FC2ブログ

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←その87『触れあう想い』 →その88『重なりあう想い』
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png タルタル協奏曲
もくじ  3kaku_s_L.png 星芽寮交響曲
もくじ  3kaku_s_L.png 小説・短編
もくじ  3kaku_s_L.png ショート
もくじ  3kaku_s_L.png 未整理
もくじ  3kaku_s_L.png リンク
もくじ  3kaku_s_L.png 作品案内
もくじ  3kaku_s_L.png 管理人より
  • 【その87『触れあう想い』】へ
  • 【その88『重なりあう想い』】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

星芽寮交響曲

13話『それぞれの休日』

 ←その87『触れあう想い』 →その88『重なりあう想い』
6月18日 朝
 

えっと‥どうしようかな。
この服‥はいつも着てるし、あっちのは‥なんだか色が嫌だし。
‥はぁ‥やだなぁ、出かける寸前になって、こんなに悩むなんて。
先輩とちょっと出かけるだけなのに‥もう。
あ‥ぼくはヒーラ。ヒーラ・マヒーラ‥手の院に勤めてるタルタル族です。
今日は6月18日、闇曜日で‥お仕事がお休みの日。
だから、最近仲良くなった先輩と一緒にお出かけをする予定なんです。
でも、その為に着ていく服に悩んでいて‥ふぅ。
別に‥デートに行く訳でも無いのに、おかしいよね。
それでも、どうしてかな‥どうしてか、ぼく‥ううん、そんなことよりも、服を決めないと。
‥うん、決めた!この服にしよう。
‥‥あ、でもやっぱりこっちも良いかなぁ‥うーん‥‥
タンスの中の服を見ながら、悩み続けるぼくに。
突然背後から、うなり声のようなものが聞こえてきたんだ。
「ん‥‥ふあぁあああ‥はぁ~、よぅ寝た」
ふふ、うなり声って‥どうやらあくびの声だったみたい。
同じ部屋に住んでいる、ディル‥ディルティム・ニルティムが起きたみたいで。
あ‥ぼくがタンスの中をごそごそと探していたのが‥騒がしかったのかな?
もしそうなら、悪い事しちゃったな‥。
「おはよう、ディル。‥ごめんね、うるさくて起こしちゃったかな?」
ぼくはそう言いながら、真後ろにあるベッドの方に振り返る。
ディルはベッドの上に座って居るけど‥まだまだ眠そうな顔をしていて。
ふふっ、お休みの日だから、もっとゆっくり寝たかったのかな?
「いや、ええよ‥休みの日や言うても、寝過ぎるのはあかん。
 ‥それより、ヒーラが朝から服選んでるて‥珍しい光景やな」
‥言われると、確かにそうかもしれないなぁ。
いつもこの時間、ぼくは本を読んでるもんね。
それに‥うん、服とか身だしなみに気を配るのって、自分でも珍しい‥と思う。
「えへ、今日はね、お出かけなんだ。だから良い服を選ぼうと思ってね。
 ‥あ、そうだ!ディル‥この服とこの服、どっちの方が良いかな?」
ぼくはそう言って、それぞれ違う服を両手に持って立ち上がると‥ディルに見せて尋ねてみる。
‥うん、ディルって結構‥服装のセンスが良いんだよね。
普段着にしても、お出かけするときにしても‥うん、良いコーディネートの服を着てるんだよ。
やっぱり近東生まれの人は、センスがひと味違う‥そんな感じがするんだ。
‥なんて思うのは‥偏見なのかな?
「ん‥せやな‥難しい問題やけど‥‥強いて‥‥強いて言うなら、そっちの方やろか」
そう言ってディルが指さしたのは‥緑色のジュポン風の服の方だった。
どことなく各院の制服を意識しながらも‥普段着としての一面も持っていて‥
更には‥ふふ、ウィンダス色とも言われるグリーンを基調にしているから‥ぼくの好みの服の一つなんだよね。
うん‥ディルが言うなら‥これにしよう。
‥でも、もう一つの方‥青いブリオー系の服を選ばなかったのは‥どうしてかな?
「ね、ディル、どうしてこっちの方なの?あ‥ううん、ぼくもこの服、好きなんだけど‥」
どうして?と尋ねるぼくに‥ディルは頭を掻きながら答えてくれたんだ。
ふふ、まだまだ眠そうな‥そんな声でね。
「ん?あぁ‥ヒーラの履いとるズボンが‥ほらグリーン系やろ?せやから統一感を第一に考えたんや‥」
なるほど‥そうかぁ。
他の部位とのコーディネートを考えないとだめだよね。
うんうん‥だからこのズボンの色と合わせて‥‥ズボン?
ズボンと言われて‥気付くぼく‥。
ああ、しまった‥って。
「このズボンは、パジャマだよ!違うズボンを履くもん‥」
‥もう一度服を考え直そうかな‥と、ぼくは思ったんだ‥。
まずは先に、履くズボンを決めてからね‥。


