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星芽寮交響曲

16話『祭りの後』

 ←その90『三○○』 →その91『三○○ その2』
7月8日 朝
 

「ん‥‥‥朝、か‥」
瞼を閉じていても感じる事が出来る、朝の光。
そのまぶしさは、否応にも俺を目覚めさせる。
窓の方から顔を背け、ゆっくりと瞼を開き‥そして視界に飛び込んでくる光景から、俺は状況を把握していく。
見慣れた壁‥天井‥そして調度品‥
ここは‥そう、星芽寮の部屋‥俺とピノの部屋だ。
‥昨夜はどうやら、カーテンを閉めずに眠ってしまったようで‥
窓の位置からして、直接太陽の光が見える訳じゃ無いが、それでもまぶしく感じたんだろう。
俺はゆっくりとベッドから立ち上がると、窓の外を見てみる‥時計台の時間は、いつもの起床時間よりもまだ早い。
それでも、昨夜は早めに寝たせいだろうか‥さほどの眠気は感じなかった。
その場でぐっと伸びをして、そして‥今更ながらに服装の違和感に気付く。
‥あぁ、昨夜は寝間着に着替えずに、そのまま寝たんだっけ。
確か昨夜は‥‥と、そこまで考え始めて、ようやくピノの事を思い出した。
‥そうだ‥ピノ‥昨夜は、ずっと泣いていて‥
‥いつしか、泣き疲れたんだろう‥静かになった、と思ったら‥眠っていたんだ。
丁度二人共ベッドの上に居た、という事もあって、俺はそのままピノをベッドに横にさせて‥そして‥
‥ピノの寝顔を見ている間に、俺も寝てしまったんだ。
当初思っていた、風呂に行こうとか‥そんな事はもうどうでも良かった。
ただ‥ピノのそばに居てやりたくて‥。
もし、ピノが目を覚ましたら、優しい声を掛けてやろう‥そう思って、俺はずっと隣に居たんだ。
そして、今‥ピノはまだ、すぅすぅ‥と静かな寝息を立て、ぐっすりと眠っている。
‥そうだ、いつもの起床時間まで、まだ時間がある‥もう少し寝かせておいてやろう。
その間に俺は‥
「ん‥‥むにゃ‥」
俺が考え事をしている間に、ピノの方からそんな声が聞こえてくる‥
もしかすると、そろそろピノが目を覚ますのかもしれない。
なんとなく、気になった俺は‥そっとピノの顔を覗き込む。
すると、想像した通り‥俺が見ている前で、ゆっくりと瞼を開けるピノ。
‥起きた後しばらくは、現状確認をしていたんだろうか‥周囲を見渡すように、視線を行き渡らせて‥
そして、ゆっくりとピノは上半身を引き起こした。
「‥‥ん‥ヤダン‥おはよう‥‥ふわぁ~」
ピノは俺を見たまま、大きなあくびと一緒に、おはようの挨拶をしてきた。
‥その様子は、いつものピノと変わらない‥そんな風にも見える。
いや、むしろ‥いつもよりも元気の様な‥
‥っと、それよりも‥そうだ、俺だってちゃんと「おはよう」の挨拶をしないとな。
「ああ、おはよう。まだ時間は早いんだから、もう少し寝ていてもいいぞ」
しかし、俺の言葉にピノは答えずに‥上半身を起こしはじめる。
‥どうやらもう起きるつもりらしい。
「‥なんだか、ぐっすり寝た気がする‥。‥昨日、あれだけ泣いたから‥かな?」
俺の方を見て‥恥ずかしそうにはにかむピノ。
そんなピノの様子は、とても可愛らしくて‥お、俺まで顔を赤くしてしまいそうで‥
でも、そんな気分はすぐに、どこかへと消え去ってしまった。
‥そうだ、ピノが続けて口にした‥その言葉で。
「‥ごめんね、ヤダン‥その、恥ずかしいところ見せちゃって‥」
いつの間にか‥恥ずかしそうな表情から‥
悲しそうな‥そんな表情へと変わっていくピノ。
その表情は、きっと昨夜の事‥いや、昨日の事を思いだしての事なんだろう。
‥何があったかは分からない、分からないけど‥それでも。
昨日、キルクさんとの間に「何かがあった」‥って事を如実に思わせるような、そんな‥感覚。
でも‥勿論、正確なところなんて分かるはずが無くて‥そうなると言葉さえ掛けづらい。
結局は‥そうなんだ‥
