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星芽寮交響曲

12話『ディルの悩み』

 ←その86『彷徨う想い』 →その87『触れあう想い』
5月28日 朝
 

「ん‥‥うーんっ、よぅ寝たなぁ‥」
カーテンの隙間からこぼれる、まぶしい朝の光を感じて‥ボクはいつもの様に目を醒ます。
ベッドの上に座る体勢になると、ぐーっと身体を伸ばして‥うん、気持ち良い朝だ。
時間は‥この位置からだと時計台が見えないけど、多分いつも起きる位の時間だろう。
ボクがそういう風に思うのは、あまりに起きるのが遅いと‥同居者に起こされるからで。
で、その同居者は今朝も、部屋の東側‥タルタルデスクの方に‥ああ、やっぱり。
「おはよう、ディル。今日も良い朝だね」
ボクがタルタルデスクの方に視線を向けると、そんな「おはよう」の声が飛んでくる。
同居者のヒーラが、ボクの方に向いてにっこりと微笑んで居る。
「おう、おはようさん、ヒーラ」
ボクはヒーラに挨拶を返しながらも、軽くのびをして‥そのままヒーラの方を見てみる。
タルタルデスクに座り、その手に持った分厚い本を開いて‥読書の途中だったに違いない。
‥いやはや、朝から読書っていうのは‥まぁ、勉強家だと思う。
例えそれが「音楽の本」であっても、だ。
更に感心することには‥そう、ヒーラはもう、洗面も身支度も終えている、って事だ。
いつもながらまぁ、早起きで、勉強家で‥凄いヤツだと思う。
おっと、ボクも早く洗面してこよう‥朝食に行く準備をしないといけないしな。
「よいしょっと‥ほな、ちょっと顔洗うて来るわ」
ボクはベッドから飛び降りると、ヒーラに一声掛けて‥近くの洗面所へと向かった。
勿論、愛用のタオルを手に持つのは忘れずに。

「ん~、気持ち良ぇなぁ‥‥ふぅ」
まずは用を足し、それから顔を洗って‥うん、冷たい水が気持ち良い。
半分醒めていた頭の、残りもう半分が醒める感じ‥だ。
‥イマイチ良く解らない、とか言われそうだけど‥そこは勘弁してほしい。
ボクはピノと違って叙情的じゃないから‥ん、ピノだってそうでもないかな。
さて、次は‥‥と、歯を磨き始めたボクだったが‥鏡越しに「とある人物」がやってきたのが見えた。
その姿を見た瞬間、ボクの脳裏を電撃が走る様な感覚を襲う。
マズイ、また何か‥されるんじゃないか、って。
今、洗面所にはボク達二人しか居ない‥これはとてもマズイ状況だ。
‥いや、待て待て。
まだはっきり「何かされる」と決まった訳じゃ無い。
そうだ、ここ最近の傾向を見ても、そう‥
「お‥今日も良いケツしてんな、ディル」
その言葉と共に、卑猥な手つきでボクのお尻を撫でてくる‥。
‥そうだな、ここ最近、ずっと触られっぱなしだったよな‥。
「‥ラスキ‥おっさんみたいやで‥」
歯磨き粉が口中で泡立ち始め、うかつに喋れないボクは‥
ラスキに対して要点だけをズバッと言ってみせる。
‥いや、ラスキがおっさんみたいだ、というのは要点じゃないか‥。
ラスキ‥ラスキ・サリスキ。
ボクと同い年‥つまり同期で、部屋だって近い‥ボクの斜め向かいの部屋が、ヤツの部屋だ。
‥なんていうか、こう‥普段からエロい、っていうのか‥良く人の身体を触ってくるんだ‥全く。
女の子ならともかく、なんでボクの身体を‥。
いや、まぁ‥こんな風に女の子のお尻を触ったら、大変な事になるんだろうけど。
ともかく、ヘンな事を言いながらお尻をなで続ける、そんなラスキの手を‥ボクは空いている左手で払う。
‥おっと、歯磨き粉を落とさないように気をつけないと。
「にゃはは、まぁまぁ‥おれはさ、やっぱケツより、こっちの方がいいしな‥♪」
「ん☆□○-!」
くっ、しまった‥。
歯磨き粉に気を取られていたせいで、ラスキの動きについていけなかった‥。
ラスキはボクの左手をかわすと、脇からすっと手を伸ばして‥
‥ボクのちんちんを握ってきた‥っていうか、揉むな、揉むな!