「ふぅ、今日のメシも美味かったなぁ」
昼時‥を、少し回った位の時間。
ここ、星芽寮の食堂は‥休日だというのにそこそこの人数が見える。
‥いや、違うか。
休日だからこそ、お昼でもそこそこの人数が見える‥と言った方が正しいだろう。
平日は皆、勤め先である院関連の施設だとか、あるいは外の飲食店で食事を摂っているだろうから。
ともかく‥ラスキがさっき言った様に、美味しい昼食を食べ終えた俺達は、食堂のテーブルで一息ついていた。
「ああ、美味かったな」
普段であれば、ラスキと俺とは意見が合わない事が多いが‥
ここの昼食が‥いや、食事が美味い、という事に関しては同意見、だ。
そんな美味い昼食を食べた後、俺は食後のアルザビコーヒーを味わっていて‥うん、心地良いひとときだ。
そんな心地よいひとときを、ラスキの「おっさんくさいぞ」という言葉で邪魔されるのはショックだが‥
まぁ、いつもの事だ。
本当にラスキのヤツ、口が悪いというか、いたずらっ子というか‥。
‥ああ、そうだった。
自己紹介が遅れたと思う‥俺はヨックラン・カヨックレン‥みんなからはヨック、って呼ばれてる。
さっきからずっと一緒のラスキ・サリスキ‥通称ラスキは、俺の同室者だ。
‥まったく、誰が決めたのか知らないが、勘弁して欲しい同室者だ‥。
ラスキの対応で俺は、毎日疲れ果ててるよ。
「いやぁ、そんなに褒めなくてもいいぜ?」
「褒めてねぇよ!」
面と向かって言えば、こういう風にヤツは言ってくる‥。
いや、本当に疲れるんだよ‥。
さて、ラスキの話はもう良いだろう‥ともかく、俺達はここ、星芽寮に住んで居る訳で‥
今日は6月18日、闇曜日‥つまり仕事がお休みの日だ。
お休みの日は、基本的にこの食堂で昼食は出ない。
でも、事前に調理担当の職員さん‥フルキキさんや、補助のコナナに連絡をしておけば食べられる。
食事代も無料‥しかも味も悪くない、という理由から、「休日でも昼食はここで」っていうヤツも多いんだ。
ちなみに‥
あんまり考えたくない事だが、平日でも急遽病気等で寮にいる‥あるいは仕事のサイクル上、寮にいる‥
そんな場合なら、同じ様に事前に話しておくことで食事を用意しておいてくれる。
本当に、フルキキさんやコナナには‥頭が下がる。
‥頭が下がる‥んだが‥‥
「昼からどっか、遊びに行くかなぁ‥‥ん、どうしたんだよ、ヨック。ぼーっとして」
そんなラスキの声すら耳に入らない位‥俺はぼーっと「その人」を見つめていた。
その人‥そう、カウンターの奥で洗い物をしている‥コナナだ。
今は食事の時間を少し過ぎたから‥だろう。
調理ではなく、後片付け‥食器を洗ったりを主にしているようだ。
そんなコナナについて‥俺は「気になるところ」があるんだ。
ん‥あ、あぁ、少し注釈を入れさせて欲しい。
俺がフルキキさんをフルキキ「さん」と呼ぶのに対し、コナナを「さん」付けしないのには理由がある。
別に二人を差別化している訳でも、コナナの事を嫌っている訳でも無い。
単に‥コナナもまた、今年星芽寮の職員として入職したばかりで、俺と同い年だからだ。
だから‥まぁ、親しみも込めて「コナナ」と呼び捨てにしている。
‥最も、コナナと直接話をしたことなんて、数えるくらいなんだが。
「ん、さては!‥ははぁん」
何も応えない俺に対して、ラスキは恐らく‥俺の視線の先を追ったのだろう。
そして、その視線の先‥対象となる人を見つけたようだ。
にやにやといやらしい笑いを浮かべながら、そんな事を言うラスキ。
‥それはまるで何かに「勘付いた」かのように思えたが‥無視するだけだ。
きっとロクでもない事を想像したに決まっている。
俺は何事にも動じないように、コーヒーを飲みつつ、視線はそのままで‥
「お前、好きなんだろ‥フルキキさんが!」
「ぶふふぅーーッ!」
想像していた斜め上‥見当違いも甚だしい、ラスキのその言葉に。
俺は思わずコーヒーを吹き出してしまった‥。
それだけではなく、思わずげほげほと咳き込んでしまう俺‥なんたることだ。
「お前、汚ぇなぁ‥」
俺がコーヒーを噴き出した途端、慌てて身体をのけぞらせて‥
更にはそう言って顔をしかめるラスキ。
全く‥誰のせいなんだ、誰の。
「お前なぁ‥全く、なんでフルキキさんなんだよ」
俺は吹き出してしまったコーヒーを、近くに置いてある布巾で拭きつつ答える。
‥いや、ラスキの言葉は無視するつもりだったが‥仕方無い。
とりあえず‥その「勘違い」だけは解いておかないと、と思ったんだ。
だって‥な?いくら何でもフルキキさんってのは。
確かにそんなに歳はとってないハズだけど、俺との年齢差が‥って、そうじゃない。
第一、俺が見ていたのはフルキキさんじゃないんだから。
「と、なると‥なるほど、そうかぁ。コナナの方かぁ」
さっきまで以上ににやにやとした顔で、俺の方をじろじろと見ている。
まぁ、なんとでも思えば良いけどな。
‥きっとラスキは、俺がコナナを「好きだ」とでも思っているんだろう。
断っておくけど、俺は本当に「そういうつもり」は無いんだ。
‥念のために言っておくけど、照れているのでも何でもなくて、そういうつもりは無い。
そうじゃなくて‥そう、コナナに「感じる事がある」って言った方が良いんだろうか。
コナナはもしかしたら‥俺の「同類」なんじゃないかな、って‥そう思うんだ。
そう、俺の‥。
まぁ、そうは思っていても‥確信がある訳じゃないんだ。
ただ‥なんとなく「そうなんじゃないか」って思うだけで。
俺は‥コナナをじっと見つめる。
‥疑惑と共に。