「‥気にするなよ。‥誰でも、泣きたい時はあるだろうし‥」
こういった、簡単な慰めの言葉しか、掛けてやる事ができないんだ‥。
俺は‥ピノを慰めるためにも、なるべく優しい声で‥ピノにそう言うけれど。
‥どこまでピノに伝わっているだろう‥どこまでピノの心に届いているだろう‥
そんな風に考えてしまうんだ‥。
だって‥だって、こんなにも悲しそうな、ピノの表情を見たら‥俺は‥。
どうにかして、その悲しみから救ってやりたい‥そういう風に思うけれど‥
でも‥‥
「うん‥ありがとう‥」
俺の慰めの言葉に対し、そう答えるピノの表情には、やはり‥
微笑みの中に‥悲しみが映っていたんだ‥。
そんなピノに‥俺は掛けてやる言葉が見つからない‥。
ピノもまた‥何も話そうとはしない‥。
静かに‥ただ静かに‥朝の時間が過ぎる中。
俺達はどちらともなく、普段の生活を始める。
顔を洗って‥歯を磨いて‥服を着替えて‥
いつもよりも早い時間だから、というのはあるだろう‥
洗面室や、廊下でも、誰とも出会わず‥静かな寮内を移動する。
そして‥そんな静かな寮内に負けない程の、俺達の会話‥その静かさ。
何か‥何か話をした方が良いのだろうか‥そんな風にも思った俺だが‥
‥言葉が‥話が見つからない。
さしあたっての話題と言えば、昨日の銀河祭の話だが‥この状況だ、そんな事は出来ないだろう。
俺の‥シャミミとの話など、聞き方によってはのろけ話にも聞こえてしまう‥
ピノにしても、キルクさんと何があったのかは分からないが、良く無い事があったのは明白だ‥
だったら、そんな話なんてしない方が良いに決まってる‥。
だったら、何を‥何を話せばいい。
普段は何も考えなくとも、ピノとは会話ができていたのに‥
どうして今になって、それができないんだ。
‥いや、今だからこそ‥できないのかもしれない。
この状況‥ピノが悲しんでいる、この状況だから‥。
‥そうだ‥いっそのこと、ピノに話を聞いてみればどうだろう?
ピノが悲しんでいる、その理由を‥聞いてみるんだ。
まずは昨日、キルクさんと何があったのか‥と聞いて、それから‥‥
‥‥いや。
きっと辛い事があったんだ‥それを今、蒸し返す様に聞くのは‥きっとピノにとっては辛い事で‥
そっとしておいた方が良い‥その方が良いに決まってる‥。
そういう風に考えたら、俺は‥‥もう‥
「‥ヤダン、どうしたの?‥食事に行かない‥?」
ふと‥ピノの声を聞いて、俺は考え事から我に返る。
‥考え事をしながら、ぼーっとしていたのだろう‥。
きちんと服を着替えたピノとは対照的に、俺の着替えの手は止まったままで‥何をしてたんだか。
「あ、あぁ、行く‥さ、先に食堂に行っておいてくれよ」
俺は慌ててそう言うと、改めて服を着はじめる。
‥本当に‥何をやってるんだ、俺は‥。


今日は7月8日‥つまり、銀河祭の翌日。
みんなきっと、昨夜は遊び疲れているだろうから‥今朝は疲れた顔で食堂へやってくるハズ。
ふふ、みんな若い人ばかりだもんね‥‥いや、そういう私だって、みんなと変わらない年なんだけど。
とにかく‥みんなが疲れている、こんな時こそ美味しい朝食で‥元気を出して貰わなきゃ、ね?
‥最も、この朝食メニュー‥ほとんどが料理長のフルキキさんが考案し、作ったもので‥
私なんてたった一品を作っただけなんだ‥。
それというのも‥私の料理の腕がまだまだ、だから。
はぁ‥私ももっと、お料理の腕を磨かなくちゃ。
‥あ、私はコナナ‥ここ、星芽寮で働いているの。
主だった仕事は調理補助‥なんだけど、売店の店番とか‥お掃除だってしてるんだから。
‥本当は、料理の腕がまだまだだから‥そういったお仕事の方が多いんだけどね。
ともかく‥今朝も私は配膳係として、みんなが食堂に来るのを待っていたんだけど‥
‥流石に今朝は、人が少ないみたい。
‥ううん、いつもならもう一番目の人がやってくる位の時間なのに、まだ誰も来ないんだもの。
私が想像した様に、みんな昨夜は遅かった‥のかな?
