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星芽寮交響曲

14話『銀河祭・ピノ編』

 ←その88『重なりあう想い』 →その89『交わる想い』
7月7日 夕方

 

「この服‥で良いかな‥?ヘンなトコ、無いかな‥?」
少し早めの夕食を終えた僕は、自分の部屋のタンスの前で、お出かけ用の服に着替えていた。
‥「着替えていた」とは言っても、着替えるのに手間取っている訳じゃなくて‥
どの服が良いか迷っていた、って事で‥うーん、我ながら「決断力」が無いなぁ‥。
同室者のヤダンは、もう先に出かけちゃったって言うのに。
僕も早く服を決めて、準備しないと。
それにしても‥ふふ、こんな夕方から出かけるなんて、寮に入ってからは初めて‥だよね。
えへ、なんだかドキドキしてきちゃった。

今日は7月7日、水曜日‥だけど、お休みの日。
それというのも‥そう、今日は夜から「銀河祭」があるからなんだ。
あ、一応銀河祭の説明はしておくね?ミンダルシア大陸やクォン大陸では有名な行事なんだけど‥
違う地方の人、例えばディルとかは「なんなんや、それは?」って言った位だし。
さて、そもそも銀河祭っていうのは‥うん、名前にもあるように「お祭り」なんだ。
とは言っても、来月にある「あますず祭り」の様に、わいわい騒ぐ様なお祭りじゃなくて。
‥なんていうのかな‥風情を楽しむお祭り、って言った方がいいのかもしれない。
あ、勿論屋台とかは出ているんだけどね。
‥そうそう、銀河祭には元となる「逸話」があってね、それは‥
昔も昔、その昔‥大河を挟んだ両岸に、大きな二つの国があったんだ。
その二国には、それぞれヤヒコ皇子とアムディナ姫、という人物が居たんだって。
二人は大河を挟んで巡り会い、そして‥互いを想う様になったんだけど‥当時二国は敵対する国同士だったんだ。
王族だった二人は、なんとか二国の間を取り持つ為、色々と働きかけてみたんだけど‥
二人の努力は実らずに、二国は敵対を続けて。
‥そして二人は大河に身を投げ、星になった‥んだって。
この銀河祭では、そんな二人がこの満天の星の空で、今度こそ結ばれますように‥って願いを込めて出来たお祭りなんだ。
二人の仲を願って、会場になる各所に笹(色々と飾って、お祭りを祝う為のものなんだよ)を飾ったりしてね。
ちなみに、ウィンダスでお祭りの会場になるのは、水の区と森の区の二つ。
両方とも、笹の飾り付けやお店の飾り付けが沢山あって、とっても綺麗なんだよ。
でも‥そんな綺麗な飾り付けなんだけど、残念な事が一つ。
僕はほぼ毎年、この銀河祭を見ているから分かるんだけど‥
飾り付けや、屋台の数が多くて‥ちゃんと回ろうと思ったら、水の区か森の区‥どちらか一方しか回る時間が無くて。
両方見ようと思ったら、どうしても飛ばし飛ばし見る事になっちゃうんだ。
そもそも、水の区と森の区の間の距離もそこそこあるものね‥。
この話は、今日の夕食の時に、フリストやディルも言っていたっけ。
二人共ウィンダスの銀河祭を見るのは初めてで(ディルに至っては銀河祭自体が初めてだね)。
過去何度も見ている僕に、どういう風に回れば良いのか、って聞かれて。
さっきの話があるから、二人には「片方に集中すると良いよ」って言ったんだ。
そうしたら今度は‥そうなんだ、「それじゃあどっちが良いのか」って話になって。
それはまた‥難しい話なんだよね。
水の区の方が、笹の飾り付けとか‥特設広場とかがあって、見応えはあるんだけど‥
森の区の方が、屋台が多かったり‥あるいは他の出店もあるから、そっちは楽しめるし‥
なんて、僕が言っていたら‥ふふ、フリストがこう言ったんだよ。
「じゃア、オイラは水の区ダ!‥なんて言ったって、鼻の院があるしナ」
なんてね‥ある意味、フリストらしい、って言えばそうなんだけど‥ふふ。
そういえば、結局はディルも「ほなら、ボクも水の区に行こかな」とか言ってたし。
ディルも目の院があるから‥なのかな?なんて思っていたんだけど、本当はそうじゃなくて。
こうも言ってたんだよ‥「仰山ある、笹の飾り付け‥風情あるのんを見たいからなんや」って。
その意見には、ボクも賛成だな。
森の区の、お店に囲まれた賑やかな雰囲気も良いけど‥
水の区の、笹が何本も立ち並ぶ光景も‥素敵だもの。
でも、今日は‥‥あっ!
