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星芽寮交響曲

23話『あますず祭り・第三夜』

 ←その97『カザムの夜 その3』 →その98『とりっく・おあ‥?』
8月14日 朝

 

「ふわぁ~ぁ」
朝‥とは言っても、もう遅い時間‥いつもなら、そろそろ仕事に出かける様な、そんな時間だ。
急がなくてもいいのか、なんて言われそうだけど‥今日は闇曜日、お休みの日だ。
だからボクはあくびをしつつも、ゆっくりと‥食堂へ向かう。
昨日の夜は遅くまでお祭りに出ていたから、寝るのがすっかり遅くなってしまって。
結果、目が覚めるのだって遅くなってしまった、って訳なんだ。
‥まだ朝ご飯に間に合う‥といいけど。
ボクはまだ眠気の残る頭を掻きながら、ゆっくりと歩いて行く。
「ふわぁぁ~」
今日何度目かの、あくびをしながら。

食堂の扉をくぐると、もう朝食を食べてる人は居なくて‥いやいや、そんな事は無くて。
見渡すとまだ、朝食を食べている人影が見える‥みんなもボクと同じなのかもしれない。
配膳係のコナナに「はい、どうぞ‥お寝坊さん」なんて笑われちゃったけど‥仕方無いな。
ボクは「おおきに」と言葉を残し、トレイを手に取ると‥おっ、あそこに居るのは‥
「ヤダン‥とヨックかぁ、珍しい顔の組合せやなぁ」
そう‥普段なら滅多に見ない組合せの二人‥だ。
ヤダンと言えば、いつも‥ピノと一緒、ヨックはラスキと一緒の事が多い。
こうして一人ずつ、しかも二人で居る‥ってのはなんとも奇妙に見える‥なんて言ったら失礼かな。
ともあれ、ボクは二人の隣の席に腰を下ろして‥さぁ、いただきます、だ。
「ああ、おはよう、ディル」
「お、ディル‥おはよう。いや、俺が寝坊しちゃってさ‥ピノは先に食事に来たみたいだ」
「おっと、二人共おはようさん。でも、ボクも一緒や‥寝坊してもてな」
ボクもヤダンも‥昨夜、目一杯騒いだ事が頭に浮かんだんだろう。
二人して顔を見合わせて、思わず笑ってしまった位だ。
「昨日は遅かったからなぁ‥でも、ピノは元気だよ。朝からどこか出かけたみたいだし‥」
ボクはヤダンの言葉に思わず驚いた‥いや、ピノって見かけによらず元気なんだな、って思って。
昨日あれだけ騒いでいて、今日も朝から出かけるなんて。
それに比べてボクはと言うと‥
「うーん、ボクなんか昨日、ホンマにくたくたで‥すぐに寝てもうたわ。
 もっと遅うにヒーラが帰ってきたみたいやけど、いつ帰ってきたんかもわからへん位やったし」
そうだ‥昨日部屋に帰ってきたときには、ボクはもうくたくたで‥
その後に帰ってきたハズの、ヒーラの気配にだって、気付かなかったくらいなんだ。
‥朝は朝で、ボクよりも早く起きたみたいで‥書き置きが残してあったし。
「はは、俺だって一緒だよ。部屋に入るなり、もうベッドに直行だったんだ」
「ふふ、なんだか二人共‥楽しそうだな」
ボクの言葉に、ヤダンも照れくさそうにそう言って‥そして。
朝食をほぼ食べ終えているヨックが、微笑ましい様子で話に入ってくる。
でも‥その表情が少しだけ寂しそうに見えたのは、ボクの気のせいかな‥?