本当は私も銀河祭に行きたかったんだけど‥流石にお仕事があるから、行けなかったのよね。
フルキキさんは「仕事はやっておくから、行ってきなさい」って言ってくれたけど‥
ううん、ダメダメ‥フルキキさん一人じゃ大変だもの。
こういう時こそ、若い私が‥って、いけない、いくらフルキキさんが私の二倍以上の歳だって‥
あ、今朝の一人目が来たみたい。
よし、今朝も元気に‥明るい挨拶でお迎えしよう、うん!
「おはよう!‥あら、ピノ‥今日は珍しく早いのね」
食堂に入ってきた、一人目の人‥それはピノだったの。
思ってもみなかった‥って訳じゃないけど‥
普段はゆっくり目で、早すぎず、遅すぎず‥そんな印象のピノなんだもの。
‥今日はこんな早くに、一体どうしたのかしら?
「おはよう、コナナ。‥うん、今日は早くに目が覚めちゃって‥」
言葉だけを聞くと、普段通りのピノ‥の様に聞こえるけれど。
でも、声を聴いたり、あるいは素振りを見ていたら分かるの‥
どことなく、ピノに‥いつもの元気が無いみたいだって。
その‥今だって少しうつむきがちだし、それに‥
‥言葉に覇気がない、っていうのか‥声が小さい、っていうのか‥
本当にどうしたのかしら‥?
昨夜の銀河祭で、たっぷりと遊んで疲れたから?‥‥いや、それだったらゆっくりと寝てる筈よね。
まだ、院の仕事が始まる時間までは、余裕があるし。
そうじゃないって事は‥‥うーん‥。
‥私に分かる訳が無い‥かな‥。
とにかく、少しでも元気を出して貰わなきゃ‥その為の朝食だものね。
「どうしたの?なんだか元気が無いようだけど‥はい、お味噌汁飲んで‥少しは元気を出してね」
私はそう言いながら、トレイに今日の朝ご飯セットを乗せていく。
まずは、お茶碗に御飯を盛って‥そして元気の出るお味噌汁!
‥最も、これはフルキキさんの自信作なんだけど‥。
それから、新鮮なキュスの塩焼き‥これもフルキキさん‥
でもでも、最後の‥ふふ、パムタム海苔とミスラントマトのミニサラダ!‥これは私の自信作なんだから。
‥でも、そんな事よりも‥そう、元気の無いピノの方が心配で‥
私が朝食をのせたトレイを渡しても、ピノはじっと料理を見つめたまま。
‥本当に大丈夫‥なのかしら。
でも、そんな‥私の心配は杞憂だったのかもしれない。
ピノは、ゆっくりと顔を上げて‥私の方を見ながら言ってくれたの。
「うん‥ありがとう。‥あ、僕、このサラダ好きなんだ‥嬉しいな」
その微笑みは‥うん、少しだけ元気が出たみたいな、そんな風にも見えて。
後は‥フルキキさんの美味しい料理を食べて、もっと元気になって欲しいな。
「たっぷり食べて、元気を出してね‥あ、時間はあるんだから、ゆっくりと噛んで食べてね」
席に向かおうとするピノに‥私はその言葉を贈って。
ピノは微笑んだまま、こくりと頷いてくれる。
うん‥大丈夫‥だよね、きっと。
‥おっと、次の人も来たみたい‥準備をしないと。
‥でも‥ふふふ。
私の作ったサラダを、好きって言ってくれたの‥嬉しかったな。
そんな‥温かな思いを胸にして、私はまた声を出すんだ。
「おはよう!」


‥おかしい。
明らかに‥今日のピノの様子はおかしい。
ボクは食堂で、軽い昼食を食べながら‥なんとなくそんな事を考えていた。
普段なら、目の院に出勤するのはゆっくり目のピノが‥今日は朝早くから仕事に来ている。
‥それは別に良い事だと思う。
でも‥仕事をしている様を見ると、どうにも仕事が手に付いていないのが分かる。
普段のピノなら、問題無くこなしている仕事が‥出来ていない。
それどころか、ボクが声を掛けても上の空‥なんて事が度々あったくらいだ。
一体どうしたのか、何があったのか‥それを聞きたいところだけど、仕事中ではそうもいかない。
昼食を同じタイミングで取れたなら、その時にでも聞く所だったけど‥残念ながら今日はシフトが違う。
‥いや、例え話を聞いたとしても‥短い昼食の間に、解決できる問題なのかは分からないし‥
いや、それでも‥話を聞くのと聞かないのとでは、大違い‥という事だってある。
