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星芽寮交響曲

29話『帰還』

 ←28話『ラスキとヨックの‥』(*) →30話『告白』
10月2日 夜

 

夜‥すっかり宵闇を帯びた街並み。
所々に置かれた、淡い光の街灯。
どことなく‥なんとなく、故郷よりも涼しい‥いや、肌寒いと言っても良い空気。
戻ってきた‥戻ってきたんだ。
久しぶり‥約1ヶ月ぶりに、ここ‥ウィンダスへ戻ってきたんだ。
ウィンダスで過ごしたのは、半年にも満たない‥それなのに。
それなのに、ボクが「戻ってきた」と思うのは、きっとこの街に‥
‥ともかく、ボクは感慨深い思いを胸にして、森の区を歩いている。
一路、居住区へと向けて。

あの日‥9月の頭に。
ボクは故郷からの連絡を受けて、ウィンダスを後にした。
‥母さんが倒れた‥そんな話を聞いて、ボクは‥いてもたってもいられなくなって。
慌てて荷物をまとめ、ウィンダスを後にしたんだ。
ウィンダスからマウラを経由し、更にアトルガン皇国を経て‥そこからガ・ナポ大王国へ。
ボクの故郷の村は、更にその先にあるから‥結局到着まで優に10日は掛かってしまった。
‥道中、母さんの事が心配で‥気持ちがやきもきしていたものだけれど。
それは良い意味で裏切られる事になる。
ボクが到着した頃には、母さんはもう病気から回復していて(どうやら過労だったらしい)。
母さんの元気な様子を見た時の、あの安堵感と言ったら‥本当になんと表現して良いものやら。
折角故郷にもどってきたのだから‥と、家族に強く言われて。
ボクは近況報告を兼ねながら、母さんの容態を看たり、兄弟の様子を見たり。
‥結局、ゆっくりと‥そう、4日ほど過ごす事になったけれど‥
ゆっくりとした時間の流れの合間に、ボクは‥色々と考えさせられる事があった。
‥考えた内容?それは‥‥うん、大事な事だ。
とても‥とても大事な事。
大事な事が何か、というのは‥また改めて話す事にして‥
そんな大事な事を考えていく最中、ボクは「ウィンダスに戻りたい」と考える様になった。
‥仕事の事。
‥みんなの事。
そして‥‥
色々な考えが、ボクの心の中で「ウィンダスに」と‥急かしていたんだ。
結局、故郷に帰って5日目、ボクはウィンダスへの帰途に就いた。
‥その帰途が、色々と‥問題があって。
乗船便数の少なさ‥航海中、嵐の襲来での遅延‥なんやかんやとあったせいで、戻ってくるのがこんなに遅くなってしまったんだ‥。
本当はもっと‥もっと、早く戻ってきたかったけれど‥。
まぁ、悔やんでいても仕方がない‥
とにかく‥今は。
少しでも早く、居住区に向かいたい‥星芽寮へと戻りたい‥
そう考えていたからだろう、ボクの足は‥いつもよりも早足になっていた。

‥なんて考えていたボクだったけど‥
「‥‥ふぅ‥」
ボクは今、大きなため息をついている‥それも寮の扉の前で。
別に扉に鍵が掛かっている‥なんて訳じゃ無い。
なんとなく‥なんとなく‥
‥寮に入りづらい‥。
思えば、1ヶ月も寮を離れていたんだ‥こうして戻ったときに、みんなになんて言えば良いんだろう?
「ただいま!」「ご無沙汰してました」「今戻ったでー!」
‥頭の中に言葉が浮かんでは消え‥浮かんでは消え‥
いや、そこまで気にする必要は無いのかもしれない‥
‥まぁ、最後のは「無い」としても。
そもそも、扉を開けた先に必ず誰かが居る、って訳でも無い。
‥時間としては、夕食の時間は終わっている頃だろうし‥下手すればみんな部屋に居るかもしれない。
ヘンに声を出さずに、ゆっくりと部屋に戻るのが良いのかもしれない‥うん。
そうして、明日の朝にでもみんなに挨拶をする‥それも良いかもしれないな。
‥朝、ちょっとした騒ぎになるかもしれないけれど‥。
えーい、考えていても仕方無い。
ここは当たって砕けろ、だ。
ボクはそう自分に言い聞かせると‥思い切って扉を開けた。
‥扉を開いた、ボクの目の前には‥‥。

