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星芽寮交響曲

27話『秘密』

 ←26話『それぞれの想い』 →28話『ラスキとヨックの‥』(*)
10月2日 朝

 

今日は10月2日‥闇曜日。
休日の朝、ゆったりとした朝食を終えた俺とラスキは、俺達の部屋へと戻ろうとしていた。
いつもの朝なら、こうして部屋に戻る途中でも、何かくだらない話をしているものだが‥
‥おかしい。
普段ならペラペラとお喋りをしているラスキが、今は‥一言たりとも喋らずに歩いているからだ。
‥別に機嫌が悪い訳じゃないだろう。
さっきまで‥そう、食堂では他のヤツと楽しく談笑していたから‥決してそうじゃあ無い筈だ。
となるとやはり‥あれか。
これからあるという、デート‥‥その‥ランカカとのデートだ。
その為にラスキは緊張していて‥
‥いや、ラスキがそんな、デートに緊張するなんて‥とは思うんだが。
ラスキの気持ちは‥分からないからな。
‥ラスキが話をしないのならば、俺の方から話しかければ良い‥と言われるかもしれないが‥
そもそも、俺は普段からあまり喋る方じゃない‥
まぁ‥その分、ラスキが喋ってくれる‥というのもあるんだが。
とにかく‥俺達は何も言わずに廊下を歩き‥階段を上り‥そしてまた廊下を歩く。
道中、俺達は過去に無い位に静かに歩き‥結局、何も喋らないまま部屋へと入った。
‥いつもなら、なんとも思わない‥食堂から部屋までの道のり。
その道のりが、いつもよりも長く‥そして‥
‥まるで決戦場に向かう道のり‥何かの前触れ‥そんな風に思ってしまったのは‥
‥‥気のせいではなかったんだろう。


‥パタン、という乾いた音と共に、部屋の扉が閉まる。
ラスキは出かける用意をするのだろうか‥タンスの前へと歩き‥
俺もまた、用意のために‥机へと向かう。
机の引き出しを開けようと、一旦イスに座ったところで‥
‥ラスキの口が開いた。
「‥なぁ、ヨック。何か‥‥隠してるだろ?」
いつもの明るい調子ではない‥何かを問い詰めるような‥いや、それは俺の考えすぎだろう。
それでも、真剣な空気を漂わせながら、ラスキは俺に聞いてくる。
‥隠している‥か。
「‥隠すって‥何をだ?」
俺はあくまですっとぼけたフリをして、そう答える。
‥そうだ、俺には隠し事がある‥それも、ラスキに対しての。
言ってしまえばきっと、ラスキは‥‥。
でも‥‥
そうだ‥今は‥今は言う訳にはいかない。
‥今は‥‥今は、まだ。
言う訳には‥いかない。
「‥おれがランカカちゃんと‥‥いや、いい」
ラスキは何かを言い出そうとして‥しかし、その途中で口をつぐむ。
最後は軽く首を振るようにして‥まるで自分に言い聞かせるように。
だが‥‥
‥ラスキが「ランカカ」の話を持ち出してきたことに対して、俺は‥
‥もしかしたら、という可能性に気付く。
そうだ‥ラスキがもしかしたら、全てを知っていて‥
‥いや。
そんな訳は無い‥あるはずが無い。
第一、前のデートの時だって‥‥‥いや。
そんな風に考え込む俺に、ラスキが驚くべき事を言ってきたんだ。
「なぁ、もし‥もしお前が‥‥‥ランカカちゃんに会わないでくれ、って言うなら、おれは‥」
「な、何言ってるんだ、ラスキ」
真面目な顔で‥少しうつむきがちになりながらも、そんな事を言うラスキ。
俺が望むなら‥ランカカとは会わない‥?
それって一体、どういう意味‥なんだ。
俺は慌ててしまって‥ラスキの言葉を遮る様にして、ラスキに言葉を返した。
俺が‥ランカカに会って欲しくない様な‥そんな態度を取って‥
‥居たのかもしれないな‥。
‥‥でも‥
「‥おれがさ、ランカカちゃんと会う度に、お前は‥‥なんだか苦しそうで‥」
俺が‥苦しそうな顔をして‥いた‥?
‥いや‥していたのかもしれないな。
ラスキがランカカとのデートの後‥その話を聞かされた俺はきっと‥‥苦しんでいたんだろう。
‥そうだ‥俺の‥‥罪に。
でも‥今、それを認めるわけには‥いかない。
「ち‥違う‥そんな事無い‥それは‥」
「でもよ‥最近のお前、なんかヘンなんだよ‥なんだか‥ずっと悩んでるみたいでさ‥」
確かに‥確かにそれは‥‥悩んでいたさ。
このままで良いのか‥このまま続けていても良いのか‥って。
でも‥でも‥‥
真実を言ったとしても‥それはきっと‥
「なぁ‥おれにも言えない、何か‥‥秘密があるのか?」
ラスキは俺の方を‥いや、俺の顔を‥‥‥いや、俺の目をじっとみつめながら‥
‥まるで問いただすかのように、言葉を続ける。
「‥それは‥‥」
そんな‥そんな目で‥見ないでくれ‥
「‥なぁ、頼むよ‥何か‥」
そんな‥そんな風に‥聞かないでくれ‥
俺は‥俺は‥もう‥‥
耐えられなかった‥
ラスキのまっすぐな言葉に‥視線に‥気持ちに‥
耐えられなかったんだ‥。
「う‥‥ごめん、ラスキッ‥」
俺はもう‥‥どうしようもなくなって。
気がついた時には、イスから立ち上がって‥部屋から逃げ出していたんだ。
ただ‥ラスキから逃げ出したかった。
ラスキの瞳から‥ラスキの口から‥
‥ラスキの‥想いから‥