いけない、つい長々と考えちゃったけど‥もうこんな時間だ。
窓から見える時計台の時間は‥「約束の時間」が迫っている事を教えてくれる。
早く用意しないと‥待ち合わせに遅れちゃう!
僕は慌てて服を着終えると‥廊下へと飛び出したんだ。

僕は急いで歩きながら、寮の玄関へと向かう。
‥だって、廊下は走っちゃダメ‥だからね。
それに‥走らなくても、このペースで行けばきっと待ち合わせ時間には間に合うハズだ。
うん‥大丈夫。
待ち合わせ場所は、寮を出た先‥居住区主道に向けて、歩いた所‥
そこに僕を待ってくれている人が居る。
その人は、勿論キルクさん‥僕の大事な人。
先月の半ば‥僕はキルクさんに告白されて、そして‥恋人同士になった。
あれから、平日はそれほど会わないけれど(キルクさん曰く、ずっとベタベタしてたら怪しまれるから‥だって)、
休日は朝から夕方まで、一緒にどこかに出かけてる位なんだ。
‥なんて言うだけだと、以前とそれほど変わらない様に聞こえるけど‥
でも、心の中では違う。
‥僕はキルクさんと一緒にいると、とても楽しいし‥それに。
恋人同士だから、っていう安心感があるし‥それから‥
人気の少ないところだと、腕を組んでみたりとか‥身体を寄り添ったりとか‥そういう事だってしてたんだ。
‥でも‥実を言うと、不安に思うことだってある‥。
キルクさんは‥キルクさんは僕と一緒に居て、楽しい‥のかな、って。
いつも楽しそうにお喋りをしてくれるけど‥でも、時々遠くを見ている様な、そんな時があって‥
それに‥そう、もう一つ。
その‥腕を組んだりだとかは、あくまで「人気の少ないところ」だけで‥
みんなの前とかだと、手すら繋いで貰えないのが‥
なんて、そんな風に考えちゃだめだよね。
ヤダンは‥僕達の事を分かってくれたけど、みんなが同じ様に理解してくれるとは限らないし‥。
‥ふぅ、暗いことを考えるのは止めよう、うんうん。
今日は銀河祭なんだから‥楽しまないと。
「ん‥あぁ、ピノ‥今日はおめかししてるんだな」
僕が玄関にたどり着いたところで‥偶然にもその人と顔を合わせたんだ。
亜麻色の髪を、ぼさぼさにしているその人は‥
「あ、ヨック!ヨックも銀河祭に‥‥行くにしては、大きな荷物だね‥?」
ヨックラン・カヨックレン‥僕と同期の友達だ。
丁度、ヨックは玄関から外に出るところで‥
最初は銀河祭に行くのかな?って思ったんだけど‥どうやら違う様な気がする。
そうなんだ、ヨックは背中に「大きな鞄」を背負っていて。
銀河祭に行くというよりも、どこか遠くに出かけるような、そんな様子だったんだ。
でも、今の時間から遠くに行く、というのは考えられないかな、とは思ったんだけど‥
「ん‥あ、いや、俺は‥‥行かないよ。‥用事があるからな」
僕から軽く視線を逸らして、うつむきがちにそう言うヨック。
なんだか様子が変なんだけど‥それが何かは分からなくて。
うーん‥。
「と、とにかく‥ピノは楽しんできなよ」
なんとなく会話が止まった所で、ヨックはそんな声を上げる。
僕に向け、挨拶代わりに手を上げて‥そして、玄関から外へと走っていったんだ。
どうしたんだろう、なにか慌ててるみたいで‥って、そうだった!