「ふぅ、たまには遅めの風呂、ってのもいいもんだな、ピノ」
夜のお風呂場‥その脱衣場で。
ヤダンは「あぁ、さっぱりした」という言葉の後にそう続けた。
ふふ、ヤダンはなんだかいつもよりも肌の色が良いみたい‥長風呂したせいかな?
「ふふ、そうだね。レイトさんやハランさんとおしゃべりできたし」
そう、長風呂になったのはレイトさんやハランさんとお喋りしていたからで‥
っと、簡単に説明しなきゃ、ね。
僕達は普段なら、夕食を食べる前にお風呂に入るんだけど‥
今日は‥お昼頃から僕とヤダン、二人で出かけていて。
まぁ、ちょっといろいろとあって、帰ってくるのが遅れちゃったんだ。
更には、ヤダンが「腹も減ってるし、先に食事にいこうぜ」って言うものだから、お風呂を後回しにしたんだけど‥
結局、食事の後もおしゃべりやら何やらで、お風呂に入るのが遅くなっちゃって。
‥ふふ、でも、いつもと違う時間帯のお風呂‥っていうのもいいよね。
レイトさんやハランさんの様に、普段はお風呂場で顔を合わさない人とかとも会うし、ね。
みんなやっぱり、生活のリズム、っていうのがあって‥勿論「お風呂に行く時間」だって決めてあるみたいだし。
そうなると、そのリズムはあまり崩さないみたい。
だから、お風呂に行っても同じ面々と会う事が多くて‥
‥え?部屋ごとに、お風呂に入る時間が決められてるんじゃないのかって?
それはそうなんだけど‥うーん、そのルールも、形骸化してるみたいなんだよね‥。
まぁ、それはともかくとして。
お風呂から上がった僕達は、きれいに体を拭き終えて‥急いで下着と寝間着を身につける。
‥もう10月、最近は夜も少しずつ寒くなってきてるし‥風邪をひかないようにしないと。
僕はちゃんと寝間着を着て、そして髪を乾かせていたんだけど‥その時。
「‥ん?なんだ‥?」
まだ、寝間着を着る途中だったヤダンが、そんな不思議そうな声を上げたんだ。
ヤダンの方を見ると、ぼーっと脱衣場の入り口‥廊下へ続く方の入り口を見ていて。
‥一体どうしたんだろう?
「どうしたの、ヤダン‥何かあったの?」
程よく髪の水分を拭き取った僕は、ヤダンの方に向かいながら‥ヤダンに尋ねてみる。
ヤダンは腕を組み、首をかしげている‥所謂「悩むポーズ」を取っていて‥うーん?
「いや‥なんか廊下から大きな声が聞こえたような気がしたんだよ」
ヤダンはずっと首をかしげたまま、そう答えて‥
よくよくその表情だとか、口調だとかからすると、イマイチ自信がなさそうにも見える。
‥いや、なんとなく‥だけどね。
でも確かに‥ヤダンが不思議に思うのも、もっともな事だと思う。
‥この時間‥寝るのにはまだ早い時間だけど、流石に廊下で騒ぐ様な時間でもない。
でも、確かヤダンって、耳が良い方だって聞くし‥
そうそう、以前口の院でヤダンは‥って、それよりも。
まぁ、悩んでいても仕方無いし‥何かあったのなら、直接見てみれば良いよね。
百聞は一見にしかず、ってひんがしの国のことわざにもあるんだから。
という訳で‥僕は廊下へ続く扉の方へと向かったんだ。
そして、扉を開けるや否や‥
「‥が帰ってきたぞ!」
誰かのそんな声が聞こえてきて。
続いて数人の声が聞こえてくる‥何て言ってるのかまでは分からないけど‥
とにかく、どうやら誰かが帰ってきた事に対して、みんなで大騒ぎをしている様な感じだった。
でも‥‥帰ってきた?‥‥誰が?
誰か今日、遅くまで出かけている人がいたのかな?それとも‥‥
と、そこまで考えて、僕は‥一つの可能性を考えた。
そうだ‥もしかしたら‥もしかしたら、「彼」が帰ってきたんじゃないか、って。
そう考え出したら‥後はもう、止まらなかった。
僕はタオルだとか、替えの下着だとかも脱衣場の籠に置いたまま、慌てて声のする方へと走り出したんだ。
‥声のする方‥つまり、玄関の方に。
すると、そこには‥
やっぱり‥「彼」が居たんだ‥そう。
ディルが‥ディルが帰ってきたんだ!
その‥ディルが帰ってくる、っていう事自体は‥ごく当たり前の事で。
ディル自身が「戻ってくる」って言っていたんだから‥それは自分でも分かっていたことなのに‥それでも。
嬉しいんだ‥ディルが‥ディルがここに居る事が。
‥でも、そんな「嬉しい気持ち」ともう一つの気持ちが‥僕の心の中にある。
それは‥‥なんて言い表せば良いのか‥そう、敢えて言うならば「複雑な気持ち」。
‥‥えっと、その‥‥上手く言葉では言い表せないから‥。
と、とにかく‥そう思う理由の一つは、ディルが故郷に帰る直前に、僕に対してとっていた態度。
以前の様な、優しい態度じゃなくて‥素っ気ない様な態度に‥僕は凄く‥寂しくて‥悲しくて。
でも、それは‥うん、以前にも考えたけれど、ディルに確かめれば理由がはっきりする事だ。
解決方法も分かっているから‥だから‥これは「大きな問題」っていう程じゃない。
じゃあ、本当の大きな問題は何なのか‥それは‥。
‥今のディルは、数人に囲まれながらも‥照れ笑いを浮かべている。
いや、照れ笑いを浮かべていたのは、みんなに囲まれていたから‥じゃない。
それは‥そう、きっと「彼」のせいだ。
「‥ディル‥ディルッ!‥お帰り、お帰りなさイ!」
ディルの胸に‥きっと飛び込むようにして、抱きついた‥んだと思うフリスト。
‥「思う」って言うのは、その‥僕が見た時にはもう、フリストは抱きついていたからで‥。
ともかく、フリストがディルの胸に顔を埋めて‥嬉しそうな声を上げて泣いていたんだ。
ディルは、そんなフリストの頭を撫でながら‥照れ笑いを浮かべていて。
更には、照れ笑いを浮かべながらも‥‥その表情は時々、優しそうな表情になって‥フリストを見つめていて。
その状況を見て‥僕は思ったんだ。
ああ、ディルは‥もしかしたらフリストの事を‥って。
そう考えたら‥凄く‥凄く、僕の胸が‥もやもやする、っていうか‥イガイガする、っていうか‥
自分でもよく分からない、そんな‥‥ヘンな気持ちになってしまって‥。
そうなんだ‥それが僕にとっての「大きな問題」なんだ‥。
でも‥でも。
どうして僕は‥ディルがフリストと仲よさそうにしていたら、こんなに‥
‥ううん、「どうして」じゃないよね。
僕にだって‥理由は分かってるんだ。
何故こんな「複雑な気持ち」になるのか‥その理由は。
でも‥僕は‥
「どうしたんだ、ピノ。いきなり走り‥‥おっ、ディルじゃねぇか!帰ってきたのか!」
おそらく、突然飛び出した僕を追ってきたんだろう、ヤダンが僕の後ろからやってきて‥
そして、騒ぎの対象になっているディルを見つけると、そんなうれしそうな声を上げたんだ。
‥勿論、声を上げているのはヤダンだけじゃない。
他の所‥例えば反対側の廊下だとか、あるいは‥
「‥ディル!‥お帰り」
「おおっ、ディル!帰ってきたのか!」
そう言ってやってきたのは‥ラスキとヨックだ。
二人とも、階段の上から騒ぎを聞きつけてやってきたみたいで。
それだけじゃない、他にも‥騒ぎを聞きつけてやってくる人たちが居て。
途端に玄関ホールは大賑わいになったんだ。