ボクは突然の事に、言葉にならない声を上げながら‥慌ててラスキの手を払う。
まったく‥いつもの事とは言え、朝から何させるんだ‥。
とりあえず‥口の中の歯磨き粉をはき出して‥これでよし。
さぁ、何と言ってやろうか。
「ふぅ‥せやから触るな、言うてるやろ‥お前、ホンマに‥」
「おっと、おれは男好きじゃないぜ?ただ‥そう、ちんこが好きなだけなんだからな」
ラスキはそう言って壁に手を突き、いかにも「キザったらしい」ポーズをとっている。
‥いや、ポーズは確かにそれっぽいが、その亜麻色のトンガリ髪はイメージが‥
いや、それはボクの偏見かな‥。
ま、まぁ‥偏見は置いておくとしても、だ。
「‥いや、それが‥男好きなんやないのか?」
いつもいつも、人のちんちんばかり触ってきて‥。
今日という今日は、はっきりと言ってやらないと。
ラスキの言う「ちんちんが好き」という事は‥つまり男好きだ、っていう事なんじゃないのか?
常々思っていた事を、ボクは口にしたんだけど‥いや、改めて思うのが‥ラスキは凄いな。
ボクの言葉に対して、想像を逸する様な答えを返してきたんだからな。
「いやいや‥例えばさ、女の子にちんこが生えてたら、もう最高だと思う訳よ」
女の子にちんちんって‥。
ボクは思わず想像して‥いや、上手く想像できる訳が無い。
なんだ?女の子にちんちんってのは‥いや、まぁ‥。
想像できないボクの想像力が弱いのか、はたまたラスキの想像力が凄いのか‥。
まぁ‥返す言葉も見つからない。
ボクはため息をつきながら、洗面台に向かい、もう一度口に水を含んで‥口中をすすごうとする。
‥いや、その動作が‥甘かったのか。
さわさわ‥にぎにぎ‥
「うんうん、何度触っても‥ディルのは形が良いな?こうして触ってても、ほれぼれするんだよ。
 お、大きくなってきた‥ほれほれ‥」
ボクの背中から、覆い被さるように身体を密着させて‥またしてもちんちんを揉んでくる。
流石にそこを揉まれたら、嫌でも大きくなってしまうし‥。
何よりその揉み方が‥また絶妙、って言うのか‥ツボを心得てる、って言うのか‥
いや、まぁ‥その‥あんまり考えたくはないけど、その‥ひとりえっちの時の、あの感触が思い出されて‥うぅ‥
「ももうええ加減にしときや。朝からそないな事してたらあかん‥もぅ」
なんとかそう言いながら、ボクはもがいてみせるけど‥
微妙な気持ちよさに、力が抜けてしまって‥。
うう、周りには誰も居ないし、誰も来ないし‥全く、どうしたら‥
「こら‥ラスキ、なにしてるんだ。ディルが嫌がってるだろ」
どうしようもなく、参っていたボクだったけど‥
正に天の助け!とばかりに現れた人が居た。
それは‥
「‥なんだ、ヨックか‥いいじゃん、ディルが喜んでるだろ」
「喜んでへんわ!もう、ヨックもラスキに言うたってくれや‥」
ボクはそう言いながら、ヨックに助けを求めてみる。
そんなボクの言葉に、ラスキは流石に二人相手は厳しい、とでも思ったのだろうか。
‥いや、あるいは悪戯心が萎えただけ‥かもしれないが。
とにかく、慌ててボクの身体から飛び退いたんだ。
ふぅ‥ヨックのお陰で助かった‥。
ヨック‥ヨックラン・カヨックレン、ラスキの同居者で、ボクと同い年‥同世代だ。
時々悪のりが過ぎるラスキを、諫めてくれる‥ブレーキ役になってくれる事が多々ある。
