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その95『カザムの夜』

 ←20話『あますず祭り・第一夜』 →21話『あますず祭り・第二夜』
「ここがカザム‥か」
エルシモ島に存在する港町、カザム。
初めてその地に降り立った少年‥いや、少年に見える種族・タルタル族の男は、ぽつりとそう呟いた。
誰か同行者が居る訳でも無く、一人旅。
飛空艇内の乗客も少なく、話し相手なども居る筈が無い。
‥そもそも本人が「お喋り」を望んでいない‥という事もあるのだろうが‥それ以前に。
例え乗客が居たとしても、彼は話しかけられる事など無かった‥かもしれない。
まるで(他種族で言う所の)子供の様に愛くるしい顔に、紺色の髪を肩の辺りで結んでいる‥ここまでは良いだろう。
だが、その表情は無表情に近いものであり‥にこりとも笑いそうに無い雰囲気を醸し出している。
更には、身につけているものが、どうしても声を掛けづらい‥そんな雰囲気を漂わせていた。
おそらくはシルバーメイル一式であろう、その装いは‥相応に使い込まれているようで‥
これまでに戦ってきたモンスター達の返り血が、幾重にも重り、汚れとなって染みついているのだ。
可愛いながらに無粋な表情‥更にはその装いから、一般人からは勿論、冒険者からも声を掛けづらい‥
そんな雰囲気が溢れていた。
「スレイ・ナスレイさん‥ウィンダス所属の冒険者ですね。カザムへようこそ」
飛空艇の出入国ゲート‥その係員の、形ばかりの歓迎の言葉を受け取ると、そのタルタル族の男‥
スレイは軽く会釈のみをした後、町中へと入っていった。
 

ミンダルシア大陸の南東にある、エルシモ島。
そのエルシモ島に存在する港街‥カザム。
数百年前に、更に南方よりミスラ達が移り住み、村を開いたと言われている。
そのせいだろうか、規模が大きくなり、街と言われる様になった今でも‥
その民族構成は大多数をミスラ族が締め、他の種族はほんのわずかにしか過ぎない。
また、ミスラ独自の文化の表れなのだろう、この地にもミスラの男性は見かけられず、女性ばかりが目に映る。
そんなカザムの街で‥
手近な宿屋に荷物を投げ入れたスレイは、まずは街を把握しようと思ったのだろう。
カザムの町中を歩き始めたのだが‥どちらを見てもミスラばかりのこの状況に、少し辟易としはじめていた。
‥無論、表情を出さない‥いや、出せないと言った方がいいのだろうか‥
彼にとっては、表だって顔に出すことはしなかったが。
競売所‥出張モーグリ‥雑貨屋‥ある程度の施設を見て回り、把握したところで‥
スレイはふと、ある人影とすれ違う。
‥タルタル族の男性。
しかも、その身なりからして、冒険者ではない‥おそらくこの地に在住しているであろう者だ。
その男性が知っている人物だった訳では無い
その男性に、特に目を惹く何かがあった訳では無い。
‥過去の事を、思いだした訳でも無い‥
だが‥だが、何故か心惹かれる‥そんな感覚がスレイを襲ったのだ。
すれ違って尚、振り向き‥歩いて行く後ろ姿のその男性の、背中を視線で追うスレイ。
‥そして、そんなスレイの視線に気付いた、とでも言わんばかりに‥
その男性もまた、振り向き‥スレイの方を伺う。
しかし、視線が交わった瞬間‥スレイは慌てて顔を進行方向へと戻すと、再び歩き出した。
何も無かったかのように、スレイは再び周囲を伺いながら‥歩き続ける。
‥歩き出して尚、胸に残る‥その男性の姿。
スレイは、その姿を思い出す度に‥胸をかすかに震わせていた。