お昼は充分に過ぎて‥でも、夕方というのにはまだ早い、そんな時間。
普段なら、多くのお客さんで賑わっているこの時間だけど‥
‥どうしたのかな、今日は珍しくお客さんが少ないみたい。
あ、ぼくはユラン。このお店『マッシュとナロンのスィーツショップ』で働いている、パティシエなんだ。
‥でも、パティシエとは言うものの‥まだまだ見習いで。
この6月に入って、ようやく仕込みの勉強が出来るようになった‥ってくらい。
まだまだ、スィーツを作る迄には至らないけど‥頑張らなきゃね。
そんな風に気合いを入れる毎日だけど、今日は接客担当なんだ。
本来の接客担当の人が、体調を崩していて‥お休みらしくって。
‥でも、これだって良い方に捉えないと‥ね。
そう、お客さんから直接、スィーツの感想・要望とかを聞ける事もあるし!
うん‥頑張らなくっちゃ!
と、僕が意気込んでいるその時‥
お店の入り口、その扉に付いてある鐘から‥カランカラン、っていう明るい音色が聞こえた。
お客さんだ‥よし、笑顔一杯でお迎えしなきゃ。
「いらっしゃいませ!‥あ、フリスト‥それにディルも」
丁度入ってきたお客さんは‥ぼくの見知った顔で。
ぼくの友達の、フリストとディルだった。
「お、今日はユラン、接客なんか‥頑張りや」
「ふふ、ユランには悪いけド、美味しいの食べさせて貰うヨ」
二人は口々にそう言って‥ディスプレイ内のスィーツを眺めてる。
今日は接客係だから‥二人とゆっくりとお話しができないのは残念だけど‥
でも、こうして軽くでも言葉を交わせるのは良いよね。
「どれもこれも美味しいから、ゆっくり食べていってね」
ぼくの言葉に、二人はにっこりと笑って‥ふふ。
ディルはまぁ、いつものセットなんだろうけど‥
フリストは「今日は何を食べようかナ?」って具合に、色々なスィーツを眺めている。
その姿、っていうか‥表情っていうのか‥迷いながらも、楽しんでいる姿が、ぼくには嬉しい。
ぼくもそうだけど、これも美味しそう、あれも美味しそう‥って迷っている間が‥本当に楽しいんだよね。
ただ、欲を言うなら‥
‥ぼくの作ったスィーツを見て、どれが良いか悩んで欲しい‥なんて。
それはまだまだ先の事、だよね。