‥ラスキと同室、となると‥とても大変そうに思うんだが‥しっかりしたヨックの事だ、きっと上手くやってるんだろう‥。
うん、ラスキと同じ亜麻色の髪だし‥って
ラスキの髪型はトンガリで、ヨックの髪型はボサボサ‥と、ちょっと違うが‥まぁ、それは良しとして。
改めて振り返ったボクは、痛そうな頭を抑えるヨックを見て‥
思わず同情の念が浮かんでくる。
「‥ヨックも‥大変やな、ラスキと一緒やと‥」
一息ついたボクは‥同情するようにヨックにそう言ってみた。
すると‥
「はぁ‥俺もホント、困ってるんだけどな‥」
と、両手を上げて「やれやれ」といったポーズをとるヨック。
まぁ、心中察する所はあるが‥いやはや。
こうしてタマに会うならまだしも、ヨックは部屋に居る間、ずっと付き合わされる訳で‥
ラスキの相手をするのは、想像するだけでも大変そうに思う。
本当に‥
「にゃはは、そこまで褒められたら照れるな‥」
『褒めて(ねぇ!)(へん!)』
意図的なのか‥あるいは、天然なのか。
ヨックの言葉に照れるラスキに‥
ボク達のツッコミが炸裂していた‥。

「あぁ~、参ったわ。朝からホンマに‥疲れるわぁ」
部屋に戻るなり、そんな言葉をこぼすボク。
いや‥まぁな。別に愚痴をこぼしてる訳じゃないんだ。
そう、愚痴じゃなくて‥
「ふふふ、お疲れ様、ディル」
ボクの言葉に、ヒーラはヘンに同情するでもなく、こうして笑ってくれるから‥
まぁ、そんな笑顔の為にも、さっきみたいな言葉だって、口にするのは良い事だ‥と思う。
うんうん、「笑い」ってのは‥大事なものだよ。
人生を豊かにしてくれるから‥なんて、語ってる場合じゃないな。
「ね、ディルとラスキは‥本当に仲が良いよね」
ヒーラは微笑みを浮かべながらそう言ってくるけど‥
‥仲が良い‥のか?ボク達は。
なんかちょっと違う様な気がするが‥。
「そんな事あらへんよ。ボクが一方的に被害者やし‥」
そう‥ボクは全然ラスキの身体を触ってはいないし‥
‥いや、触りたいとも思わないけど‥
ん?もしや逆に触ることでラスキが嫌がって止めてくれるか‥?
いやいや‥逆に「お、ディルもノリノリだな!じゃあ‥」なんて展開にもなりそうだな‥
第一、そうなってしまったら、もう止めるに止められなくなりそうな‥‥
‥‥止めよう。
「それにしても、ヒーラはラスキに絡まれへんの?」
それよりも‥ふと、ボクが思った事。
そう‥ヒーラはラスキに「あんな事」をされてないのか、って事だ。
‥ヒーラは大人しめの性格だし、ハッキリと「嫌」って言えなさそうな‥そんな気がするから‥
だから、ちょっと心配にもなって聞いてみたんだが‥
でも、ヒーラの答えは‥意外なものだった。
「うーん‥あまり会う事も無いけど‥会っても何もされない‥かな?」
確かに‥ヒーラは朝の洗面も、夜の洗面も‥どちらも早めだ。
朝起きるのが早い分、夜だって寝るのが早いからな。
ヒーラは手の院勤務、ラスキは鼻の院勤務‥と、勤めている院だって違うから、昼間は会わないし‥
食事は食事で、ヒーラは良く手の院の先輩と食べてるんだよな。
そういう意味でラスキに会う事自体が少ないのは解る‥解るが‥
それでも、この寮の中のことだ‥会う事だってあるだろう。
‥はっきり言うと、ボクなんてすれ違う際にも揉まれたり‥はぁ。
うーん、どうしてヒーラはラスキに何もされないんだ?