逃げ出してどうする?
逃げ出してどうなる?
逃げ出してどこへ行く?
逃げ出して‥逃げ出して。
何処へでも良い。
俺は‥ラスキから‥‥
‥‥ラスキ‥‥ごめん‥‥
俺は‥お前に謝ることだらけなのに‥何も言えない‥弱虫なんだ。
ごめん‥ラスキ‥‥ごめん‥‥‥ごめん‥‥
自分の心に。
自分の考えに。
自分の‥趣味に。
腹が立つ‥イライラする‥この気持ち‥どうにもならない‥。
こうなる事は‥薄々は勘づいていたのに。
きっといつかこうなると‥あの時‥思っていたのに。
なのに‥なのに‥
俺は‥‥俺は‥‥ッ‥‥
頭の中を、色々な思いが駆け巡る。
ラスキへの謝意‥自責の念‥後悔‥そして‥
‥それに気を取られたからか‥あるいは‥
‥それは天罰だったのかもしれない。
一階へと下りる階段を、ものの見事に踏み外した俺は‥
派手な音を立てて転げ落ち、そして‥‥一瞬意識を失った。

気がついたときには‥俺は冷たい床の上に横たわっていて。
‥全く、惨めな事この上無い。
階段を転げ落ちる際に、身体のあちこちを打ってしまった‥そんな感がある。
手も、足も、胴も‥そして頭が何より痛い。
‥どうやら出血はしていないみたいだが‥頭の中がクラクラする‥。
とにかく、ここは場所が場所だ‥誰かが来ないうちに‥
そう、誰かにこんな姿を見られないうちに、どこか違う所へ‥
‥そう考えて、身体を起こそうとした俺だったが‥‥ダメだった。
さっき「あちこち打った」中に含まれる足が‥結構強く挫いてしまったらしい。
起き上がろうとしても、立ち上がることが出来ない‥。
全く、何てザマだ‥。
おまけとばかりに、頭の中はぐわんぐわん鳴ってる様な‥そんな感じがする‥最悪だ。
「凄い音がしたけど、一体何の‥‥って、ヨック!大丈夫なの!?」
運が良かったのか‥はたまた悪かったのか。
いや、この場合は運が良いんだろう‥倒れた俺を見つけ、駆け寄ってきてくれたのは‥ピノだった。
ピノなら大丈夫‥騒ぎ立てることもしないだろうし、それに‥
‥ともかく、ピノが俺の事を大丈夫なのかと心配そうに聞いている‥ちゃんと答えよう。
ついでに‥ラスキには言わないでくれ、とも言っておかないと。
「あ、あぁ‥大丈夫‥だ。‥大したことは無い。‥その、ラスキには‥」
「あ、うん、ラスキだね、すぐ呼んでくる‥ちょっと待っててね!」
‥ラスキには言わないでくれ、と言おうとした俺の言葉を遮る様にして。
ピノは慌ててそう言うと、俺を置いて走り去っていってしまった‥。
しまったな‥ピノはいざというとき、慌てるタイプだったか‥。
‥これは運が悪かった‥かな。
ああ、そんな事よりも‥‥頭が痛い‥。
俺がそんな事を考えている間にも、誰かが走り寄ってくる‥そんな音が聞こえてきたが‥
その音が近づいてくるよりも早く、俺は‥‥もう一度意識を失ってしまった。

