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星芽寮交響曲

24話『闇曜日の夜に』

 ←その98『とりっく・おあ‥?』 →その99『とりっく・おあ‥? その2』
8月30日 夜

 

8月30日‥闇曜日の夜。
今日は‥休日とは言え、色々とあったせいか疲れてしまった。
‥明日からはまた一週間、手の院で仕事だというのに。
いや、今になって今日を悔いていても仕方がない。
せめて今晩は早めに寝て、明日の為に英気を養おう。
‥とは言っても。
明日からの仕事‥その為の準備、という程では無いが‥仕事の段取りなどを確認しておきたい。
担当するカーディアンの管理と、それから‥ん?
ああ、そうだった‥俺はヨックラン・カヨックレン、みんなからはヨックと呼ばれている。
手の院に勤めていて、今もこうして明日の仕事の為に‥
「にゅふふふふ‥」
‥ふぅ。
今日何度目だろうか、不気味な声‥ああ、不気味な笑い声、と言った方が正しいか‥が、聞こえてくる。
その声の主は誰なのか、と言われると‥勿論それは一人しか居ない。
「‥ラスキ。どうしたんだ、ヘンな笑い声をあげて‥何か悪い物でも食べたのか」
ラスキ‥ラスキ・サリスキ、俺の同室者だが‥まぁ、色々と「問題」の多いヤツだ。
そのラスキが、さっきから何度か‥そんな不気味な笑い声を上げていて。
そのお陰でこっちは作業に集中できそうもない‥全く、困ったものだ。
「ふふ‥嬉しいことがあれば、自然と笑いたくなるってモンだろ?いやぁ、今日はホントに‥どぅふふふふ」
俺の言葉への答え‥ではないような、ラスキの言葉。
‥どうやら、今日は何か嬉しい事があって‥それを思い出し笑いしているようだが。
ふぅむ‥。
「そうか‥まぁ、ほどほどにな」
「お‥知りたい?おれの言う『嬉しいこと』ってのが何なのか、知りたいのかい?ヨックラン君」
俺はラスキを突き放すように言ったはずの言葉だったが‥
ラスキはどうにも違う様に捉えたらしい。
‥もしかしたら、俺の言葉が頭に入っていないのかもしれないが。
「いや、別‥」
「そうかぁ‥そこまで知りたいかぁ‥じゃあ、教えてやるよ。
 実はさ‥じゃじゃーん!おれ、彼女が出来たんだよ!」
俺が「いや、別に知りたくはないが」と言う前に。
先手を打って「嬉しいこと」とやらを話し始めるラスキ。
‥そう‥か、ラスキに彼女‥か。
‥‥ふむ。
「へぇ‥‥ラスキに‥彼女、ね‥」
まぁ、ここまで話を聞いてしまっては、もう「言わなくて良い」という訳にもいかないだろう。
‥少し位は、ラスキの話に付き合うとしよう。
いや‥俺自身がラスキの話に、少し興味が湧いた‥っていうのもあるけれど。
俺は開いていた本を閉じると、ラスキをじっと見つめて‥話を聞く体勢に入る。
「なんだよ、ヨック‥あんまり驚かねぇんだな‥まぁいいけど。
 それよりもさ‥その彼女と、今日は初デートだった‥って訳でさ!」
どうやらラスキは、「彼女が出来た」事を俺が驚かなくて拍子抜けした様だ。
‥とはいえ、俺の反応などよりも‥その「彼女」の事を思いだしたのだろう。
とても幸せそうな笑みを浮かべている。
「そう‥か、楽しかったか?」
「え?‥あ‥あぁ、うん、楽しかったぞ。楽しかったけど‥」
俺の「楽しかったか?」という問いに、ラスキはなんとも答えにくそうな言葉を漏らす。
‥彼女とのデート‥楽しい事ばかりではなかった、という事だろうか。
少し‥詳しく聞いてみよう。
「どうしたんだ?何か‥あったのか?」
「いや‥さ、彼女‥あ、ランカカちゃん、って言うんだけど‥少し不思議な所があってさ」
‥ランカカちゃん、ね。
不思議‥不思議な子、か‥さて、それじゃあその不思議というのは‥
俺はすぐさま浮かんだ疑問を、ラスキにぶつけてみる。
「不思議って、どういう所が不思議なんだ?」
ラスキは目を閉じ、腕を組むと‥思い出したように話し始めた。
「ん‥例えばさ、デートって言やぁさ、普通どういうトコに行くよ?
