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 ←29話『帰還』 →幕間(作者よりのお知らせ)
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星芽寮交響曲

30話『告白』

 ←29話『帰還』 →幕間(作者よりのお知らせ)
10月3日 夜

 

夜。外はもう、すっかり暗くて‥普段なら、もうすぐベッドに入る‥そんな時間。
いつもなら、読書に没頭している僕だけど‥今日は違う。
いつもの様に、机に向かってはいるけど‥本は読んでいない。
それというのも‥今日、僕はヤダンに言う事があるから。
絶対に言わなきゃいけない事があるから‥なんだ。
で、当のヤダンは、というと‥
いつもの様に「イメージトレーニング」‥いや、魔力の鍛錬、だったかな?
とにかく、鍛錬に集中していて‥僕の事は全然気にしていないみたいだ。
そんなヤダンの、鍛錬の邪魔をするのは悪いけど‥でも。
‥あれから‥
夕方‥ウィンダス港で夕焼けを見てから、ずっと‥
ヤダンと話をする機会を探していたんだけど‥
‥なんとなく、なんとなく‥話す機会が無い‥ううん、ヤダンに言う勇気が無くって。
結局この時間になるまで、ヤダンには言えずじまいだった‥。
でも‥もう、流石に制限時間いっぱいだ。
今言わなきゃ‥ちゃんと言わなきゃ‥いけないんだ。
決めたんだもの‥僕、告白するって‥決めたんだもの。
僕は目を閉じると、もう一度‥心の中で気合いを入れて。
そして‥ゆっくりと席を立った。
ヤダンが鍛錬をしている、ベッドに向けて‥一歩ずつ、足を踏み出していく。
一歩歩く度に、胸が‥ドキドキするような‥ううん、実際に胸はドキドキと高鳴ってるけど‥
その鼓動がどんどん早く‥そして大きくなっていくような、そんな感じがして‥うぅ。
しっかりしなきゃ‥ちゃんと‥ちゃんとヤダンに伝えるんだ!
気を確かに持ちながら、僕はベッドのすぐそばまで近寄る。
そんな僕の気配に気付いたのか、ヤダンは鍛錬の為に閉じていた瞼を開いた。
まるで「どうかしたのか?」とでも言いたそうな表情で、僕の事を見つめていたんだ。
そんなヤダンが、口を開く前に。
僕は‥ヤダンに向けて言葉を掛ける。
「あ、あの‥ヤダン‥ちょっとだけ時間、良いかな‥?」
緊張しているせいかな‥ちょっとだけ、口が‥舌がもつれるような、そんな感じが僕を襲う。
‥落ち着かなきゃ‥落ち着いて、ちゃんと話さなきゃ‥伝えなきゃ。
ヤダンの反応を待つ間に、僕はもう一度‥自分の心に言い聞かせていく。
そんな僕の様子を見て、ヤダンは‥それまであぐらを組んでいたのを、座り直して‥正座をしてみせたんだ。
「ん‥どうしたんだ、ピノ?」
正座をしたヤダンは、「さあ話を聞こう」とばかりに‥真剣な顔をしていて。
‥どうやら、僕の緊張してる‥じゃなくて、真剣な様子を受け取ってくれたみたい。
僕も‥同じ様に「真剣に話す体勢」を取ろう。
僕はベッドの上に上がると‥ヤダンと向かい合う形で、正座をして。
さぁ‥話そう。
‥話すのは良いけど、どこから話そうか‥えっと‥
‥‥よし。
最後に一つ、深呼吸をして‥
さぁ、言うんだ、僕。
「ヤダン、その‥‥ごめんね。僕、実は‥」
「‥もういい、分かったから‥」
僕が話し出そうとした、その時‥ヤダンは僕の言葉を遮る様にして、苦しそうな声を漏らした。
その表情だって‥苦しそうにみえて‥‥
ヤダン、一体‥どうしたんだろう?
「ヤダン、どうして‥」
「今日の‥そうだな、ピノの‥仕事から帰った後の態度とか、行動とか‥今の話す言葉だとかを聞けば、な。
 その‥俺とはつきあえない、って言うんだろう‥?