‥こんな事を言うのも何だが、ボクとヒーラは結構外見が似てるんだ。
髪の色は同じ銀色で‥髪型だって同じで、首の後ろで纏めている。
‥まぁ、肌の色が違うのが大きいのかも知れないが‥
ん、そういえば‥ラスキのヤツ、言ってたな‥
(何度触っても、ディルのは形が良いな)
‥‥‥‥まさかな。
その時‥じっと考え込んでいるボクに、ヒーラの驚くべき言葉が飛んできたんだ。
「ぼくも、何かされてみたいな‥」
「ひ、ヒーラ!?」
な‥何かされてみたいって、そんな‥ヒーラ‥
い、いやまぁ、確かにその‥他人にされるのはアレだけど‥
で、でもそれってやっぱり‥その‥
「うふふ、ウソだよ。ごめんね、ディル」
‥あれこれ考えて慌てるボクに、ヒーラはそんな事を言って‥。
悪戯っぽく笑って見せたんだ‥。
全く‥もう。
「もう、からかわんといてくれや‥」
ヒーラの言った冗談に、ボクは息を深く吐きながら‥やれやれ、とばかりに言って見せた。
しかし‥冗談、か。
思えば、最近ヒーラは明るくなってきた‥そんな感じがする。
今までは、どちらかというと大人しい‥悪く言えば少し暗い様な、そんな感じがあったけど‥
最近ではこうして「冗談」だって言う様になってきた。
それって、良い傾向だよな。
うんうん、そもそも「笑い」は‥
「あ、そろそろ朝食に行こうよ。ディル」
その言葉に、ボクは‥
‥慌てて着替えを始めたんだった。


同日 夕方


いつもの‥仕事帰りの帰り道。
いつもの‥スィーツショップ。
いつもの‥ジンジャークッキーとサンドリアティー。
そんな沢山の「いつも」が揃う、スィーツショップでのみんなとのひととき。
でも‥いつもの雰囲気じゃない。
‥ボクの言う「いつもの雰囲気」‥その「いつも」は‥
ここ最近で、すっかり「いつも」じゃあ無くなってしまった‥。
‥それというのも、この‥
「ふふ、さっすがはピノくんだね。物事の本質ってものを理解してる‥うんうん」
その人は、さも大げさに‥両手を拡げて言ってみせる。
‥何が「物事の本質」なんだか‥。
いや、前後の話からして、ボクはもうその人の話をロクに聞いていないから‥解らないだけなのかもしれないけど。
「そんな‥ふふ、キルクさんってば」
褒められた言葉に対して、困った様に‥そして照れたように返すピノは、嬉しそうだけど‥。
‥なんだか、そんなピノの表情すら見るのが辛くなってきて、ボクはティーカップの中に視線を落とした。
さっき買ったばかりなのに、早くも無くなってしまいそうな‥そんなジンジャークッキーをパクパク食べつつ‥。
今日は‥うん、クッキーとお茶の減るのが早いな‥。
‥そう、ボク達の「いつも」をかき消したのは‥「彼」の仕業だ。
彼‥10日ほど前に、ウィンダスに戻ってきたっていう‥キルクさん。
鼻の院の人だけど、寮の中では先輩に当たるから‥失礼な事を言う訳にはいかない。
でも‥そうは思っていても。
やっぱり心の中では、キルクさんに対する「悪い思い」が渦巻いている。
第一‥ここ最近、このスィーツショップで会う事が多すぎるんだ。
確かにキルクさんの勤める鼻の院も、この水の区の南にあるけど‥それでも会う頻度が高すぎる。
ボク達がここに来る度に、必ずといって良いほどキルクさんと出くわして‥
更には、出会ったら無理矢理同席してくるし‥まぁ、無下にはできない、ってのもあるけど‥。
いや、一緒になるくらい何なんだ、って言われそうだけど‥それだけじゃないんだ。
キルクさんはずっとピノとばかり話して‥ボクやユランの事はまるっきり「蚊帳の外」なんだ。
ボクやユランが話をしようとしても、そっけなく‥とまではいかないまでも、話をさっさと切り上げてしまう。
‥一度や二度ならともかく、そんな対応が続けば、やっぱりこっちだって嫌になってくるし、それに‥