みんながひとしきり大騒ぎした後。
どこからか、徐々に静けさが広がっていって。
そう、まるでディルの言葉を待つかの様な、沈黙の時間が訪れたんだ。
そんな感覚を、フリストも察知したのか‥そっとディルから身を離して。
そしてディルも‥一つ咳払いをした後に、話し始めたんだ。
‥とても緊張しているのが、よくわかる‥そんな様子で。
「え‥えっと、何ちゅうたらええんかな。‥その‥‥ただいま、みんな」
静かな玄関ホールに、ディルの‥決して大きくはない声が響き渡って。
そして‥そんなディルの言葉に応える様に、今度はみんなが次々と声を上げる。
「お帰り!」
「お帰りなさい!」
みんなの暖かな「お帰り」の声が‥ディルを包んでいったんだ。
勿論‥僕だって心を込めて言ったよ‥お帰りなさい、ディル‥って。
そんな「お帰り」の声に続いて‥みんなから次々と言葉が投げかけられる。
それは質問だったり‥ねぎらいの言葉だったり。
そんな言葉達に、ディルもうれしそうな‥そして少し戸惑うような、そんな顔をしていて。
‥思えばディルは、帰ってきたばかりなんだし‥長旅で疲れてるんじゃないかな、って僕は思って。
そろそろディルを部屋に‥って声を出そうかと思ったんだけど‥
「ほらほら‥ディルも帰ってきたばっかで疲れてるんだから。今日はここらで休ませてやれよ」
僕が言い出す前に、ヤダンがそんな声を上げたんだ。
ふふ‥ヤダンもやっぱり、ちゃんと見てるところは見てる‥よね。
ヤダンの声に、ディルも「うん‥悪いんやけど、今日は休ませてくれるやろか」って言葉を続けて。
その言葉を合図にして‥ディルの前に居たみんなが、ディルの通る道を空ける。
ディルは「ありがとう」と言うと、置いていた荷物を手に、歩き出したんだ。
みんなが作った道を‥まるでみんなに見送られるように。
僕の前も、通り過ぎて‥と思ったら。
‥ディルは僕の目の前で止まると、そっと‥僕の方を見たんだ。
突然ディルが止まったことに‥そして、僕の方を見た事に。
僕は思わず‥胸がドキっとしてしまう。
自然と僕の視線は、ディルの‥その瞳に吸い込まれる。
‥真剣なまなざしで、僕を見つめて‥そして。
小さな声でこう言ったんだ。
「‥ピノ‥ピノに話したい事があるんや‥明日‥また明日に‥」
僕の目の前で、ただそれだけを言って、ディルは再び歩き出した。
その表情は‥そして、その様子は。
僕に‥素っ気ない態度を取っていたディルとは違う‥
それ以前の‥にこにこしていたディルとも違う‥
真剣で‥ううん、真剣、って言葉だけじゃ物足りない。
何か‥大切な‥重大な決心を心に秘めたような、そんな‥
「‥ピノ、ディルは‥何て言ってたんだ?」
ディルが去って尚、考え込んでいた僕に‥後ろからヤダンがそんな声を掛けてくる。
僕はその声に‥そしてその内容に、まるで飛び上がるように体を震わせながらも‥
ヤダンに向けて、くるりと振り向くと‥こう言ったんだ。
「あ‥うん、何か話があるんだって。明日‥お仕事のことかな?」
本当は‥本当はたぶん、そんな事じゃない‥様な気がするけど‥
‥その‥気がするだけで、そんな事いえないし。
だから‥ヤダンにはそう言ったんだけど‥
「ふーん、仕事の事‥かぁ‥」
ヤダンの言葉は、なんだか‥いつもよりも少し低い声で。
それは、まるでヤダンが納得していないような‥そんな風に僕は思えたんだ。