 ‥半年間も同じ部屋で過ごしてるんだ‥それ位分かるさ」
ヤダンは最後こそ、少しだけ笑いながらそう言ったけれど‥。
‥それでも辛そうな表情をしているのには違いない。
そんなヤダンの表情を見て、僕が言える言葉は‥一つだけしかなかった。
「ごめん‥‥なさい‥」
その言葉‥一つだけ。
それも‥小さな‥とても小さな声で‥言うのが精一杯だった。
ヤダンは、僕の様子を見て‥そこまで分かってくれていた。
‥それに‥とても辛そうにするほど、想ってくれているのに‥
僕は‥‥ぼくは‥‥‥
ごめん‥‥本当に‥ごめん‥。
「‥ピノまでそんな顔するなよ。俺だって、その‥必死に耐えてるんだぞ‥。
 あと‥さ、良かったら‥‥友達に戻らせてくれよ」
僕は‥きっと今にも泣き出しそうな顔をしていたんだと思う。
ヤダンは最初、少し困った様な顔をして‥でも、すぐに笑って‥そう言ったんだ。
でも、そんな‥「友達に戻らせて」だなんて‥‥
本当なら、僕がそうお願いしないといけない位‥ううん、僕はヤダンを振ったんだ‥
お願いしたって‥拒まれるかもしれないっていうのに。
‥僕が酷い事を言っているのに‥ヤダンはそんな優しいことを言ってくれる‥。
僕は‥ヤダンに甘えてばかりで‥うぅ‥。
そう考えたら、僕は‥やっぱり泣いてしまって。
情けないよね‥僕って‥泣き虫で‥
でも‥でも。
いつまでも泣いてちゃいけない‥ヤダンを困らせるだけだから。
僕は必死でそう思って‥両目を手の甲で擦る様にして、涙を拭う。
泣き止まなきゃ‥涙を止めなきゃ‥ヤダンの為にも。
「うん‥泣いてちゃ、可愛い顔が台無しだ‥なんてな。‥さ、もう時間も遅いし、寝よう」
とりあえず僕が泣き止んだのを確認したヤダンは、そう言うと室内照明を消しに掛かる。
‥いつもよりも少しだけ早いけど‥確かにそろそろ寝た方がいいかもしれない。
今日は火曜日‥一週間は始まったばかりなんだから。
ヤダンが灯りを落とし、そして‥ベッドに戻るのを見計らって。
僕はいつもの様にヤダンの‥
「‥待ってくれ。ピノ、その‥気持ちは有難いんだけど‥さ。何て言うのか‥」
僕がヤダンのベッドに入ろうとした、その時に。
ヤダンは言い辛そうにそう言って‥僕を制止する。
そんなヤダンの態度を、僕は不思議に思って、少し考え込んでしまったんだけど‥
‥なるほど、ヤダンの言いたい事が‥少し分かった様な気がする。
今までの様に、一緒のベッドで‥手を繋いで寝る、というのは‥
‥多分‥多分だけど、僕の恋人となる人に申し訳ないから‥きっとそう考えて‥。
いや、振られた相手に手を‥‥ううん、そういう風に考えるのは止めよう。
でも、ヤダンは大丈夫なのかな?その‥手を繋がなくても、眠れるのかな?