その‥「もしかしたら」‥っていう思いすら浮かんでくる。
ん?「もしかしたら」って、何なのかって?それは‥うーん‥
以前にちょっとだけ、ユランと話をしたときに‥話題に上がった事なんだ。
キルクさんは、もしかしたら「ピノを狙ってるんじゃないか」って。
‥「狙ってる」っていうのは‥ああ、そう‥‥そういうことだ‥ちょっと言うのが恥ずかしいけど、その‥
‥‥さ、察して欲しい‥。
ああ、いや、それはおかしい‥って思うのは解る。
キルクさんだって、ピノだって‥両方男だし‥‥‥でも。
でも、そうは思っていても‥なんとなくそんな「空気」を感じてしまうんだ。
ピノに対する口調だとか‥
ピノを見つめる目だってそうだし‥
それに‥‥
‥ふぅ。
まぁ‥だからと言って、ボクには‥‥関係無い‥けど‥‥でも‥‥。
と‥とにかく。
ボクはキルクさんに対して、そんな風に不愉快な思いを感じる一方で‥
どこか「やっぱりそれは違うんじゃないか」って思う自分が居る。
なんていうのか‥そう、ボクには昔から「保守的」な面があるんだ。
グループ‥例えば仲良しグループだったり、よく遊ぶグループだったり、とにかくそんな集団を作ると‥
‥新しい人がそこに入るのを嫌だと思う‥んだ。
新しい人が入ることで、かつての「輪」を‥そして「和」を壊されるんじゃないか、って‥
そんな風に不安に思ってしまうことがある。
‥心配性なのかもしれないな。
新しい事だらけの、こっちの大陸‥ミンダルシア大陸にやってきて、その感覚は薄らいでいたんだけど‥
キルクさんに対して、厳しい感情を持つのは‥ひとえにそんな「保守的」な面が、そうさせているのかもしれない。
そんな考えじゃだめなのに‥だめだとわかっているのに‥。
‥いや、「だめだと思う」で終わっているからだめなんだよな。
何て言うのか‥そう、「だめだと思うから改善する」‥そうしないといけないんだ。
そうだ‥ボクももう一度頑張ろう‥頑張って、キルクさんに対する印象を変えてみよう。
‥そうと決まれば‥そうだ、まずはボクから話を切り出してみよう。
ボクが話を振られるのを待っていても、きっと解決はしない‥進展すらしないだろうし。
そうと決まれば、どんな話を‥‥ん?
「いやぁ、だからね‥僕も研究が忙しくてね‥本当に大変なんだよ」
丁度今の話題は‥ふんふん‥。
なるほど、研究が忙しい、って話か‥だったら。
「キルクさん、そういえば‥普段はどんな研究してはりますのん?」
ボクは何気なく‥といった風に言葉を挟んでみる。
途端、キルクさんとピノの視線がボクの方へ向いて‥
「あー、いや、研究内容は喋れないんだよ。‥それよりもね、今度の休みの‥」
‥口早に「喋れない」と言い放った後、すぐにピノの方へと視線を戻すキルクさん。
くぅ~‥ボクの話は、やっぱりさっさと打ち切られて‥
更には別の話題をピノに対して振るなんて‥ううぅ。
ボクは怒りやら何やらを込めつつも、ジンジャークッキーを手にとって‥
さっと口の中に放り込んでいく。
‥いつもなら、口中で香るジンジャーの風味がとっても美味しいのに‥
‥いや、もう「いつも」じゃないんだな‥‥。
こちらも残り少なくなってきた、サンドリアティーを飲んで‥
‥ボクは微妙な心持ちで一息ついた。
一息ついて‥キルクさんとピノ、会話の弾む二人を見つめてみる。
‥そうしたら‥気付いたことがあったんだ。
キルクさんに対して、嫌な感情を抱いているのは‥ボクだって解っている。
問題は‥そう、ピノの方なんだ。
どうしてか‥ピノを見てると‥心が苦しくなる‥そんな気がして。
‥いや、正確に言えば‥そうだ、ピノの嬉しそうな顔を見ていると‥だ。