‥何も出来ない‥何も出来ない「今」という時間が‥恨めしい。
ボクはそんな事を考えつつ、味気ない昼食を進めていく。
昨日のお祭りで、色々と珍しいものを食べたせい、だろうか‥どうにもお腹が張っていて。
今朝みたいな、朝ご飯を食べるのも大変だった頃に比べたら、幾分マシになってきているが‥
そんな「お腹の状況」と「ピノの状況」二つを合わせれば‥自然と昼食はとても味気ないものになるってものだ。
昼食はさておき‥昨日のお祭りで、ピノは何かあったんだろうか。
おそらくは‥ショックな事‥仕事も手に付かなくなるくらいの、そんな事が‥
だとしたら、相手はキルクさん‥だろう。
ここ最近、休みの日はいつも、ピノはキルクさんと出かけていた。
‥直接見てはいないが、昨日の銀河祭だって勿論そうだろう。
銀河祭が近づくにつれ、楽しそうにしていたピノ。
きっと、キルクさんと一緒に遊びに行くことを想像しての事で‥
そんな様子を見て‥ボクは声が掛けられなかったものだ。
‥本当は‥本当は、ボクだってピノと‥
「よっ、どうしたんだ、ディル?」
考え込んでるボクの‥その隣の席に。
見知った声の人が座り込む‥‥ジックさんだ。
どうやらジックさんは今から昼食の様で‥ふふ、そういえば。
昨日の銀河祭は、水の区で‥ジックさんと弟さんに会ったんだ。
二人共、とっても仲が良さそうで、まるで‥‥いやいや。
おっと、それよりも‥ちゃんと挨拶しておかないと。
「あ、ジックさん、お疲れ様です‥いや、ボクは別になんでもないんですわ」
「そうか?何か、深刻そうな‥‥ははぁ~ん」
‥本当は「色々とある」んだけど‥流石にそれを言う訳にもいかない。
ボクは「なんでもない」と、手の平を左右に振りつつ答えたけれど‥
しかし、ジックさんは目を細めてボクを見ると、話を続ける‥‥「怪しいぞ」とでも言う風に。
「な‥な‥なんですのん?」
ジックさんの考えが、なんとも読めないボクは‥慌ててそう聞き返したけど‥
‥返ってきたのはびっくりするような内容だった。
「わかったぞ‥さては、恋の悩みだな!?きっと彼‥いや、彼女への想いが上手く伝えられなくて‥」
「え‥ええっ!?ちゃ、ちゃいますよ!‥その‥友達が、元気無いんで、その‥」
こ‥こ‥恋の悩みって‥しかも、想いが上手く伝えられない、って‥
そ、そんな‥じ、ジックさんは何を言っているんだか‥
そんなこと‥そう、そんな事じゃないのに‥全く‥もう‥。
ボクは、慌ててそう言ったんだけど、ジックさんは‥
‥「ああ、そっちの事か」とでも言う様に‥急に神妙な顔つきに変わったんだ。
「ん‥そうか、ピノか‥」
ジックさんは、ボクの言葉にそう言うと、食事もせずに目を閉じ、腕を組んでみせる。
その表情は、真剣そのもので‥
ジックさんもやっぱり、ピノのことを心配しているんだろう‥。
「‥ええ、せやから‥ボクはどないかして、ピノを‥元気づけてやりたい、って思たんです‥」
「そう‥か‥‥うーん‥」
勿論、ピノの事を心配してるのは、ボクも同じで‥
‥でも、そう思う反面‥ピノになんて声を掛けたら良いのか‥って思いがある。
‥もしかしたら、そっとしておいた方が良いんじゃないか、とも‥思ったりするし。
答えの出て来ない、そんな考え事をしているボクに‥
ジックさんは目を開くと、ゆっくり‥でも、力強い声で、言い始めたんだ。
「ディル、いいか?ピノは‥普段は真面目で、仕事熱心な奴だ‥少しおっちょこちょいな所はあるけど、そこは愛嬌だ。
 それが、あそこまで変わるとなると‥恐らく相当ショックな事があったんだと思う。だから‥」
ジックさんは、真剣な表情で‥話をしている。
その内容にしても‥うん、ピノの性格を‥そして普段の様子をよく見てる‥と思う。
そして‥結論もやっぱり、ボクと同じだ。
ピノに、何かショックな事があって、そして‥って。
でも‥問題はその先だ。
そう‥だとしたら、これからどうしたらいいのか‥
ボクは、ジックさんの次の言葉を待つ‥いや、待ちきれずに促した。
「‥‥だから‥?」
「まずは、ショックの原因‥悩みや不安‥そういったものを聞いてやるのが良いだろう。何、聞くだけでも充分に効果はある。