そんな風に僕は思ったんだけど‥ヤダンはまるで、僕の考えている事はお見通しだ‥とでも言う様に、こう言ったんだ。
「‥ああ、大丈夫。実はさ‥俺だって、もう一人で眠れるんだから」
少し照れくさそうに‥でも、少し得意げに‥なんて言ったらヘンだけど。
ヤダンは頭を掻きながら、そう言って。
‥そうなんだ‥それなら‥
「うん、分かった‥それじゃあ僕は、僕のベッドで寝る‥ね」
僕はそう言って‥自分のベッドへと入る。
久しぶりに入る、自分のベッド‥とは言っても、お昼寝をする時とかは、こっちで眠っているし‥。
ずっとこっちでは寝ていない、なんて訳じゃあない。
‥それでも、いざ入ってみると‥自分のベッドはなんだか、いつもと違う布団の様な気がして。
‥いつもの布団‥ヤダンと一緒の、温かい布団と‥比べてしまう‥のかな。
「‥お休み、ピノ」
「‥お休み、ヤダン」
自分のベッドの感覚に、戸惑っている僕に。
ヤダンから「お休み」の言葉が飛んでくる。
‥そうだね、ちゃんと「お休み」の挨拶を言っていなかったものね。
僕も同じ様に「お休み」の言葉を返して‥そっと‥目を閉じて。
‥目を閉じたのは良いんだけれど‥なんだか‥なんだか。
こうして一人で寝る、というのは‥ヤダンと一緒に寝ないっていうのは‥ヘンな感じなんだ。
おかしいな‥僕はそんな、手を繋がなくても‥眠れるハズなのに。
‥ううん、きっとこれは‥喪失の‥寂しさなんだ。
今まであった、ヤダンの手という温もり‥それを失った‥寂しさ‥。
だから‥だから僕は‥
‥眠れずに、そんな考えを進める僕の耳に。
小さな‥小さな音が聞こえてくる。
‥規則的‥ううん、不規則的に‥鼻を鳴らして‥それはきっと‥
ヤダンの‥ヤダンの‥泣いている声‥?
「ヤダン‥」
「‥今は‥お、俺の事‥見ないでくれよ‥‥頼む‥から」
ヤダンの方を見ると、僕とは反対の方を向いていて‥その表情は見えない。
でも‥きっと泣いている‥そんな気がする。
‥ヤダンは‥やっぱり手を繋がないのが‥‥いや、もしかしたら‥
‥僕が‥ヤダンを振ったから‥だから‥泣いているのかもしれない。
もし、そうだとしたら‥
‥僕はなんて声を掛ければ‥いや‥掛ける言葉なんて‥無いんだ。
ヤダンにどんな言葉を掛けても‥それはきっと慰めにはならない‥。
きっと‥僕の自己満足にしかならないから‥。
だから‥僕は‥。
‥ヤダンとは逆の方を向いて‥そして‥ぎゅっと目を閉じる。
目を閉じて、早く‥早く眠れればいい‥早く明日になればいい‥ただそれだけを考えるけれど‥
‥思いに反して、その日は中々‥寝付く事ができなかった‥。

翌朝、僕が起きたときには‥ヤダンはいつものヤダンだった。
その‥少し無理をしている様にも見えたけれど‥でも。
こればっかりは僕には何も‥出来ないから‥。
いや‥僕にだって、これから気をつけなきゃいけない事がある。
今まではどんな事だって、ヤダンと話す事が出来たけれど‥
これからは、ヤダンに嫌な思いをさせない為にも、その‥好きな人の話題とかはしないようにして‥
夜、今まで一緒にしていたひとりえっちだって、止めた方が良いよね‥。
それだけじゃなくて‥これから、色々と変わってしまう‥のかな。
そう考えると、なんだか切ない様な‥苦しいような‥そんな思いが胸にこみ上げてくる。
でも‥でも、きっと徐々に‥お互い普通になっていける‥そんな気がするんだ。
‥今までの様な「元に戻る」事はできなくても‥。
その‥「新しい僕達の関係」になれる‥そんな気がする。

朝こそ、少し戸惑う事があったけれど‥
職場に着いてからは、いつも通りの僕になれた‥と思う。
‥ディルは、昨日に続いて忙しそうで‥なかなか話をする機会は無くて。