僕だって急がなきゃ‥待ち合わせの時間に遅れちゃう。
玄関を出た僕は、慌てて少し小走りになって‥目的地へと向かったんだ。

「ごめんなさい、遅れちゃって‥」
目的地にたどり着いた僕だったけど‥
時計塔を見てみると、少しだけ遅刻しちゃったみたい。
大事な待ち合わせだって言うのに‥情け無いなぁ、僕‥。
ちょっとだけ気持ちが沈みかける僕に、キルクさんは優しく声を掛けてくれて。
「はは、全然大丈夫だよ。気にしないでいいから」
そう言ってにっこりと笑ってくれたキルクさんは‥やっぱり素敵で。
ふふ、余計に惚れ込んじゃうな。
「ただ‥」
でも、明るかったキルクさんが‥その言葉と共に一気に空気を変える。
どことなく、沈んだような表情‥そして声‥‥ぼ、僕、何かしたのかな‥?
「ピノが浴衣じゃないのは残念だなぁ‥」
またまた表情を一転させて‥今度はからかうように‥でも、本当に残念そうに言うキルクさん。
もぅ‥一瞬、僕が何かやらかしたのか、って考えてドキドキしちゃったよ。
でも‥そうかぁ、浴衣かぁ‥‥長い間着てないなぁ‥着てくれば良かったなぁ。
「あ‥ごめんね、その‥今度は絶対!」
僕は顔の前で両手を合わせて、「ごめんね」のポーズ。
そんな僕の頭を、キルクさんはにこにこ笑いながら、くしゃくしゃって撫でてくれて‥
「ふふ、今度に期待してるよ‥さ、行こう」
そう言って、歩き出したんだ。
ふふ、キルクさんに頭を撫でて貰うの‥好きだな。
だって、キルクさんの手は‥とっても優しくて温かいもの。
でも、そんな手だからこそ‥欲を言えば、手を繋いで歩きたいな‥。
‥ううん、ここはまだ、人通りがあるもんね‥。
もう少し‥もう少し‥あ。
ぼーっとしてたら、キルクさんに置いていかれちゃう。
僕は慌てて、キルクさんに追いつくと‥横に並んで、歩き始めたんだ。
「そういえば‥水の区と森の区、どっちに行く?」
一緒に歩き始めて、すぐに‥キルクさんは僕に尋ねてくる。
‥もう少しで居住区内の主道に出る‥北に行けば水の区、南に行けば森の区、だ。
どちらに行くか、早めに決めておかないといけないよね。
「どっちにしよう‥ディルやフリストは、水の区に行くって言ってたけど、僕も‥」
「じゃあ、森の区に行こうか‥人目は避けて、さ」
僕の言葉を遮る様にして、キルクさんはそう言ったんだ。
‥うん、そうだよね。
人目を避けて‥うん。
‥以前に、僕とキルクさんの二人で話して、決めたことがあるんだ。
みんなには‥少なくとも、僕達の関係がバレてしまったヤダン以外の人達には‥
僕達が付き合っている事はナイショにしよう、って。
‥別に、二人で出かける事はよくある事だけど‥場所が場所、銀河祭だもんね。
二人で過ごしている間に、ムードが良くなったりして‥いつの間にか、もっと近づいて‥なんて事だって考えられるし‥
そんな所を誰かに見られたら‥って考えると、少しでもみんなの居ない方に行った方が良いだろうから‥
だから、森の区が良いんだよね‥うん‥。
だから‥‥
本当は‥僕が続けたかった言葉‥
(僕も、水の区に行きたいな‥沢山の笹で、風情があるの‥好きだもん)
その言葉は、ぐっと飲み込んで‥もう出て来ない様にしたんだ。
‥そうだもんね‥みんなと顔を合わせるのは‥良く無いもんね‥。
でも‥‥。
「それよりさ、ピノ、今回の銀河祭は‥」
どうしてかな‥キルクさんはとっても楽しそうに話しかけてくれるけど‥
僕は‥どうしてか‥‥
‥いけない‥お祭りはこれからなんだから‥楽しまなきゃ‥楽しまなきゃ。