 それから‥こういう時は、同期の親しい奴‥つまりディル、お前が力になってやれよ。
 俺は普段から、ちょっと軽いから‥俺が言っても、説得力が無い‥だろうからな」
真剣に考えながら‥ボクに助言をくれるジックさんは‥
いつもの、明るくて気さくなジックさんとは‥少し違っていて。
まるで‥そう、頼りになるお兄さんの様に感じてしまう。
そういえば、ジックさんには弟さんが居るんだ‥お兄さんみたいに思えても、おかしい事はない。
‥それはともかくとしても‥ボクが力になってやる‥か。
でも、本当にボクは‥ピノの‥力になってあげられるんだろうか‥。
‥いや、違う‥ボクが‥ボクが力になってあげなきゃダメなんだ。
ピノの‥力に。
‥でも‥
「‥‥はい。でも‥」
‥ボクの心の中に、少し‥迷いがあったんだと思う。
そう‥本当にピノに話を聞くべきなのか、聞いても良いのか、という‥迷い。
さっき考えた「そっとしておいた方が」という考えの事だ。
でも、そんな迷いですら、ジックさんは「分かってる」とでも言うかのように‥
ボクの言葉を遮って、改めて話を続ける。
「‥そっとしておいた方が良い、なんて思うかもしれないが‥まずは聞いてやるんだ。
 聞いて‥それでも「言いたくない」っていうなら、それで良いじゃないか」
その‥ジックさんの言葉に、ボクは思わず目から鱗が落ちるような、そんな気持ちになった。
そうだ‥確かに、そうだ。
まずはこっちが聞く姿勢をとらなきゃ、ピノだって‥話そうとはしないだろう。
話したい、ってピノが思っていても‥なかなか自分からは話し辛い内容なのかもしれない。
‥逆に、ピノがどうしても話したく無い、って言うのなら‥無理に追求しなくてもいいだろう。
とにかく‥すべきことは決まった‥気がする。
「‥‥はい!」
ボクは思い切りよく、ジックさんに答えて‥
ジックさんもまた、いつもの柔らかな微笑みを浮かべる。
‥問題は解決の方向へ向かったな、と言わんばかりに。
「よし、そうと決まれば‥まずはメシだ、メシ。ディルはもう食べ終わったのか?」
そういえば‥ジックさんだけじゃなくて、ボクも昼食に手がつかないでいた。
‥ジックさんとの話に夢中になっていた事と‥もとから食欲がなかったのとが重なったからだろう。
ともあれ、ボクは時間を見ながら昼食を‥って、時間!?
「え‥ああっ、もうこんな時間!?す、すんません、ボク、先に戻ります!」
そうだ‥ボクに割り振られた昼食の時間は、もうとっくに過ぎていて。
いそいで職場へと戻らなきゃいけない‥そんな時間になっていたんだ。
とりあえず‥昼食のトレイを手に、ボクは席を立った。
‥ちゃんとジックさんに挨拶を済ませてから。
「‥ふふ、元気だな。‥しかし‥‥ディル、お前も素直に‥な」
‥そう呟いた、ジックさんの言葉は‥ボクの耳には届いてはいなかったのだけど。


夕方‥真っ赤な夕陽が、沈み掛けている‥夕方。
ぼくは夕陽色に染まる街を‥ウィンダスの街を散歩している。
そろそろお仕事が終わる時間‥みんな、家に帰る時間だ。
ぼくも本当なら、もう少しで仕事の終わる時間だけど‥今日は別だ。
‥昨日あった銀河祭‥そこでも、ぼくが勤めるお店は大盛況で。
ミスラの手も借りたい程に忙しかったんだけど‥翌日の今日は、片付けだとかの方が忙しいらしくって。
だから、ぼくのようなパティシエは、今日はお休みなんだって。
‥もっとも、ぼくはまだ「見習い」なんだけどね。
ふぅ、お休みなのは嬉しいけど、でも‥
‥一般的なお仕事の人とは、お休みのサイクルが合わなくて、一緒に遊ぶことも出来ない‥
それはやっぱり寂しいところ、かな。
いやいや、ぼくはそれを承知でこの世界‥そう、パティシエの世界に入ったんだ。
今更文句なんて言うつもりはないよ‥うん。
その事よりも、昨日は‥ふふ、ヤダンも、フリストも来てくれて‥
特にフリストは、色々と食べていってくれたっけ。
‥でも、フリストってば、お腹は大丈夫だったのかな?
確かに、銀河祭限定のケーキとか、色々あったんだけど‥あれだけ沢山食べたら‥ね?