‥ううん、昨日のお返事だってちゃんとしていないから‥機会が無かったのは、ある意味有難かったのかもしれない。
とりあえず、午前中は何事も無く、仕事を終えて‥
いや、強いて言うなら‥昨夜、なかなか寝付けなかったからか‥少し眠かった、って事があるかな。
そして迎えた‥お昼休みの時間。
まだ忙しそうにしているディルに、僕はなんとか声を掛けることができたんだ。
とは言っても‥勿論ここで「昨日の返事」をする訳じゃ無い。
返事をする為の‥待ち合わせについて、の事。
時間は‥昨日と同じ様に、仕事を終えた後。
場所は‥やっぱり「あそこ」しかない‥よね。
僕の申し出に、ディルはにっこり笑って頷いて‥でも、すぐにまた仕事に戻ってしまって。
いや、今はディル自身、忙しい時だもの‥仕方無いよね。
なんて、忙しいのを他人事のように捉えていた‥罰が当たったのかな。
午後からは一転して、僕の仕事が忙しくなったんだ。
‥本当にもう、びっくりするくらい。
なんとか終業時間までには、間に合わせるように‥と頑張っていたんだけど、力及ばず‥
少々の残業が必要になってしまって。
‥更には、僕とは逆に‥ディルが終業時間迄に仕事を終えたみたいで。
本当に、昨日とは正反対‥っていう状態だったんだ。
だから‥昨日ディルが僕に言った様に、僕もディルには先に「あの場所」へ行って貰う事にして。
僕も慌てて、残りの仕事をこなしていったんだ。

夕暮れ時。
何とか仕事を終えた僕は、「あの場所」へと向かった。
目の院を出るのに、ディルから遅れること、約10分‥くらい。
昨日とは逆に、ディルが待っているハズだから‥急いで追いかけなきゃ、とは思ったんだけど‥
‥僕は走り出すことができなかった‥。
今頃‥告白する直前になって、その‥‥怖くなってしまったんだ。
‥昨日、ディルに告白されて‥それに僕が応える‥
その一体何が怖いのか、なんて思われるかもしれない。
確かに‥確かにそれだけなら、怖いことなんて無いと思う。
でも‥僕には、「返事」に加えてもう一つ‥打ち明けることがあるから‥。
打ち明けること、それは‥ヤダンと、その‥‥えっちな事をしていた事‥。
そう‥僕とヤダンは、その‥お互いのちんちんを弄りあったりしてるんだ‥。
それも、僕の方から「しよう」って‥言い出した事だし。
そんな事、黙っておけばいい、なんて言われてしまいそうだけど‥
もしバレてしまったら‥いや、ヤダンがそんな事を言うなんて、思ってもいないけど‥。
それに‥隠しておきたくない、そんな気持ちが‥僕の中にあるから‥。
だから‥だから‥
僕は打ち明けるんだ‥ディルに‥全てを。
もしかしたら、それで‥ディルは僕の事を嫌うかもしれない。
‥軽蔑するかもしれない‥。
でも、それはそれで‥仕方無い‥よね。
‥身から出たさび、っていう事だもの‥ね。
とにかく‥そんな事を考えると、僕は‥怖くて‥走り出すことができなかったんだ。
‥ただ‥ゆっくりと‥歩いて‥歩いて。
勿論それでも、目的の場所は近づいてくる。
昨日の様に、フリストとか‥見知った顔に会うこともなく、僕は‥
‥「あの場所」へとたどり着いたんだ。

「ディル、お待たせ‥遅くなって、ごめんね」
ウィンダス港の‥あの場所で。
夕陽を眺めているディルの、背中に‥僕はそっと声を掛ける。
その言葉に反応するように、ディルはゆっくりと僕の方を向いて‥。
そして‥いつもの微笑みを浮かべつつ、優しい言葉を掛けてくれる。
「いや、全然待ってへんよ‥うん」
僕はそんなディルの元へと歩いて行って‥そして‥
‥ディルのすぐ目の前で‥足を止める。
‥ここまで歩いてくる間、ずっと‥胸はドキドキと高鳴りを続けていて。
でも‥でも、言わなきゃ。