どれくらい‥どれくらい眠っていただろう。
俺はいつもの様に、心地よい眠りから目を覚まして‥いつもの天井を見上げている。
どうやら、いつもよりもゆっくりと眠ってしまっていた様だ。
窓の外、空の色は朝のものじゃなくて‥お昼ごろかと思わせる位で。
‥ん‥そういえば、今朝は朝食を食べた覚えがある‥そうだ。
確か、朝起きて‥朝食を食べて‥それから‥何をしていたんだ?
確か‥‥確か!
俺はラスキから‥逃げて、その最中に階段から‥
‥ふと、周囲を見回して‥そして。
そのラスキと視線が合う。
「お‥ヨック、目が覚めたか」
視線が合うなり、にっこり微笑んでそんな事を言うラスキ。
ラスキはベッドの横に、イスを持ちだしてきていて‥そこに腰掛けて俺の方を見つめていた。
俺はラスキの言葉に、身体を起こそうとして‥うっ‥
‥まだ身体が痛い‥頭の痛みは消えても、身体はまだ痛い‥か。
ラスキには悪いが、このまま話させて貰うとしよう。
「‥ああ。‥その、ラスキが部屋に‥運んでくれたのか?」
「ん‥ああ、ピノが慌てて部屋に飛び込んできたから‥びっくりしたぞ」
恐らく‥ピノと二人、倒れている俺の所へとやってきて‥二人で運んでくれた、って事だろう。
‥全く‥俺は何をやってるんだか‥。
いや、悪態をつくのは後で良い‥今はちゃんと言わなきゃ‥な。
「ありがとう、ラスキ‥その‥俺、悪かったな‥」
さっきの‥ラスキに言われて、何も言えずに逃げ出したこと‥それを兼ねて「悪かった」と言ったつもりだったが‥
‥当のラスキは、って言うと‥
「ん?何言ってるんだ。友達が困ってるときに助けるのは当たり前だろ」
‥さっきの事を機にしてないのか、はたまた忘れてるのか、それとも‥。
全く、ラスキってヤツは本当に‥‥良い奴なんだから。
‥しかし‥この状態、どうすればいいか‥。
今日は‥そう、今日は「約束」のある日なんだ‥こんな所で寝ている訳にはいかないのに。
‥ん?そういえば‥今は一体何時頃なんだろう。
俺は身体を起こして時計台を‥‥くっ、流石に起き上がるのは痛い‥か。
「おい‥無理すんなって。‥なんだ、時間か?‥今は11時頃だぞ」
‥ラスキのその言葉を聞いて‥俺は呆然となる。
「11時って‥3時間近くも寝てたのか?俺は‥」
「ああ‥お前、ホントぐっすり寝てたぞ。‥疲れてるんじゃねぇのか」
ラスキの俺を気遣う声よりも、俺は‥「失敗した」という気持ちで一杯だった。
そうだ‥俺の「約束」の時間は‥もう過ぎてしまったのだから。
‥待てよ、ラスキ‥ラスキはどうなんだ。
ラスキだって、待ち合わせの時間が‥
「ラスキ‥お前、その‥ランカカちゃんと会う約束だっただろ‥どうしたんだ」
「‥確かにランカカちゃんとは会う約束があったけどよ。‥お前がこんななのに、デートになんか行けないだろ」
その言葉を聞いて‥思わず俺の胸が‥‥軋む様な、そんな音が聞こえた‥気がした。
俺が倒れているから‥デートをすっぽかした、って言うのか‥?
そんな‥そんな‥。
「お前‥俺なんか放っておけばいいのに‥」
思わず‥苦々しくもそう言ってしまう俺。
だって‥俺はラスキに‥酷い事をしてる、って言うのに‥。