少しだけ、心の中に感じるもやもや‥でも、今は見ないことにして。
僕はキルクさんと楽しいお喋りを始める。
‥森の区に向けて、歩きながら。

「わぁ‥綺麗‥」
綺麗に飾られた笹。
様々な彩りを放つ屋台。
そして、満天の星空‥は、まだ時間的に見えないけど‥それでも。
森の区の広場は‥そんな様々な「色」に包まれていて、とっても綺麗だったんだ。
勿論、綺麗なだけじゃない‥
もう夕方を過ぎて、そろそろ星が見え始める、って頃なのに‥
楽しそうにはしゃいでいる子供達‥勿論、大人達だって。
それが非日常の彩りを映し出しているようで‥ふふ、見ているだけでも胸がワクワクしてくる。
うん、やっぱりお祭りって素敵。
後は‥キルクさんと、手でも繋げれば良いな‥なんて思うけど‥
‥まだまだ明るいし、それは無理だよね。
「今年も‥盛況だな。さぁピノ、何から回ろうか」
楽しそうに‥嬉しそうに、僕に微笑みかけてくれるキルクさん。
この微笑みだけで‥今は満足だから。
手を繋ぐ事よりも‥うん、お祭りを楽しもう。
「うーん、そうだね、まずは‥」
やっぱり、銀河祭だから‥笹の飾り付けを見たいな、って‥僕は言おうとしたんだけど‥
その前にキルクさんは歩き出していて。
「お、あそこの屋台‥見に行ってみよう。僕‥お腹が空いててさ」
なんて言って‥近くにある、良い香りのするお店に行っちゃったんだから‥
もう、仕方無いなぁ。
‥でも、屋台で食べるのも美味しいものね。
笹は後で見よう‥うん。
そっとキルクさんの後を追って、屋台へと向かう僕。
‥そういえば、キルクさんと一緒に居るときは‥こうして後を追う事も多かったかな。
キルクさんは、真っ先に気になるお店に向かって、走り出して‥
僕はそんなキルクさんを、苦笑いしながら追いかけたり。
‥キルクさんって、そんな子供っぽい所もあって、僕は‥
‥僕は‥‥
‥‥あれ‥‥?
ううん、いや‥気のせいだよね。
僕の心の中で、何か‥何かを感じた様な気がしたけど‥うん、きっと気のせいだ。
そんな事より‥そう、お祭り、お祭りだ。
「キルクさん、何を食べ‥‥あっ‥」
屋台の前に立って、注文しているキルクさんに‥僕は追いついて。
一体何を食べるつもりなのかな、って思って‥声を掛けたんだけど‥
‥その屋台から、少し離れたところに‥見知った顔を見つけたんだ。
丁度僕達の方へと向かって歩いてくる二人‥タルタルの男女のカップル。
綺麗な浴衣を着た女の子と‥格好いい服装で、手を繋いで歩いている男の子‥
‥女の子の方は、僕の知らない顔だ‥でも、男の子の方は‥
‥‥あっ、僕に‥気付いて‥‥こっちに‥近づいて‥‥
「ピノ‥‥森の区に居たのか」
そして、僕に声を掛けてくる‥。
その声は、いつもの声じゃない‥どことなく緊張しているような、そんなうわずった声。
うん、きっと緊張してるんだよね‥その‥‥彼女と一緒に、久しぶりに歩いてるんだもの。
「あ‥‥うん、ヤダン達もこっちに居たんだね」
そう、その男の子というのは‥僕の同室者、ヤダン。
‥今日は、前から楽しみにしていた「サンドリアに住む彼女」と、ウィンダスの銀河祭を回る‥って言ってたんだ。
夕食を終えた後も、人一倍早く準備をして‥出かけていったっけ。
‥その右手は、一緒に居る女の子‥きっと「彼女さん」なんだろう、その子にふさがれていて‥
ふふ、仲よさそうに手を繋いで、腕だって絡ませているのが‥妬けちゃうな。
‥‥‥妬けちゃう‥?誰に‥?