勇気を出して‥言わなきゃ。
僕が決心して、口を開きかけた‥その時。
「‥昨日な、その‥フリストに告白されたんや」
僕が口を開く、その直前に‥ディルは話し始める。
‥優しい表情の中に、少し困った色を浮かべている‥そんな表情で。
僕はと言えば、その言葉を聞いた途端、昨日の‥フリストの様子が脳裏に浮かび上がって。
やっぱり、フリストは‥ディルに告白しようとして‥‥でも‥
「でもな、ボクは‥フリストの事をそういう風には見られへん‥弟の様にしか見られへん、って言うたら‥
 ‥‥泣かれてもうてな」
そう言うディルの表情は、いつのまにか‥もの悲しそうな表情に変わっていて。
‥ディルは優しいから‥だからフリストにそう言うのだって‥辛かったんだと思う‥
フリストだって勿論‥辛くて‥辛くて、だから‥泣いてしまって‥。
でも‥‥でも。
フリストの為にも、僕は‥ちゃんとディルに応えなきゃ。
‥ううん、勿論フリストの為だけじゃない‥ディルの為にも‥
‥‥僕の為にも。
「昨日も言うたけど‥ボクは‥」
「‥僕も、好き‥ディルの事が‥好き」
ディルが僕に、再び‥想いを告げようとする‥その前に。
僕はディルに告げる‥想いの言葉を。
僕の‥そんな想いの言葉を、ディルに伝えた途端。
ディルは‥満面の笑顔を浮かべる。
「ピノ‥!ほしたら‥」
「‥でも‥ね、ディル。ちょっとだけ‥聞いてくれるかな?その‥‥話したいことがあるんだ‥」
でも‥そんなディルの笑顔を‥まるで遮る様に。
僕は、改めて言葉を続ける。
そう‥ディルに対して、ちゃんと‥‥ヤダンとの事を打ち明けるために。
‥きっとその時の僕は‥真剣‥いや、思い詰めた様な表情をしていた‥と思う。
ディルもそんな僕の様子に気付いていたんだと思う‥すぐに真剣な表情になって、そして‥
‥「分かった」と言う様に‥こくりと頷いたんだ。
「あの‥実は、僕‥‥この前から、ヤダンと、その‥‥えっちな事、してる‥んだ‥」
最初こそ「言わなきゃ」って気持ちが強くて、ちゃんと喋れていたんだけど‥
‥その‥やっぱり「嫌われたらどうしよう」って不安が出て‥それに言うのだって‥恥ずかしくて‥
段々と僕の声は、尻すぼみになっちゃって‥。
でも、ディルには‥ちゃんと聞こえたみたい。
その‥ディルの真剣な表情が、すぐに驚きへと変わって‥
それから更に、その‥頬を朱く染めながら、恥ずかしそうな表情をしていたから‥。
「そ、その‥‥ヤダンとは‥ど、どんな事‥したんや‥?」
ディルは、恥ずかしそうに‥少し小さめの声で、そう聞いてくるんだ。
‥って、ああっ‥そ、そうだ‥
さっきの僕の言い方じゃ、その‥す、凄い事してるって思われてる‥かもしれない。
ちゃんと言わないと‥
「え、えっと‥その‥お互いの‥ちんちんを、手で扱き合う‥の‥」
ちゃんと言うのは恥ずかしいけど‥でも‥
‥へ、ヘンな誤解されてちゃ、いけないもんね。
そう思って僕は言ったんだけど‥
「‥え‥‥そ、それだけ‥か?」
ディルからは‥そう、驚きの表情と共に、そんな言葉が返ってきて。
え‥っと‥ディルはやっぱり凄い誤解をしてたみたい‥だね‥。
い、いや‥でも‥その‥‥手で扱き合うのでも、その‥やっぱりいけない事だし‥。
「う、うん‥それだけ‥だよ‥」
「なんや‥そうかぁ。それやったら‥ええ、言うたらちょっとアレやけど‥構わへんよ」
僕の応えに、ディルは‥少しほっとしたような、そんな表情をして。
最後には‥微笑みながら、そう言ってくれたんだ。
‥でも‥‥でも‥
「でも‥その‥‥男同士でそういう事、するのって‥‥その、付き合ってもいないのに‥」
「‥あー、いや‥ボクもな、昔‥ひとりでする「やり方」を‥友達に教えて貰た時にな‥他人にして貰うのがごっつ気持ち良うて。
