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 ←11話『帰ってきた先輩』 →12話『ディルの悩み』
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ショート・ショート

その86『彷徨う想い』

 ←11話『帰ってきた先輩』 →12話『ディルの悩み』
あらすじ(『交わらぬ想い』シリーズの続きのおはなしです)

同じリンクシェルに所属するタルタルの男の子、サインとノレン。
サインは、ふとした事をきっかけとしてノレンを騙し、一夜を共にした。
その後、ノレンへの強い想いを持つサインは、罪悪感も相まってノレンに事実を打ち明ける。
騙されたと知ったノレンは、サインに対して「帰れ」という冷たい言葉を告げた‥。
ノレンの言葉のままに、部屋を出たサインは‥一人自室で涙を流すのだった。

 

「‥朝‥‥かぁ‥」
サインがノレンに「帰れ」と言われた‥「あの日」。
そんな「あの日」の翌日‥まだ「早朝」と言って良い時間。
サインはベッドの中で目が醒めた。
昨日は、あんな事があったからだろう‥レンタルハウスに戻ってから泣き‥
泣き疲れては眠り‥起きたらまた思い出して泣き‥
いつしか泣き疲れたのか、サインはベッドの中で深い眠りに落ちていた。
リンクパールはとうに外し、食事もせずに‥外にも出ずに。
早々に寝たことが影響したのか‥あるいは空腹感のせいなのか。
早朝に目が醒めたサインは、ともあれ‥軽い朝食を摂ろうとする。
買い置きをしておいたパンを食べ、小腹を満たすと‥そのまま再びベッドに横になった。
‥何も‥考えたくない‥
そんな思いとはうらはらに、次々と浮かんでくるノレンへの想いを‥
‥必死に考えまいと、ぎゅっと目を閉じて。

「‥‥‥ん‥‥」
目を閉じている間に‥再び軽い眠りに落ちたようだった。
小腹が満たされたせい、なのかもしれない。
あれからしばらくの時間が過ぎ、朝‥普段なら活動の準備にとりかかる時間になっていた。
だが‥今日は活動どころか、外に出ようという気にすらならない。
ベッドに寝転がったまま、視線を彷徨わせるサイン‥
「‥あ‥‥」
そんなサインの目に入ったのは、ベッドボードに置かれたリンクパールだった。
‥昨日外したリンクパール‥その転がりやすい形状から、寝ている間に転がし、無くしてしまってはいけない‥
そんな思いから、普段であればベッドボードに置くはずが無かったものだが‥
昨夜そこに置いたのは‥そんな思考すら浮かばなかったのか‥あるいは、気分が投げやりになっていたからかもしれない。
そう、「もう、こんなリンクパールなど」‥と。
だが、一夜開けた今は違う。
共に冒険をしてきた仲間達との接点‥そして何より‥
「ノレン‥‥」
そう、愛しいノレンとの‥接点。
サインはベッドに寝転がりながらも、そのリンクパールに手を伸ばして‥
‥しかし、伸ばした手は宙でぴたりと止まる。
それは‥頭の中に浮かんでくるマイナスのイメージのせいだ。
(自分がリンクパールを付けることで‥ノレンの声が聞こえてしまう)
(ノレンの声を聴いたら‥きっと昨日の事を思いだしてしまう‥自分を拒否された事を‥)
(なにより、ノレンはボクの声を聴いて‥大人しくリンクパールを付けていてくれるだろうか)
(むしろ、ボクの声を聴いて‥リンクパールを外してしまう‥もしそんな事になったら‥)
(それだけならまだしも‥ノレンがますますボクの事を嫌ってしまったら‥)
昨日の、あの出来事が‥サインの心を不安に陥らせる。
その不安は‥不安が不安を呼び、サインの心を‥蝕んでいく。
そして‥そんな不安と共に大きくなっていくのは‥ノレンへの想い。
不安によって、逆にノレンを求めてしまい‥しかし、頭の中では昨日の嫌なイメージがはびこる。
昨日のあの‥「帰れ」と言われたときの、ノレンの声が‥顔が‥延々とサインの脳裏にこだまするのだ。
「やだ‥‥やだ‥‥ノレン‥‥やだよぅ‥」
気がついたときには‥サインは声を上げて、頭を振っていた‥。
まるで頭の中から、嫌な事全てを追い払うかのように。
だが‥その様な事をしても、脳裏からノレンは離れない。
結局‥サインはベッドに顔を埋め‥その上から布団をかぶって‥
そのままぎゅっと目を閉じ、時が過ぎるのを待った。
‥脳裏からノレンが離れていくのを‥待っていた。

