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星芽寮交響曲

15話『銀河祭・ヤダン編』

 ←その89『交わる想い』 →その90『三○○』
7月7日 夕方
 

「とりあえず‥こんなもん、かな」
いつもよりも早めの夕食を終えて‥俺は自分の部屋にあるタンスの前で、服を着替えていた。
着替える、って言っても寝間着に着替えてる訳じゃないぞ。
‥今日はこれから出かける予定だからなんだ。
こんな時間から出かけるのか、なんて言われそうだけど‥今日はほら、特別な日だからな。
そう、今日は7月7日‥みんなも知ってる「銀河祭」がある日、だ。
え?「銀河祭」って何だって?‥ま、そうか‥ディルみたいに知らないヤツだって居るよな。
うーん、銀河祭のいわれとかは忘れちまったけど‥とにかく国民みんなで祭りを楽しむ日だ。
ん‥ちょっと違ったかな‥?
まぁ、とにかく‥ウィンダスでは水の区と、森の区‥この二つのエリアで、催し物が開かれる。
多くの笹の飾り付けと‥そして屋台とが立ち並ぶんだ。
そんな催し物の数々に、子供から大人までが参加する‥楽しい行事だ。
もっとも、来月にある「あますず祭り」と違って‥皆が踊ったりしない分、騒がしい祭りじゃない。
どちらかと言えば‥そう、情緒を楽しむ祭りだ、って言っても良いだろうな。
そういえば‥夕食の時に聞いた話だと、祭りが開かれる水の区と森の区では、それぞれ違う特徴があるらしい。
水の区は笹の飾り付けが多く、情緒豊かな雰囲気を出しているのに対して‥
森の区は屋台の数が多く、その分賑わっているんだとか。
ああ、俺はほら、一昨年まではサンドリアに居たから‥ウィンダスの「祭りの違い」まではよく分かって無くてさ。
去年は参加していたんだが‥正直言って、そんな違いがある事すら知らなかった‥。
ともかく、俺としては、やっぱり情緒溢れる方‥水の区に行きたいところだが‥
フリストやディル達が「水の区に行く」と言っていた事を考えると‥森の区に行った方が良いだろう。
‥断っておくけど、俺はフリストやディルが嫌いな訳じゃないぞ‥むしろ大好きな位だ。
‥‥重ねて断っておくけど、ヘンな意味じゃ無いぞ‥うん。
フリストやディルの事は好きだが、会いたくない‥そんな理由があるんだ。
その理由というのは‥そう、俺と一緒にお祭りを回る人‥なんだ。
‥俺がサンドリアに居た頃からの恋人、シャミミ。
勿論、彼女はずっとサンドリアで暮らしているんだが‥
今日、なんとか仕事の都合を付けて、ウィンダスへと遊びに来ているんだ。
‥その理由は勿論、銀河祭を俺と一緒に過ごす為に。
そう、俺の為に‥はるばるウィンダスまでやってきてくれたんだよな‥。
‥本当なら、俺がサンドリアへと出向く‥いや、戻るのが「筋」だとは思う。
実際、俺が口の院に勤め始めた後、何度かサンドリアに戻る予定はあったんだ。
彼女とは手紙で何度もやりとりをしていて‥その旨だって、ずっと文面に書いていた。
でも‥様々な問題が俺をサンドリアには行かせてくれなかった。
‥サンドリアに行くための足の問題や‥
‥休みがあったとしても、仕事が入ったり‥
今回だって、銀河祭は無理そうだけど‥次のあますず祭りこそ戻るぞ、と思っていた矢先に
シャミミから手紙で知らされたんだよ‥
(銀河祭には、ウィンダスに行きます)
‥って。
今までずっとほったらかしにしておいて‥更にはウィンダスにまで来て貰って。
シャミミには負担を掛けすぎて‥悪いとは思っている。
だからこそ、今日のお祭りは‥ちゃんとエスコートして、少しでもねぎらってやりたい‥
俺はそう考えているんだ。
その為に‥まずはそう、「おめかし」だ。
ん‥?やけに気合い入ってるな、って?‥まぁ‥そうだな、それにも理由があるんだ。
本当は、昨日の夜にウィンダス到着の飛空艇でやってきていたシャミミ。
本来なら、飛空艇乗り場で出迎えるべきなんだろうけど‥
シャミミから「ちゃんとおめかしして会いたいから、お祭りの当日に会いましょう」って言われて‥
その‥女の子の気持ちはよく分からないけど、長旅の後の「疲れた顔」は見せたくない‥って事なんだって。
そこまで言うからには、きっと今頃‥ちゃんとおめかししている事だと思う。
‥だから、俺だって‥その‥ちゃんとおめかししないと、って思ってるんだ。
でも‥俺、そういうよそ行きの服とか、あんまり持って無くて‥。
ピノみたいに、可愛い服が似合うわけでもないし‥ディルみたいに服のセンスが良い訳でも無い。
結局、いつもの外出用の服に‥「おめかし」のつもりのベレー帽を被ることにしたんだ。
‥ヘン‥じゃないよな?大丈夫‥だよな?