‥いや、きっと‥こうして堂々と手を繋いでいることに、だよね。
それにしても‥ヤダンと一緒にいる女の子は‥
とっても綺麗な女の子で‥浴衣だって可愛くて、それが余計に可愛く見えるのかな。
ヤダンだって、格好いいから‥二人はとってもお似合いのカップルに見える。
「ピノ、お待たせ‥ここの‥‥ん‥‥あぁ、ヤダンじゃないか」
僕がヤダンと話をしてすぐに‥キルクさんが僕の方を振り返って。
どうやら買い物は終わったみたいだけど‥僕の方と‥そして僕の視線の向く方‥つまりヤダンの方を見比べてる‥
そんなキルクさんを見て、ヤダンは軽く会釈した後‥
女の子の紹介を忘れていた、って様子で‥僕達に対して慌てて女の子の紹介を始めたんだ。
「あ‥キルクさん、どうも。
 ‥そうだった、紹介しないとな‥こっちは俺の彼女のシャミミ。今日はサンドリアから遊びに来てるんだ」
「‥あ、その‥シャミミです。よろしくおねがいします」
ヤダンの紹介に、軽くお辞儀をしてみせるシャミミさん。
僕は初めて見るけど‥うん、お辞儀の仕方から見ても「上品」っていう言葉が思い浮かぶ位だ。
お辞儀をしたあとだって、にっこりと微笑んでいて‥うん、とっても可愛いって思う。
「で、こっちが‥前から言っていた、同室のピノだ」
ヤダンは今度は、僕の方を手で指して‥
と、いけない‥僕も挨拶をした方が良いよね。
「ピノです。‥マピノ・アピノと言います、よろしくね」
とりあえず‥僕も同じ様に自己紹介とお辞儀をしてみせたんだけど‥
僕がお辞儀をした後、シャミミさんは‥ぱっと顔を輝かせて‥こう言ったんだ。
「まぁ、あなたがピノさん。ふふ、ヤダンから色々とお話は聞いてます‥よろしくね」
まるで、「僕に会えて嬉しい」なんて言う様な素振り。
‥それは僕の勘違いだ、なんて言われそうだけど‥本当なんだよ?
本当にシャミミさんはそう言って、嬉しそうに笑ってくれたんだから。
そして‥自己紹介の最後はキルクさんだけど‥ヤダンはキルクさんの事を何て言うのかな?
幾ら僕とキルクさんの間柄を知っていても、「ピノの恋人で‥」なんて風には流石に言わないかな‥
だとしたら‥寮の先輩?それとも‥
‥なんて考える僕の予想は、違う意味で外れたんだ。
それというのも‥
「僕はキルク・ラトクリク。ピノの友達だ。まぁ、よろしく」
ヤダンがキルクさんを紹介する、その前に‥キルクさんがそう言ってのけたから。
しかも‥そっけなく、無愛想‥って言ってもいいくらいの態度で‥全然「よろしく」そうじゃない。
キルクさん、確か以前に「女には興味ないから」って言ってはいたけど‥
なにもそこまでつっけんどんに言わなくても、って思ったりする‥。
ヤダンの彼女さんだって言うのに。
でも、当のシャミミさんは‥全然気にしない、とでも言う様に、にこやかな笑顔で頭を下げていて‥
なんだか‥うん、大人の対応だな、って思ったんだ‥‥いや、案外気にしてないだけかもしれないけど‥。
それからしばらくは、四人でお話を‥という事には勿論ならなかった。
キルクさんの自己紹介が終わって‥誰かが話をし始める、その前に。
「さ‥それじゃあピノ、次行こうぜ。ヤダン達も、またな」
キルクさんは僕の手を掴むと、そう言って‥ヤダン達の来た方向へと、歩き出したんだ。
勿論、手を繋がれた僕は‥キルクさんの後を付いていくしかない訳で‥
僕は二人に慌てて頭を下げながら、そこを後にしたんだ。
‥キルクさんと手を繋ぐのは良いけど‥でも‥
‥‥こんなのって‥‥‥。
‥ごめんね、ヤダン‥。

それから‥僕達は色々な所を回ったんだ。
色々な屋台とか‥勿論、笹の飾り付けだって。
でも‥でも。
どうして‥かな。
始まるまでは、あんなに楽しみだった、銀河祭だったけど‥
‥あんまり‥楽しくなくて。
キルクさんとお話ししていても、なんだか‥
‥どうしてだろう。
どうしてこんな風に‥なっちゃったんだろう‥。
でも‥楽しかろうが、楽しくなかろうが‥時間は過ぎていく。
気がつけば、もう銀河祭も‥終わりの時間を迎えて。
僕達はそろそろ寮に戻ろう、という話になったんだけど‥
‥最後にキルクさんが言ったんだ。
「鼻の院にさ、一緒に来て欲しいんだ」
って‥真剣な表情で。
本当は‥ううん、なんでもない‥。
だって、今までの‥そう、楽しそうにしている表情じゃなくて‥