スレイがこの街に来たのは、新たなる狩り場を求めてのことだった。
全ては自分の、冒険者としての腕を磨くため。
‥過去にあった様な事を‥二度と起こさないようにするため。
その為に‥スレイは強くなろうと誓ったのだ。
だが、今日はカザムにやってきた初日‥飛空艇に長時間乗っていた事の疲れもある。
本格的に狩りに出るのは明日にして、今日はカザム近辺に居るモンスターの把握と、その強さを調べるのみとした。
そして実際に、モンスターと戦ってみた所‥手応えも程よいもので‥スレイも少なからず気分が良くなったのだった。
その調査活動も、早々に切り上げた後、スレイは夕食を食べに出たのだが‥
美味い夕食を終え、宿へと帰る道すがら、もう一つの「カザムの顔」を見る事になる。
街角に‥あるいは町中に立ち、主に冒険者を相手に「身体」を売る者の姿だ。
念のために断っておくが、身体を売るという行為は、カザムだけの事ではない。
特にジュノや、アトルガン皇国といった大都市で良く見かけられることだ。
そしてどの国でも共通の、身体を売る者達の合図‥そして雰囲気を彼女たちは持っている。
それはここカザムでも同じで、ジュノなどに比べて少ないものの、決して居ない訳では無かった。
‥冒険者ともなれば、常に命の危険がつきまとうが‥反面、得る金銭も大きくなる。
一般人からしてみれば、年収に近い金額も、冒険者となれば一晩で稼ぐことも可能であった。
そんな金銭を冒険者に求め、夜な夜な街に立つ者達。
(‥どこにでも居る。‥こういうのは)
スレイにとっても見慣れた者‥表情も変えず、ただ心の中でそう呟くだけだった。
スレイとしても、興味が無いわけではないが‥自分から買い求める程に欲しい、とまでは思わない程度だった。
ましてや、同種族のタルタル族ならばまだしも、他種族が相手では‥という思いもあったのだろう。
更には、もう一つだけ理由があるのだが‥それはまた違う機会に語るとしよう。
宿に戻るため、そんな「身体を売る者達」の中を通り抜けるスレイだったが‥
少しだけ幸いな事があった。
スレイのその、近寄りがたい雰囲気がある事で、そんな者達からも声を掛けられづらかったことだ。
言い寄ってくる者が無ければ、逐一断る必要も無いのだから。