翌日‥10月3日、火曜日。
僕はいつもの様に朝起きて‥‥いや。
正確には、ちょっとだけ寝過ごしちゃった‥かな。
昨夜は寝るのが遅くなっちゃったから‥。
‥あ、ち、違うよ‥その‥ヤダンとえっちな事をしてた、とかじゃなくて‥その‥
‥ディルの事を考えていたから‥。
ディルは‥何を言おうとしてたんだろう‥何が言いたかったんだろう‥って。
あの真剣な表情が‥なんだか凄く気になってしまって。
‥今日、話がしたい‥って言ってたけど、いつ話をするのかも決めてないし‥
いや、話をする時間については、今日の仕事中‥あるいは休憩時間にでも、分かることかもしれない。
だからまぁ、良いとして‥問題は。
‥そう、問題は‥やっぱり内容だ。
ディルが‥何を考えて‥何を僕に言いたいのか‥僕は‥気になってしまって。
結局、なかなか寝付けないで居たんだ‥。
ともかく、少しだけ寝過ごした僕は、慌てて洗面や着替えを済ませて‥食堂へと向かったんだ。
‥もしかしたら、食堂でディルに会えるかもしれない‥なんて考えたから。
でも‥ディルとは会えなかった‥なんでも今日は、朝早くに寮を出たらしくって。
‥そりゃそうだよね、長い間寮を‥そして職場を離れていたんだから。
戻ってきてからも、手続きとか色々、する事があるだろうし。
実際に午前中は、同じ職場の僕でも‥ディルと話をする暇も無いくらい、ディルは忙しそうに走り回っていて。
少しだけ時間が取れたのは、お昼休みに入ってから‥だったんだ。
それは本当に「少しだけ」で‥本の十数秒‥ううん、数秒くらいだったかもしれない。
ディルは忙しそうに、走り去っていってしまったけど‥
‥でも、その少しの時間の中で、僕はディルと「話す時間」を決めたんだ。
そして‥その時がもうすぐ来る。
仕事を終えた後の‥ウィンダス港。
あの時‥そう、銀河祭の終わった後‥傷心状態だった僕が、ディルと話をした‥あの場所で。