ヤダンも心配そうに見ていたし‥うーん。
でも、ピノが来てくれなかったのは残念だな‥ピノにも「あのスィーツ」を、食べて貰いたかったのに。
ピノならきっと、気に入ってくれ‥‥ん?あれは‥
そう、遠目に見えるあの‥夕陽に照らされ、ほんのり朱色に染まった綺麗な金髪と‥鼻にちょこんと乗せた様な眼鏡。
少しうつむきがちに歩いている、あの姿は‥
「ピノ!‥奇遇だね、こんな所で」
‥自分で言っておいて何だけど、奇遇って訳でもないかな‥?
ここはピノにしてみれば、目の院から寮へと戻る道‥だろうし。
でもでも、会えたこと自体は奇遇、だと思うしね。
「あ‥‥ユラン、びっくりした。‥今日はお仕事はお休みなの?」
ぼくの掛けた声に‥ゆっくりと顔を上げ、更にしばらくの間があって、そう答えるピノ。
‥どうしたんだろう、ピノ‥‥なんだか様子がおかしいけど‥
今日のお仕事が忙しくて、疲れてる‥とかなのかな?
あぁ、どちらかというと昨日の銀河祭のせいで‥なのかもしれない。
「あ‥あぁ、うん、今日はね。それよりも‥どうしたの?なんだか元気が無いけど‥」
「ん‥‥ううん、なんでもないよ‥うん」
ぼくの言葉に、ピノは‥慌てた様に両手を振って、微笑んでいる。
まるで「そんなことないよ、元気だよ」と、言っている様にも見えるけど‥でも‥
どちらかと言えば、「元気無い」様にも見えて‥。
‥ぼくの気のせい‥なのかな?
「‥‥そう‥ならいいけど‥」
ぼくの続ける言葉に、ピノは変わらず‥微笑みを浮かべている。
‥やっぱりぼくの気のせいだったんだろうか‥
もしかしたら‥そう、ピノも昨日の銀河祭で、疲れていただけ‥なのかもしれない。
疲れを引きずっているから、だから‥
きっと‥うん、そうだよ‥ね。
「‥ね、ピノ‥また‥お店に食べにおいでよ。疲れたときには‥甘いものが効くからさ」
ピノが「そろそろ行かなくちゃ」っていう‥そんな素振りを見せて。
ぼくだって、長い間引き留めるわけにはいかないから‥だから‥
去り際にそう言ったんだ。
何気ない一言だったんだけど‥でも‥
「‥‥‥うん‥ありがとう‥」
そう答えるピノの‥その瞳に。
‥うっすらと涙の雫が浮かんでいたのを‥
‥その時のぼくは、気付かないでいた‥。


昼食後‥慌てて職場に戻ったボク。
午後からの仕事は、想像以上にあわただしかった。
色々な要因が重なったのが、原因だろう‥それも、細かな事が色々と、だ。
その中の一つに、本調子でないピノも含まれているけど‥そこは想定の上だ。
ともあれ、そんなこんなで午後中は忙しくて、ピノと話をする暇も無かった‥
寮への帰り道にでも‥と、当初は思っていたんだけど‥
間の悪いことに、終業時間直前になって、ボクの元に仕事が転がり込んできて‥
その仕事を終える頃には、もうピノは居なくて‥帰り道云々、という事も出来なかった。。
寮に帰ってからも‥色々あったんだ。
相談を持ちかけられたりとか(こんな時に限って‥)、
妨害工作(いつものラスキの事だ‥まったく)を受けたりだとか‥。
結局、夕食時である今の今まで‥ピノと話す機会が無かったんだ。
でも、今ようやく‥そう、食堂でピノと会う事ができた。
これでピノに話を‥ん?