いや‥寂しそうと言うよりも、むしろ‥
「そういうヨックは、昨日‥何か用事があったんだっけか?」
「ん?‥あぁ。少し‥な。色々あるんだよ‥色々と。本当は俺も祭りに行きたかったが‥仕方無い。
 それよりも、何かあったみたいだな、ラスキのヤツ。その‥今朝も早くからどこかに行ったみたいだし」
ヤダンの言葉にそう答えるヨックは、やっぱり少し寂しそうに見える。
‥普段のヨックは、ラスキの事を「勘弁してくれ」なんて言ってるけど‥
ふふ、やっぱりなんだかんだ言っても二人は仲が良いんだろうな。
「ふふ、ラスキは昨日も暴れてたなぁ。途中、一回はぐれてもうたし」
そうだ‥ラスキは人混みの中を、いきなり走り出していって。
あの時はホントびっくりしたけど‥まぁ、ラスキらしいと言えばラスキらしいというか。
「ん、そういえば‥ラスキは俺達とはぐれた時‥女の子を追いかけてたんだよ」
ボクの言葉を聞いたからか、ヤダンは何かを思いだしたようにそう言ったんだ。
女の子を追いかけていた‥?‥確かに、ラスキとはぐれた時‥一緒に居たのはヤダンだけど。
ラスキが‥女の子を‥誰だろう?
「‥女の子?」
ヨックもきっと、気になるんだろう‥ヤダンに対して不思議そうに聞き返している。
‥そういえば、ラスキに彼女が居る、なんて話は聞かないし‥
いや、単にボクが知らないだけかもしれないけど。
「あぁ‥でも、その女の子の名前も分からないんだ。
 いや、俺も確か‥銀河祭の時に見たことのある子だったんだけど‥その時も知ってる様な、知らない様な‥。
 とにかく、その女の子が俺達の方を見て、突然走り出したんだよ‥逃げるように」
「逃げるように‥?ボク達から‥?」
ヤダンの話を聞いて、今ひとつ‥状況の解らないボクは声を漏らしてしまった。
‥ボク達を見て逃げたっていうのは‥ボク達の誰かを知ってる、って事‥?それとも‥
‥もしかして。
その子はラスキの彼女‥あるいは知り合いで、ラスキを見たから‥?
そうだ、そして‥!
「もしかしたら、それ、ラスキの彼女とちゃうやろか?ラスキの顔を見て、何か‥」
ボクは浮かんだ案を、早速ヤダンにぶつけてみたんだけど‥
「いや‥ラスキは確か「綺麗だ‥」って言ってぼーっとしてたから、多分‥初めて見たんだと思う」
ヤダンは腕を組んで、目を閉じると‥その光景を思い出す様に、話してくれて。
‥そうなると、ラスキの知り合いじゃあ無さそうだ。
そうだ‥第一、彼女が居るなら一緒にお祭りに行くだろう。
「まぁ、とにかく‥その子は突然逃げたんだよ。で、それをラスキは追いかけていって‥って訳だ」
ヤダンも言葉をそう締めくくって‥うーん、そうなると‥
‥ラスキの一目惚れ‥かな?
ラスキは普段から情熱的な所があるし‥‥‥良い意味でも悪い意味でも。
そうなると、その可能性だって考えられ‥
「ふーん、なるほど‥ね‥。
 さて、ごちそうさま‥っと。俺も用があるから、失礼するよ」
ボクがあれこれと考えている間に、ヨックは朝食を食べ終えたみたいで。
手を合わせて「ごちそうさま」のポーズを取ると、そう言って席を立ったんだ。
‥テーブルに残されたのは‥ボクとヤダンの二人きり。
見ると、ヤダンは朝食をゆっくりと食べている様子だし、食べ終えるにはまだ時間がかかりそうだ。
‥そういうボクだって、同じだな。
二人とお話したおかげで、頭の方は醒めてきたけど‥
食欲の方はほどほどで‥うーん、色々な話を聞きすぎたかな?