 何回か‥その友達と、扱き合った事があるんや。‥せやから、って言う訳やないけど‥おあいこでええんとちゃうかな?」
僕の「男同士でそういう事をするのは」っていう考え方を‥
ディルはあっけらかんと「ボクもした事あるからおあいこや」って‥笑って答えてくれて。
‥ディルは‥やっぱり優しい‥。
でも‥‥。
もう一つだけ‥うん‥。
「あのね、ディル‥実は、僕‥ずっと‥失恋した時に、慰めて貰ってからずっと‥
 ‥ディルの事を想っていたのかもしれない。でも‥それでも‥
 僕が‥僕の方から、ヤダンに「しよう」って声を掛けたんだ‥‥それでも‥」
そう‥僕の心の中には、ずっと‥ディルへの想いがあった‥。
それなのに僕は‥ヤダンと‥してしまって。
それでも‥ディルは僕の事を‥許してくれるかな‥って。
そこまでは‥厚かましくて、言葉には出来なかったけれど。
でも‥僕の質問にディルは、優しい笑顔でこう聞き返してきたんだ。
「‥なぁ、ピノ‥今の話しぶりやと、それってここ最近‥ボクが故郷に帰ってる間の事やないかな?」
ディルの言葉に、僕は‥こくり、とゆっくり一つ、頷いて。
それを見たディルも、納得した‥とばかりに二つ、頷いたんだ。
「せやったら。‥ボクの事を想てくれてたのに‥ボクが酷い事をしたから。
 ‥ボクが冷たく当たってしもうたから‥やよ。‥ピノが悪いんやない‥ボクが悪いんやから」
そんな‥僕が‥僕が悪いに決まってるのに。
それなのにディルは‥自分が悪いと言って‥僕に優しく‥。
僕は‥僕は‥もう、もう‥。
嬉しさに‥安堵感に‥そしてディルの優しさに‥たまらなくなってしまって。
気がついたときには、ディルの胸に‥抱きついていたんだ。
ディルの胸の中で‥涙がこぼれそうになるのを‥ううん、こぼれるのを感じながら‥
心からの想いを‥呟いていたんだ。
「ごめん‥ありがとう‥ディル‥好き‥‥大好き‥」
想いばかりで、言葉に‥文になっていない、僕の声を‥そして身体を、ディルは温かく受け止めてくれて。
僕の背中と‥そして頭を優しく抱きしめながら‥囁いてくれたんだ。
「‥ボクの方こそ、ありがとうな‥‥ピノ‥大好きやで」
このまま‥ずっとこのまま‥
‥温かいディルに包まれて‥ずっと居られればいいのに。
そんな思いを抱きながら‥夕焼けの中で、僕達はしばらくの間、抱き合っていたんだ。

「あのね、ディルは‥‥その、ヤキモチ焼いたりしない?」
僕達二人が抱き合って‥どれくらいの時間が経った後‥だろう。
僕達は、どちらともなく身体を離して‥そしてお互いの顔を見合ったら。
‥なんだか、急に照れくさくなっちゃって‥笑い合って。
「え?それってどういう事なん‥?」
ひとしきり笑い合った後‥「ほな、帰ろか」っていうディルの一声で、僕達は寮へと向かったんだ。
その‥寮への帰り道は、勿論何度も通った事のある、何の変哲もない道だけど‥
こうしてディルと二人並んで歩くと‥なんだか新鮮に思えて。
「だから‥その、僕がヤダンと‥」
おかしいよね‥別にディルと二人歩く事なんて、珍しい事じゃないのに。
今までと同じ様に、僕とディル‥並んで二人歩いているだけなのに。
‥‥ただ‥
「‥あぁ!‥‥うーん、せやったら‥」
今までとは違う事だってある。
‥昔、隣に居たのは‥友達としてのディルで。
‥今、隣に居るのは‥恋人としてのディルで。
「せやったら?」
それは小さな違いなのかもしれない。
‥しれないけど‥その小さな違いが、僕には‥僕の心には、とても‥大きいんだ。
だから‥‥
「せやったら、ボクともしよか?」
「‥え‥ええっ!?い、今から‥?」
‥って、僕が考えている間に、ディルってば何てことを!