 例えば森の区のバザー通りでショッピングするとか‥
 例えばボミンゴ広場‥ああ、噴水の広場でゆったりするとか‥
 例えばダルメル牧場で、ダルメル眺めてきゃっきゃウフフってするとか‥」
‥最後のは少し違うと思うが‥まぁ、候補としてはあるのかもしれない。
ともあれ、ラスキの挙げた提案‥ラスキらしからぬ事だが、悪いところはあまりなさそうだ。
「そうだな‥そういう所が妥当だろうな。‥それで?」
「それが‥うーん、ランカカちゃんはさ‥『図書館に行きたい』って言ったんだよ。
 ‥それって普通行くのかな?って思ってさ」
‥なるほど、図書館に行くのは‥デートとしてはおかしい、と思った訳か。
まぁ‥確かに、普通はデートとしては行かない‥行かないだろうが‥
「いや‥そうとも限らないぞ?例えば‥そうだな、そのランカカちゃんとやらは、ウィンダスの出身なのか?
 サンドリアや、バストゥークの出身で、最近ウィンダスに来たなら‥魔法図書館なんて、魅力的な場所だと思うぞ」
「‥なるほど‥そうか、そうだよなぁ。魔法図書館って、色々な本があるし‥そういえばそうだよな!」
俺の言葉に「なるほど!」と言って目を輝かせるラスキ。
なるほど、と言った割には納得するポイントが‥いや、まぁいいだろう。
‥まぁ、俺の言葉だって、確たるものじゃあないんだが‥ともかく。
「で、ラスキ達は魔法図書館で、しばらく時間を過ごしたのか?」
「ん‥あぁ、お昼頃まで居たかな?大体3時間くらい‥二人で座って、本読んでたよ。
 おれはおれで、読みたい本があったから良いけど‥ランカカちゃん、楽しかったのかな‥って思ってさ」
なるほど‥ラスキとしては、ランカカちゃんに楽しんで貰いたかったが‥
場所が場所だ、そうそうお喋りなども出来ないだろうし‥不安になっていたのだろうな。
だから‥いや。
‥仕方無い、ラスキをフォローするつもりではないが‥一言言ってやろう。
「そのランカカちゃんが『魔法図書館に行きたい』と言ったのだろう?だったら良いじゃないか。
 彼女が望んだんだ‥別に無理に盛り上げなくても良いだろう?」
「‥‥そうだなぁ‥うーん、ヨックが言うと、なんだか‥本当の様に聞こえてくるなぁ」
俺の言葉に、ラスキの不安そうな表情が、少しずつ‥晴れていく。
どうやら言葉の効果はあった様だ。
しかし‥俺の言ったことが『本当の様に聞こえてくる』‥か。
本当の事だ‥なんて、言っても仕方無いな。
それよりも、話の続きを聞くとしよう。
「で‥お昼からはどうだったんだ?」
「ん‥そうそう、昼ご飯はさ、近くにあるレストラン‥音楽の森で食べたんだよ。
 そういえば‥その頃から、なんだかランカカちゃん‥優しくなった様な気がするなぁ‥」
優しくなった様な気がする‥?それまでは素っ気なかった、という所か。
ふむ‥なるほど。
「優しくなったって、例えば‥?」
「ああ、そうそう‥例えばさ、おれがご飯を食べ終えた後に『口元にソースがついてるわ』って言って‥
 ハンカチで口周りを拭いてくれたんだよ‥おれ、そんな事して貰うの初めてで‥びっくりしちゃってさ」
なるほど‥ハンカチで口元を拭いて貰い、びっくりした‥か。
女の子としては‥いや、女の子の心理は俺には語れないし。
‥ん?ラスキ、どうしたんだ‥?急に引き出しをごそごそと探し始めて‥ん、それは‥
「ふふ、これがそのハンカチでさ‥洗って返すよ、って言って借りてきたんだよ。
 紺色の、少しシックなハンカチだから‥おれが持ってても違和感無い様に見えるけど‥