「‥でも、昨日のお祭り、楽しかったなぁ」
考えていたボクに、ふと‥ヤダンの声が聞こえてきて。
ボクはヤダンの方を見る‥すると、ヤダンはぼーっとしているような表情で、天井を見上げていて。
きっと昨夜の事を思い出してるんだろう。
そうだなぁ‥うん、昨夜は本当に楽しかった。
「せやな。みんなと一緒で楽しかったな」
「あぁ、俺さ‥今までユランとはじっくり話をした事が無かったんだけど‥話せてよかったぜ」
ボクの言葉に、ヤダンはうんうん、と頷きながら嬉しそうに話している。
ユラン‥か。
ボクはお店に行った時に、よく話をしているけど‥それでも。
‥あんなに楽しそうにしているユランは初めて見たんだ。
あちこちの屋台を見て、楽しそうに笑っていたり‥
帰り道もたくさんおしゃべりして、大きな声で笑っていたっけ。
ふふ‥ボクも負けずに、大声で笑っていたけど。
ユランだけじゃない、他のみんなも‥とっても楽しそうだった。
お祭りって良いもんだ‥「みんなで行こう」って言ったフリストに、感謝しなくっちゃ。
あ‥そうだそうだ。
ふふ、ユランって言えば、慣れない納涼踊りを一緒に踊ったなぁ‥
ボクの故郷で踊っているのと、ここのお祭りで踊っているのとでは、型が少し違うし‥
ユランはユランで、踊りをあまり知らない様だったし。
いや、ユランだけじゃないか‥みんな、見よう見まねで踊っていたんだ。
「納涼踊り、みんなでよぅ踊ったなぁ。ふふ、みんなバラバラだやったけど」
「はは、俺なんか初めて踊ったんだぜ?全く、ピノのヤツ‥みんなで踊ろう、なんて言うんだから」
そうだった、そうだった。
元はといえば、ピノが「みんなで踊ろうよ」って言い出して‥
それで「じゃあ、踊るか」って事になったんだった。
踊り自体はあんまり上手く踊れなかったけど‥でも、折角綺麗な浴衣を着ていたんだしな。
やっぱり浴衣をちゃんと着たら、踊ってみたい、って思いもある。
浴衣‥か。
そういえばピノとは、広場に向かう道中、浴衣の事で話してたっけ。
ボクとピノの二人だけで、こっそりと‥
(ピノも浴衣着たんやな‥ホントびっくりしたけど‥その緑、ピノによう似合うとるよ)
(ふふ、ありがとう。ディルにそう言われると‥嬉しいな。その浴衣も、気に入ってくれているみたいだし‥)
勿論、ピノの言う通り‥ボクは浴衣をとっても気に入っていて。
‥来年だってちゃんと着たいと思うから‥今日洗わないといけないなぁ。
あ‥いや、今日は無理か‥明日‥そう、明日だな。
それよりも‥そう、ピノの浴衣だ。
そういえば、ピノはあの浴衣がお気に入り、って言っていたっけ‥
昔から着ている、とも言ってたけど‥そりゃそうだろう、ピノにとても良く似合っていて‥
浴衣を着ながら、恥ずかしそうににっこり笑う所なんか、もう‥
‥って、ボクは何を考えてるんだ。
そんな、ピノが‥その‥‥
と、ともかく‥それよりも‥そう、違う話、違う話‥
えっと‥そうそう!
「でも、テルに見せてもうた‥ほら、望遠鏡で見た星空。あれも、綺麗やったなぁ」
「あぁ‥俺、初めて見たよ。‥星ってあんなに綺麗に見えるんだな」
納涼踊りを楽しんだ後、ボク達は水の区にある、目の院の屋上へと向かったんだ。
え?わざわざ森の区から水の区まで歩いたのかって?まぁ、それはそうだけど‥
丁度水の区で花火が打ち上げられている途中だったから、それを見ながら移動できたし。
っと、それよりも‥そう、何故目の院まで行ったのか、って事だけど‥
そもそもは、フリストに聞いた事だけど‥テルはお祭りの二日目が夜勤の日らしい。
その夜勤の日に、もしよかったら星を見においで、と誘われていたんだそうだ。
そこで‥ボク達みんなで、手土産に屋台の食べ物を買って遊びに行ったんだけど‥
‥そこで見せて貰った望遠鏡は、とても綺麗な星が見えて。
しかも‥当たり前だけど、星々がとても大きく見えたんだ。
テルやレイトさん、他の人達からも、色々と星のこと‥例えば星座とか、その成り立ちだとか‥教えて貰って。
星の世界‥少しだけど、分かった様な気がする。
‥あ、それから‥もう一つ。
ちらりと見えただけだけど‥目の院の屋上、その隅で‥
こっそりとたたずんでいる二人を見たんだ‥そう、ヒーラとマロンさんの二人を。
みんなは気付いて無い様だったから、ボクも何も言わなかったけど‥
二人は肩を寄せ合っていて、とても仲が良さそうで。
もしかしたら‥‥‥いや。
それはまぁ‥置いておこう。
‥それから‥そう、目の院からの帰り際の事だ。
結構遅い時間になってしまったけど‥ボク達がいざ、帰ろうとしたとき。
ボクはフリストに誘われたんだよ。
(ネ、ディル‥明日も、そノ‥‥‥お祭りに行かなイ?)