何か、思い詰めたような‥そんな真剣な表情のキルクさんを見たら、とてもじゃないけど‥断れなくて。
僕達は鼻の院に向かったんだ。
‥ウィンダス港を通って‥‥人目を避ける様にして‥。

鼻の院‥その中庭にある、池。
更に、池の中央へと続く桟橋‥その先。
そこには、以前来た時のように‥沢山の魔光草が輝いていて。
‥とても綺麗だけど‥なんだか‥
「綺麗‥だよな」
桟橋から、池の魔光草を眺める僕‥その横に、キルクさんは並んで‥僕の耳元でそう言う。
そんなキルクさんの言葉に、僕は‥‥どうしてだろう。
‥すぐに答えることができなくて。
でも、僕の中の何かが‥「答えなきゃ」って、そう言うから‥。
だから‥僕はなんとか、頷きながら答えたんだ。
「‥‥‥うん‥」
僕がどうして、すぐに答えられなかったか、って言うと‥それは‥
‥だって‥だって、どことなくその華たちが、寂しそうに‥見えたから。
どうしてかは‥どうしてかは、分からない‥‥分からないけど‥
‥その時。
僕の手を‥そっと誰かが握る‥
‥誰か、なんて言うのは可笑しいよね‥その人はキルクさんに決まってるんだから。
周囲には誰も居ないから‥‥そうだ、誰も居ないから‥だから、こうして手を握ってくれるんだよね。
‥‥誰も‥誰も居ない時だけ‥‥。
「ピノ‥‥そのさ、今日は‥‥楽しかった‥」
僕が考えている間にも、キルクさんは言葉を続ける‥
‥今日は楽しかった‥そう言うキルクさんだったけど‥
その言葉に、僕は上手く‥‥答えることが出来ない。
本当の事を言えば‥きっとキルクさんは傷ついてしまう‥
‥嘘を言えば‥‥ううん、嘘は‥‥言いたくない‥‥。
だから‥だから、僕はただ‥ただ、俯いたままで‥。
何も言えずに‥俯くしかなかったんだ‥。
そんな僕を‥キルクさんはどう思っていたんだろう。
それは‥僕には分からないけど。
キルクさんは、何も言わない僕の真正面へと、身体を動かしてきたんだ。
目の前‥そう、俯いた先に‥キルクさんの下半身を見て、僕はそっと顔を上げる。
顔を上げた僕の視線と‥キルクさんの視線が交わって‥そして‥
キルクさんはそっと‥僕の両肩を、それぞれ掴んだんだ。
更には‥キルクさんはそっと‥顔を近づけてきて。
‥ここまで来たら、キルクさんが何をしようとしているのか‥それ位は僕にも分かる。
でも‥どうして‥‥だろう。
これから‥キルクさんとキスをする、って分かっていても‥
‥キスする事に、ワクワクも‥ドキドキも‥しないんだ。
ただ‥僕じゃない、他の人から見る様な‥そんな冷静な感情で、この状況を捉えているような‥
‥そんな感覚が僕にはあった‥。
そう‥僕達は恋人同士なんだから、キスくらい‥するのは当たり前だ。
‥でも、これが僕達のファーストキス‥場所はとっても綺麗な‥この魔光草に包まれた中で‥
それは、とても神秘的で‥スポットとして悪く無い場所だと思う‥
そう、恋人同士‥好き合う二人にとっては‥‥‥‥
‥恋人同士‥‥なのかな‥僕達って‥
本当に‥‥僕達‥‥僕は‥‥キルクさんが‥好きなのかな‥
そんな考えと‥そして、近づいてくるキルクさんの顔が‥頭の中で幾度となく交差する。
僕は‥キルクさんを‥‥キルクさんを‥‥
その時‥ふと‥
‥僕の頭の中に、ある人の顔が浮かんで‥消えた。
そして‥‥思ったんだ。
僕は‥‥僕は。
‥‥‥やだ‥‥‥
こんなの‥‥やだ‥‥
やだッ!
僕は、拒絶するように‥慌ててキルクさんの手を振り払うと‥
‥気付いたときにはもう‥‥走り出していたんだ。

鼻の院の‥桟橋から戻って‥中庭を出て‥鼻の院の敷地を後にする。
更にもう少しだけ走ると‥僕は走る速度を緩めていく。
次第にゆっくりと‥歩くようになって‥そして。
今更ながらに、自分のした事の意味を‥考え始めたんだ。
大事な‥きっとキルクさんにとっては、思い切った行動の‥キス。
僕は‥そんなキスから、逃げた‥キルクさんの前から‥‥逃げちゃったんだ‥‥。
今更ながらに‥キルクさんの前から逃げたことに、罪悪感を感じる僕。
でも‥でも。
僕はとぼとぼと‥歩いて行くけど‥でも。
‥キルクさんは追いかけてきてはくれない‥。
僕の背後から、追いかけてくるような足音は‥聞こえてはこない。
‥ちょっと待って‥‥何を‥何を期待してるの、僕は。
僕が逃げたら、キルクさんは追いかけてきてくれると思ったの?
