弟さん想いの良いお兄さんなんだよね。
「せやけどまぁ、覚悟はしてたけど‥故郷には帰られへんかったなぁ」
そういえば‥とばかりに、遠くを見つめるようにして呟くディル。
‥その姿はどこか寂しそうにも見えて‥
やっぱり、故郷に帰りたかった‥のかな。
‥以前にディルが言っていたように、ディルの故郷‥オルジリアまで戻るのには時間が掛かって‥
ゴールデンウィークをフルで使っても、それでも時間が足らないかも‥っていう位なんだって。
「まぁ、まだ勤め始めたところやしな、うん‥休み中に勤務も入ったし、良い意味であきらめがついたわ」
ディルはそう言って笑っているけど‥でも、やっぱり‥。
‥ううん、ディルがそう言ってるんだもの‥ヘンに言うのは‥良く無いよね。
うん、今は‥黙っておこう。
「そ、そういえば‥ヤダンも『帰ろうと思ってたんだけどな』って言ってたね‥」
そう、ヤダンも当初はこのゴールデンウィーク中に、サンドリアへ帰る予定だったんだ。
でも結局は、帰れなくなっちゃったんだよね‥。
「ヤダンは‥えっと、サンドリアやっけ?まだ帰れそうな気がするんやけどなぁ‥」
「うん、サンドリアなら‥ジュノ経由で飛空艇なら、時間はそれほど掛からないんじゃないのかな?」
ディルの言葉にユランが続いて‥
確かに‥確かにサンドリアなら、戻れそうな気はするけれど‥でも。
「うん、でもね‥急遽お仕事が入ったんだって。口の院での交代勤務で‥えっと‥
 そうそう、なんでも練武祭をするにあたって‥特殊な警備が必要になったとか言ってたよ」
何か‥事件か何かあった、って事なのかな?
僕もそこまでは聞いていないけど‥とにかく、ヤダン達口の院の人がかり出されて‥警備に当たっていたらしいんだ。
‥それも練武祭の前後日に‥つまり、5月の4,5,6日‥ゴールデンウィークのど真ん中だよね‥
あ、そもそもゴールデンウィークが練武祭を中心に考えられているから、当たり前の事か‥。
「うひゃ‥それは‥大変だね‥」
僕の言葉に、ユランは一気に沈み込んだ様な表情でそう答える‥。
でも‥それだけじゃないんだよね‥ヤダンがサンドリアに行くのを阻んだものは‥。
「更にね‥もう一つ問題が‥飛空艇の運行時間なんだって。
 確かに、ウィンダスからジュノ‥ジュノからサンドリアまでは、それぞれ2時間半位掛かるんだけど‥
 本当の問題は、その間にある乗り継ぎの時間なんだって。
 ウィンダスからジュノ到着後、サンドリア発の便まで‥最短でも5時間は待たなきゃいけないんだって‥」
「なッ!?な、なんや、その時間‥めちゃくちゃやんか‥」
僕はそもそも、ジュノに行ったことがないから詳しい時間は解らないんだけど‥
それだけの時間をジュノで費やすとしても、ウィンダスからサンドリアまで行くのに、合計9時間もかかっちゃう。
帰りはまだマシだって言うけど‥それでもジュノで2時間は待たないといけない、とか‥。
それこそ、サンドリアまで行くのに‥行きに1日、帰りに半日かかっちゃうんだよ‥。
そうなると、さっきの出勤の件も含めて‥どれだけサンドリアに居られるか、っていう話になるよね‥。
ヤダンも時刻表を見て気付いたらしくって‥更に出勤が解った時点であきらめた、って言ってたなぁ‥。
もっと‥そう、何か有用な交通手段があればいいんだけど‥。
‥それに‥
ヤダンは確か、彼女と会う約束をしてた、って言ってたけど‥どうなったのかな。
ヤダンは「仕方無いな‥」って言ってはいたけど、それでも‥。
‥彼女さん、怒ってなければいいけど‥。
「まぁ‥とにかく、今年一年はしょ‥‥ん?あれは‥‥」
何かを話しかけたディルだったけど、その途中で何かに気付いた‥みたい。
身体を動かして、僕の方‥いや、僕の後ろの方を眺めてる。
誰か見知った顔があったのかな?なんて僕は思って、ディルの視線、その先を追ったんだけど‥
あれ?あれは確か‥
「あそこにおるのんは‥ヒーラと‥マロンさん、ちゃうかな?」
そう‥ディルが言う様に、そこには‥僕達と同い年で、更にはディルの同室者であるヒーラと‥
僕達の一つ上の先輩で、僕の向いの部屋に住むマロンさんが一緒に居たんだ。
二人は何か言葉をかわしながら、ケーキを買うと‥
そのまま同じテーブル席に‥座ったみたいだ。
「うーん、寮では見ない、変わった組合せだね。‥二人は仲が良いのかな?」
少なくとも‥僕は寮の中で、二人が一緒に居るのを見たことが無い‥と思う。
とりあえず、僕はヒーラ達から視線を戻すと‥ディルに向けてそうつぶやいてみる。
うん、僕が知らなくても、ヒーラと同室のディルなら何か知ってるかもしれない、そう思ったんだけど‥。
「いや、ボクも知らんなぁ‥。二人は‥ケーキが好きなんかな?