(ん‥‥あれは‥)
道中に「身体を売る者達」が並ぶ中。
その一角に、「雰囲気にそぐわない者」が居るのをスレイは目にした。
いや、その言い方は少しおかしいのかもしれない。
その者とて、「身体を売る者」であるのは、その姿や雰囲気から見て取れるからだ。
妖艶で美麗なミスラ達が立ち並ぶ中‥外れた所に一人立っている、タルタル族の男性。
‥タルタル族は、その容姿からして‥他種族の子供程度にしか見えない。
比較的早くに身体の成長が止まり、成人となっても50イルム程度の背丈しかないのだ。
だが、その容姿のせいで「特殊な趣味」を持つ者には好まれる。
ましてや、そういう意味では「男女を問わない」趣味を持つ者も多々居る。
‥その者が男性であれ、女性であれ。
だからこそ、こうして身体を売るタルタル族は‥男女を問わずに居る。
スレイとて、過去にそういった者達を何人も見てきた‥が、実際に買った事は無かった。
先程は「タルタル族でなければ」と言ったが‥あくまでそれはミスラ族と比較しての話だ。
実際にタルタル族が居たとしても、お金を払ってまで‥と、その時迄は思っていたのだ。
‥そう、「その時迄は」。
スレイが見かけたという「雰囲気にそぐわない者」‥つまりタルタル族の男性は‥
ここカザムに来て、街を歩いていたときに‥すれ違った男。
そう、自分がどうしても気になった男‥だ。
その時の胸の震えを‥スレイは思い出したのだろうか。
‥本来なら、幾ら気になった男でも‥いや、男だからこそ、ここで声を掛けるなど‥と思うのかもしれない。
だが‥彼は‥そう、スレイの好みは「男」だったから。
過去のふとした事から、女よりも‥男の方に興味を持つようになり‥
今では、その目に「欲」として映るのは‥男の姿ばかりだった。
だから‥そう、だからこそ‥スレイはまっすぐと「その男」を目指して歩いて行ったのだ。
‥すぐに、その男もスレイの方に気がついたのだろう。
スレイを意識に捉え、営業スマイルを浮かべながら‥スレイを待ち構えた。
しかし、どことなく‥その営業スマイルには、普段とは違ったものが混じっていたのだ。
実は、その男の‥まだまだ少ない経験の中では‥
客層としては他種族の男が大半、女がたまに、といった程度で‥
同種族であるタルタル族、しかも男が客となることなど、今までは無かったのだ。
だからこそ‥どこか「楽しみ」の様な思いがあったのかもしれない。
スレイがまっすぐと自分の方にやってきて‥そして、目の前で足を止めたとき。
その男はスレイを「客」と認識して‥営業活動を始めた。
「ね、格好いいお兄さん。良ければ今夜、オイラと一緒の時間なんて如何かな?
 一晩たったの五千ギルで、オイラの身体はお兄さんのものだよ」
その男の言葉に‥スレイは思わず息をのむ。
スレイとて性行為自体の経験はある‥が、こういった「金で買う」という事は初めてだった。
だからこそ‥相場というものもわからない。
だが、五千ギルという金額に不服はない‥これまでの冒険の中で、彼が稼ぎ、貯めてきたお金に比べれば‥
些細なもの、とまではいかないまでも、さほど痛い出費、とまではいかなかったのだから。
スレイは考えるフリをしながら、その男の全身を見渡してみる。
茶色の髪を、ツンツンと逆立てた、タルタル族にはよくある「オニオンヘアー」。
営業スマイルを保っている‥という事を充分に考慮しても、それでも優しそうで「可愛い」顔立ち。
おそらくだが「自分と同程度の年齢だろう」と想像できる、その身体。
服、ズボン共に派手派手しくはないが、存在感は充分にアピールした色合いのコーディネート。
スレイの心を捉えた、その姿に‥いや、最早それだけではない。
その姿を見ているだけでも、どうしてだろうか‥スレイの胸は高鳴るのだ。
‥そんな胸の鼓動に、彼も後押しされたのだろう‥
スレイが決断するのは早かった。
「‥わかった。買おう」
至って冷静に‥至って淡々とした‥しかし、少しだけ期待をはらんだ言葉が、スレイの口から紡がれた。


「はい、まいどあり。これでオイラの身体は明日の朝まで‥兄さんのものだ。さぁ、何でも言ってくれよ」
スレイの泊まる宿屋‥その部屋にて。
部屋に備え付けのテーブルを挟み、座り込んでいる二人。
路上で交わした契約の通り、五千ギルが男に支払われ‥男は営業スマイル以上のスマイルでそう答えた。
そんな男の一挙手一投足を見ながらも‥スレイは胸の鼓動が早くなるのを感じる。
‥だが、スレイはその鼓動の言うがままには動かない。
ただ‥いつもの様に静かに、ゆったりと話を始める。
「では‥まず名前を教えて貰おう。私はスレイ。スレイ・ナスレイだ」
「スレイさん、だね‥よろしく。オイラはメリク・ラカメリク。好きなように呼んでくれたらいいよ」
メリクの言葉に、スレイは軽く頷きながら‥何かを考える素振りを見せる。
無論‥会話もそのまま止まり、二人の間には沈黙の時間が流れていく。
その沈黙の時間を、どうにも気まずく思ってしまうメリク。
今までであれば、宿に到着するなり「時間が惜しい」と、行為を始めるものや‥
あるいは行為の為にムードを作ってみたりと、いずれにせよ「行為」に結びつく事をする者が多かった。
そのどれにもあてはまらない、スレイの行動に‥メリクは戸惑いを覚えずにはいられなかったのだ。
本来タルタル族といえば、陽気で明るい者が多い‥そう、メリクのように。
そんなタルタル族のイメージからも、スレイが遠かったから‥というのもあったのかもしれない。
しばらく待てども、スレイからの言葉はなく‥とうとうメリクはしびれを切らしたかのように話しかけた。
「えーっと‥スレイさん、もし良ければお風呂にでも入ろうか?それとも入らない方が良いかな?」
これまでメリクが相手をした客には、「まずは風呂に‥それも一緒に」という要望が多かった。
無論、行為の前の下準備として‥という事だが、中にはそれを意図的に拒む者も居る。
そんな意味合いも込めて、メリクは風呂の提案を軽く出してみたのだが‥
「‥‥‥‥ふむ‥そうだな。それではシャワーを浴びて‥背中を流して貰おうか」
メリクの誘いに乗るように、スレイはそう言って立ち上がった。
ようやく事態が動く‥と感じたメリクは、ほっと安堵の息を漏らしたのだった。