だから逃げたの?
キルクさんに構って欲しくて逃げたの?
‥違う。
そうじゃない‥そうじゃないけど‥
でも‥‥
しばらくの間‥ゆっくりと歩きながら、考えていた僕だったけど‥
‥どうしてかな。
今になって‥キルクさんへの想いが募ってくる。
今まで優しくて‥一緒に居るだけで楽しかったキルクさん‥
今日は‥そう、今日はたまたま、調子が悪かったんだ‥
‥もしくは、機嫌が悪かったのか‥
どっちにせよ、いつものキルクさんじゃ無かったんだ‥だから‥
‥‥だから‥‥
‥戻ろう‥かな‥
戻って、キルクさんに‥謝ろうかな‥
謝ったら‥キルクさん、許してくれるかな‥
‥許してくれないかもしれないけど‥‥でも‥
‥‥うん、謝ろう‥キルクさんだって、きっと分かってくれる‥かもしれないし‥
だから‥
‥僕は‥鼻の院へと戻る事にしたんだ。
‥‥ゆっくりと‥ゆっくりと。

鼻の院の‥中庭の池‥
その桟橋の先には、もうキルクさんは居なかった。
周囲の池に、魔光草が煌々と輝いているだけで‥人の姿は全く無い。
でも、僕がここまで戻ってくる間に、キルクさんとはすれ違わなかった‥
細い道だし、すれ違って気付かない‥なんて事は無いと思う。
となると‥南の‥港の方へと向かったのかな?‥それとも‥
‥鼻の院の中に居るのかも知れない。
なんとなく‥どうしてかは分からないけど、なんとなく僕はそう思って。
僕は覗いてみる事にしたんだ‥鼻の院の中を。
中庭から、鼻の院の正面へと戻り‥入り口である扉の前に立つ。
窓からも明かりが漏れるし‥中には誰かが居るに違いない。
コンコン‥と、軽くドアを叩いてみるけれど‥反応は無くて。
もしかしたら開くかな?と思って、試しにドアに触れてみたけれど‥あっけなくドアは開いたんだ。
鍵を閉めていない、っていうことは‥中に誰か居るのかも知れない。
例えば、当直の担当の人とか‥あるいは研究をしている人とか。
でも、扉を開けた先には‥うん、入り口から全部を見渡せる、そんな部屋だけど‥誰も居ないみたいだ。
となると、奥‥なのかな?
部屋を見渡してみると、左手の方に扉が見える‥あの奥に居るのかもしれない。
いや、鍵を掛けていなかったことから、奥に居る‥と思った方が良いかな。
だったら‥うん、行ってみよう。
‥本当は「部外者以外立ち入り禁止」だと思うけど‥
鼻の院関係者‥キルクさんの関係者だから‥良いよね‥?
キルクさんが居なくても、そう言えばなんとかなるかもしれないし。
そう考えて僕は、そっと‥次の部屋へと続くであろう扉に、手を掛ける。
もう一度コンコン、と扉をノックして‥またしても返事は無し。
そっと扉を開けてみると‥なるほど、部屋じゃなくて廊下になっているみたい。
それほど長く無い廊下に、いくつかの扉があって‥それぞれ部屋に繋がっているんだろう。
いくつかある扉の、どこにキルクさんが居るのかはわからない‥と、普段なら思うかもしれないけど‥
幸いにも「誰かが居る」事を示す明かりが‥奥の部屋から漏れている。
‥でも‥うすぼんやりとした明かりで、とても中で何かをしているようには見えないけど‥
‥‥その時。
「‥‥‥‥」
何か‥声‥話し声?の様なものが、奥の部屋から聞こえてきた。
‥はっきりとは分からないけど、多分‥あの「明かりの付いた部屋」から。
その部屋に近づくにつれ‥漏れる声が聞こえやすくなってきて‥
‥その正体が、徐々に分かってくる‥。
声は‥一人じゃなくて二人のもの。
そして‥‥なんだか‥‥その‥‥特殊な声‥。
苦しそうな‥でも‥甘い様な‥‥‥‥そんな‥‥
ここまで来て‥僕の脳裏にふとした「予感」が思い浮かんでくる。
もしかしたら‥ここには‥ここには。
キルクさんと‥「誰か」が居て‥二人で‥
‥‥頭に浮かぶ、そんな「恐ろしい考え」を‥僕は慌てて首を振り、忘れようとする。
そんなハズは無い‥きっと‥だってキルクさんは僕の事が‥
‥僕があんな事をしたのに?‥キスを‥避けたのに?それでも‥キルクさんは僕を?