正直言ってしまうと、「今日でもう十分楽しんだだろう」っていう思いも少しはあったんだ。
でも、「もう少し‥」っていう気持ちもボクの中にはあったし‥それに。
友達のフリストに「お願い」されたんなら、行かなきゃ‥って思うし。
ふふ‥ボクが(ええよ、いこか)って言ったときの、フリストの様子ったら‥本当に嬉しそうで。
とにかく‥今夜もお祭りに行くんだ。
うん‥いざ、行くときまったら‥やっぱり楽しみになってきたな。
そうだ、今日は‥
「ふふ、ゆっくり味わってくれてるのかな?」
と、ボクもヤダンも、二人共ぼーっと考え事をしている中へ‥突然声が飛んできたんだ。
‥見ると、ボク達のテーブルのすぐ側に、コナナがやってきていて。
あれ‥えーっと‥
‥なるほど、周囲を見渡すと、ボク達以外に朝食を食べている人は居ないみたいで‥
こりゃあ早く食べないと、片付けが進まない、かな。
「あ‥えらい遅うまでごめん」
「ああ‥ごめん、早く食べるよ」
ヤダンも気がついたんだろう‥ボク達はそう言って、慌てて朝食を食べ始めて‥
「いいからいいから、ゆっくり食べて‥ね?」
そんなボク達を、コナナは慌てて押しとどめたけれど‥
ボク達は普段よりもほどほどに早く、残りの朝食を食べ始めたんだ。


夕方。
約束通り、ボクはフリストと二人‥あますず祭りへとやってきていた。
場所は水の区‥なんでもフリストには「こっちの方が良いんダ」との事らしい。
勿論ボクにだって、不満は無い‥納涼踊りにもう一度チャレンジしたかった、っていう思いも少しはあるけど‥。
ともあれ、二度目となる、水の区のあますず祭り‥
一昨日来た時と、屋台の場所とかは変わっていないみたいだ‥当たり前かな。
そういえば、一昨日もフリストと二人で来たんだった。
フリストは今日も楽しそうに‥うん?
フリストとは、寮を出て以降、ずっと何気ない会話をしながら歩いている‥けれど。
普段よりも少しだけ、落ち着いている‥いや、元気が無い、って言った方がいいだろうか‥
とにかくそんな感じがするんだ。
‥どうしたんだろう?