一緒にシャワーを浴びるとなれば、当然二人共裸になる。
狭い浴室内で裸になれば‥当然相応の事をする事になる。
これまでも、浴室内で手を出してくる客は多々居た‥メリクとてそれが嫌だった訳では無い。
ともすれば、今回のスレイの様に‥なかなか行為に乗り気で無い人が相手ならば、
逆に手を出してくれることで、良い起爆剤となるかもしれない‥そう思っていたのだが‥
‥その目論見は外れることとなる。
浴室内では、スレイは普通にシャワーを浴び‥メリクは言われるままにスレイの背中を流していた。
しかも、スレイがメリクの身体に触れる事も無く。
逆にメリクがスレイの‥例えばペニスに触れようものなら「そこは必要以上に触らなくて良い」と言われる始末だった。
そんなスレイの反応に、しかしメリクはめげなかった。
お金を貰っている‥という事に対して、律儀にも責任の様なものを感じていたのかもしれない。
スレイの身体を洗いつつも、場の雰囲気を盛り上げようと‥様々な話をしはじめたのだ。
カザムの話や世界の情勢‥そしてなにより、気分を高めるための卑猥な話‥
だが、いずれの話にもスレイは無言‥あるいは「そうか」といった無関心な一言を返すのみだった。
もしかすると、自分はからかわれているのではないか‥メリクは段々と、そう思い始めていたが‥
その考えはすぐに改める事になる。
メリクがスレイの身体を洗い終えた後、「次は私が洗おう」という言葉と共に、今度はスレイがメリクの身体を洗い始めて‥
メリクはスレイに身を委ねる。
そして‥されるがままに、身体を洗ってくれる感触‥スレイが優しく、心をこめて身体を洗ってくれるのを感じて‥
メリクは「からかわれているのではなさそうだ」と思う様になり‥
代わりに、メリクはスレイの事を「もしかしたら、話すのが不器用なだけではないか」と思う様になったのだ。
最も‥それもまた、決して的を射ているとは言い切れないのだが。