ベレー帽の後ろから、マゲが見えるのは‥別に良いよな?
そんな事を考えながら、覗き込んだ鏡には‥今ひとつ、不安そうな顔が見える。
こんなんで‥良いのかな。
「あ‥ヤダンは赤いベレー帽を着ていくんだ?」
鏡を覗き込む俺に‥横からそんな声が聞こえてくる。
声を掛けてきた人物‥それは勿論、同居者のピノだ。
「あぁ、その‥ヘン‥かな?」
俺は、ベレー帽の位置を調整しつつ‥ピノの方へと向いてみる。
‥真正面から見て、ヘンと思われないかな‥なんて思いつつ。
「ううん、そんな事無い!とっても似合ってるよ」
似合っているのかどうか、不安そうに聞き返す俺に‥
ピノは間髪入れずにそう答えてくる‥にっこりとした微笑みのおまけ付きで、だ。
‥若干お世辞も入っている様に聞こえるが‥それでも嬉しいものは嬉しい。
‥ピノが言ってくれてるから、尚更そう思う‥のかな。
そういえば、ピノの様子はどうなのか、と言うと‥。
‥タンスの引き出しに掛けられた服の数を見る限り、どうやら色々な服と格闘しているようだ。
あの服とこのズボンが‥とか、コーディネートを気にしてあれこれと試している様で‥
候補となる服が多いだけに、ピノも大変な様だ。
ん‥?あぁ、そうそう‥ピノも、俺と同じく「おめかし」の最中なんだ。
ピノもまた、俺と同じように「誰かさん」と一緒に銀河祭に行くみたいで。
‥「誰かさん」‥か。
俺はその人の事を考えると‥思わずため息が出てしまう。
どうして‥どうしてピノはあんな人と‥って。
‥いや、人が人を好きになるのに、理由は無い‥よな‥。
だから‥ピノがあの人と付き合う、という事に「どうして」なんて思っても仕方のない事だ。
でも、付き合うのなら‥二人が付き合うのなら‥
‥やっぱり、幸せになって欲しい、って思う。
その‥ピノの事だから‥‥だ、大事な友達の事だから‥
でも、あの人‥そう、キルクさんがピノの相手だって考えると‥‥納得がいかない。
別に、男同士という点は否定しない。
‥その‥そういう愛の形だって、あると思うし‥
でも、あの人がピノを幸せに出来るのか、って考えると‥頭に「?」マークが浮かんでくる。
あの人は‥あの人は‥‥
‥‥よそう。
‥俺は「ただの友達」なんだ‥恋人の事に口を突っ込める筈が無い‥。
それに‥今考えることじゃない‥よな。
俺は‥沈みそうになる考えを打ち切るように、頭を振ると‥
改めて鏡の中の自分の顔を覗き込んでみる‥‥‥やっぱり、なんというか‥冴えない顔‥
‥いや、少し悲しそうな顔だ。
そんな風に考える俺に、横からピノの何気ない言葉が飛んできた。
「でも‥ヤダンは良いな。‥格好いいから、どんな服でも似合いそうで‥」
ピノのその言葉に、俺は思わずドキッとする。
か‥格好いいって‥俺が‥か?
今まで、誰にも‥そう、シャミミにだって、格好いいなんて言われた事、無いのに。
「か、からかうなよ‥その‥格好いいとか‥」
格好いい、って言われた事と‥そして‥
‥何よりピノに言われた事が、俺には‥嬉しくて。
‥あ、いや、その‥ピノはほら‥何を着ても似合うし‥その‥
と、とにかく、俺は嬉しさと恥ずかしさで、つい‥顔を赤くしてしまっていた。
そんな俺に‥更に言葉を続けてくるピノ。
「ふふ、ヤダンは充分格好いいよ。ホント、ホント!
 ‥‥それはそうと、ヤダンはやっぱり手とか繋いだりするの?」
いきなり話が変わった‥と思ったら、手を繋ぐ‥か。
そりゃあ、その‥俺だって昔は‥
そう、サンドリアに居た頃は、シャミミとデートしてたし‥
‥キス、まではしたこと無かったけど‥て、手は繋いでたぞ、うんうん。
「‥あ、あぁ‥そりゃまぁ‥‥サンドリアに居た頃は、良く手を繋いでデートしたり‥」
「そうなんだぁ‥良いなぁ‥」
こういう事を言うのも、なんだか恥ずかしくて‥
俺は照れながらそう答えたんだけど‥
‥そんな俺の言葉を、ピノは笑ったりなんかしなくて、真剣な顔つきで受け止めている。
ピノの言葉や、その口調からも‥なんていうのか「羨ましい」と言っている様に聞こえて‥
‥待てよ、「良いなぁ」って言う、ということは‥逆に考えると、ピノは手を繋いでいない、という事か?