「ピノ‥それにヤダンも。‥おつかれさん、今日は早いんやな」
食堂‥ピノの姿を見つけたのはいいけれど、その対面の席に座るヤダンを見つけて。
そういえば‥いつもこの時間、ピノのそばにはヤダンが居る。
すっかり忘れていたな‥。
「あ、ディル‥‥おつかれさま」
「おつかれさま、ディル」
言葉を返してくれる二人‥だが、やはりピノからの声は‥元気が無いように聞こえる‥。
よく見ると、食事をしている様子も‥いつもとは違っていて‥どことなく箸の進むのが遅い。
やっぱりまだ、気分は沈んだまま‥なんだろうか。
夕食までに元気になっていれば、とも思ったんだが‥そう上手くいくものでもない、のかな。
やっぱりピノと話をしないといけない‥‥そうは思う。
でも‥そうだ、この場ではヤダンが居る‥。
ん‥いや、そうだ‥ヤダンもピノとは親しい間柄だ‥勿論ボクとも。
だからヤダンがそばに居ても、ピノは‥‥いや。
状況によっては、ピノ一人に対して‥二人で話をするような、そんな事にもなりかねない。
それが、ピノを責める事に繋がったら‥。
‥やっぱり、ピノに話を聞くのは、また後にした方が良いのかも知れない‥。
それに‥
「よッ!三人とも、おつかれさマ!」
フリストが、いつも以上に元気な様子でやってきたから‥
‥そんな風に話の出来る雰囲気じゃない、とボクは思ったんだ。
「おつかれさま、フリスト」
「うん‥‥おつかれさま」
「おつかれさん。フリストは元気やな‥昨日あんだけ甘いモン食べといて」
そうだ‥昨日のフリストは凄かったんだ。
銀河祭のお祭り、ということもあって‥色々な屋台が出ていて。
甘いものの苦手なボクは、ケバブだとかそういったものを食べていたんだけど‥
一緒に見て回ったフリストは、欠氷だとかそういう甘いものばかりを食べていて。
更には‥ユランのお店でも限定ケーキとかまで食べていたくらいなんだから‥
いや、あれだけよく腹に入るもんだよ‥お腹も壊してないようだし。
「うン、あのケーキは美味かったヨ。ディルも食べられたら良かったのにネ」
ケーキの味がよほど美味かったんだろう‥フリストは目を細めて、嬉しそうな表情をしている。
もしかしたらケーキの味を思い出しているのかもしれないな。
「ん、ケーキとか‥お店の屋台にあったのか?」
と、ケーキの話にのってきたのは‥ヤダンだ。
そういえば、ヤダンも甘いものが大好きだからな。
‥欲を言えば、同じく甘いものが好きなピノが話にのってくれれば‥とは思うんだが‥。
「あぁ、いや、屋台ちゅうか‥ほら、ユランの勤めてるお店の、出店があったんや」
「そうそウ!そこで、銀河祭限定のケーキがあったんだヨ!」
ボクの説明の後を、フリストが嬉しそうに繋げて‥
‥でも、ピノの方を見てみると‥
‥やっぱり沈んだまま、か‥。
「そうか‥それは食べてみたかったな‥。俺も水の区の方へ行けば良かったかな」
少しくやしそうな表情で、そう言うヤダン。
そういえば、ヤダンは‥誰と行動していたんだろうか。
話の様子だと、森の区に行っていたみたいだが‥
「うんうン。ふふ、マロンさんとヒーラも一緒だったし、楽しかったヨ」
そういえば‥そうだった。
ボクとフリストがユランの居る出店に居る時‥丁度マロンさんとヒーラも一緒に来ていて。
向こうは気付かなかった様だけど、二人で仲よさそうにケーキを食べていたな。
ヒーラは普段、ボクと一緒に居る時は‥マロンさんの事はあまり話さないし‥
それに、寮では一緒に居るところとか、あんまり見ないけど‥
「ふーん、そうか‥二人も案外仲が良いんだな」
うん、ヤダンの言う通り、本当はきっと仲が良いんだろう‥うんうん。
まぁ、「仲良きことは‥」ってヤツだな。
そんな風に、皆で‥いや、正確にはピノを除いた三人で、話に花を咲かせていた‥その時。
「‥ごめん、僕、ちょっと身体がだるくって‥今日は早めに休ませて貰うね」
ピノが急に、そう言って席を立ったんだ。
見ると、食事は半分くらい残ったままなのに‥‥もしかして。
‥もしかして、ボク達のしていた話すら、ピノには‥堪えたんだろうか。
だとしたら‥だとしたら。
早く話を‥
「あ‥ピノ、おい‥‥‥。‥ピノは、体調が悪いのかも知れないな‥俺もピノに付き添うよ」
‥ヤダンも、ピノの後を追う様に席を立って‥
残されたのはボクとフリストの二人だけ。
‥ピノとは話をしたかったが、あの様子だと‥部屋まで押しかけていくのは流石に気が引ける、な。
しょうがない、話は明日にでもするとして‥‥ん?
ふと‥何気なく視線に入った、フリストの様子を見ると‥
さっきまでの明るい様子はどこへやら‥食事の手を止めたまま、俯いていて‥どうしたんだろう?
「フリスト、どないしたんや?‥何かあったんか?」
ボクの言葉に、フリストは‥軽く顔を上げて、そして「ふぅ」とため息をついたんだ。
さっきまであんなに楽しそうに話していたのに、急にこんな‥‥
一体どうしたんだ‥?