 ‥あっ!もしかしたら、ランカカちゃんはそれを見越してこの色のハンカチを使ったのかな!?」
確かに‥そのハンカチは紺色で、男性が持っていてもおかしくない色‥だ。
でも、ラスキのそれは少し考えすぎだろう‥が、まぁここは黙っていよう‥。
「そうか‥次に会った時に返してやるんだな」
「あぁ!‥リボン付けて‥とかするのはヘンだよな‥まぁ、もう綺麗に洗ったし‥今度きっちり返すぜ。
 っと、そうそう‥それから森の区のバザー通りで、ショッピングしてたんだよ」
なるほど‥定番のデートコース‥という訳では無いが、妥当な所なんだろうな。
いや、そもそも水の区に居たのだから、あそこは‥‥‥いや、なんでもない。
「そこでさ‥ふふ、ランカカちゃんにぴったりな帽子があってさ‥おれ、プレゼントしたんだよ。
 ‥彼女、恥ずかしそうにしながらも、喜んでくれてさ‥‥嬉しかったなぁ」
言葉を続けたラスキは、その光景を思い出したんだろうか‥鼻の下を伸ばしている。
‥余程、嬉しかったんだろうな。
‥‥と、思ったら‥その表情はすぐに寂しそうなものに変わって‥どうしたんだ?
「でも‥楽しい時間はすぐに過ぎるんだよな‥気がついたら、もう夕方で‥
 ‥ランカカちゃん、『門限が厳しい』って言うからさ‥また次に会う約束をして、別れたんだよ‥」
なるほど‥別れが寂しくて、か。
‥それは仕方無い事‥だな。
楽しい時間が長ければ長いほど、別れる時は‥寂しいもんだ‥。
‥さ、さて‥最後にもう一つだけ確認するとしようか。
「で‥結局、彼女の「不思議な所」っていうのは、図書館の事だけなのか?」
ラスキが最初に言っていた「不思議な所」。
その言い方からして、色々とそう思う所があったのか‥と俺は思ったんだが‥
話を聞いても、図書館の事以外には出て来なかった。
そう考えて俺は、ラスキに聞いてみたんだが‥
「あ‥いや、色々とあったんだよ。
 例えば‥細かいトコだと、なんていうのか‥おれの癖とか、好みを知ってる所とか‥」
「‥癖とか好みを知っている‥?」
ラスキの言葉に、俺はおもわずオウム返しに言葉を返す。
癖とか好みを知っている、というのは‥
「あぁ、いや‥例えばおれ、左利きだろ?そんな事言って無いのに、レストランでフォークを‥いや、気のせいか‥
 でもでも、何も言わずに塩を取ってくれたのは‥‥たまたまだったのか‥?」
‥なるほど。
ラスキはまるで、自己完結している様に‥言葉を呟いていて。
直接俺には話してこないが‥言いたい事は大体解る。
つまり‥こういう事だろう。
「なるほど‥ラスキは珍しく利き腕が左なのに、間違えずに左手に向けてフォークを手渡してくれたことと‥
 トルティーヤを食べるとき、何も言わなくても塩を手渡してくれたのが、不思議に思った‥という事か」
俺の推測に、ラスキは「おおっ!」と一声を上げると、うんうん‥と何度も頷く。
「ヨック、よく分かるなぁ‥その通りなんだよ‥‥って、なんでトルティーヤを食べたのまで分かるんだ?」
うんうん‥と頷きながら話していたラスキだったが‥
また新たな事が疑問に浮かんだんだろう、首をかしげながら俺に尋ねてくる。
‥まぁ、そうだな‥確かに今の話だと「なんで」と思うだろうな。
「‥簡単な事だ。あの店の人気メニューで、ラスキが塩を掛けそうなものといえば‥そうだ、トルティーヤしかないからだ。
 で、肝心なのは理由だな‥まぁ、お前の言う通り、『たまたま』だったんじゃないか?