 いや‥ケーキやったら森の区にもあるし、なんでまたここに‥」
腕を組み、考え込むようにしてそう言うディル。
‥二人の仲がどうなのか、それが分からないのはいいとして‥
どうしてディルは「二人がここにくるのがおかしい」なんて言い方をするんだろう。
「二人がここにくるのって‥おかしいの?」
「ん‥いや、思うんやけどな、ヒーラは手の院勤めやから森の区‥マロンさんは口の院勤めやから港区で働いてる。
 でも‥ここは水の区や。普通やったら森の区の‥例えば喫茶店に行くとか‥」
僕の質問に、ディルはまるで探偵の様に推理を披露して‥なるほど。
本来なら森の区で充分なのに、わざわざ水の区までやってきて‥
そうさせる何かが二人の間に!?
僕もディルに触発されるように、推理をしはじめた所で‥
意外なところから声があがったんだ。
「それは‥たぶんあのメガネの人の好み‥かなぁ」
ぽつり‥とそう言ったのは‥ユランだった。
あれ‥ユラン、もしかしてマロンさんを知ってる‥のかな?
「ユラン、マロンさん‥えっと、あの銀色のオニオンヘアーでメガネを掛けた人の事‥知ってるの?」
「あ、名前までは知らないけど‥でもね、ウチのケーキが好きみたいで、よく買っていってくれるんだ。
 ゴールデンウィーク中は良く見かけてね‥ほら、ぼくもカウンター対応してたから、余計に覚えちゃって。
 ホント、ウチのガトーオーフレースが気に入ってくれてるみたいでさ。
 もう一人の、銀髪の後ろ縛りの人は記憶に無いけど‥」
なるほど‥なるほど。
そうか‥マロンさんがここのガトーオーフレースが好きだから、だからここに‥。
で、今日はヒーラを連れてきた、って所かな‥?
‥えっと、さっきまでの僕の推理は無かった事にしよう‥。
「な‥なるほど、な、うんうん‥ケーキ好き仲間、っちゅうトコやろか」
ディルもどことなく動揺しているように見える‥。
ま、まぁ‥それはともかくとして。
「ケーキ好き仲間‥なるほどね。ディルはヒーラとケーキの話とか‥‥しないよね、やっぱり」
「せやなぁ‥ボクが苦手やからなぁ‥ハハ」
僕の言葉に、ディルは苦笑を浮かべながら答える。
まぁ、誰も嫌いなものの話題を好んでしないよね‥ふふ。
僕はもう一度、二人の様子を伺おうと振り向いてみて‥
うーん、角度的にヒーラの顔しか見えないけど‥どことなくうれしそうに見える。
それはケーキがおいしいからか、それとも‥
「そういや、ユランは親御さんと暮らしてるん?」
おっと‥僕が二人の様子を見ている間に、話は進んでいるみたいだ。
僕は視線を戻して、二人の話を聞いてみる。
「あ、いや‥両親はマウラに居てね。ぼくはウィンダスのアパート住まいだよ」
そうか‥家族そろってマウラに引っ越した後、ユランだけがウィンダスに戻ってきた‥ってことかな。
きっと、ユランはパティシエの修行の為にウィンダスへ戻ってきたんだ。
‥あ、ジュノの方が修行しやすいんじゃないかとか‥そういうツッコミは無しだよ?
きっと何か事情があったんだよ‥たぶん。
と、とにかく‥ウィンダスに住んでいるとなれば!
「ね、だったら‥今度遊びに行ってもいいかな?」
そうだ‥僕達の住む所は寮だから、ユランは来づらいと思うし‥
でも、ユランはアパートで一人暮らしとなれば、誰に気兼ねすることも無い!
‥なんて考えてちゃ、迷惑かな‥?
「ふふ、散らかってるけどね‥遊びに来てくれたらうれしいな」
僕の心配をよそに、ユランはにっこり微笑んでそう言ってくれたんだ。
よかった‥そう言ってくれるなら、僕達も気楽に遊びにいけるし。
「あ‥ボクも、行ってもええかな?」
と、今度はディルが心配そうにユランに確認して‥でも、ユランの答えはきっと‥
「もちろん!ディルも是非遊びに来てね」
ユランはディルに向けて、うれしそうにそう答えたんだ。
ふふ、やっぱりユラン‥だね。

その後も‥延々と僕達のお話は続いたんだ。
もう、それこそ「お店に迷惑じゃないか」って思うくらい。
‥気づいたときには、もう夕食の時間近くにまでなっていて‥
慌てて帰ったら、とっくに日課のランニングを終えたヤダンから「遅いぞ」って言われちゃった。
‥少しだけ怒ってる様な口調のヤダンだったけど‥
それでもお風呂に行くのを、待っていてくれたのは‥ふふ、ヤダンが優しいからだよね。
そんな優しいヤダンと、まずはお風呂に入って‥ご飯に行こう。
でも‥さっきケーキを食べて、さらにご飯まで食べて‥
僕、太っちゃうかな‥?僕も、ヤダンとランニングとかしたほうがいいのかな?
なんて、そんな些細な悩みを抱えつつも‥僕はお風呂へと向かったんだ。


  
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