「あ‥れ‥‥もう‥‥お昼‥」
いつしか‥再びサインは眠りの中に居て。
サインが目を醒ましたのは、お昼時をすっかり回っている‥そんな時間だった。
お昼を回っているとはいえ、延々寝ていたせいだろう‥空腹感はほとんど感じず‥
朝はあれほどマイナス方向に考えていたノレンの事も、それほどまでに悪くは考えなくなっていた。
‥再び、ちらりと見つめる‥リンクパール。
しかし、サインはそれを手に取る気にはなれなかった。
悪い方へと考え過ぎる事は無くなったにしても、「ノレンが怒るかもしれない」という思いがうっすらとあった為だ。
本来であれば、リンクパールを付けるのは一日たりとも欠かせなかったものだが‥
今日は‥違った。
今日は‥今日だけは、と‥自分の心の中に囁いて‥サインはリンクパールから視線を逸らした。
‥どことなく、気分が軽くなったような‥そんな気すらして‥
サインはゆっくりとベッドから出る。
‥遅くなった昼食を作るために。

質素な昼食を食べた後‥サインは特別何をするでもなく、ただぼーっと時間を過ごしていた。
ソファに座り‥あるいはベッドに寝転がり‥時に目を閉じ‥時に目を開き。
なにもしない、ゆったりとした時間の流れを感じながら。
本来であれば、退屈さに我慢が出来なくなるような‥そんなゆったりとした時間の流れも。
心を痛めていたサインにとっては、それは優しく思えて。
過去を思い出そうとはせず‥
未来を考えようともせず‥
ただ、じっと‥現在を‥いや。
現在すらも、遠くを見つめる視線の‥その先にあるかのように、見ようとはせずに。
サインは時を過ごした。
‥無為な時間‥を。


「朝‥‥だ」
翌日‥いつもの起床時間よりも、ゆっくりめに‥サインは目が醒めた。
昨日ゆったりと過ごしたからか‥あるいは充分すぎる程の睡眠を取ったからか。
不思議なくらいに気分が良かった。
そんな「良い気分」に後押しされたせいか‥サインの心に少しだけやる気が湧いてくる。
「今日は‥今日はリンクパールを付けよう」
誰かに言うつもりではなく‥勿論、周囲に誰かが居る訳でも無い。
誰でもない、自分に言い聞かせるために‥サインは敢えて声に出してそう言ったのだ。
サインは、言葉と共に決心すると‥まずは朝食を作りに掛かる。
全然買い出しに出ていないのもあって、大した料理は作れなかったが‥小腹の足しにはなったようだ。
いつもサインがリンクパールを付ける時間から、およそ1時間位後のこと‥
サインは質素な朝食を終え、リンクパールを付けるべく‥ベッドの脇へと腰掛ける。
どこか震える手に、力を込めて‥サインはリンクパールを耳に付けた。
‥ややあって、飛び込んでくる皆の会話‥朝にもかかわらず、そこそこの人数がリンクパールを付けているらしい。
少しだけ懐かしく感じる、みんなの声を聴きながらも‥サインはふと考え始めた。
リンクパールを付けたは良いが、まずは‥何と言おうか。
いつもの「おはようございます!」から始まって‥それから何と言おう。
昨日リンクパールを付けていなかったのは‥そう、体調が悪かったことにして、それから‥
『そういえば‥リーダー、その‥』
サインの考えを遮る様に‥突然その声が耳に飛び込んでくる。
聞き慣れた‥いや、決して忘れるハズの無い声。
他の人達の会話が聞こえる中でも、決して聞き逃す事の無い声。
その声の主は、勿論‥ノレン。
そのノレンの声が‥スイッチとなったのだろうか。
まるで嫌な予感を感じた様に、サインは反射的にリンクパールを外してしまう。
挨拶も出来ずに‥何も言うことが出来ずに‥ただ、ノレンが居る‥それだけで。
それだけで‥サインは何も言えなくなってしまっていた。
全ては‥ノレンに嫌われるのが、もっと嫌われるのが‥怖かったから。
だから‥何も言えなかった‥あまつさえ、リンクパールすらも外してしまった。
結局、サインは‥再びリンクパールをベッドボードの上に置くと‥ベッドの中で布団をかぶった。
‥気のせいか、いつもよりも重く感じる布団を。