 たまたま、何かの拍子で‥ラスキが左利きなのに気がついた。
 たまたま、彼女もトルティーヤに塩を掛けるタイプだった」
少し推測が強引すぎる‥そんな気がしなくもないが。
だが‥ヨックは「なるほどなるほど!」と言いながら、さっきまで以上にうんうん、と頷いている。
‥そこまで激しく頷くと、首を痛めてしまいそうだな‥。
とりあえず‥納得したのは良しとして。
そろそろ時間も遅くなってきた‥話を締めくくるとしよう。
これ以上話を聞いているのも‥何だしな。
「まぁ‥それはともかくとしても、だ。
 よくは知らないが‥去り際に彼女も寂しそうにしてたんじゃないか?
 だったら‥相応に想われてる、って事だろう?ラスキは言わずもがな、だろうし」
「‥へへッ、そうだな‥そうだよな」
俺の言葉に、ラスキはそれまで悩んでいた顔を一変させて、笑顔を浮かべる。
全く‥単純というか、何と言うか‥でも。
きっとこういう所が、ラスキの‥‥
‥いや。
「‥さ、俺は少し明日の準備をするから‥話はおしまいだ」
俺はそう言って、閉じていた本を再び開こうとした‥んだが。
そんな俺を止める様に、ラスキが口を開いた。
「‥なぁ、ヨックは‥彼女とか居るのか?‥今朝もさ、おれよりも早く出かけて居たし‥」
そんなラスキの言葉に、俺は手を止める。
そして、少し‥少しだけ考えた後‥俺はラスキにこう言ったんだ。
「いや‥彼女なんて居ないよ‥俺には」
ただ、そう言うと‥本を開き、その内容を目で追いはじめる。
「そうかぁ‥ヨックは良いヤツなのに、勿体ないなぁ。
 なぁ、ヨックにも彼女が出来たらさ、教えてくれよ?」
俺に彼女が居ない、という事を聞いて‥ラスキは残念そうに呟いて。
‥彼女が出来たら教えてくれ、だなんて‥
‥‥全く。
「‥‥あぁ、そうだな」
そう答えた俺だったけど‥
俺の心の中は‥複雑な思いで一杯だった。
‥勿論、読んでいる本の内容なんて‥頭に入るハズも無くて。
俺は‥一体何をしてるんだろうな。


8月30日‥闇曜日の夜。
僕はタルタルデスクに向かい、本を読んでいた。
‥ううん、読んでいるフリをしながら、考え事をしていた‥って言った方が正しいのかな。
え?何を考えているのかって?うーん、それは‥
‥色々、かなぁ。
色々だけど、とりあえずは‥そう、闇曜日の夜は嫌だなぁ、とか。
二日間のお休みも、もうすぐ終わって‥明日からはまた、お仕事なんだから。
‥ううん、お仕事が嫌い、って訳じゃ無いんだよ?
僕は今のお仕事が、とっても好きだしね。
でも‥ふふ、やっぱり「お休みの日」が終わる、という事は憂鬱に思えちゃって。
今日はとても嬉しい事があったから‥余計にそう思うのかな?

今日は特に、お出かけする予定も無くて‥読みたかった本を読もうかな?なんて思っていたんだけど。
朝‥朝食を食べているときに、フリストから誘われたんだ。
(ピノ、良かったら今日、夕方かラ‥ユランのお店に行かなイ?)