‥ピノだって、その‥繋ぐ相手が居るんだから‥
「ピノだって‥‥あ、そうか‥‥」
思わず、俺は「ピノだって手を繋げばいい」と言いそうになって‥
‥俺は慌てて口をつぐんだ。
そうだ‥ピノは‥ピノの付き合っている人は‥
「うん‥男同士だもんね‥やっぱり、周りの視線が気になっちゃって‥」
やっぱり‥そうだよな。
周囲の視線とか、そういうのがあるから‥
どうしても公衆の面前では手とか繋ぎづらい、のかな‥。
でも‥‥でも。
「‥別に‥良いと思うけどな‥‥手、繋げば良いじゃないか‥」
別に、他人事だからこう言うんじゃない。
俺なら‥俺がもし、ピノの‥その‥恋人だったとしたら‥
‥手を繋ぎたいと思うんだ‥外を歩く時だって。
周りから何を言われても良い、ピノが嫌がらないのなら、俺は‥って。
‥そう思って、言ったんだけど‥
「あ‥‥ううん、僕とキルクさんとで話し合って、決めた事だから‥」
‥その言葉‥ピノの悲しそうに言った、その言葉を前に‥
俺は‥何も言えなくなる。
話し合って決めた事、って‥ピノは手を繋ぎたがっているのに‥
それなのに「手を繋がない」というのは‥きっとキルクさんが強くそう言っているから‥
‥いや、それはあくまで俺の想像にしかすぎない‥。
くっ‥。
「そう‥‥か‥」
「‥‥」
俺はただ、「そうか」と‥それだけを言って、言葉を続けられない。
それはピノも同じ様で‥黙ったまま、手に持った服を見つめている‥。
‥どうしてだろう。
ピノは‥ピノはとても良いヤツなのに。
どうしてあんなヤツが‥‥。
どうして‥俺‥‥
‥‥
考えても‥考えても。
解決策なんて‥無いのか‥?
‥いや、それは違う。
一つ‥解決策はある‥‥あるけど‥‥それは‥‥
‥‥ダメだ。
そんな事‥今の‥今の俺には‥‥‥くっ。
「‥‥‥さ、先に行くぞ‥俺、迎えに行かなきゃいけないから‥」
結局‥俺はピノに掛けてやる言葉すら見つからなくて。
最後に、ピノにそう言い残すと‥部屋を出たんだ。
まるで‥ピノから‥問題から逃げるように‥。
俺は‥情け無い‥‥情け無いヤツなんだ‥。

なんとも言えない‥沈んだ気持ちで歩く俺。
寮を出て、外の空気を吸っても‥その気持ちは変わらない。
‥こんな気持ちじゃ‥こんな表情じゃ‥シャミミに怒られる‥かな。
いや、あきれられるのかもしれない。
そうなったらそうなったで、俺は‥‥
‥‥だめだ。
そんな事を考えて付き合うなんて、シャミミに対して失礼な事だ。
シャミミと付き合っている以上、ちゃんと誠意を持って‥付き合おう。
俺だって、シャミミの事は‥。
ふと、そんな風に考えながら歩く俺の視界に‥見知った人影が飛び込んでくる。
あれは‥そう、寮の先輩、レイトさんと‥‥‥キルクさん。
もうすぐ、居住区の主道へと繋がる‥という所で、道の脇に立ち止まっている二人を見かけた。
レイトさんはともかくとしても、キルクさんとはあまり話をしたくない‥けど‥
先輩は先輩、ちゃんと挨拶をしなきゃ、と俺は思ったんだ。
‥そうは思ったんだけど‥二人の話している様子が、真剣そのもので‥近寄りづらくて。
俺は軽く会釈をしながら、横を通り過ぎる事にした。
大事な話をしているのなら、無理に割り込まない方が良いだろう、って思ったから。
頭を下げながら横を通って‥その際に嫌でも聞こえてくる、二人の会話。
「‥気持ちも解るけど‥でも、自暴自棄になっちゃいけないよ‥」
「‥分かってる‥分かってるけどさ‥」
ちらりと見えた限りでは‥キルクさんを心配するレイトさんと‥
‥レイトさんの言葉に、俯いたままのキルクさん‥。
話の断片で、内容なんて分かる代物じゃないし‥かといって立ち止まって聞くわけにもいかない。
‥気になる内容だけど‥気にしないでおこう。
二人の声が聞こえなくなるまで歩くと、俺は軽く頭を振って‥