僕が目の院を出たのは‥仕事を終えて、しばらくした後だった。
目の院を出る前に、ディルに様子を聞いてみたんだけど‥
ディルは何かの書類を書いているところで‥「もうすぐ終わるさかい、先に行っといて欲しい」って言ったんだ。
どうやら僕が手伝えるような仕事じゃ無いみたいだったし‥
それなら、とばかりに僕は一足先に目の院を出たんだ。
一人で歩く、ウィンダスの街。
隣にディルが居なくて、寂しい様な‥ほっとする様な、複雑な気持ちが僕を襲う。
もし、隣にディルが居たら‥楽しくお喋りをしていただろうか?
‥いや、きっと‥楽しい話なんてできなかったと思う‥多分。
いや、もしかしたら‥そう、ディルが僕に素っ気なかった訳を聞けたかもしれない。
巡る考え、巡る気持ち‥‥堂々巡り。
しばらく考えた後で、「結局今は隣に居ないのだから、考えても仕方無い」なんて考えに落ち着いたんだ。
‥何を考えてるんだろう、僕は。
やっぱり‥普段とは違う。
どこか‥地に足が着いてない、というか‥フワフワしてる、というか‥。
それは‥ディルが‥ディルが居るから‥。
この後、ディルと話をするから‥だから‥‥
‥あれ?
歩いている僕の先に‥見知った顔が見える。
雑貨屋の隣、丁度居住区へと通じる橋が、架かっている場所で。
顔を少し俯かせながら、誰かを待つ様に立って居るのは‥
「‥フリスト、どうしたの?」
僕の掛ける言葉に、フリストはハッ‥と顔を上げて、僕の方を見る。
そして僕の顔を見るなり‥
「あ‥うん、あの‥サ、ディルを待ってるんダ」
そう言って‥恥ずかしそうに頭を掻いていたんだ。
なるほど、ここでディルが帰ってくるのを待っている、ということは‥
きっとディルとどこかに行こうとか、一緒に寮へ戻ろうとか、考えているんだろう。
‥でも、ディルは今日、僕と話をする約束が‥
そんな言葉を口に出そうとして、僕は思いとどまる。
昨日のあの様子から見ても、フリストは‥きっとディルの事を、その‥想っているんだろう。
だから‥今日、ディルが僕と話をするというのは‥言わない方が良いのかもしれない。
そう考えた僕は‥ただ「そうなんだ‥じゃあ、またね」とだけ言って、フリストの前から去ったんだ。
‥ただ‥フリストの言葉‥「うン、またネ!」という‥元気な言葉が‥
‥僕の心にチクッ、と刺さった様な気がして‥。
嫌だな‥ウソをつくのって‥。