勿論、特に予定も無いし‥僕は二つ返事で答えた。
よくよく話を聞いてみると、そもそもはユランから「お誘い」があったみたいで。
‥僕やフリスト達が誘って、ユランが勤めるお店に行くことはよくあるけど‥
ユランにお呼ばれされるなんて、本当に珍しい事だったんだ。
一体何があるのかな?なんて考えてユランのお店に向かったんだけど‥
ふふ、ユランのお店に行ったのは、僕とフリストだけじゃなくて‥ヤダンも‥そしてディルも居たんだよ。
後で聞いた話だと、ヨックとラスキも誘ったらしいんだけど‥二人は都合が悪かったみたい。
とにかく‥僕達四人はユランが勤めるお店に行って‥そして。
‥本当にびっくりして‥本当に嬉しかったんだ。
それというのも‥‥ふふ。
思い出すだけで、嬉しくなるなぁ‥あの時の事。

「来てくれてありがとう。今日は‥みんなに食べて欲しいものがあるんだ」
僕とヤダン、フリスト、そしてディル‥四人がテーブルに着いてすぐに。
ユランはそう言うと、すぐに厨房へと行ってしまったんだ。
厨房に置いてあった「食べ物」を取りに行ったんだと思うけど‥
さて、そうなると「どんな食べ物」を取りに行ったのか‥が問題だよね。
「ユランの言う『食べて欲しいもの』っテ、何かナ?」
「そうだなぁ‥やっぱり新しいスィーツじゃないか?」
フリストが「楽しみ」とばかりに微笑みながら言った言葉に‥
ヤダンもやはり「楽しみ」とばかりに答える。
そうそう、ユランは時々僕達に「新作スィーツ」を味見させてくれるんだ。
それというのも、僕達が結構頻繁に通ってる「お得意様」らしくって‥
それで、味見と意見を出して欲しい、って言われる事があるんだよ。
‥最も、僕達の意見が参考になっているのかどうかは‥分からないけどね。
でも、そういった味見は‥大抵僕達がここに来たときにお願いされる位で。
‥今日みたいに、ユランから呼び出されて‥なんて事は今まで無かったんだよ。
だから、余計に‥ふふ、期待しちゃうよね。
それでなくても、ユランの「新作スィーツ」はいつも美味しいんだから。
‥でも。
本当は「ユランの作る新作スィーツ」が食べたいなぁ‥なんて僕は思うんだ。
あ‥そうなんだよ。
ユランが時折ご馳走してくれる「新作スィーツ」は‥ユランの作ったものじゃなくて。
お店のパティシエさん達が作ったものなんだ。
だから‥僕はユランの作ったものが‥って思うんだけど。
‥下積みの期間は、大体1年くらい‥とかって聞いた事があるし‥
そうなると、ユランの作ったスィーツが食べられるのは、まだまだ先の事、かなぁ‥。
そんな風に僕がぼーっと考えていると‥ふと、ディルと視線が合って。
‥でも、ディルは慌てて僕から‥視線を逸らしたんだ。
僕はそんなディルの様子に、つい‥‥
「お待たせ!‥これをね、みんなに食べてみて欲しいんだ」
その時、ユランの声が聞こえて‥僕達は一斉にユランを見る。
みんなの視線を浴びたから‥かな?ユランは少し恥ずかしそうに微笑みながらも、
カットされたケーキが載ったお皿を、みんなの前に置いていって‥
どうやらこれが「新作スィーツ」みたいだ‥けど‥うーん?