そして、そのまま歩き続ける。
‥シャミミが泊まる宿屋のある、水の区の方へ。

「ん‥そうだな、時々サンドリアが懐かしく感じるかな‥」
シャミミの泊まる宿屋を訪れた俺は‥
‥久しぶりに会う‥そして、綺麗な浴衣を羽織った恋人に‥一瞬心を奪われた。
そのせいでヘンに緊張してしまった俺は、恥ずかしくどもったり‥それをシャミミに笑われたりもしたけど‥
「ふふ、ヤダンったら‥全然帰ってこないんですもの」
しばらく時間が経って、色々と話をしている間に‥ようやく慣れてきたんだろう。
今はそう、サンドリアに居た頃のように、楽しく話をする事ができている。
‥勿論、手を繋いで‥だ。
「まぁ‥『口の院に入るんだ』って言った手前、入る迄は‥帰って来ないつもりで居たから」
ちなみに‥今俺達が居るのは、当初俺が予定していた「森の区」の方だ。
シャミミの話によると、彼女は水の区の飾り付けを、お昼過ぎから見回っていたらしい。
だったら、これからは森の区を回ろう‥と俺が提案して、シャミミもそれに応じて‥と。
上手い具合に事が運んだ、っていう訳だ。
「とかなんとか言って。口の院に入っても、一向に戻ってこないんだから‥」
後は‥まぁ、道中だって観光がてらにゆっくりと歩いて‥森の区へと向かった訳だ。
シャミミにしては、初めて見るウィンダスだし‥見所も多いだろう。
‥対する俺は、ウィンダスに来て1年と少し‥
少しくらいなら、観光案内は出来るからな。
「そ、それは‥その‥‥‥悪い‥」
最も、観光の合間にこうして話している内容は‥
‥全然サンドリアに戻らない俺が、一方的に悪くて‥
シャミミの言葉に謝ってばかりだったんだけど。
「ふふ‥ヤダンってば‥変わってないんだ」
でも‥でも。
そんなシャミミと、直接会って話せる事が‥
‥久しぶりで‥温かくて‥嬉しかったんだよな。
ただ‥‥ただ。
どうしてだろう‥
「でも‥シャミミはなんとなく、変わった‥かな?」
なんとなく‥そう、なんとなくだけど‥
あの頃、サンドリアでシャミミと一緒に居た頃とは‥
「そう‥‥かな?」
何かが‥何かが違う。
それは‥シャミミが変わったから‥
「ん‥上手く言えないけど‥さ」
‥それとも、俺が変わったから‥?
俺が変わったから、シャミミも違って見えて‥
「そう‥‥かもしれない‥かな」
いや‥分からないな‥うん。
みんな‥そう、俺達だけじゃなくて、みんな‥
「‥時が経てば‥人は変わるもの、かな‥」

夜と言うにはまだ早く‥夕方と言うには過ぎた頃。
空は少し、薄暗くなってきて‥でも、周囲には沢山の人達が溢れている。
皆、屋台や笹の飾り付けを見て、各々楽しんでいる‥って所だろうか。
‥普段なら、この時間になると‥人だって少なくなるのに。
何て言うんだろう‥そう、非日常、って言うのかな。
そんなこの状況が、心を弾ませる‥なんて、俺もまだ子供なのかもしれない。
「ふふ、ヤダン、楽しそうね」
周囲を見渡している俺に‥シャミミがそんな風に微笑んでくる。
俺も、楽しいのが表情に出てる‥のかな?‥いや、きっと出てるんだろう。
子供っぽく楽しむ俺を見て、にこやかに微笑むシャミミ‥か。
‥なんていうのか、子供を見て微笑む母、っていう構図に見えそうだけど‥まぁ、良いさ。
「こういう雰囲気、やっぱり好きだからさ。
 ‥それよりも、シャミミはお腹減ってないか?俺は夕食を済ませてきたから良いけど‥」
周囲を見渡すと、沢山の屋台が開かれていて‥
それぞれの屋台から、様々な美味しそうな香りが溢れている。
甘いコットンキャンディの香り‥あちらからはケバブだろうか、芳ばしい香りが‥おや、あの甘い香りは欠氷‥
歩く度に、様々な良い香りに包まれて‥夕食を食べたハズなのに、まだ食べられそうな、そんな感じすら‥
‥‥ん?‥あれは‥‥!