「ああ‥また‥‥‥寝ちゃったんだ」
いつものベッドの中で、目が醒めたサイン。
まどろみの中からなかなか抜け出せないサインは、それでも朝の出来事を思い出していく。
ゆっくりと思い出し‥そして、自然とノレンの事に触れて。
しかし、その瞬間に頭を振るようにして、ノレンの事を頭の隅へと追いやった。
頭を振ったはずみで‥視界の端に目に入る、綺麗なリンクパール。
でも‥サインにはリンクパールを付ける‥いや、もう手に取ることすら出来ない。
‥サインの心には、リンクパールに対する「恐怖」の様なものが‥現れ始めたのかも知れない。
ともかく‥サインはリンクパールから視線を逸らすと、キッチンに向けて歩き出した。
少しだけ早い「昼食」を作るために。
ずっと寝ていた事もあり、決してお腹が減っているとは言えない。
だが、食べないのは身体に悪いし‥食べれば少しは元気が出るかも知れない。
そう考えながら、サインはキッチンへとやってきたのだが‥しかし。
「あれ‥‥あ、そういえば‥」
調理場にある、食材置き場をみて‥サインは思い出した。
食材はすっかり無くなっており、昼食を作るのすらままならないことに。
勿論、誰かが盗っていった‥等という訳では無い。
昨日も、一昨日も‥買い出しには出て居らず、丁度今朝の朝食で食材を使い切ってしまったのだった。
「仕方無い‥か」
この状況で、あまり外には出たくない‥出たくはないが、昼食を食べない、というのも困る。
自分で言う通り、仕方無く外出する事を決めたサインは‥その為の準備をし始める。
近くのお店に買いに行く位だが、誰が見ているかも解らない。
まずは身だしなみを整えねばならない‥と。
ここ数日間、外にも出ず‥鏡すら見ていないのだから、きっと酷い外見になっている事だろう。
サインはそこまで考えて‥風呂、いやシャワーすら浴びていないことを思い出した。
下手したら匂うのではないか‥そう考えたサインは、シャワーを浴びる為に浴室へと向かったのだった。

「ふぅ‥なんとか‥帰って来れた」
買い物を終えて、レンタルハウスに戻ってきたサイン。
玄関の扉を閉じ、その扉にもたれかかりながら‥そう呟いて、一息ついた。
道中も、お店でも‥特にこれといった問題は無く、買い物を終える事が出来た。
外に出るのすらおっくうだった昨日の事を考えると、幾らか‥心の傷は回復してきた様にも思える。
‥ノレンの事さえ考えなければ。
だが‥そう思ってはいても、ノレンの事は否応にも考えてしまう。
いつもの様に、リンクシェルでの活動をすれば‥否応にも。
そこまで考えて‥サインの脳裏に一つの考えが思い浮かんだ。
そう、リンクパールを付けずに‥過ごせば良いのではないか。
そんな考えが、頭の中に浮かんだのだ。
リンクパールを付けなければ、ノレンと会う事も少なくなる‥そうすれば‥
‥そこまで考えて、サインは自分の考えに驚いた。
自分は‥あれだけ好きだったノレンを‥ノレンの事を‥
‥拒み始めているのだろうか‥と。
いや、そんな事は無い‥そんな事があるハズは無い‥
そう思って、頭を振るサイン。
そんなサインの頭に‥身体に‥ドンドンと振動が伝わってくる。
突然の事に驚きながらも‥慌てて周囲を見回して。
‥そして気がついたのは‥
丁度自分がもたれていた、ドアの扉が‥ノックされていた、という事だった。

「こんにちは、元気‥じゃなさそうだね、サイン」
サインが慌てて扉を開けると、そこに居たのは‥
「リーダー‥!」
そう、サインの所属するリンクシェルのリーダー、ラケルトだった。
予想だにしなかった来客に、サインは慌てて言葉を詰まらせる。
ラケルトが今までサインのモグハウス、あるいはレンタルハウスへとやってくる事は
数えるほどだっただけに‥その突然の来訪に、一層驚いたのだ。
ともあれ‥玄関先で立たせておくのも悪い‥サインはそう考えたのだろう。
慌ててラケルトをレンタルハウスの中に招き入れたのだった。