「そうもいかないだろ。‥それに‥まぁ、なんだ‥おれもフられちまったんだよ。
 ピノにお願いしてさ、今日のデートは無理だって、断りに行って貰ったんだが‥はは、すっぽかされたみたいでさ」
そんな俺に‥ラスキは軽く笑いながら、そんな事を言うんだ。
‥ラスキ‥違う‥違うんだ‥そうじゃ‥ないんだ‥
「違う‥」
「‥え?」
思わず‥「違う」と声を上げていた俺。
別に‥「言わなきゃいけない」と‥思っていた訳じゃ無い。
確かに、その‥常々そう思ってはいたけど。
でも、それ以上に‥そうだ、ラスキが‥ラスキが‥‥。
‥くっ‥‥‥言う‥か。
言うしか‥無いよな‥。
言わないと‥あまりにもラスキが‥‥くっ。
でも、言ったところでどうなる、っていうんだ‥言ったところで、そんな‥。
‥いや、もう‥隠しておけない。
隠しておくのは‥辛いから‥。
俺の気持ちが‥‥もう、悲鳴を上げ始めているから‥。
だから‥ごめん、ラスキ。
‥本当の事を‥言うから‥。
「違うんだ‥ラスキはフられた訳じゃない」
「え‥?ヨック、何言ってるんだ‥?お前‥」
突然の、俺の言葉に。
ラスキは不思議そうな顔をしながら、そう答える。
‥その表情からは正しく「何言ってるんだ」という様子が伺えて‥
まぁ、そりゃそうだろう。
俺が知らない筈のランカカ‥会ったことの無い人の事を言うんだから。
でも‥俺はそんなラスキの言葉に‥そして視線に。
動じることなく、言葉を続ける。
「ラスキ。‥ランカカちゃんは‥‥いや、ランカカは、行きたくとも行けなかったんだ」
「‥なんで‥なんでそんな事が、ヨックに分かるんだよ」
続けた俺の言葉にも、ラスキのそんな言葉が返される。
その言葉は、先程よりも少しだけ「強さ」が感じられて。
‥もしかしたら、少しだけ「怒り」を感じているのかもしれない。
この状況だ‥ラスキがそう思うのも当然の事、だろう。
でも‥次の‥
‥次の俺の言葉で分かってくれる‥だろう。
俺は‥まるでラスキの視線から目をそらすように、そっと瞼を閉じると‥
一呼吸置いてから、告白をし始める。
‥秘密の告白を。
「それは‥‥ふぅ‥‥俺が、ランカカだからだ」
「‥‥‥‥‥‥‥は?」
俺は告白を終えた後、瞼を開き‥ラスキの姿を見る。
‥俺の言葉に、ラスキの言葉が‥いや、動きそのものが、しばらく止まっているようだった。
ラスキの言動が示すのは‥俺の言葉が理解できないか、あるいは信じられないか‥って所だろう。
そのどちらに対しても、答えとなる事‥してやろう。
「‥良く聞けよ‥‥‥『ラスキさん、こんにちは。‥お元気そうで何よりですね』」
「お‥お前‥その声‥本当にランカカちゃん‥‥な、な‥なんでッ!?」
‥俺はラスキの前で、声色を変えて‥「ランカカちゃん」を演じてみせる。
しかも、その言葉は‥そうだ、確か先週会った時に言った台詞、そのままだ。
俺の声を聞いて‥ラスキもまた、分かったのだろう。
次のステップ‥そう、俺がランカカだと分かった事の次‥どうして俺がランカカなのか、という考えに進んだ様だった。
本当なら‥俺の恥ずかしい趣味が暴かれる事になるのは避けたいが‥
‥もう、それは避けられないだろう。
いや‥とっくに「恥ずかしい趣味」は暴かれている‥か。