「私は‥うーん、そうね、やっぱり‥‥‥どうしたの、ヤダン?」
そんなシャミミの声すら、俺の耳には届かないほど‥
俺はその人物を凝視していたんだ。
屋台が立ち並ぶ道‥俺たちが歩いていく道の、少し先に見える、その人は‥
‥‥間違いない、ピノ‥だ。
ピノも‥森の区に居た‥のか。
屋台の前に立つピノは、その横に居る‥キルクさんを見つめていて‥
‥どうしよう。
このまま進めば、ピノと会う事になるだろう‥。
ピノの事は、シャミミにも予め手紙で伝えてある‥シャミミも興味がある様だし、
本来ならば‥ピノと会って互いに紹介するのが筋、というものだろう。
でも‥‥‥どうしてだろう。
そうするのが筋だ、と分かっていても‥
‥分かっていても、会わせたくない‥ピノをシャミミに会わせたくない‥
そう思う自分が居る‥。
どうしてそんな事を思うのか、それは‥‥それは‥‥
‥ああ、どうやら‥俺が考え込んでいる間に、ピノがこちらに気づいた様だ。
俺の方を見て、驚いた様な‥そんな顔をしている。
‥こうなっては仕方無い、会わない訳にはいかないだろう。
「‥シャミミ、その‥ほら、手紙でも言っていた、同居者の「ピノ」が居るんだ。良かったら‥」
「あら、噂の人ね。ふふ、私も会ってみたいわ‥どこ、どこ?」
俺の言葉が終わらない内に、シャミミは嬉しそうに話し始めた。
‥本音を言えば‥‥いや、それは止めよう。
それよりも、そうだ‥シャミミを喜ばせるためにも、ちゃんとピノを紹介しよう。
そう考えた俺は、繋いだままのシャミミの手を、軽く引くようにして‥ピノの居る方へと向かった。

「ピノ‥‥森の区に居たのか」
俺は、ピノの側まで近寄ると‥軽く手を上げて声を掛ける。
‥本当は、ピノは水の区に行くと思ってたんだ。
ピノは文学派だし、情緒溢れる笹の飾り付けとかが、好きだと思ったから‥
‥いや、違うか‥ピノも俺達の様に、ディルやフリスト達と会いたくないと思ったから‥
だから森の区に来たんだろう。
「あ‥‥うん、ヤダン達もこっちに居たんだね」
そう言ったピノは、微笑みながらそう答えているけど‥
‥どことなく寂しそうに見えたのは‥気のせいだろうか。
いや、きっと‥‥。
‥それよりも、ピノは‥普段はあまり着ない服‥きっと「とっておき」の服を着ていて‥
うん、とっても似合っていて、可愛いな‥って、いやいや。
まったく、何を考えているんだ、俺は‥隣には彼女が居るっていうのに‥
ともかく、俺とピノが話をしている、その最中に‥突然一人の人物が割り込んできた。
「ピノ、お待たせ‥ここの‥‥ん‥‥あぁ、ヤダンじゃないか」
そう言って、俺とピノの間に入ってきたのは‥キルクさんだ。
いつもの様に、ピノに対しては親しげに‥俺に対しては「どうでもいい」とでも言いたげな調子で言ってくる‥。
そうだ、元はといえばこのキルクさんが‥‥いや。
今は楽しいお祭りの最中だ‥嫌な事を考えるのは止めよう‥。
まずはキルクさんに挨拶をして‥それから‥
そうだ、二人にシャミミの事を紹介しないといけないな。
「あ‥キルクさん、どうも。
 ‥そうだった、紹介しないとな‥こっちは俺の彼女のシャミミ。今日はサンドリアから遊びに来てるんだ」
最初にキルクさんに向けて挨拶をした後、今度は二人に対してシャミミを紹介する。
一応、シャミミを紹介する言葉は‥予め考えていた言葉だったんだけど‥上手くしゃべることが出来た‥と思う。
‥あ‥「彼女の」って言う所、少しどもってしまったかな‥?
その‥「彼女」だなんて恥ずかしくて、普段あんまり使わない言葉だし‥。
‥俺、顔が赤くなってないかな‥?
「‥あ、その‥シャミミです。よろしくおねがいします」
一方、シャミミの方はどうか、って言うと‥緊張している俺とは反対に、すらりと言ってみせる。
普段と変わりない様子で、微笑みを浮かべながら‥丁寧にお辞儀をしていたんだから‥俺とは大違いだ。
‥おっと、そうだった‥シャミミに二人を紹介しないといけないよな。
まずは‥
「で、こっちが‥前から言っていた、同室のピノだ」
「ピノです。‥マピノ・アピノと言います、よろしくね」
俺がピノを紹介すると、ピノはそれに答えるように‥にっこりと微笑んで答える。
その微笑んだ表情を見ると‥うん、さっきまで感じていた「寂しそう」な様子はもう無かった。
‥さっきのは俺の勘違い‥だったのかな?