結局、ディルはいつもの「ジンジャークッキーとサンドリアティー」のセットを。
フリストは「ガトーオーフレースとオレンジジュース」のセットにしたみたい。
席に着くと、二人共美味しそうに食事をしながら‥楽しそうにお話をしてる。
‥その様子を見てると、ちょっとだけ‥ぼくは寂しくなる。
ぼくもあの輪の中に入りたいなぁ‥なんて。
ううん、ちゃんとお仕事しないといけないよね。
それに‥ぼくが居るカウンターの、比較的近くの席に二人は座ったから‥時折話し声も聞こえてくる。
ふふ、二人はぼくに気を遣ってくれたのかな?だとしたら‥嬉しいな。
‥ともあれ、お客さんは来ないし‥カウンター内の整理とかをしておこう。
ぼくは、カウンターの備品を整理しつつも‥時折二人の方へと視線を向ける。
今は‥どうやら、フリストがディルのジンジャークッキーを食べているみたい。
「わッ!?ディルはこんなの好きなのカ?全然甘くないヨ!」
クッキーを食べた途端、フリストは素っ頓狂な声を上げていて‥
‥うーん、確かにウチのジンジャークッキーは、甘さ控えめだもんね。
その代わり、ジンジャーの風味を最大限に出して‥
‥だから、フリストには不評‥なのかな。
あ、でも‥お店によっては「あま~いジンジャークッキー」だってあるんだ。
ジンジャークッキーの味は一つじゃない‥ってね。
「これが美味いんやって。ホンマに」
ふふ、実際に‥ウチのジンジャークッキーは、一部の人には人気があるんだよ。
ディルもそうだけど、他にもジンジャークッキーが好き、っていう人が居てね。
中でも‥
「いいからサ。こっちを食べてみなヨ」
「わあっ、ぼ、ボクは甘いのは堪忍や!」
って、二人の方を見ると‥フリストがディルにガトーオーフレースを一切れ、押しつける様にして‥
ディルが慌ててそれを止めようとしてるみたい。
うーん、それを見ていたら笑っちゃう‥って言ったら悪いけど‥
ふふ、微笑ましく感じちゃうよね。
ただ‥やっぱり、その輪の中に入れない自分が‥いやいや、お仕事お仕事。
改めて備品のチェックをしはじめたぼくだったけど‥
急に二人の声が小さくなったのを感じて、ぼくはふと‥顔を上げる。
見てみると、二人共‥どことなく沈んだ様子の表情をしていて‥どうしたんだろう?
さっきまではあんなに楽しそうにお喋りしていたのに。
ぼくは気になって、そっと耳を澄ませてみたんだけど‥
「‥最近はサ、ピノの事ばっかりで‥サ」
「‥そうだ‥な。最近特にピノに対して‥」
どうやら‥二人の話題はあの人‥キルク、だっけ?二人の先輩の‥その人の話みたい。
ぼくも何度か同席したことがあるけど‥なんて言ったらいいのかな。
あからさまにピノ以外を相手にしない、あの態度は‥どうにも好きになれなかったなぁ‥。
‥あれ?そういえば‥以前は良く、ピノ達と一緒にここに来ていたけど‥
ここ最近は現れないみたいだ。
‥あぁ、そうだ‥そういえば、そうだった。
確かに、キルクって人が「平日は」このお店に来なくなったけど‥
‥代わりに、ピノが「休日に」このお店に来なくなっちゃったんだよね‥。
つまり、ピノは休日にキルクと‥‥
「特に休みの日なんか、ほんまに‥」
「そういや、そうだネ‥うーン」
‥うんうん、丁度二人もその話をしてるみたいだ。
なになに‥?ふんふん‥‥なるほど。
えっと‥二人の話を統合すると‥
なんでも、平日は確かにキルクがピノに接近しなくなったけど‥
代わりに休日はピノとキルク‥二人でどこかに行く事が多いらしくて‥?
うーん、それって‥もしかして‥。
‥‥‥ふぅ。
‥なんていうのか‥そういう風な話を聞くと、なんだかぼく‥‥。
そう‥心の中に、黒いもやもやが浮かんでいる様な‥そんな感じがする‥。
どうしてだろう‥どうして、こんな‥‥。
ぼくは‥ぼくはただ、ピノとお話がしたいだけ‥そう思っていたけど‥
‥キルクが現れるようになって、それが違うって分かったんだ。
そうだ‥ぼくは。
‥ぼくは‥!
「‥‥あの‥‥あの」
「‥えっ‥あ、は、はい、いらっしゃいませ!」
いけない‥思わず考え事に夢中になっていたみたい。
気がつくと、目の前にはお客さんが立っていて‥
ぼくは慌てて「いらっしゃいませ」の声を上げる。
‥いけないな、仕事に集中しなきゃ‥うんうん。