「俺はさ‥昔から、高い声を出すのが得意だったんだ‥とは言っても、女の子くらいの声だけどな」
俺はラスキから視線を逸らすと、過去を振り返るように‥話し始める。
ばれてしまった秘密だ‥隠すことなく、全てを話そう。
そうだ‥昔の事から順を追って話した方が良いだろう。
昔‥もっと幼かった頃から。
「まぁ‥長くなるけど、聞いてくれよ‥バカな話だ」

俺は昔‥物心着いた頃から、高い声を出すのが得意だった。
いや、そもそもは‥歌が好きだったんだ。
ある女性歌手の歌が好きで‥何度も歌っていた。
で‥当然女性歌手の歌だから‥キーだって高い。
でも‥当時は子供という事もあって、比較的高い声が出ていたし‥歌うのも苦にはならなかった。
年を取るにつれて、その女性歌手が特別好きで‥という事は無くなったが、それでも好きなのは女性歌手の歌だった。
‥特に声の高い歌手の歌が好きで‥自分で歌うのも好きだった。
いや‥自分で歌うのが好きで‥高い歌を聴いていたのかもしれない。
とにかく、ずっと女性の歌ばかり歌いながら‥俺は年を重ねていったんだ。
だが‥俺は男だ、年を重ねる事で‥声だって自然と低くなる。
‥とは言っても、俺はタルタル族だ。
他の種族‥ヒュームやエルヴァーンと違って、成人の声の男女差が大きい訳じゃ無い。
つまり、男性が女性の声真似をする事も決して不可能じゃないんだ。
ただ‥友人に聞いた話だと、声真似自体は不可能じゃないが、発声と呼吸、そして継続に努力が必要らしい。
最も‥俺にはそんな感覚が全然無かったんだけれど。
‥そうなんだ、俺は幼い頃から、女性の歌ばかり歌っていたせいか‥「そういう声」を出すのが得意で。
自然と女性の声を出すのが得意になっていた‥今でも勿論そうだ。
この感覚‥女性の声を出す感覚は‥なんとも表現しづらい。
だから「どうすれば出せるのか」は、とてもじゃないが口では言えないが‥まぁ、とにかく出せるんだ。
さて。
大きくなってからも、女性の声が出せる俺‥そんな俺が次にしたこと、それは‥
‥女性の格好をしてみる事だった‥所謂「女装」ってものだな。
‥断っておくが、俺だって何も好き好んでやってみた訳じゃ無い。
いや‥興味はあったが‥その‥
‥去年の春頃、その‥‥仲の良かった友人にけしかけられたからだ‥
(それだけ女の子みたいな声が出るなら、女の格好してすれば‥凄いんじゃないか?)
最初は勿論拒んだ‥拒んだが‥友人に「お願い」と言われてから‥
‥仕方無い、とばかりに試してみたんだ。
友人の姉さんが着ていた服、化粧、更にはウィッグまで使って。
そうしたら‥そう、鏡に映った自分を見て‥思わず胸がときめいた、っていうか‥
‥自分で言うのも何だけど、本当に女の子みたいだったんだ。
‥‥最も、化粧だけは‥惨憺たるものだったけどな。
でも、これで‥自分の「女の子の声」だって活かせる。
だから‥だから‥
‥それから、時々女の子の格好をするようになった。
お店の店員さんには「プレゼントだ」と言い張って買った服、化粧品、ウィッグ‥
それを隠し持って、こっそりと身につけて‥堪能して。
でも‥それだけじゃ物足りなくなった。
そうだ‥次は外に出る様になった。
外に出て、ショッピングなんかをしたりして。
ウィッグと化粧で、みんな‥それが俺だとは気付かなかった。
俺の友人に会っても、何も言ってこない‥いや、中には顔を赤くしていたヤツだって居たくらいだった。
でも‥そうだ、あれは‥いつだったか‥
普通に森の区でショッピングをしようと、歩いていたときに。
‥声を掛けられたんだ‥男に。
その男というのが‥‥俺に女装をけしかけた男‥仲の良い友人だったんだ。
‥一応断っておくが、そいつの前で女装をしたのは、最初の一度きりだ。
そいつだって俺が‥ずっと女装をしてる、なんて思ってもみなかっただろう。
で‥そいつは俺にこう言ったんだ。
(君、可愛いね。‥よかったらさ、お茶‥しない?)
そう‥俺を女の子だと思って、お茶に誘ってきたんだよ。
‥俺は‥うん、嬉しかった。
漠然と‥あくまで漠然とだけど、そいつの事が‥気になっていたから。
いや‥もしかしたらはっきりと意識して居たのかもしれないな。