「まぁ、あなたがピノさん。ふふ、ヤダンから色々とお話は聞いてます‥よろしくね」
シャミミは嬉しそうにそう言って‥ふふ、よっぽどピノと会うのを楽しみにしていたんだろう。
ま、まぁ‥なんていうのか、どうしてもピノとは接することが多いから‥
だから手紙の話題にもよく上がっていた訳だし。
‥それに、シャミミの反応だって良かったしな‥こうして直接会えて、色々と思うところがあるんだろう。
と、ここまでは良いとして‥問題はキルクさん、か。
さて‥キルクさんの事、シャミミに何と紹介したものだろう‥。
流石に「ピノの恋人の」と言うのは問題がありそうだし‥‥俺だって言うのは嫌だ。
やっぱり無難に「寮の先輩の」って言うべき‥だろうか。
俺はそう考えて、キルクさんに向き直った‥その時。
「僕はキルク・ラトクリク。ピノの友達だ。まぁ、よろしく」
俺の言葉よりも先に、キルクさんがそう口を開いたんだ。
‥なんていうのか‥「やっぱり」とでも言いたくなる様な言い方だ‥。
シャミミに対して、「ピノ以外だから」とでも言わんばかりの‥適当な言い方。
投げやりな言葉と‥全然「よろしく」とは思っていない様子と。
本当にこの人は‥‥いや、ここで腹を立てても仕方無いだろう。
それよりも‥と、俺が違う話を振ろうか、と思ったその時。
「さ‥それじゃあピノ、次行こうぜ。ヤダン達も、またな」
キルクさんは続けてそう言うと‥ピノを引っ張るように、この場を去ったんだ。
‥ピノは引っ張られながらも、頭を下げて行ったけど‥
‥ここまで来て、俺は逆に‥キルクさんを腹立たしくは思わなくなった。
腹立たしくじゃなくて‥そう、もしかしたら‥何かあったんじゃないか、って。
いくらキルクさんでも、何かおかしい‥もしかしたら、何か大きな‥
と、その時‥脳裏に浮かんだのは‥そう、寮を出た後、水の区に向かう途中で聞いたあの話だ。
キルクさんとレイトさんの‥真剣そうな話。
(‥気持ちも解るけど‥でも、自暴自棄になっちゃいけないよ‥)
(‥分かってる‥分かってるけどさ‥)
やっぱり、キルクさんに何か‥何かが‥
「なんだったのかしら、あのキルク、って人‥」
俺が考え事をしている間に、シャミミは不思議そうな顔をしながら、そんな言葉を漏らしていて‥
途端に、俺は現実に引き戻される。
‥そうだ、キルクさんの話は‥今は良い。
それよりもシャミミと、お祭りを回ることが優先だ。
「ん‥まぁ、色々あるんだよ、あの人も。それよりもさ、シャミミも‥‥ん?」
シャミミもお腹減ってたんじゃないのか‥と、言葉を続けようとした俺だったが‥
ふと、視界の中に一人の女の子が飛び込んできて‥俺は言葉を止めた。
屋台の前で、足を止めて‥じっと屋台を見つめている女の子。
その子は‥そう、一言で言うなら「とても綺麗な子」だった。
綺麗な亜麻色の髪を、後頭部でポニーテールの様に括っていて‥
服だって、お祭りに合う綺麗な浴衣を纏っている。
でも‥でも、俺がその子に目を惹かれたのは、何も可愛いからだけじゃない。
そうじゃなくて‥
「どうしたの?‥知り合いの人?」
‥俺がその子を眺めているのを見て、シャミミが怪訝そうな声を上げる。
そりゃそうだろう、恋人の居る前で‥他の女の子に見とれているなんて。
でも‥違う、違うんだ‥。
「いや‥知り合いじゃない‥知り合いじゃないんだけど‥」
そうだ‥普段から親しくしている女の子なんてそうは居ないし‥
俺の勤める口の院にだって、あんな子は居ない‥ハズだ。
でも、それでも‥
「おかしいな‥どこかで会ったような‥顔なんだけど」
考えに考える‥けど、答えは出て来ない。
昔に会った?サンドリアとかで?
‥いや、そうじゃない。
それじゃあいつだ?ウィンダスに来てから?星芽寮に入ってから?
‥分からない‥分からないけど‥
その時‥何かの拍子にだろうか‥その子は突然俺の方を見て、そして‥
‥視線が合った途端、驚いた顔をして‥去って行ったんだ。
‥‥それも、慌てて逃げるかのように、小走りで。
「あら‥行っちゃったね‥」
俺達とは逆方向に、走り去っていったその子を見ながら言う、シャミミの言葉を聞きつつも‥
‥俺はなんとも言えない思いを感じていた。
あの子は‥あの子が逃げたのは‥
‥じっと見ていた俺の事が怖かったから?
それとも‥
‥いや、そんな推測をするよりも‥今は。
「ん‥まぁ、いいさ。それよりも、シャミミは何か食べるだろ?」
俺はそう言うと、シャミミを近くの屋台へと‥引っ張っていったんだ。
‥胸の中に、引っかかるような思いを残したまま。


夜も段々と更け‥銀河際も、終わりの時間が迫る頃。
俺達は早々に、水の区の宿屋に向けて歩いていた。
勿論、シャミミを宿屋に送っていくため‥だ。
幾ら平和なウィンダスだと言っても、女の子一人で夜道を帰す訳にはいかないからな。
「ふふ‥送ってくれてありがとう、今日は楽しかったわ」
‥あれから‥俺達は色々な場所を回った。
色とりどりの屋台‥綺麗に飾り付けられた笹のオブジェ‥
どれもこれも綺麗で、目移りするような光景‥
「いや‥俺だって楽しかったよ」
それをシャミミと一緒に回って‥本当に楽しかった。
共に騒いで‥共に笑って‥時折、サンドリアの銀河祭を思い出しては懐かしんで。
‥楽しかったんだ‥。
「ふふ、久しぶりにヤダンの子供みたいな所、見ちゃった」
‥楽しかったのは俺だけか‥?