ウィンダス港の‥あの場所。
以前にディルと一緒に夕焼けを見た、あの場所は‥
あれからも、僕が何度か足を運ぶ場所になっていたんだ。
綺麗な夕陽が、海を‥そしてウィンダスを朱く染めていく様が‥とても綺麗で。
僕の、お気に入りの場所になっていて。
そんなお気に入りの場所で、僕は‥夕陽を眺めながら、ディルを待つ。
ディルは、「仕事はもうすぐ終わる」って言っていたけど‥
ディルを待っていたフリストと、少し話をするかもしれない。
ゆったりと構えて、のんびりディルを待とう‥なんて僕は思いながら、夕陽を眺めていたんだけど‥
そう思っていた矢先、僕の背後から‥走るような足音が聞こえてきて。
なんとなく‥本当になんとなくなんだけど‥それがディルの足音の様に聞こえたんだ。
だから‥僕はゆっくりと振り向いてみた。
すると、そこには‥
「‥はぁ‥はぁ‥ごめん、遅ぅなって。待った‥かな?」
よっぽど、急いで走ってきたんだと思う‥
ディルはまるで肩で息をするように、呼吸を荒げながら‥僕の前へとやってきて。
そして、さっきの言葉を僕に言ってみせたんだ。
「ううん、さっき来たばかり‥だよ。随分早かったね」
本当に僕だって、ついさっき来たばかりだし。
僕は自然に、にっこりと微笑みながら答えて‥そして。
‥ふと‥気付いたんだ。
今のディルは‥以前のディルだ‥って。
素っ気ない態度よりも以前の‥あの優しいディルで‥
‥だから僕も、自然に微笑みを返す事が出来て‥。
‥っと、それよりも‥そう、ディルが早く来てくれたのは良いことだけど‥一つ気になる事がある‥。
「それよりも、フリストが‥」
「あ、フリストは‥話がしたい、って言われたんやけど‥先約があるから、って言うてきたんや。
 ‥悪いんやけど、また夜にでも‥って言うてな」
僕の言葉を遮る様にして、ディルはそう言って。
‥その表情は、徐々に‥真剣なものへと変わっていったんだ。
そう‥昨夜、ディルが僕に向けていた‥あの表情に。
僕は‥そんなディルの前で‥言葉も出せずに、ただ‥息をのんだ。
「早速やけど‥本題に入っても、ええかな。あ‥でもその前に、聞いて欲しい事があるんや。
 ああ、更にその前に‥ちょっと、座ろか。‥長い話になるかもしれんから‥」
ディルはそう言うと、主道からは少し離れた、緩やかな斜面になっている場所を指さして、歩き出した。
僕もディルの後を追って‥そして、その場所に腰掛ける。
‥そこからは丁度海が‥そして太陽が綺麗に見える‥そんな場所で。
僕とディルは、二人並んで腰掛けて。
そして‥ディルの話が始まったんだ。