「これは‥ガトーオーフレース‥かいな?」
そう声を上げたのは‥ディルだけど‥僕もその意見に賛成だった。
見る限り‥そう、普通の「ガトーオーフレース」みたいなんだよね。
スポンジ生地の上に、白い生クリームが盛られていて‥更にその合間にロランベリーが彩られている。
「うん‥ガトーオーフレースに見える‥よね」
僕はそう言いながらユランの方を見てみる。
‥でも、ユランは微笑みながら‥ううん、さっきよりもにっこりと微笑みながら‥こう言ったんだ。
「そうだよ、ガトーオーフレースだよ。‥ただし‥ぼくが作ったんだけどね」
恥ずかしそうに‥そして嬉しそうに。
ユランの言ったその言葉を聞いて、僕達はそれぞれ大きな声を上げたんだ。
「ホントに!?ユラン‥おめでとう!」
「ユランが作ったんか!凄いなぁ!」
「凄いナ、ユラン‥とうとう作ったんだナ!」
「ユランの作ったケーキかぁ‥いや、おめでとう!」
みんな、ユランに対して「おめでとう」の言葉を送って‥ユランも又、嬉しそうに照れていて。
そして僕は‥改めてガトーオーフレースを見てみる。
‥うん、よくよく見てみると、ちょっとだけ生クリームの模様がずれていたりして、
とっても綺麗!とは言えないのかもしれないけど‥
でも、そんな事はどうでもいいよね。
だって‥ユランの初めて‥あ、初めてじゃないかな?きっと練習をしたんだろうし‥
それでも、僕達が食べる初めての‥ユランのケーキだ。
「それじゃ、早速頂いても良いかな‥?」
僕は早速‥とばかりにフォークを持ちながら、ユランに聞いてみる。
‥いや、勝手に食べてもいいと思うんだけど、なんとなく‥なんとなく、ね?
「うん、どうぞどうぞ!‥あ、ディルには辛い‥かな?無理はしないでね」
ユランは頷きながらそう言ってくれたんだけど‥その一方で、ディルの「甘い物が苦手」というのを思い出したみたい。
ディルの方を見て、申し訳なさそうに言葉を続けたんだけど‥
「何を言うてるんや。ユランが初めて作ってくれた、ケーキやないか。‥ちゃんと食べさせて貰うで」
ディルは嬉しそうな表情のまま、ユランにそう言って。
‥うん‥やっぱりディルは‥「いつもの」ディルだよね。
なのに‥‥
‥いや、今はケーキだ‥ケーキを食べよう。
僕はフォークでケーキの一角を崩して‥うん、柔らかい。
それをそのまま口へと運んで‥‥あぁ。
とっても甘くて、とっても美味しいやぁ‥。
いつもこのお店でで食べる、ガトーオーフレース‥それと同じ‥ううん、それ以上に美味しい。
だって、ユランの真心がたっぷりと込められてる‥そんな気がするから。
ふふ、僕の思い込みかもしれないけど‥ううん、そんな事無いよね。
みんなだって、口々に言っていたもの‥「いつものより美味しい」って。
それに‥‥そう、それに。
「うん、美味い‥美味いで、ユラン」
甘い物が苦手なディルだって、ユランにそう言って‥にっこり微笑んでいたんだもの。
ユランもディルを見て、嬉しそうにしていて‥なんだか‥
と‥とにかく、僕達はユランから、初めてスィーツを作って貰って‥
とっても‥とっても嬉しかったんだよ。

ケーキを食べ終えた後、雑談の中で聞いた話だけど‥
パティシエとしては、本来なら1年近く掛かる下積みを終えて、それからようやく‥という習わしがあるらしい。
でも、ユランの頑張りが認められたみたいで、特別に早くスィーツを作る事が出来るようになったんだって。
‥でも、ユランはそれに付け加えるように‥現役のパティシエさん、その中の一人が、急遽辞める事になったからだ‥
なんて言ってたけど‥僕は違うと思うな。
そりゃあ、少しは要因としてはあるのかもしれないけど‥それだけじゃないハズだ。
うん、きっとユランの努力が認められたから、というのが大きかったんだよ‥うん!
ともあれ、こうして‥正式な「パティシエ」になったユラン。
‥でも、そうなると‥今まで見たいに「カウンター担当」になる事は少なくなっちゃうのかな‥?