身体を洗い終えた二人は、備え付けの浴衣を着て‥ベッドへと向かう。
これまでずっと「重い空気」を感じていたメリクだったが、これで本分を果たす事が出来る‥と安堵していた。
‥が、それもまた‥叶わぬ事となる。
「メリク、それでは‥‥私の身体をマッサージしてくれないか」
ベッドに腰掛けたスレイから言われた、思いも寄らぬ言葉。
そう、彼の身体をマッサージしてくれ‥というのだ。
メリクとしても、事前に「マッサージするよ」などとは言った事もなく‥そもそもマッサージなど習ったこともない。
勿論、しろと言われればするのだが‥と、メリクは困った様子で答えはじめる。
「‥はぁ、マッサージ‥かい?オイラは別に、どこかで習ってる訳でも無いし‥自己流だけど、いいのかい?」
メリクの言葉に、スレイはベッドにうつ伏せに寝そべると‥目を閉じて静かに言い放つ。
‥とても穏やかな声で。
「ああ、構わない。形式などどうでも良い‥全身を揉んでくれれば良い」
メリクは「そこまで言うのなら」と、覚悟を決めてベッドに上がった。
‥とはいえ、マッサージなどしたことも‥更にはされたこともないメリクだ。
どこから手をつければいいのか、どうやって手を付ければいいのかもわからない。
考えた末に出した答えは‥隅から揉んでいってやれ、だった。
まずは足‥しかも足先から、手に力を込めて揉み始める。
どこをどう揉めば良いのかも分からないが、スレイに「痛い」と言われれば力を弱めればいい‥
そんな風に考えながらメリクは身体を揉み始める。
先程迄とは違って、黙々と‥だ。
マッサージをしながら、例え世間話などをしたとしても‥浴室内の時の様にあしらわれるに決まっている。
それならば‥と思ったメリクは、スレイの身体を揉みながらも‥色々と考える事にしたのだ。
‥先程も浴室で触れた身体だが‥こうして揉んでみると、その身体についた筋肉に驚く。
見た目はそうでもないのだが、身体は硬く‥ともすれば「凝っている」様にも感じる。
何も言わないスレイだが、先程までの身なりと‥この筋肉からして「前衛」をしているのが分かる。
タルタルと言えば、魔力の高さから後衛を求められるものだ‥とは聞いた事があるが、中にはそういう者も居るのだろう。
おそらくは今日も‥多くの戦闘をこなし、身体中の筋肉が張り詰めているから‥
だからこうしてマッサージを頼んだのかもしれない。
いや、あるいは‥そう、マッサージの合間に、ペニス等に手が触れ、そう言う気分になっていくことを楽しみにしている‥
‥という「可能性」は考えにくいが、それも試す価値はあるかもしれない。
そんな風に考えながらも、メリクはゆっくりと身体をもみほぐしていく。
足‥足首‥ふくらはぎ‥膝‥太もも‥そして‥
まずはお尻を‥とばかりに、寝転んで尚山のようにそびえる、スレイのお尻を揉み始めるメリクだったが‥
「‥ああ、余計な所は揉まないで良い」
と、唐突にスレイに言われてしまい‥先程考えた可能性を頭から追いやるのだった。

「‥‥ふぅ、一応全身揉み終わったよ、スレイさん」
スレイの全身‥背面も、前面も‥足先から手指の先まで揉み終えて。
想像以上の疲労感を抱きながら、メリクはスレイにそう告げた。
「‥あぁ、ありがとう。お陰で身体がラクになった」
今度ばかりはスレイも無口ではなく‥本当に感謝の念を込めているのが伺える、そんな言葉が返ってくる。
メリクもその言葉を受けて、思わず顔をほころばせていた。
そんなスレイの横に‥メリクは腰を下ろして、スレイの顔を覗き込む。
‥マッサージを終えても‥まだまだ夜はこれから。
となれば、今から「行為」を開始するのだろうか‥と思ったメリクは、そっとスレイに尋ねてみた。
「スレイさん。これから‥‥するかい?オイラはいつでも良いんだよ」
マッサージに疲れたからか‥あるいは「行為」を想像したからか‥はたまた、誘うように声を掛けたからか。
頬をほんのりと赤く染めたメリクは、スレイの返答を待とうと、スレイの表情を覗き込んでいたのだが‥
‥スレイはそっと目を閉じると、小さな声で呟くのだった。
「いや‥私はもう寝るから、隣で寝てくれるか?」
「ね、寝るって‥オイラは明日の朝、帰っちまうんだぜ?それでも‥」
スレイの言葉に、メリクは驚き‥そして慌てて言葉を返す。
いや、正確に言えば‥「うっすらと感じていた事が当たり、驚いた」のだ。
決して、スレイが「もう寝る」と言った事に驚いたのではない。
メリクにも、もしかしたらスレイが「行為をしない」客ではないか‥と、薄々感じていた。
その想像が、まさしく思った通りになってしまったから‥だから。
「‥ああ、それでも構わない」
メリクの言葉にも、スレイは目を閉じたまま答える。
‥意志は堅い、と言う様な、力強い‥静かな声で。
「‥その‥えっちな事、しなくても‥お金は返さないぜ?」
そんなスレイに対して、メリクは「念のために」とばかりに再び尋ねる。
自分としては、お金に対してそこまでの執着はなかった‥いや、無論お金は大事だと思うのだが、
それ以前に「折角払って貰ったのに、何もしないなんて」という気持ちが強かったのだろう。
だが‥
「ああ、構わないさ」
そっと目を開き、メリクの瞳をじっと見つめながら‥そう答えるスレイに。
メリクはただ‥
「‥分かった。それじゃあ‥隣で寝るよ」
そう言って灯りを消すと、ベッドに入る他‥無かったのである。