 まずは‥まずは、ごめん‥ピノ。
 ボクは‥ピノに酷い事をしてた‥それは‥自分でも分かってるつもりや。
 ‥ボクが故郷に帰る前の‥しばらくの間、ボクは‥ピノに冷たくあたってた‥。
 でも、それはピノに悪意があってやってた訳とは違うんや。
 それには、訳があって‥その‥‥
 ‥どこから話したらええやろか‥‥せやな、あますず祭りの日から‥やな。
 あますず祭りの三日目‥丁度ボクは、お祭りの会場で‥ピノを見かけたんや。
 ‥その‥ヤダンと一緒に、二人‥だけで歩いて、楽しそうに笑ってた‥そんな所を見たんや。
 そしたら‥その‥‥自分でもよう分からんのやけど‥‥
 ‥無性に嫌な気分になってしもうて‥な。
 ‥こんなん言うてても、分からん‥わな‥ちゃんと‥ちゃんと話すわ‥。
 最初は、二人が‥ピノとヤダンが一緒に居るのも、どうとも思わんかった‥いや、思わんようにしよう、って思ってたんや。
 でも‥そう考えれば考えるほど、意識してしもうて‥
 心の中では「なんで二人が一緒にお祭りに来てるんや」って‥そんな勝手な事を思い始めてもうて‥
 それから次に‥なんでそんなに二人を意識するんや、って‥考えるようになったんや。
 冷静に‥冷静に考えてみたら‥その時に答えは出てたハズやのに‥。
 でも、ボクは‥逃げたんや‥考えんとこう、思て‥自分の心と向き合う事から‥逃げたんや。
 でも‥でも‥逃げてもうたら、それから‥
 ‥二人が‥ピノとヤダンの二人が仲良うしとるトコを見るのが‥ううん、一緒に居るのすら、見るのが嫌になった‥
 目を‥背けとうなった‥せやから‥ボクは‥
 ‥ピノから‥現実から目を背けて‥接するのを止めよう、って‥思ってもうたんや‥
 それで‥ボクはピノに‥冷たく当たって‥
 せやから‥ごめん‥本当に‥ごめん‥‥。
 こんな‥ボクの我が儘で、ピノを酷い目に遭わせておいて‥
 今更こんな風に謝るのも‥何やねんけど‥本当に‥

ディルの、今日何度目かの「ごめん」の言葉を‥僕は手を出して止める。
手の平を開いて、ディルの顔の前に出してみせて‥そして、首を左右に振ってみせた。
‥最後に、「もう良いよ」という気持ちを込めて‥にっこりと微笑んで。
そう‥僕には、もう済んだことだ。
確かに、その‥素っ気なくされた時は辛かったけれど‥
‥でも、ディルが僕を嫌っている訳じゃ無かった‥それが分かっただけでも、僕は嬉しい。
でも‥「ディルが本当に伝えたいこと」は、この事じゃないよね‥多分。
だから‥僕は何も言わずに、ディルの言葉‥その続きを待ったんだ。
‥そんな僕の思いが‥ディルにも解ったのかな。
ディルはまた‥ゆっくりと話し始めたんだ。

 その‥今回、故郷に帰って‥自分自身、ゆっくりと出来る時間があったんや。
 ゆっくりとした時間を持てたボクは‥今更ながらに、自分の気持ちと向かい合ってみた。
 ‥どうしてあの時、二人を見るのが嫌やったのか‥
 どうして‥どうして‥って。
 ‥それは‥とっても簡単な事‥やったんやな。
 そうや‥とっても簡単‥単純なことやった。
 でも‥どこか、自分の中で‥「認めたくない」っていう思いがあったのかもしれへん。
 認めたくないから‥目を背けていたのかもしれへん。
 でも‥認めたい、認めたくない以前に‥自分はもう、そうなっていたんやから。
 勇気を持って‥なんて言うたら大げさやけど‥自分の気持ちを‥確認したんや。
 ‥ボクは‥‥ボクは。
 ボクは‥ピノが好きなんや。
 その‥友達以上に、好き‥なんや。
 ピノが好きやから‥せやから、ヤダンとピノが一緒に居るときに‥嫌な気分が出てきて‥
 二人の仲がええ所を、見たくは無かった‥
 二人はそんな関係やない、そう思ってても‥見たく無かった‥。
 それに‥自分も男が好きなんや、っていう事から‥目を背けたかったのかもしれへん。
 せやから‥見たく無かった‥何もかも‥見たく無かったんや‥。
 でも‥でも‥
 いくらそう思っても、心の中の本当の想いからは‥目を背けられへん。
 故郷に居る間‥ずっと‥ずっと‥
 ‥ピノに会いたかった‥
 ‥ピノと話をしたかった‥
 ‥ピノと‥‥ピノと‥‥
 ‥‥‥
 ピノ‥凄い勝手な話やというのは‥自分でも分かってる。
 でも‥‥でも。
 ‥ボクと‥付き合って欲しい‥。