「あの‥サ。オイラ、ピノに悪い事言ったかナ?その‥ピノがなんだか沈んで見えテ‥」
なるほど‥フリストは、ピノが落ち込んでいるのを自分のせいだと思って、それで‥
ボクは、なるべく微笑みながら‥フリストに話し始めたんだ。
そう、なるべく優しく‥
「大丈夫や、フリスト。フリストのせいやない‥ピノが元気あらへんのは、ホンマの事やけど‥」
ボクの言った「フリストのせいじゃない」という所で、フリストは一旦顔を上げて‥
そして、「元気が無いのは本当の事」という所で、再び俯きがちになってしまった。
‥フリストも、やぱりピノの事が心配‥なのだろう。
「そう‥カ‥」
寂しそうに言った「そうか」という言葉は‥
‥いつもの元気なフリストからは、考えられないほどに‥沈んで聞こえて。
フリストだって、ピノの事を心配してるんだろう‥いや、それは当たり前か。
誰だって、友達が元気を無くしていたら‥心配するに決まってる。
「せや‥‥ボクも、ピノには元気になって欲しいんやけどな‥」
「‥オイラも‥そう思うヨ‥‥」
そんな風に‥会話が沈みがちだったから‥だろうか。
なんとなく‥美味しかった筈の食事も、美味しくないように感じてしまって‥
食堂に残された、ボク達二人の箸は‥すっかり進まなくなってしまっていた。


「ピノ‥その‥元気無いのは‥」
ピノの後を追って、部屋に戻ってきた俺。
部屋の中で、寝間着に着替えているピノを見て‥俺はそっと声を掛ける。
ピノは着替える手を休めず、顔を上げて‥俺の方を見る。
「あ‥‥えっと‥今日はなんだか疲れちゃったから‥だから‥」
疲れたから、早く寝る‥か。
そう言われたら、俺はただ‥
「‥‥そうか‥」
としか返すことが出来ない。
例えそれが嘘だと分かっていても‥嘘だという証拠は無い‥し‥。
それに‥
‥そう、朝に決めたんだ‥そっとしておいてやる、って‥。
「うん‥先に寝るね」
ピノは‥寝間着に着替え終わったのだろう、そう言うと、早々にベッドへと入ってしまった。
ふと、窓から時計台を見る‥‥まだまだ宵の口、そんな時間だ。
寝るって言っても、まだまだ早いのに‥。
そりゃあ、今朝は朝早かったけど、それでも‥。
「あ、灯りは付けてくれていいから‥僕が‥」
きっと、ピノなりに気を遣ってくれているのだろう‥
俺が何か活動しやすいように、灯りは付けてくれていても‥と。
でも‥
「‥いや、いいよ。‥俺も寝る‥」
俺はピノの言葉を遮ると、そう言って‥寝間着に着替え始める。
‥今は‥そう、今は‥
ピノのそばに居てやりたいから‥。
「‥‥そう‥」
最後にピノが言った、その言葉は‥
どことなく安堵したような‥そして、
どことなく嬉しそうに聞こえたんだ。

寝間着に着替えた俺は、ベッドに入って‥
‥いつもの様に、ピノと手を繋いだ。
ピノの手は‥いつもの様に温かかったけど‥
‥いつもと違って‥震えているようにも感じて‥。
いや、気のせいだろう‥俺が勝手に思って‥
‥‥違う‥ピノは‥本当に震えてるんだ。
「ピノ‥震えてる‥のか‥?」
俺が掛けた言葉に‥ピノの、俺の手を握る力が‥一瞬だけ強くなる。
‥自分でも分かっているんだろう‥。
「‥ん‥‥なんでもないから‥」
力無く、そう答えるピノ‥。
そんな‥そんな筈は無いのに‥
こんなに、手が震えているのに‥。
だから‥
「なんでもないこと、無いだろう‥ピノ‥」
だから、俺は‥‥なるべく優しい言葉で、そう言ったんだけど‥
ピノの手の震えは止まらない‥
‥ピノは‥ピノは‥。
「なんでも‥‥ないから‥」
それでも尚、俺の言葉に「なんでもない」を繰り返すピノ‥。
結局‥それ以上は、なにも‥そう、なにも話は進まなくて‥。
じっと、目を瞑って‥いや、もう寝ているかもしれないピノを見たら‥
俺も同じ様に、目を瞑るしかなかった‥。
そうしたら‥今朝、起きるのが早かったせいだろうか‥
あるいは、仕事の疲れがあったのかもしれない‥
時間も早いというのに、いつのまにか‥
‥俺は眠りの闇へと落ちていたんだ‥。


  
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