そいつの好きな髪の色のウィッグ‥化粧の好み‥服装の好み‥
俺は合わせる様に、コーディネートしていたんだから。
‥でも‥さ。
いざ、そうやって声を掛けられたときに‥思ったんだよ。
‥そいつが声を掛けてくれたのは‥「俺」であって「俺」じゃない。
そうだ‥女の子の「俺」なんだ。
だから‥俺が女の子じゃないと知ったら。
俺が‥友人の「俺」だと知ったら‥‥。
今更になって、そんな怖さが出てきて‥俺はすぐに逃げ出したんだ‥。
それまで着ていた服も、ウィッグも、化粧品も‥全て処分して。
そして‥女装は止めた‥‥つもりだった。
‥‥でも‥な。
今年に入って、働き始めて‥お金にだって余裕が出来て。
そして‥まぁ‥色々と買ってしまって‥さ。
それでも、着て出かける‥なんて事はしなかった。
‥なんて言うのか、あの時の事を‥少し引きずっていたから‥かな。
でも‥あるとき、俺は出会ってしまったんだ。
‥あれは‥そうだな、練武祭の頃だったから‥5月頃、だったかな。
普通に服を買いに行って、その中で‥綺麗な‥とても良い浴衣に‥出会ってしまったんだ。
‥最も、それは女物で‥「そういう意味」で、着てみたいって思わせる品物だった。
ふふ‥あまりに俺が熱心に見てた物だからさ、お店の人からも「彼女にどうですか」なんて言われて‥
‥つい‥な、買ったんだよ。
で‥買ったら次は‥やっぱり着たくなる。
だから‥だから。
銀河祭の日に、着ていったんだ‥勿論みんなには秘密にして‥な。
大きめの鞄に、浴衣やら化粧品やら色々と詰め込んで‥寮を出て。
‥水の区の、とあるお店の‥トイレの中で着替えたんだよ。
着ていた服は、浴衣の代わりに鞄に詰めて‥俺の秘密の場所に隠して。
そして‥水の区を回ったんだ。
久しぶりに女の子の格好をして‥綺麗な浴衣を着て。
‥凄く充実した時間‥そんな感じがしたんだ。
ふふ‥途中でピノとヤダンに会った時は‥慌てて逃げたけど、さ。
そんな事があったから、俺は‥あますず祭りの時も同じ様に‥女装をして。
そして‥ラスキに会ったんだよな。
‥会った途端、俺は逃げたけど‥ラスキは慌てて追いかけてきて。
その慌てようと‥でも、真剣な瞳に‥俺は‥‥付き合う、って言ってしまった。
そんな‥‥付き合えばどうなるか、分かっていたのに。
‥俺が「女装をした男」だと分かったら‥しかも、寮では同室者だと分かったら‥
でも‥な。
その時まで俺は、ラスキの事をちゃんと見ていなかったんだ。
普段の態度を見てるとさ、ふざけてて、軽くて‥そんなヤツだから、いざとなったら消えればいい、なんて思って‥な。
でも‥‥でも。
ラスキとデートをする度に‥俺の考えは変わっていった。
‥変えざるを得なかったんだ。
ラスキは‥何事にも真剣で‥真摯で‥いつも相手のことを考えてくれる。
それは何も、ランカカを相手にしたときだけじゃない‥普段だってそうだった。
そして俺は‥ラスキに段々と惹かれていって。
‥でも逆に‥だんだんと会うのが嫌に‥いや、怖くなってきたんだ。
そうだ‥俺が男だとばれたら‥俺が同室者だとばれたら‥俺が‥
‥苦しかった‥辛かった‥怖かった‥もう‥‥もう‥‥。
だから‥俺は今朝、逃げ出してしまったんだ‥。
女装から‥ラスキから‥そして、ラスキへの想いから‥
‥逃げられるはずなんて、ないのに‥な。
だから‥‥‥ごめん、ラスキ‥。

俺の‥長い身の上話を終えるまで。
ラスキは何も言わず、ただ黙って‥俺の話を聞いていてくれた。
そして‥俺の「ごめん」という言葉の後。
ラスキは‥‥
‥一つ、ため息をこぼした後‥こう言って立ち上がったんだ。
「‥‥悪ぃ‥‥少し‥少し、考えさせてくれ」
そう言って、部屋を出るラスキを‥俺は止められなかった。
‥止められるハズが、無いじゃないか‥。
それまで付き合っていた女の子の正体を知ったせいか‥
寂しそうに‥そして悲しそうに肩を落として歩いて行くラスキに‥
‥掛けられる言葉なんて、あるはずが無かったんだから‥。


 
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