そうなると‥ちょっとだけ寂しいけど‥
‥ううん、パティシエに専念できるほうが、ユランの為だものね。
そこは我慢しなくっちゃ。

ユランの事は嬉しい事だけど‥僕にはもう一つ‥あ、いや‥二つかな?気になる事があって‥。
一つは‥うーん、嬉しいんだけど、ちょっとだけ戸惑ってしまう事‥かなぁ。
それは‥ヤダンの事。
ここ最近、ヤダンが‥すごく僕を気にしてくれてる‥っていうのかな。
気を遣ってくれてるのか‥それとも‥ううん、とにかく‥とっても優しいんだ。
何かにつけて、僕の事を気に掛けてくれて。
この前なんて‥ふふ。
僕がつい、食事中にスープを腕にこぼしてしまった時、ヤダンは慌てて「大丈夫か!?」なんて言って‥
腕にこぼれたスープをハンカチで拭き取ってくれて。
おまけとばかりに、ケアルの魔法まで唱えてくれたんだよ。
‥そんなに熱いスープじゃないし、やけどなんてしないのに‥ヤダンってば。
勿論、その時だけじゃ無いんだよ?
その前の、お風呂に入った時だってそうだし‥そうそう、その前の時だって‥‥‥あれ。
‥いつからだったのかな‥ヤダンがあんなに変わったのは‥
‥‥そうだ。
あれは確か‥あますず祭りの、三日目から‥だ。
ヤダンが突然、僕に‥(あますず祭り、一緒に行かないか)なんて言って、誘ってくれて。
確か僕は「一人で行こうかな」なんて考えていた位だったから‥お誘いに乗る事にしたんだけど。
ふふ‥そこでも、ヤダンってば‥僕をまるで女の子みたいにエスコートしてくれたんだよね。
例えば‥(わたあめ、買ってあげようか?)とか(あのぬいぐるみ、とってあげるよ)とか‥
そこはやっぱり、彼女が居るから‥デートの時のクセみたいなのが出たのかな?
僕を彼女の様に意識して‥いや、それは無いよね。
だってあんなに綺麗で、素敵な彼女なんだもの‥僕と比べるなんて、ね。
‥とにかく、あの日から‥ヤダンは優しくなった様な、そんな気がする。
僕に優しくしてくれるのは嬉しいんだけど‥でも、なんだか‥うーん。
正直言って、ちょっとヘンな感じがして‥戸惑っちゃうんだよね。
以前のヤダンの様に‥少しだけぶっきらぼうな所もあるけど、そこが男らしいっていうか‥
そっちの方が、僕は‥‥って、何考えてるんだよ、僕‥。
と、とにかく‥そんなヤダンだけど、今は‥
‥さっきからずっと手紙を書いてるみたい。
相手は‥ふふ、聞かなくても分かるよね‥あんなに真剣な顔をして書いているんだもの。
きっと彼女‥えっと‥シャミミさん、だっけ。
彼女に想いを込めて、手紙を書いているんだよね。
‥良いなぁ‥僕も、そんな想いを交わす相手が‥‥なんてね。
おっと‥そうだった。
もう一つ‥僕が気になっている事。
それは‥‥ディルの事なんだ。
ディルとは‥とっても仲良しになれた‥少なくとも僕は、そう思ってたんだ。
‥あますず祭り、その二日目‥までは。
ディルは浴衣だって、あんなに嬉しそうに着てくれたし‥僕の浴衣も、似合ってるって‥言ってくれた。
でも‥でも‥。
どうしてかな‥あますず祭り以降は‥僕に対して、どこかそっけなくて‥。
あれから二週間くらい経つけれど、ほとんどお話しをしてくれないんだ。
仕事中は、流石に会話をしたりするけれど‥それはあくまで業務的なものだし。
目の院からの帰り道は‥あまり一緒になる事が無いし、あったとしても‥あんまりお話ししてくれないんだ‥。
‥食事だとか、お風呂は‥時間をずらしてるのかな、なんて思うくらいに会わないし‥
談話室でのおしゃべり時間にも、やってこないんだから‥。
今日みたいに、ユランの働くお店で一緒になることはあったけど‥
‥フリストだとか、ヤダンだとか‥他の人が居て、どうしてもその人達とお話しをする事が多くて‥
‥ディルはお話しをしてくれない‥。
今日も‥今日も‥‥目があったのに、すぐにプイって‥視線を逸らされて。
やっぱり‥僕、嫌われちゃった‥のかな?