翌朝、メリクは言葉通り、早々にスレイの元を立ち去る。
初めて、お金を貰いながらも‥行為をしないという夜を過ごした事に‥
どことなく、やりきれない思いを胸に含んで。

そしてその夜の事‥メリクの元に、再びスレイが現れたのだ。
昨日同様、同じ場所で「冒険者」を待つメリク。
今度はメリクが誘いの口上を述べる前に、スレイがメリクを誘った。
‥「一晩、君を買いたい」と。
昨日同様五千ギルを契約金として、二人は契約を結び‥
再びメリクはスレイの泊まる宿へと向かう。
昨日同様に‥いや、二人共多少は気がほぐれたのだろう、少しだけ‥昨日よりはマシ、という程度に会話を交わし‥
しかし昨日と全く同じ経路を辿る。
共にシャワーを浴び、マッサージをさせ、そして寝る‥。
今回もまた、スレイはメリクに「行為」を望まなかった。

そして‥三度。
メリクの頭にあった、ある種の「予感」。
そう、スレイがやってくるという予感は‥やはり的中したのだ。
街に立つメリクの元に、スレイはやってきて‥昨日と同様の言葉を述べる。
メリクもまた、昨日同様、スレイの言葉に頷くが‥
‥ただ一つ、昨日までとは違う事があった。
それは‥メリクの心に「違う思い」があったのだ。