夕方‥もう少ししたら、夕陽が沈む‥そんな時間。
そろそろ、寮へと戻らないといけない時間なんだけど‥
僕は鼻の院へとやってきていたんだ。
‥それも、キルクさんと一緒に。
なんでも、「見せたいものがあるんだ」って事なんだけど‥一体何だろう?
なんて‥ふふ、僕が考えていても、分かるわけ無いかな?
「まぁ、ついておいでよ」
そう言って僕の前をスタスタと歩いて行くキルクさん。
僕は辺りをキョロキョロしながらキルクさんの後をついていく。
あ、僕が周囲を見回しているのは、理由があって‥。
鼻の院は、遠くからなら見た事があるんだけど、近寄る事がなかったから。
子供の頃から住んで居るクセに、なんて言われそうだけど‥本当なんだよ?
ふふ、子供の頃に‥お父さんに意地悪なこと、言われたからなんだけどね。
‥「鼻の院は、凄い怪物を作りだしてるんだぞ」なんて言われて‥それで僕、怖くなっちゃって。
だから近づかなくなったんだ‥‥あ、勿論今は、それがウソだって分かってるし‥だから‥
っと、キルクさんは鼻の院の入り口‥には向かわないみたい。
入り口の横‥中庭かな?に向けて歩いて行って‥そして‥
「あれ、キルク‥どうしたの、今日はお休みだよね?」
突然、声が聞こえてきて‥‥僕達は声がした方に振り向いてみる。
‥すると‥そこには僕の知らないタルタルの男性が居て。
誰だろう‥キルクさんのお知り合いかな?
「ああ、ケイト‥いや、池の華をさ‥見せてやろうと思って」
ケイトさん、と呼ばれた人は‥多分、キルクさんの職場、鼻の院でのお知り合いさんなんだろう。
ふふ、鼻の院の建物の中から出てきたみたいだし、ね。
ともあれ、キルクさんは「ケイト」さんにそう言うと‥僕の方を示してみる。
ケイトさんもまた、僕の方を見ていて‥おっと、挨拶しておかないといけないよね。
「は、はじめまして。僕はピノ‥マピノ・アピノです。寮で、その‥キルクさんにお世話になっています」
僕はそう言ってぺこりとお辞儀をしてみせる。
‥うん、久しぶりだけど‥「初めましての挨拶」ちゃんとできたね。
「やぁ、君がピノ君かぁ‥話は聞いてるよ。よろしく、ボクはケイト‥ケイト・ハンケイトだ」
ケイトさんはそう言うと、僕の方へと歩いてきて‥片手を差し出して。
勿論、「握手」のつもりだよね。
僕もケイトさんの手を握り返して‥がっちり握手。
‥ケイトさんは、綺麗な金髪‥ううん、オレンジ色の混じった、綺麗なグラデーションを描いた髪‥かな。
その綺麗な髪を、首の後ろで纏めていて‥更には小さめの眼鏡も掛けていて。
ふふ、髪の色を除いたら、僕ととっても似てるよね。
「こいつがさ、いつも僕を呼び出すから‥ほんと、邪魔してばかりなんだ‥な?ピノ」
キルクさんは、言葉とは裏腹に‥楽しそうに微笑みながら、ケイトさんを指差して。
ふふ、本心から怒ってる訳じゃあ無いんだよね。
でも、いつも呼び出す‥という事は‥‥キルクさんの付けてるリンクパールの研究仲間、なのかな?
「ははっ、ごめんね、ピノ君。鼻の院はさ、生物の研究が主だから‥
 どうしても、急遽呼び出さないといけない事が多くて」
言われた方のケイトさんは‥それでも「ごめんね」と、一言謝って‥申し訳なさそうに言ったんだ。
うん‥多分ケイトさんも、優しい人なんだよね‥きっと。
「あ‥いえ、僕、気にしてませんから」
あ、僕の気持ちはウソじゃないよ?
キルクさんと一緒に居たいのは確かだけど、それ以上に‥お仕事は大事だもんね。
‥うん、それは分かってるつもりだもん。
でも‥僕の答えが、キルクさんには不満だったみたい。
「ピノ‥少しは気にしてくれよ。僕だってピノと一緒に居たいのに」
少しだけふてくされた様な態度で、そんな事を僕に言うんだから。
まぁ、その言葉がキルクさんの冗談だ、っていうのは分かってるんだけど‥
ふふ、それでもそう言われるのは‥嬉しいよね。
「ふふ、二人は仲が良いんだね。‥おっと、お邪魔者は退散退散」
僕達の話を聞きかねたのか‥それとも、お仕事があったからか‥
答えは分からないけど、ケイトさんは僕達に軽く手を振って‥鼻の院の中へと入っていったんだ。
でも‥うーん、僕のきのせい、かな‥?
なんだかケイトさんが‥‥
「ピノ、行こう‥目的地はすぐそこだ」
あ、そうだった‥それよりも、今はキルクさんと一緒なんだから‥ね。