‥‥更に正確に言えば‥‥キルクさんと話していて、嬉しそうな顔をしていると‥で‥。
その様子が、まるでピノがキルクさんに「盗られた」様な‥そんなイメージが浮かんでくる。
‥でも、「盗られた」って‥ボクとピノは友達同士だ。
決してそんな‥‥そんな‥‥。
でも‥確かに感じる‥その‥「不思議な想い」。
ボクの心の中にある、ピノへの‥
‥もしかして‥‥これって‥
‥この想いって‥
ボクはそこまで考えを進めて、慌てて首を振る。
‥頭の中の、そんな考えを吹き飛ばす様に。
ボクは、それでも頭の中に残る‥そんな考えを払拭しようとして。
改めてジンジャークッキーの更に手を伸ばして‥‥そしてお皿が空になっているのに気付いた。
‥仕方無く、サンドリアティーを飲もうとして‥‥‥こっちも空だなんて。
全く‥。
「ちょっとごめん。外の空気吸うてくるわ」
ボクはそう言い残して、席を立ったんだ。
‥頭の中を切り替えるため‥いや‥‥
‥‥二人の楽しそうな様子を、視界から隠すため‥かもしれない。

店の外で‥壁にもたれかかったボクは、何となく空を見上げる。
夕暮れ時の、綺麗な空‥オレンジ色の空。
この綺麗な空は‥故郷オルジリア大陸とも変わらない。
なんだか懐かしい様な、そんな気持ちがして‥ボクはそっと目を閉じた。
‥瞼の裏に浮かんでくるのは‥故郷の町並み。
ずっと暮らしてきた、あの懐かしい‥町並み。
今でも思い出せる‥あの‥幼い頃の‥思い出。
ピノと‥そしてキルクの事から目を逸らすのに、丁度良い思い出‥
‥目を逸らす‥いや、そんな事をしても仕方無いのは解ってる。
目を逸らすべきではないけど、でも‥今のボクには、何も出来ない。
少なくとも、ピノに対して‥「どう想っているのか」をはっきりと出来ないボクには‥
ボクはそんな事を考えながら、瞼を開くと‥
「ん‥わああッ!?」
‥目の前に突然現れたその顔に、びっくりして声を上げてしまった。
「ど、どうしたの‥ディル?」
目の前のその人も、びっくりしたみたいだ‥‥ボクの声に。
まぁ、そりゃそうかもしれない‥結構間近でボクの大声を聞いたんだから。
「あ‥い、いや、目ぇ開けたら、ユランの顔が間近にあったから、びっくりしただけや」
ボクの答えに、ユランはにっこりと微笑んで‥そして。
ボクの隣に立ち、同じ様に壁にもたれかかった。
‥ボクと二人、並んで空を見上げるユラン。
思えば、ユランだって二人の会話に入れないでいたんだ。
ボクと同じ様な気持ちを持っている‥のかもしれない。
ボクはユランから視線を戻し、同じ様に空を見上げる。
‥あぁ、ホントに空の色が‥綺麗だ。
しばらく空を見上げているボクに‥ユランの声が聞こえてくる。
「ふぅ、なんだか二人を見てると‥居づらくなっちゃってね。
 ‥ホントは、二人きりになんてさせたくないのに‥」
何気なく‥ユランがぽつりと呟いたその言葉に。
ボクは驚いてユランの方を見た。
「‥ユラン?」
‥「えっ?」っていうニュアンスの言葉と共に、ユランを見ると‥
さっきと変わらない姿勢で、空を見上げているユラン。
なんとなく‥という風に言ってるみたいだけど‥
ユランの言った、最後の言葉って‥
「あ‥ううん、何でも無いよ、うん」
でも、ユランはボクを見ると‥そんな風に言って、手を振って見せる。
‥まるで「気にしないで」とでも言う様に。
「‥そう‥か?」
ユランの言う「なんでもない」という言葉に‥ボクは追求が出来なくなって。
‥まるで納得した、とでも言う様な‥気の抜けた言葉を返してしまう。
そんなボクの言った言葉のせいか‥あるいは「話を切り上げよう」という意志があったからか。
ユランはもたれていた壁から離れると、ボクの方へと身体を向けた。
「うん、なんでもない。‥それよりさ、良かったらぼくのアパートに来ない?