その後、いつもの様にスレイの泊まる部屋で‥契約金を渡されたメリク。
しかし、いつもとは違って‥はっきりとした「意志」を込めた瞳で、メリクはスレイに話し始める。
「スレイさん、いつも贔屓にして貰ってるのはありがたい‥けど、今日は‥今日こそは‥
 ‥えっちな事、しようよ」
急にメリクがこの様な事を言い出したのには、理由があった。
一つは、「お金を貰っているのにえっちな事をしないこと」。
そしてもう一つは‥
「‥どうしてだ?」
メリクのそんな訴えを、しかしスレイは冷静に返す。
まるでそう‥「その様な事は望んではいない」とでも言うかのように。
「どうしてって、それは‥‥オイラだって、お金を貰っているし‥」
「金を貰っているからといって、えっちな事をしなければならないという理由にはならないだろう」
メリクの思っていた「一つ目の理由」は‥スレイのそんな言葉にかき消されて。
そして「もう一つの理由」は‥その言葉を口に出すことが出来ない。
「そ、そりゃそうだけど‥それじゃあオイラの気が済まないよ」
「ふむ‥だが、本当に優先されるのは、君ではなく客‥私の気持ちではないか?」
代わりに口から出てきたのは、まるで子供の様な言い分‥
それすらも、スレイの冷静な言葉の前にかき消されてしまう。
次々と自分の言葉を‥いや、まるで思いを無為にされているかの様に感じてしまったメリクは‥
半ば自棄になるかのように、言葉を繰り出してしまう。
「それは‥そうだけど‥。‥わかった、それなら今日は金を返すよ。タダで風呂も入るし、マッサージもする」
「別に金を返せ、とは言って無いだろう。‥一体どうしたんだ?どうしてそんなにえっちな事にこだわる?」
だが、そんな言葉すらも‥スレイには通らなかった。
それどころか、自棄になったメリクの心を見透かされたような言葉を突きつけられる。
‥そう、まるでメリクの「想い」すら、見透かしているような‥そんな言葉を。
その様な言葉を投げかけられたら‥そう、メリクにはもう、先程言えなかった事を‥
メリクがスレイとの行為を望む、「もう一つの理由」を言うしかなかった。
「それは‥‥‥わ、わかったよ。‥なんとなく‥まだなんとなくだけど‥
 オイラ‥スレイさんの事が気になるんだ‥」
いままで、スレイの瞳を見つめていたメリクだったが‥
自分が隠していた「もう一つの理由」をスレイに言うにあたっては‥
恥ずかしいのだろう、ややうつむきがちになり、視線を逸らしてしまった。
更には‥曖昧にも「気になる」という言葉でしか‥スレイに伝えられないでいたのだ。
「気になる‥?」
案の定、「分からない」「どういう意味だ?」という意味合いを込めた言葉が、スレイの口から返される。
しかしメリクに、スレイの心の中が分かる筈もなく‥
そのスレイの言葉すら、「拒否」「否定」のマイナスイメージでしか受け取れなかったのだ。
自分から想いを伝えておいて、その様な「拒否」の言葉を返される‥
そうなってしまっては、もう言い訳のように言葉を返すしかなかった。
「あぁ‥その‥‥好きなのかな‥って‥。だから、その‥してあげたくて‥」
もうどうせ、スレイに言葉は届かない‥想いすらも届かない。
そんな「自信のない想い」が、弱々しい言葉となってメリクの口から発せられる。
‥まるで、親に叱られ、その叱られたことに言い訳する‥そんな子供の様な、弱々しい言葉が。
だが‥スレイの反応は違った。
元よりメリクに対してその様なマイナスのイメージは無く‥
そして何より‥メリクの「想い」が多少なりと分かったから。
だから‥
「‥ふぅ、そうか‥‥‥分かった。本当に‥良いんだな?」
スレイにも何か考えることがあったのだろう。
軽くため息をついた後、最終確認をする‥とばかりにスレイはメリクに尋ねる。
その、思いも寄らないスレイの言葉に‥メリクはそれまでうつむいていた顔を上げると、
再びまっすぐな眼差しで、スレイの瞳を見つめた。
「あぁ!オイラ、スレイさんと‥したいんだ」
そして‥自分の想いを伝える‥自分の希望を伝える。
本当にスレイとしたい、と。
その言葉を伝えることで‥そして、これからの展開を期待することで。
メリクの胸は高鳴り始める。
‥だが、その高鳴りを沈めるような言葉が‥スレイの口から発せられた。
「‥だが、明日‥明日だ。明日の同じ時間、また行くから‥」
「ううん、だったら明日、オイラがここに来るよ。だから‥待っていて」
スレイが一呼吸置いて、メリクに言った言葉。
明日に‥という言葉を、それでもメリクは良しと受け止める。
そう、例え今日でなくても、明日には‥と。
そして、そうと決まれば‥明日は街に立つ必要も無い。
明日は街に立たずにここに来る、と‥スレイに約束したのだ。
メリクのその言葉を、スレイも嬉しく受け止めたのだろう。
いつもの表情‥いや、いつもよりも少しだけ嬉しそうな表情で、こくりと頷くと‥
「それでは風呂に入ろうか」
昨日までの様に‥風呂場へと向かう。
‥昨日までよりも、少しだけ浮かれている‥そんなメリクと‥
‥まるで何かの「決心」がついたような‥スレイの二人で。


  
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