鼻の院の中庭‥いや、正確に言えば、中「池」って言うのかな‥?
敷地内に、広大な池があって‥その中には、各所に大きな葉や‥花のつぼみが見えている。
へぇ‥こんな所があったんだ‥。
「ピノは‥ほら、前に言ってただろう?鼻の院に来たことが無いって。
 ‥一応ここは一般開放されている所だから、入っても問題は無いし‥それに‥」
キルクさんは、そこまで話をした後‥急に話すのを止めた。
これから何か始まる‥っていう事なのかな?
キルクさんの方を見ると、口元に人差し指を当てて‥「静かに」というポーズを取っていて。
何かが聞こえるのかな、って僕は思って‥そっと耳を澄ましてみる。
すると‥
‥‥ポチャン‥‥
どこかで水の弾ける様な‥そんな音が聞こえて。
咄嗟に音がした方へと、振り向いてみたんだ。
そうしたら‥
「‥わぁ‥‥」
僕は‥その光景を目の当たりにして、思わず声が漏れた。
丁度‥そう、池の水面に浮かんでいる、花のつぼみが開いて‥
中から穏やかな‥それでいて明るい光がこぼれ始めたんだ。
‥魔光草。
ウィンダスの各所にある、照明代わりに使われている‥光を放つ草花。
でも、寮とかに置いてあるような小さなものじゃなくて‥
そう、あの何倍もの大きさ‥そして光を放つ‥魔光草。
夕陽が沈みかけ、暗くなりかけていた周囲を‥魔光草の光が照らし始めて‥とても‥綺麗。
‥それに‥‥丁度魔光草が花開く、時間帯だったみたい。
他の魔光草達も、次々とつぼみを開き始めて‥周囲一面に光が‥広がっていく。
「‥‥綺麗‥」
その様子を見た僕は‥ただ「綺麗」としか‥言えなかった。
それしか言葉が‥浮かんでこなかった‥それくらいに「綺麗」な光景だったから。
そんな僕の言葉を受けたからか‥キルクさんは僕の後に言葉を続ける。
‥とても‥真剣な声で。
「ああ、綺麗だ‥うん。‥でも‥‥ピノ、君だって‥綺麗だ」
突然の‥キルクさんのその言葉に。
僕は思わず耳を疑った。
‥僕が‥‥綺麗?
当たり前の事だけど、僕に向けられたその言葉に‥
しかし、僕はなんていったらいいのか分からなくて‥言葉に詰まってしまって。
だって‥僕は男だし、綺麗‥だなんて‥。
結局、僕は何も言えずに‥ただ、そっと視線をキルクさんへと向ける。
‥「どういう意味なの?」っていう‥そんな気持ちを視線に込めて。
キルクさんも、僕の視線に気付いたからか‥軽く僕の方を見て‥でも、すぐに視線を逸らしてしまった。
そのまま軽く視線を上げて‥空を見上げたんだ。
徐々に暗くなり始める、宵闇の空を。
キルクさんは、空を見上げる体勢のまま‥ぽつり、ぽつりと‥呟いたんだ。
「‥僕はね、少し‥変わっているんだ」
「‥‥えっ?」
話の繋がらない事に‥ううん、キルクさんのその口調に‥僕は声を漏らした。
いつもの、少し軽い様な‥そんな言葉じゃなくて‥
とても真剣そうな‥何かを打ち明けるような‥そんな様子のキルクさんの言葉に。
僕は思わず‥頭の中でその言葉を繰り返してみる。
‥キルクさんが‥少し変わっている?
それって、一体‥
考える僕をよそに、キルクさんは言葉を続ける。
「僕はね、その‥恋愛対象が‥‥男、なんだ。‥ここまで言ったら分かるかもしれないけど‥」
キルクさんは‥恋愛対象が‥男。
キルクさんが呟いた、その言葉に‥思わず僕の胸が跳ねる。
トクン‥って、一瞬大きく跳ね上がる。
‥それって‥もしかして‥
僕の中に‥心の中に‥‥ある予測が生まれて‥そして‥
「僕はピノが‥好きだ。‥付き合って欲しい、って‥思ってる」
予測は‥‥当たった。
キルクさんが‥キルクさんが、僕を‥
でも、それって‥
「あ‥あの‥僕‥」
「返事は急がない‥ゆっくりと考えてくれたらいい」
僕の言葉を遮る様にして‥キルクさんの言葉が僕を縛る。
‥今はまだ、何も言わなくて良い‥そんな風に言われているような気がして‥
僕は言葉が出なかった。
そして‥キルクさんは歩いて行った。
僕の元からから‥離れるように。
‥一人中庭に残される‥僕。
僕は‥そんな状態で‥考え始める。
キルクさんの事を‥
そして、僕の事を‥