俺が子供っぽくて、楽しんでた‥‥いやいや、それは違う。
シャミミだって、楽しんでた‥と思う。
‥それよりも。
「俺ってそんなに子供かな‥?‥っと、それより‥明日、帰る‥んだよな」
そうだ‥事前にシャミミから聞いていたことだけど‥
‥シャミミは明日‥しかも朝早くに、飛空艇で帰ってしまう。
一方の俺は仕事で‥見送りにすら行くことができない。
「‥うん‥。‥今度は、いつ‥会えるかな‥?」
別れの時が近づくのが分かって‥俺の心は徐々に冷えていく。
また‥手紙だけでやりとりをする日々が始まるんだ‥って。
そう考えたら‥俺は‥
「俺も‥一旦サンドリアに戻りたいけど‥でも‥」
そうだ‥俺だって本当はサンドリアに戻りたい。
シャミミもそうだけど、一人残した母も居る‥。
‥最も、母には「立派になるまで帰ってくるな!」って言われてるけど‥。
「ううん、お仕事が大変なのは分かってるから‥気にしないで」
そう優しく言ってくれるシャミミの‥言葉が胸に痛い。
時間がないから。
仕事があるから。
俺はそう言って「帰れない」って言うけど‥本当は‥
‥本当は無理をすれば、帰れない距離じゃないのは‥分かってるんだ。
「‥‥」
分かってるから‥何も言えなくなる俺‥。
分かっていても‥それでも、俺がサンドリアに帰らないのは‥
それは‥‥
「ね、もしよかったら‥その‥」
「‥え?」
考え続ける俺に、シャミミが小さな声で呟く。
考え事をしていたせいか、俺はその声を聞き逃してしまって‥
思わず「え?」なんて素っ頓狂な声を上げてしまった。
「あ‥ううん、なんでもない。そ、それじゃ‥ね、ヤダン」
そんな俺に‥慌てて「なんでもない」と言うシャミミ。
そのままシャミミは小走りに駆け出して‥
‥見ると、宿屋がすぐ近くに見えていた。
‥‥別れの時‥か。
「ん‥あ、あぁ‥‥おやすみ」
「‥‥おやすみ」
軽く手を振って‥「おやすみ」の挨拶をする俺に。
シャミミは‥少し寂しそうに「おやすみ」を言って‥。
バタン。
‥扉の閉まる音が、静かな夜に響くように‥俺の耳に聞こえてきた。
扉の閉まる音‥俺と‥シャミミの間の‥
‥‥何を言ってるんだ、俺は‥。
そんな考えを振り払う様に‥俺は踵を返す。
ウィンダス居住区‥寮へと向かって。

色々と考え事をしながら、俺は寮へと歩いていた。
シャミミと久しぶりに会えて‥そして色々な話をして‥楽しかった事。
‥楽しいと思う反面、どこか‥シャミミと居る事に対して、冷めた様な感覚を持つ自分が居た。
以前サンドリアに居た頃、シャミミと一緒に過ごした時とは「何かが違う」と感じていた俺。
その違う「何か」というのは‥‥「胸のドキドキ感」って言ったら良いんだろうか。
以前は‥シャミミと一緒に過ごしていると、ずっと胸がドキドキ・ワクワクするような感覚があった。
それなのに‥今日シャミミと過ごした俺は‥そんな感覚が一切しなくて。
‥そう、ただ「楽しい」と思えただけだった。
それも‥「とっても楽しい」じゃない、「楽しい」だ‥。
‥どうして俺がそんな風に感じるのか‥それは自分でも分かってる。
それは、俺の心の中に‥‥アイツが居るから。
‥ピノ‥。
俺の心の中には、ピノが‥ピノへの想いが‥生まれつつあるからだ。
‥生まれつつ、って言う言い方は‥少し違うな。
ピノへの想いが「確たるものになりつつある」って言った方が良いだろう。
ピノへの想いは‥いつの頃からか分からないくらい‥ずっと前からあったんだ。
でも、俺だって‥その‥「男相手にこんな風に想うのは」って思ったから、抑えてた‥‥つもりだった。
つもりだったけど‥本当は違ったんだな。
ピノへの想いは‥一緒の時を過ごす間に、少しずつ‥少しずつ成長していったんだ。
‥一緒に食事をして‥
‥一緒に風呂に入り‥
‥一緒にえっちな事をして‥
‥一緒にベッドで寝て‥
少しずつ‥想いは育っていった‥そして‥‥‥‥気付いたんだ。
ピノが‥キルクさんと付き合う、って話を聞いたときに‥
‥俺は‥ピノの事が好きなんだ、って‥。
でも‥もう遅い。
ピノは‥キルクさんと恋人同士になったんだ‥俺の出る幕じゃ‥無いんだ‥。
もう、俺の出る幕じゃ‥。
‥でも‥でも‥
お陰で、決心できる‥かな。
ピノの事は‥友達として考えて‥シャミミの事を、ちゃんと‥
‥考えられるのかな‥俺‥‥。
‥いや、考えなきゃ。
シャミミの為にも‥‥そして‥俺の為にも。

そんな考えをしている間に‥俺は寮へとたどり着いて。
静かな玄関を通り、自分の部屋へと戻り始める。
今日はたっぷり歩いて、汗もかいたし‥一旦部屋に戻ったら、もう一度風呂にでも行こうか。
風呂の閉まる、23時迄はまだまだ時間があるし、ピノも‥‥いや。
一人で行こう‥ああ、そうだ‥一人で。
これからは‥風呂だって一人で行った方が良いだろう‥
幾ら友達同士とは言っても、その‥
‥ピノの綺麗な肌を見ていると、心が揺らぐ時がある‥
だからこそ、風呂には俺一人で‥‥ん?