「長居するつもりはないから、余計な気遣いは無用だよ」
ソファに腰掛けるラケルトに、何かお菓子でも‥と席を立つサインを、ラケルトのそんな言葉が押しとどめる。
しかしサインにも、何か思う所があったのだろう。
席を立つと「お茶だけでも飲んで下さい」と言葉を残し、キッチンに向かったのだった。
‥サインがキッチンに立った隙に‥ラケルトはこっそりと周囲を伺ってみる。
サインのモグハウス、レンタルハウスには何度か来た位だが‥ある程度の「特徴」は掴んでいた。
サインの、普段から垣間見るしっかりした性格からも分かる様に‥
部屋はきっちりと片付けられ、整理整頓が行き届いている‥そんな雰囲気があったハズだ。
ところがそれは‥この部屋からは伺えない。
テーブルの上に置かれたままの包装紙、部屋の片隅に貯められたゴミ、床に無造作に置かれた装備品‥
いかにも「サインに何かがあった」ことが見て取れる。
昨日、サインがリンクパールを身につけなかったことに、最初は「風邪でもひいたかな?」と思っていたラケルトだが‥
数日前にサインとノレンとの間に「何か」があった事‥そして‥
一昨日にも二人の間に「何か」があった事が‥ラケルトに「もしかしたら」の念を抱かせていた。
いや、正確にはそれだけではない。
そう‥昨日一日の、ノレンのあの「不自然な態度」を見れば、それが何かなのかはおよそ‥
「お、お待たせしました」
考えに浸るラケルトに、サインの声が割って入った。
その声と共に、ラケルトの座るソファー‥その前のテーブルに、そっとウィンダスティーが置かれる。
「ああ、ありがとう。いただきます」
ラケルトはそう言ってウィンダスティーに手を伸ばした。
そっと唇に付け、美味しいウィンダスティーを飲み始めたが‥その間もサインの様子を観察し続ける。
ラケルトの向かいのソファーに座り‥彼同様、ウィンダスティーを飲み始めるサインを。
ぱっと見ただけでは、普段と変わりない様にも見えるが‥しっかりと見てみれば、気付くことがある。
まず‥髪に元気が無い。
いつものふんわりと膨らんだ紺色の髪ではなく‥どことなくしおれているような、元気の無い印象さえ受ける。
そして、その目もまた‥特徴的と言えるだろう。
瞼が、そして目の周りが‥まるでずっと泣いていたかのように‥腫れぼったくなっているのだ。
やはり‥ラケルトの思った通り、二人の間に何かあったのだろう。
確信を持ったラケルトは、早速‥とばかりに、単刀直入に聞き始めた。
「ねぇ、サイン‥一昨日、あの後はノレンと何かあったのかな?」
「えっ‥‥」
ラケルトの突然の言葉に、サインは飲んでいたウィンダスティーを、慌てて口から離すと‥
しかし、返す言葉を見つけることができなかった。
そんなサインに、ラケルトは言葉を続ける。
「君の様子がね‥何かあった、って言ってる様な気がして‥」
「それは‥その‥」
ラケルトが決して「問いただす」という様子ではないのは、サインにも解る。
厳しく、責める様な表情ではなく‥逆に心配している、そんなラケルトの表情と‥
あとはその口調からも、十分すぎるほどそれは解る。
だが‥答えられない。
何と言っていいものか‥思い悩むサインに、ラケルトは更に言葉を続けた。
‥サインの核心を突く言葉を。
「ノレンと‥上手く仲直りが出来なかった‥のかな?」
「‥‥うぅ‥‥はい‥」
ラケルトの言葉に、多少の違いはあるものの‥
しかし、そう遠くは無い答えに、サインはこくりと頷いた。
そして‥サインはぽつりぽつりと話し始める。
思い出すだけでも、心が痛む‥記憶を。
ノレンに謝ったが、許してはくれなかった事。
むしろ、逆に怒らせた上、「帰れ」と言われた事。
その後‥一昨日、昨日‥泣き続けたこと。
サインはゆっくりと‥しかししっかりと話していく。
‥時折、涙をうっすらと浮かべながら。
そんなサインの言葉に、ラケルトは‥だまって頷き続ける。