キルクさんは‥僕の事が好きだと言った。
では‥僕はどうだろう。
僕は‥キルクさんの事が好き‥なのかな。
嫌い‥じゃあ無いと思う‥うん。
じゃあ‥好き‥なのかな‥
それに‥‥
好きでも‥その‥つきあえるのかな‥
一つの‥問題。
キルクさんは男で‥僕だって男で。
男同士で‥そんな‥つきあったりできる‥のかな。
色々な不安が‥疑問が‥僕の心に浮かぶけど‥
それでも‥それでも‥
‥‥‥それでも、僕は‥‥‥

気がついたら‥僕は駆け出していた。
キルクさんを‥キルクさんの背を追って、駆け出していたんだ。
‥当のキルクさんも、ゆっくりと歩いていたせいか‥
鼻の院の敷地を出る辺りで追いつくことができた。
‥その‥間近に迫った、キルクさんの後ろ姿を見て‥僕は‥僕は。
「キルクさんッ!‥僕‥僕‥‥僕も、キルクさんと‥お付き合いがしたい‥です‥」
言葉が止まらなかった‥
何も考えが無くても‥言葉だけは止まらなかった。
キルクさんを‥キルクさんだけを‥想う心が‥言葉になって‥自然と口からこぼれていた‥
言葉を言い終えた後は‥ただ‥何も出来ずに、立ち尽くすだけで。
‥そんな僕を、キルクさんは‥
‥‥そっと抱きしめてくれたんだ‥
優しく‥温かく‥‥僕を‥‥。
僕はそんなキルクさんの柔らかさを‥暖かさを感じたくて、目を閉じる。
‥でも、瞼の裏に見えたのは‥見えた姿は、どうしてか‥‥
‥‥‥ううん、きっと気のせい‥‥気のせいだよ。
僕はこんなに‥キルクさんの事が好きなんだもん‥。


「はっはっ‥‥はっはっ‥‥」
夕暮れ時‥街がすっかり茜色に染まる中、俺はいつものランニングコースを走っている。
毎日毎日‥同じコースを走り続けて‥最近は特に余裕が出てきたと思う。
余裕が出てきたからこそ‥時折ダッシュを交えたりして、身体に負荷を掛けていく。
‥身体を鍛えるために、もっともっと頑張らないと。
そうだ、もっと‥もっと。
走り続ける俺の脳裏に、ハランさんの言葉が浮かんでくる。
「いいか、ヤダン。まずは‥基礎だ。基礎が大事だぞ」
‥そう、まずは体力と‥そして魔力の扱い方、そのトレーニングだった。
体力はまぁ、毎日走り続けているからか‥かなり付いてきたと思う。
魔力の扱い方‥こっちだって、毎日夜に自室でトレーニングをしてるから‥少しはマシになってきてる。
ハランさんから一番最初に話を聞いた頃‥そう、二ヶ月前に比べたら、雲泥の差‥
‥とまではいかないまでも、改善されてるのが分かる。
早く次のステップ‥魔力の鍛錬に進みたいって気持ちはあるけど‥いや、基礎が大事だよな、うんうん。
毎日少しずつでも頑張れば、少しずつでも変わって‥‥‥変わっていく、か。
‥俺とピノも、最近変わった‥というよりも、一緒に居る時間が少なくなった‥そんな気がする。
今までなら、今日みたいなお休みの日は‥どこかに出かけたりとかしたもんだ。
勿論、俺だけじゃない‥ディルや、フリストや‥ユランや‥他の面々とも。
でも、今は‥違う。
ここ最近のピノは‥キルクさんと二人で行動することが多くなった‥様な気がする。
‥昨日の闇曜日だってそうだし‥先週の闇曜日、光曜日も‥確かキルクさんと出かけていった。
それも‥キルクさんと、みんなと‥じゃない。
‥キルクさんと「二人で」だ。
それだけじゃない‥最近ピノは、食後もキルクさんと「二人で」過ごしている。
そんなピノを見てると‥なんだか遠くに行ってしまいそうな‥
俺はそこまで考えて、慌てて頭を振る。
何を考えてるんだ‥ピノが遠くに行くだなんて。
全く‥俺とピノが付き合ってる訳でも無いのに、まるで恋人を盗られた様な言い方だ。
‥第一‥俺とピノは男同士じゃないか‥全く、何を言っているんだか‥。
それに、俺には‥サンドリアに残した彼女が居る。
‥今度の銀河祭の日には、ウィンダスに遊びにくる‥そう言ってくれた彼女が居るんだから。
だから‥だから‥‥‥
‥でも‥どうして‥どうしてなんだ。
彼女がやってくる、っていうのに‥俺の心の中には、嬉しさよりも、何か違う気持ちが‥‥
‥‥ん?
ふと‥水の区を走る俺の視界に‥見慣れた姿が‥顔が‥飛び込んでくる。
視界の隅に写ったその姿‥顔‥でも、見間違うはずがない。
見間違いのはずが無いけど‥でも‥
‥‥見間違いであってほしかった‥。
俺が見たのは‥‥ピノと‥‥キルクさん‥。
しかも‥二人は‥抱き合っていて‥‥
そんな‥そんな‥‥そんな‥。
その‥あまりにもショックな光景に‥俺は思わず足が止まる‥。
フラフラと‥自分の意志でなく‥身体が‥足を止めようと‥‥
でも‥そんな身体に‥俺は頭の中で命令を送る。
‥いけない、だめだ‥
ここに居ちゃ、いけない‥早く‥早く‥走り去るんだ。
自分の身体に、そう言い聞かせた俺は‥今日一番のダッシュでもって、その場を走り去る。
二人に気付かれないよう‥気付かせないよう‥
‥違う。
二人から逃げたかったから‥
二人の抱き合った姿を、頭の中から追い出したかったから‥
‥でも‥
‥忘れようと思っても‥忘れられない。
もう‥忘れられないくらいに‥頭の中にその光景がこびりつく。
幾ら頭を振っても‥その光景は離れない。
そんな光景を振り払いたくて‥‥逃げたくて‥‥
俺は必死で走った‥走り続けた‥
苦しくても‥息が出来なくても‥必死に‥
‥‥‥必死に。