そんな事を考えながら、部屋の前まで戻ってきた俺だったけど‥
俺はその部屋の様子に違和感を覚えた。
扉に鍵は掛かっていなかった‥まぁ、時間も時間だから、ピノが戻ってきてるんだろう、と思ったんだけど‥
‥扉を開けてみると、今度は部屋の中が暗い。
流石に寝る時間にしては早すぎる‥そう考えた俺に、一つの結末が思い浮かぶ。
‥どうやら、ピノは鍵を閉め忘れたまま、銀河祭へ出かけて‥
‥そして今も外にいる‥‥もしかしたらキルクさんと‥
‥‥そこまで考えて、嫉妬心がわき上がってきそうな‥そんな気配を感じた俺は、慌てて首を振る。
何を考えてるんだ‥さっき二人の事を認めたハズだろう‥俺は諦めたんじゃなかったのか。
もう一度‥自分の心にそう言い聞かせて‥深呼吸をしてみせた。
その時‥
「‥‥っく‥‥‥っく‥‥」
声‥いや、嗚咽に似た音が聞こえてきて‥俺は一瞬辺りを見回した。
明かりを付けていない、暗い部屋の中には‥誰も居ない‥
‥様に見えたが、良く見ると、ベッドが‥ピノのベッドがこんもりと盛り上がっている。
中に誰か‥‥いや、ピノが居る‥?
「ピノ‥か?‥どうしたんだ、何かあったのか?」
俺はそう言いながら、ベッドに近づいて‥そして、掛け布団をめくると‥そこには。
‥泣き顔の‥涙の溢れた‥目を真っ赤にした‥そんな‥
ピノが‥居たんだ‥。
「‥や‥だん‥?‥‥ヤダン‥ヤダン‥ッ!」
俺の事に気がついたピノは、そう言って‥飛びつくように俺の胸に抱きついてきて‥
そして‥
「う‥う‥‥わああーーーん‥」
俺の胸で‥わんわんと声を上げて泣き始めたんだ。
‥普段のピノからは、全然想像できないような‥そんな状況。
延々と泣き続けるピノに、俺は‥
‥‥掛けてやる言葉が見つからない。
こんな時、何て言ってやればいいのか‥俺‥‥分からなくて‥。
一体‥一体ピノは、どうしたって言うんだ‥。
‥‥もしかして‥もしかして、キルクさんに‥!
い、いや‥例えそうであっても‥ただの「友達」の俺に、何が言えるって言うんだ‥。
こうして泣いている、ピノの‥その身体に。
手を回して‥抱きしめてやる資格すら、俺には無いんだ‥。
‥‥いや‥
‥違う‥そうだ、違う。
友達でも‥例えただの友達でも‥
こうして泣き続けているピノを、放ってはおけない‥
そうだ‥友達として‥友達として、ピノを‥なぐさめてやりたい、って思うから‥
だから‥
‥‥‥だから。
俺はそっと‥両手を伸ばすと‥ピノの身体を抱きしめた。
‥抱きしめることで、余計に温かく感じる‥ピノの身体。
そして感じる‥ピノの香り。
そんな感覚に包まれて‥俺は分かったんだ。
そう、抱きしめた途端に‥分かったんだ。
俺は‥やっぱりピノの事が好きで‥諦められないくらい好きで‥
でも‥‥ダメだ、って事は分かってる‥分かってるつもりだけど‥‥
それでも‥‥俺は‥‥‥
‥‥ごめん。
ごめん‥シャミミ‥もう少し‥もう少しだけ‥
‥考えさせて欲しい‥。
俺の中で‥ピノと‥シャミミと‥
もう少しだけ‥考えさせて欲しい‥。
中途半端で‥ごめん‥。

邪で‥我が儘で‥どうしようもない‥そんな俺の「願い」。
そんな「願い」を抱いているなんて、ピノは知らずに‥俺の胸で泣き続ける。
嗚咽に揺れ動く、ピノの身体を‥俺は片手で抱きしめながら。
‥もう片方の手で、そっと‥ピノの頭を撫で続けていた。


  
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