他の人には‥例えばそう、ユランには‥とっても‥とっても優しそうに‥。
いつもの‥いつものディルを見せているのに‥僕には‥。
‥‥ユラン‥?
もしかして、ディルはユランの事が‥好きで‥
‥何を考えてるの、僕は。
僕が、その‥男の人が好きだからって、ディルまで同じ様に考えるなんて‥あり得ないよね。
第一、ディルがユランの事を好きでも、僕には関係が‥
僕は‥‥関係ない‥もん‥。
‥いや、そうじゃなくて‥えっと‥
ディルがユランを好き‥っていう訳じゃあないと、僕は思うんだ。
ただ‥そう、ディルはユランに対して‥「いつもの優しいディル」を見せているだけ。
‥その「いつも」の優しいディルに‥僕が会えないのは‥辛い。
そう‥僕が‥僕だけが‥優しいディルには‥‥。
そう考えると‥僕、寂しくて‥悲しくて‥
どうして‥どうして、って‥思っちゃうんだ‥。
僕、何かしちゃったのかな‥ディルに何か、悪い事‥しちゃったのかな‥。
僕はそんなつもり、全然無いんだけど‥でも‥。
僕が分からないままに、傷つけちゃったの‥かな‥。
僕は‥僕は‥‥。
‥‥‥
考えても‥考えても、答えなんて出て来ないよね。
やっぱり‥ちゃんとディルに聞かなくちゃ。
どうして僕を‥避けているのか‥
どうして僕を‥嫌っているのか‥
‥僕が悪い事をしていたなら、謝れば良いし‥
‥謝っても許してくれないなら‥その時はその時で考えよう。
うん‥ちゃんと‥ちゃんとディルに確かめよう。
それから‥それから。
僕の心を整理しよう‥。
とりあえず‥「方向性」が決まったところで、僕はふと‥窓の外に見える時計台を見る。
‥いけない、色々と考えていたら‥もう良い時間だ。
そろそろ寝ないと、明日の朝‥寝坊しちゃう。
‥結局、読もうと思っていた本は‥全然読めなかったなぁ。
ヤダンはどうだろう?手紙‥書けたのかな?
僕はちらりと、ヤダンの方を見ると‥うん、どうやら書き終わったみたい‥かな?
ペンを置いて、手紙の羊皮紙を手に、読みなおしているみたい。
‥その表情は、すごく真剣で‥ふふ、きっとシャミミさんを真剣に想ってるって事の現れなんだよね。
もう少し掛かるだろうし、僕は先にベッドに入ることにしよう。
「ヤダン、ごめんね。僕、先にベッドに入るね」
真剣に手紙を確認しているヤダンには悪いけど、ぼくはそう声を掛けると‥そっとタルタルデスクから離れたんだ。
‥でも、ヤダンは‥
「あ‥俺ももう寝る所なんだ。灯りを消すよ」
そう言って、手紙を慌てて机の中へと仕舞って‥
‥まだ確認し終わってなさそうだけど‥急かしちゃったかな。
ともかく‥僕はベッドに入って‥ヤダンも灯りを消すと、同じ様にベッドに入って。
そして‥いつもの様に、僕達は手を繋いだんだ。
‥ヤダンの‥温かい手。
これは‥ふふ、以前と変わらないね‥って、当たり前だよね。
でも‥不思議だな。
こうしてヤダンと手を繋いでいると‥最近は僕まで、安心するって言うのか‥眠くなるって言うのか‥
すぐに‥睡魔がやってくるんだもの。
「‥おやすみ、ピノ‥」
ヤダンの「おやすみ」の言葉に、僕は応えなきゃいけない‥って思うけれど。
もう僕は、まるで頭の半分が眠っている様な‥そんな状態で。
「うん‥おやすみ‥‥ヤダン‥」
とっても眠そうな声で応えていたんだと思う。
僕の呟いた言葉が、部屋の闇に消えるように‥僕の意識も消えていって。
すぐに‥深い眠りの中へと‥沈んでいったんだ。


 
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