じゃあ‥ヤダン、そろそろ寝よう?
‥ああ、そう‥だな
どうしたの?今日は夕方から‥元気が無いみたいだけど
‥ピノ‥‥その‥さ
(‥聞いて‥良いのか?‥‥聞いてしまったら‥)

うん?
‥‥‥何か俺に、言う事‥無い?
(聞いてしまっても‥良いのか?‥‥今なら‥まだ‥)

えっ?‥‥と‥‥僕は別に‥
見たんだ
(‥もう‥‥)

‥‥‥‥何‥を?
夕方に‥さ、ピノが‥キルクさんと‥‥
(‥もう‥‥遅い‥‥か‥)

えっ‥‥え、えええっ!?
だから‥‥
(あれが‥見間違いなら‥)

‥あの、その‥‥
‥‥
(‥見間違いなら‥良かったのに‥)

‥うん‥ヤダンには‥ちゃんと言うね。
僕‥キルクさんと付き合ってるんだ‥ううん、今日から‥付き合い始めたんだ。
だから‥‥僕‥

そう‥なんだ‥
(ああ‥‥聞きたく‥無かった‥‥聞かなければ‥‥良かった‥)

ごめん‥‥男同士で付き合うなんて‥‥気持ち悪い‥よね‥
‥い、いや‥そんな事は無い‥けど‥
(そんな事は‥無いけど‥でも‥でも‥‥)
‥本当?‥だったら、良いけど‥‥その‥黙っていて‥ごめんね‥
い‥いや‥‥俺‥は‥‥その‥‥
(どうして‥どうして言えないんだ‥「なんでキルクさんと付き合うんだ」って‥)

さ‥寝よう、ヤダン
‥い、良いのか‥?手、繋ぐの‥‥ピノとキルクさん、付き合って‥
(言える訳が‥無いよな‥俺には‥彼女が居る‥‥それに‥)

もう、何言ってるの。‥ヤダンは僕の友達‥でしょ?
‥‥‥そう‥だよな‥‥うん‥‥
(そうだ‥‥俺はピノの‥「ただの友達」なんだから‥)



  
関連記事
もくじ  3kaku_s_L.png タルタル協奏曲
もくじ  3kaku_s_L.png 星芽寮交響曲
もくじ  3kaku_s_L.png 小説・短編
もくじ  3kaku_s_L.png ショート
もくじ  3kaku_s_L.png 未整理
もくじ  3kaku_s_L.png リンク
もくじ  3kaku_s_L.png 作品案内
もくじ  3kaku_s_L.png 管理人より
  • 【その87『触れあう想い』】へ
  • 【その88『重なりあう想い』】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【その87『触れあう想い』】へ
  • 【その88『重なりあう想い』】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。