「どないしたんや、フリスト?なんか‥元気無いみたいやけど‥」
話の合間を見て、ボクはフリストに尋ねてみる。
‥何か心配事とか、問題があったのかもしれない‥って思ったからだ。
でも、フリストの口から出てきたのは‥
「あ‥‥うン、なんだかサ‥‥楽しかったお祭りモ、今日までなんだナ、って思っテ‥」
‥なるほど。
終わりゆく祭りの寂しさ‥っていうのかな。
昨日、一昨日と‥とっても楽しかっただけに、それが今日で終わるとなると‥どうしても寂しく思えてしまう。
‥それは分かる‥分かるけど‥
「‥せやな。でも、そう考えるのんはまだ早いやろ?ほら‥今日一日、お祭りを楽しまんと‥な?」
昨日、一昨日のお祭りは終わってしまったけど、今日のお祭りはまだまだこれからだ。
第一‥最初から気分を沈めてちゃ、折角の楽しいお祭り‥楽しめなくなってしまう。
そうなったら‥勿体無いに決まってる。
「‥うン!」
うん‥フリストも分かってくれた‥いや、分かってたハズなんだ。
それにボクも‥少しだけ感傷に浸っていた所があったのかもしれない。
‥フリストに負けず、お祭りを楽しもう。

それからはボク達二人、まるで初日のように‥お祭りを楽しんだつもりだ。
色々な屋台を巡り‥あれやこれやと話をして。
ユランの屋台にも勿論寄って‥昨日の話をしたり。
そうそう、ユランの屋台と言えば‥その近くでまた、見かけたんだ。
丁度‥ユランの屋台を離れて、その隣の屋台を見ようか‥とフリストと話をしていた時。
視界の影に‥二人が見えたんだ。
それは‥ヒーラとマロンさん。
とても仲が良さそうに、屋台を見て回っている‥そんな感じの二人。
昨日はもしかしたら、って思ったけど、やっぱりあれは‥
「ネ、ネ、ディル。あのお店‥見てヨ!オイラ、挑戦してみたいナ」
「お‥よっしゃよっしゃ、ほな行こか」
ボクは考えの途中で、フリストに手を引っ張られてしまって。
二人の様子を見たのはその時だけだったけど‥
‥代わりに。
違う「二人」を見かけてしまったんだ。
「金魚掬い‥今度こそ、オイラもっと掬ってやるんダ!」
「お‥おう、頑張るんやで、フリスト」
ボクの横で、金魚掬いに夢中になっているフリスト。
‥でも、ボクはと言うと‥視界の端にちらりと見えた「二人」の方が‥気になってしまっていた。
もしかしたら見間違いでは‥とも思ったんだけど‥
改めて「二人」の見えた辺りを探してみると‥‥居た‥。
それは‥ヤダンと‥‥ピノ。
二人は屋台で、何かのゲームをしているようで‥
‥見る限りでは、他に連れは居ないみたいだし‥二人だけでお祭りにやってきているんだろう‥。
でも、どうして‥どうして二人が‥?
‥いや、二人は同室だから、そういう話になったのかもしれない。
たまたま「時間もあるし、お祭りに行こう」なんて話になったのかもしれない。
第一、今日はピノが‥浴衣を着ていない‥つまり、急遽そういう話になったのかもしれないし‥
だから‥だから、別にそれはおかしい事なんかなじゃない。
ごく普通の‥‥
‥‥そう‥なのか?
いや‥それ以前に。
どうしてボクはそんなに‥こんなに‥気にしてるんだ。
二人がお祭りに来ていても、別にボクには何の‥
‥何の‥‥影響も‥‥
いや‥違う。
ボクは‥ピノを意識してる‥ピノの事を‥
ピノが‥他の誰か‥男性と一緒に居ることを、凄く‥嫌だと思ってる。
それってやっぱり‥ボクがピノの事を‥意識してる、って事で‥
‥な、何を考えてるんだ‥そんな、考えが飛躍しすぎだ。
確かに‥その‥ピノは男性が好きだけど‥だからってボクが、ピノの事をそう思っているのは‥
‥ボクの心‥自分の心なのに、ボクは‥何も‥
「あァ‥破れちゃっタ‥」
そんなフリストの言葉が聞こえてきて‥ボクはふと、我に返る。
‥いけない、今は‥今は。
ボクは慌ててフリストの方へと意識を向ける。
‥丁度金魚を掬うポイが破れた様で、フリストが残念そうに肩をすくめていた。
「‥残念やったな、フリスト」
ボクは、フリストに声を掛けて‥そして‥少しだけ考える。
とりあえず‥とりあえず‥今は。
‥二人の姿は‥見たくないから‥
‥二人とは‥会いたくないから‥
だから‥
「な、なぁ、フリスト‥ボク、あっちの屋台のゲームをやってみたいんやけど‥」
ボクはフリストにそう言って、無理にでも‥二人から遠ざかる道を選んだんだ‥


ボクの「二人には会いたくない」という願いが叶えられたのか‥
結局、お祭り最後の打ち上げ花火を見始めるまで、ピノ達や、他の誰とも‥会う事は無かった。
そして‥その最後の花火も、もうすぐ終わろうとしている。
‥今年のあますず祭りの‥終わりだ。
色とりどりの綺麗な花火が‥打ち上げられ、花を咲かせて‥散っていく。
昨日は単純に「綺麗だ」と思った花火も‥
‥今日はなんだかもの悲しく感じてしまう‥。
ボクがそう思うのは、きっと「あますず祭りが終わるから」だけじゃない‥と思う。
それは‥‥‥
‥いや、今はまだ‥考えないでおこう。
明日からまた、仕事が始まる‥その時に。
‥顔を合わせた時に、ヘンな顔をしないように‥今は。
丁度ボクがそう考えるのと、時を同じくして‥打ち上げ花火の最後が上がり、そして‥散った。
それまで響いていた大きな音も消え‥周囲には静寂が広がる。
ここ、目の院前の広場で花火を見上げていた人達も、皆‥家路を急ぐように、帰って行く様子が見られる。
ボク達の周りからは、急速に人影が消えていく‥
‥ボク達も帰ろう。
「ほな、帰ろうか、フリスト」
ボクは隣に居るフリストに、そう声を掛けるけど‥
‥フリストは動く様子が無い。
どうしたんだろう?