そして、全てを聞き終えた後‥
「うん‥解ったよ。‥それで、サインはこれからどうするの?」
ラケルトの言葉を聞いて、サインは何かに気づいた様だった。
これから‥そう、これからどうするのか‥
ぼんやりと‥そしてうっすらと‥サインの頭の中に浮かんでいた、その問いかけ。
「‥もしかしたら‥もしかしたら、だけど‥君はノレンから離れようとしていない‥かい?
 昨日も‥そして今日も。‥リンクパールを付けていないのは、そう思っているからじゃないかい?」
そう‥全てラケルトの言う通りだった。
サインはノレンに嫌われたと思い‥そして、これ以上嫌われたくないから‥だから‥
ノレンと接するのをやめようと思っていたのだ‥。
好きなのに‥いや、好きだからこそ‥ノレンと接するのを止める‥
一見背反している様に思える考えだが、「ノレンが自分に接するのを嫌がる」という前提があればこそ、
そう考えてしまうのだろう。
自分がノレンと会えば‥いや、自分の声をノレンが聴けば‥ノレンは嫌がるだろう。
そう考えると、一番の改善策は‥自分がノレンから離れることだ、と‥そう考えていたのだ。
だから‥
「ボクは‥ボクは、もうノレンには‥近づかない方が良いと思うんです‥。
 ノレンは‥ボクの事を嫌っているから‥だから‥」
大粒の涙を浮かべながら、そう言うサインに‥ラケルトは一つため息をつく。
サインはきっと、考えに考えた末に出した結論なのだろう。
だけらこそ、無闇に「そんな事は無い」と言うのも気が引ける‥と、ラケルトも考えたのだ。
ならば‥そう、確たる証拠‥というほどのものではないにせよ、なにか‥
サインの決心をぐらつかせる論拠で以て、説得する必要があるだろう。
そう考えたラケルトは、話を続ける。
‥丁度持ち合わせていた、「論拠」になり得る話を。
「‥でもね、昨日は‥君が居なかったからだろうね‥ノレンの声、寂しそうだったよ。
 今日だって‥君が居ないのはどうしてだ、なんて‥ボクに聞いてきた位なんだからね」
そんなラケルトの言葉に、それまでうつむいていたサインが顔を上げる。
正に「信じられない」とばかりの、驚きの表情を見せるサイン。
しかし、すぐにまたうつむいて‥寂しそうな声を漏らす。
「そんな‥そんなはず、無いです‥」
一昨日からずっと、「ノレンに嫌われている」と思い続けたことが‥
サインの心にそんな「悲観的な思い」を根ざしていたのだろうか。
そんなサインに、ラケルトは軽く息を吐きながらも‥根気よく話を続ける。
「ふぅ‥そうかぁ、サインはボクの言う事、信じられない‥かな?」
決して怒っている風では無く‥むしろ明るく、茶化すように言うラケルト。
その言い方が功を奏した‥のかどうかは解らないが、
重くなりがちな空気が、一瞬にして和らいだ‥様にサインには思えた。
「そ、そんな‥つもりじゃ、ないです‥けど‥」
まがりなりにも、ラケルトはリンクシェルのリーダーだ。
自分が「信じられない」と言っている訳では無いと、サインは慌てて弁明をする。
「それじゃ、こうしよう。‥明日、急遽リンクシェルでのイベントをする事になったから‥
 それには参加してくれるかな。きっとノレンも来るだろうから」
突然のラケルトからの話に、驚き‥戸惑うサイン。
リンクパールにて話をするだけではなくて‥直接会う。
そこまでサインは考えて、しかしそこから先は‥
頭の中が混乱したかのように、何も考えることが出来ず‥
ラケルトに答える言葉にしても、上手く言葉が出て来なかった。
「で、でも‥」
「君が『ノレンに嫌われている』というのは解った。ここでさっきの話に戻るんだけど‥
 君はこれからどうするの?仮にノレンが君を嫌っていたとして‥君はそれでいいの?」
サインの言葉を、反論しはじめる‥とでもラケルトは捉えたのだろうか。
サインが何かを言い始める前に、ラケルトは話し始めた。
そのラケルトの言葉が‥次々とサインの胸に‥心に‥突き刺さっていく。