頭の中の嫌な予感が‥強くなっていく‥
手は‥暑さのせいじゃない汗を、びっしりとかいていて‥
足は‥怖さの余り、ゆっくりとしか進む事ができない‥。
引き返せば良い、とも思った‥でも‥すぐにそんな考えは消えてしまう。
だって‥もし‥もし‥‥
‥ううん、確かめるまでは‥少なくとも、中に居るのがキルクさんなのか‥そうでないのか‥
それを確かめるまでは‥僕は‥‥引き返せないから‥
僕はゆっくりと‥明かりの漏れる部屋へと近づいていく。
そして‥いよいよ鮮明に聞こえてくる‥「声」‥そして「音」。
「‥ト‥‥‥だろ‥‥‥れは‥」
「‥‥キル‥‥も‥‥ッ‥」
普段の声じゃない、甘く高い声を上げる二人と‥
その声に伴うようにして、かすかに聞こえてくる‥水音、そして‥ベッドの軋むような音。
とても生々しい‥そんな声と音に‥
‥普段の僕なら、興奮してしまっていた事だろう‥
でも‥今は違う‥
今は‥興奮よりも‥それよりも‥‥
確かめる方が、先決だから‥。
だから‥僕は‥
‥かすかに開いていた扉の隙間‥その隙間を、もう少しだけ開いて‥そして‥
‥‥隙間から中を覗き込んだ‥‥。
‥‥‥‥‥
‥‥そ‥んな‥‥‥
‥ううん‥‥やっぱり‥‥‥
僕が目にした中の様子は‥どうしてかな、はっきりと‥伺い知る事ができたんだ。
‥ベッドの上で‥重なり合う二人の‥タルタルの男性達‥。
それは‥ケイトさんと‥そして‥‥キルクさん‥‥。
勿論、ただ寝ている訳じゃ無い‥
そんな訳が無いのは、僕だって分かってる‥もう子供じゃないんだから‥。
二人は‥ケイトさんが仰向けで下になるようにして、その上にキルクさんが乗っていて‥
更には、キルクさんが身体を動かして‥その‥
‥‥良く見えないけど、きっとケイトさんに‥‥。
「ケイトの中‥良いよ‥‥やっぱり‥‥ケイトが‥一番‥」
「んッ‥‥キルクぅ‥のも‥大きくて‥んッ‥‥良いよぉ‥」
キルクさんが動く度に‥二人の口からは、甘い声が漏れて‥
僕は‥‥僕は‥‥
その光景を見たショックのあまり、もう‥立って居られなかった‥。
立つだけの力も無く、その場に膝を突くように‥座り込んで。
‥ゴトッ‥っていう音がしたけど、多分二人には気付かれてない‥だろうから‥。
僕はそのまま‥来た廊下を‥戻ったんだ‥
なるべく静かに‥音を立てずに‥‥
四つんばいのままで‥‥。

もう‥何も見たくない‥何も‥考えたくない‥‥
何も‥‥何も‥‥。
鼻の院を出た僕は、そんな風に考えて‥いや、それこそ何も考えずに‥
‥ただ、寮へと戻った。
‥どこをどうして、戻ったのかは分からない‥
ただ、気がついたら‥僕は自分の部屋で、ベッドに入って‥そして‥
声を上げて泣いていたんだ‥
‥それまで堪えてきた、色々な気持ちを‥一気に表に出したように‥
泣いて‥泣いて‥泣くことしかできなくて‥
‥周りさえも見えていなかった。
だから、いつの間にか‥誰かが僕の部屋に入ってきた事にだって気付かないまま‥
僕はずっと‥泣いていたんだ‥‥。



   
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