「うン‥‥ディル、あのネ‥」
少し顔を俯かせたまま、小さな声で‥何かを言おうとしているフリスト。
フリストの言葉の続きを待とうと、ボクは何も言わずにいるけど‥
フリストの口から、続きの言葉は聞こえてこない。
「うん?‥どないしたんや?」
何か言い辛い事があるのかもしれない。
そう思ったボクは、なるべく優しい声で、フリストに尋ねてみる。
「あの‥ネ、そノ‥‥‥お願いイ、があるんだけド‥」
ボクが言葉の先を促してすぐに‥
フリストは少しだけ顔を赤く染め、小さな声で‥ぼそぼそ、と何かを話し始める。
「‥うん、何やろ?言うてごらん」
フリストの言う「お願い」は、何か言い辛い事なんだろうか。
ともかく、「お願い」の内容を聞いてみない事には、どうしようもないし‥
ボクはもう一度優しい言葉で、フリストに聞いてみる。
ボクがもう一度、フリストに言葉の先を促して‥更にしばらくの時間の後。
‥フリストは意を決したように‥こう言ったんだ。
「‥‥そノ‥‥‥手を‥繋いで欲しイ‥んダ‥」
手を繋いで欲しい‥っていうのは‥
‥えっと、ただ手を繋いで帰る、って事‥かな?
「‥手?」
「あ‥う、うン。‥そ‥そノ、えっト‥‥昔サ、お祭りの時‥良く兄さン‥ニ、手を繋いで貰ってたかラ‥」
確認する様に聞き直したボクに、フリストは慌てて説明を始めたんだけど‥
なるほど、そういう事か。
きっと昔の思い出‥お兄さんとの思い出の記憶が蘇ってきて、手を繋いで欲しくなった‥って訳なんだ。
勿論、こうしてお祭りに来ているのはボクだから‥ボクをお兄さんの様に見て、と。
「なるほどな。ええよ、手、繋いで帰ろう」
ボクはそう言って、フリストの手へと‥手を伸ばして。
途端、フリストはボクの手をぎゅっと‥ううん、優しく掴んだ。
「うン!ありがト、ディル」
その言葉と共に、ボクの手に、フリストの温かな手の感覚が伝わってくる。
‥誰かと手を繋ぐなんて、何年ぶりだろう。
思えば長い事、手なんて繋いでないな‥なんて思いつつも、ボクはフリストの方を見る。
すると‥‥フリストはとても嬉しそうに微笑んでいて。
そんなフリストを見たボクも、なんだか‥微笑んでしまう。
さっきまで感じていた「もの悲しさ」が‥少し晴れた様な、そんな感覚。
そんな「温かい感覚」が‥ボクの胸にはあって‥
手を繋ぐって、良いことなんだな‥なんて考えてしまう。
ともあれ、ボク達は‥寮へと向かう道を歩き出す。
ボクは‥そしてフリストもきっと‥「温かい感覚」を胸に抱きながら。



 
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