 ふふ、ウィンダスティーでも煎れるよ?」
少し悪戯っぽく微笑みながら、ボクを誘ってくれるユラン。
‥ユランにしてみれば、「二人にはナイショで」という「悪戯」を込めてるんだろうか。
ユランのアパートは‥以前に「遊びに行く」とは言ったきり、行っていないし‥丁度良いかも知れない。
夕食までにはまだ時間もあるし、少し寄っていく位なら大丈夫だ。
‥でも、一番ボクの心を動かしたのは‥「ウィンダスティー」という言葉だった。
ミンダルシア大陸に来て、もう2ヶ月近く‥
流石のボクも、名物ウィンダスティーは飲んだことがある。
とはいえ、それは自分で煎れたもの‥つまり、素人が煎れたウィンダスティーであって‥
そう、まだまだ見習いとはいえ、パティシエの煎れたウィンダスティーとなれば話は別だ‥!
‥って、パティシエとウィンダスティーに関連性があるのか、と言われれば‥甚だ疑問が残るが。
「お、それはええな!‥そういえば、お店にはやっぱりウィンダスティーは‥」
ウィンダスティーには心惹かれる‥と思ったボクだったけど‥
そういえば、とばかりに以前の話を思い出してしまった。
そうだ‥お店のメニューとしてウィンダスティーを出す‥という話だ。
でも、未だメニューにはウィンダスティーは無いし‥もしかしたら、却下されたりしたんだろうか‥。
「あー、その話は‥うん、また話すよ。「ダメ!」って言われた訳じゃ無いんだけど、
 ちょっと‥「別の問題」を出されてね」
ユランの言う「別の問題」‥なんて、ボクには見当もつかないけれど。
当のユランが頭を悩ますくらいだ‥きっと難しい問題なんだろう。
「ふーん、ユランも大変やなぁ‥。まぁ、その問題、っちゅうのんもユランのアパートに‥」
「あ、ディルもユランも‥どうしたの?こんな所で」
問題の話は、アパートに行く道すがら‥って、言おうとしたボクに。
どこからか飛んできたその声は‥ピノのものだった。
ボクはその声のした方‥ピノの方を振り向いたが‥ん?
一緒に居るはずのキルクさんが居ない。
どこかに‥行ったんだろうか。
「あ‥ピノ。‥キルクさんはどないしたん?」
「キルクさんは‥研究仲間、って人達からリンクパールで呼び出されて、行っちゃったんだ。
 ‥で、二人も帰ってこないし‥探しに来たんだけど‥」
なるほど。
そういえばボクは「ちょっと席を外す」とだけ伝えて、店を出てきたんだった。
ユランは解らないけど‥ピノの様子からして同じ様に言ったんだろう。
ともかく‥キルクさんが帰ったなら都合が良い。
ピノも一緒に‥
「だったらさ、ピノ。ピノもボクのアパートに来ない?
 今、美味しいウィンダスティーを煎れるよ、って話をしてたんだ」
っと、ボクが言う前にユランが言ってくれたみたいだ。
勿論、ピノも二つ返事で快諾して。
早速ボク達は‥ユランのアパート目指して歩き始めたんだ。

スィーツショップの中とは違って‥話の弾む、ボク達三人の会話。
こうして三人で居る時なら、「いつも」に戻れるのに‥
そんな事を考えながら、ボク達はユランのアパートへと向かっていた。
‥スィーツショップの中で、一時だけ心に浮かんだ、あの「想い」は‥
そっと心の奥にしまっておくことにして。



 
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