ノレンがサインを嫌っていたとして‥それでいいのか。
それで‥自分でノレンから離れていって‥それでいいのか。
自分でも怖くて、自問自答できなかった言葉が‥次々とサインの心に投げかけられる。
「嫌っているから‥ノレンの事‥諦めるの?」
「それ‥は‥」
そして‥ラケルトの放つ「最後の言葉」を聞いて‥
‥ノレンはがっくりとうなだれてしまった。
ノレンの事を‥諦めるのか、という言葉を聞いて。
(ノレン‥今までずっと想っていたノレン)
(そんなノレンの事を‥諦める‥)
改めて考える、「ノレンから遠ざかる」という事の意味。
(ノレンから遠ざかる‥ノレンに会わなくなる‥ノレンの事を‥忘れる‥)
(‥そんな‥そんな事、出来ない‥)
そこまで考えを進めて‥サインは改めて気付いた。
ノレンに嫌われるのが怖い、という闇で覆われていた‥自分の本当の心を。
(ノレンに会いたい‥ノレンと話をしたい‥ノレンが‥好き)
そんなサインの、心の動きを‥まるで全て察している、とでも言うかの様に。
ラケルトは優しい言葉を‥サインに投げかけたのだ。
「ね、サイン‥前にも言ったけど‥何度でも謝ろう?君が悪い事をしたと思っているのなら、謝れば良いんだ。
 ノレンは、きっと許してくれる‥だって、今まで一緒にやってきた、仲間‥でしょ?」
ラケルトの優しい言葉に、サインは頷き‥そして‥
最後の「ノレンは仲間だ」という言葉に‥ピクリと反応してみせた。
(仲間‥ノレンは‥仲間)
サインはそっと目を閉じて‥過去の出来事を思い返してみる。
(パーティ中は自分だけでなく、皆の安否を気遣っていたノレン)
(普段はあまり喋らないが、それでもみんなを‥仲間のことを常に考えていて)
(そのクセ、自分の事は上手く表現できない‥その想いすらも)
(そんな強くて‥優しくて‥純情で‥奥手の‥‥大好きなノレン)
(ノレンは‥ボクを許してくれる‥かな‥)
(ボクを‥仲間だと思って‥くれるかな‥)
(ノレンは‥‥‥ノレンは‥)
不安‥希望‥悲しみ‥安らぎ‥様々な感情が混在する、サインの心に。
ラケルトの言葉のお陰だろうか‥少しだけ‥温かい感情が勝ってくるのが解る。
そして‥‥
「‥‥うん」
その時、少しだけ‥サインの顔に、笑顔が‥‥戻った。
「ふふ、良い笑顔だ。‥いつものサインの笑顔には、まだまだ及ばないけどね。
 とにかく‥そうときまれば‥今夜はちゃんと身だしなみを整えるんだよ。
 そして‥いつも通りのサインで、イベントに出席してね」
ようやく微笑む事の出来たサインに‥ラケルトもまた、嬉しそうな微笑みを浮かべて。
にこやかにそう言うと‥「おいとまするよ」とばかりにソファーを立った。
「あ‥はい!」
少しだけ元気の良い、サインの返事に‥迷いや不安は感じられなかった。
サインもまた、ラケルトにつられるようにソファーを立つと‥
玄関まで見送るべく、ラケルトの後を付いていく。
ラケルトは玄関で振り返ると‥最後にニッと笑って見せて‥軽口を叩く。
「うんうん、良い返事だ。‥何ならボクが一緒にお風呂に‥」
「えええッ!い、いいですっ!ボクは‥その、ノレンだけで‥」
ラケルトのからかうような言葉にも、サインは元気に‥そして少し恥ずかしそうに答えて。
そんな様子がまた、ラケルトを安堵させ‥そして微笑ませる素となる。
「あははっ、冗談だよ、冗談。‥また明日ね、サイン」
ラケルトはそう言って‥軽やかな足取りで去って行った。
去って行くラケルトを見送り‥そして、部屋に戻ったサインは。
‥改めて自分の部屋‥その汚さを、今更ながらに認識して‥
腕まくりをすると、元気に片付け始めるのだった。
部屋に溜まったゴミも‥そして、心の中に溜まったゴミも。
全てを‥片付けるように。



  
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