ディルは‥静かに、でも‥強い意志‥はっきりとした意志を持って、そう言うと‥
‥ゆっくりと立ち上がったんだ。
でも‥僕は、ディルのその‥突然の告白に、その‥顔を朱くするばかりで。
その‥胸だって、ドキドキしていて‥立ち上がる事も出来なかった。
だって‥だって‥
ディルが‥僕の事を好きだなんて。
一時的なディルの態度に、もしかしたら僕は凄く嫌われていて‥なんて、そんな事すら考えていたのに。
それが‥好きだなんて、僕は‥‥
‥ディルの言葉に戸惑い‥なんて言葉を返せばいいのか、分からない‥
そんな僕の状態を見て、ディルは‥
「返事は‥その‥‥急がへんから。‥ゆっくりでええんや‥また‥な」
とても‥とても優しい、あの‥以前のディルの声で。
僕にそう言い残して、ゆっくりと‥去って行ったんだ。

‥ディルが去った後も‥しばらく‥僕はその場に座り込んだままで。
ただ‥沈みゆく夕陽をぼんやりと眺めていたんだ。
ディルは‥僕の事を好きだと言ってくれた‥
‥じゃあ、僕は‥どうだろう。
僕の心の中で‥ディルの事を考えてみる。
ゆっくりと‥でも、色々な場面が、僕の心の中に蘇ってきて‥
‥僕があげたプレゼントの浴衣を‥嬉しそうに着てくれたディル。
‥僕の着ている浴衣を「似合う」と言ってくれたディル。
そして‥泣いている僕を‥抱きしめてくれたディル‥。
僕は‥僕は‥ディルの事が‥‥
‥‥でも。
そんな中に‥僕の中に、割って入る人が居る。
それは‥
‥‥ヤダン。
ヤダンは‥以前はそんなに意識することなんて、無かったんだ。
だって、ヤダンには彼女が居たんだから。
でも‥でも。
彼女と別れたと聞いて‥そして何より、ヤダンから「好きだ」と言われて。
‥僕は‥僕の心は‥凄く揺れ動いたんだ‥。
確かに、その時はディルに‥その‥素っ気なくされていた、というのもあるけど‥
それだけじゃない‥それだけじゃなくて、ヤダンに‥素直に惹かれていたところもある。
‥いつも優しくしてくれたヤダン。
‥時折、子供っぽい所も僕に見せて‥ひとりえっちだって僕が教えてあげて‥
でも、僕に告白したときの様な、とっても情熱的な一面だってあって‥
僕は‥ヤダンの事も‥‥
それに何より、その‥一緒に、えっちな事だって‥してるんだ。
た、確かに、その‥お互い手で扱き合う程度だけど、それでも‥。
‥しかも、そもそもは僕の方から「しよう」って持ちかけたことだし‥。
でも、この事を‥もし、ディルが知ったら‥。
ディルだって、僕がヤダンと‥えっちな事をしてるって、知ったら‥どう思うだろう‥。
いや‥ディルならきっと‥‥いや、でもやっぱり‥‥
ああ‥僕は‥僕は。
‥どうすれば‥良いんだろう‥。

僕は‥その場を動けないでいた。
考えて‥考えて‥‥考えて。
ディルに何て答えればいいのか‥僕はどう答えたいのか‥
そして‥僕はどうすればいいのか‥‥それだけを考えて‥
僕はずっと考えていたんだ‥夕陽が沈む、その時まで。
‥10月に入ったからか‥夜の空気は、ゆるやかに寒くなってくる‥
でも‥そんな寒さに負けないくらい、僕の心は‥熱く燃えていたんだ。
いつしか、僕の心の中には‥あの人の姿だけがあったから。
‥あの人への‥想いを‥確かにしていたから。
だから、そう‥僕は‥決めたんだ。
‥僕も‥告白しよう、って。


 
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