その‥今から‥僕と‥ディルが‥えっちな‥‥なんて‥。
ディルの言葉に驚いた僕は、慌ててディルに聞き返したんだけど‥
「いっ、今からて‥‥いや、そういう訳や‥‥ん‥べ、別にええけど‥」
‥どうやらその反応からして、ディルは「今からしよう」って思ってた訳じゃあ無いみたい‥。
でも‥け、結果としては、今からするのも‥構わない、って事‥だよね‥。
えーっと‥
「あ‥うん、分かった‥僕も‥その、ディルとだったら‥‥したいから‥」
恥ずかしいけど‥でも、本当の事、だもんね。
だから‥僕は顔を朱くしながらも、そう答える。
‥本当に恥ずかしいんだから‥。
でも、そんなドキドキしながら言った、僕の言葉に。
‥肝心のディルは、って言うと‥。
「‥ピノって、案外えっちなんやなぁ‥」
そんな事を言ってくるんだから‥もう。
「ど‥どうせ僕はえっちですよ!‥もう、ディルとえっちな事、しないもん!」
僕はちょっとだけ‥わざとらしく怒ってみせて。
‥ふふ、これくらい、言ってもいいよね?
「あーっ、ごめん、ごめん!ピノ、ボクが悪かった‥ボクかてえっちなんや‥せやから‥しよ?」
ふふ、僕の怒ったフリにつられるように、ディルは‥顔の前で手を合わせながら、そんな事を言ってくるんだから。
‥もう、ディルってば‥ふふ。
「しょうがないなぁ‥じゃあ、えっち‥‥するにしても、場所とかどうしよう‥」
僕はしょうがない、とばかりに話し始めたんだけど‥
‥そうなんだ、問題がまだあるよね‥‥ズバリ「場所」だ。
その‥‥今までヤダンとしていた時は、部屋の中で堂々とできたけど‥
ディルが相手だと、そういう訳にもいかない。
僕に同室者のヤダンが居る様に、ディルにだって同室者のヒーラが居るし‥。
寮の外に目を向けてみても、僕達には場所なんて無いし‥はぁ。
「せやなぁ‥場所かぁ‥‥。また、考えるかな‥今日はしょうがないけど、お預けや」
「そうだね‥残念」
結局僕にも、ディルにも‥「場所」という大きな問題の解決策は思い浮かばなくて。
ディルの言う通り、今回のえっちは「お預け」になっちゃったんだ。
その‥えっちな事が出来ないのは残念だけど‥
でも‥でも。
そんな事よりも、もっと‥うん。
もっと嬉しい事‥大事な事‥素敵な事が‥僕にはあったから。
だから‥ふふ、今の僕は‥とっても幸せだよ。
「なぁ、ピノ‥その‥‥お願いがあるんやけど‥」
二人並んで、道を歩く中‥ディルが突然、真剣な声で‥僕にそう言ってくる。
顔を見てみると、表情だって真剣そのもの‥っていう訳では無くて、どこか‥恥ずかしそうに見える。
‥一体何のお願いなんだろう?
「うん、何かな?」
僕はにっこり微笑みながら、ディルに聞き返してみる。
‥すると‥
「‥その‥な、笑わんといて欲しいんやけど‥‥手、繋いでもええ‥かな?」
その言葉を、とても恥ずかしそうに言うディルだったけど‥
‥僕にはそんなディルが‥とても愛おしく見えて。
だって‥手を繋ぐ事は‥僕にとって‥
「勿論だよ‥ディル‥‥ありがとう」
僕はそう言って‥僕の方から手を伸ばす。
‥手の平に触れる、ディルの‥温かな手の感触。
きゅっと握りしめると‥ディルも握りしめてくれて。
「‥ぼ、ボクの方こそ‥おおきにな」
温かい‥温かくて、優しい‥ディルの手の感触‥
‥ディルはきっと知らないよね。
僕が「好きになった人とは、手を繋いで歩きたい」なんて思っていた事を。
知ってるハズが無いのに‥‥でも。
この温かな感触‥手だけじゃない、心まで繋がるような‥
‥僕が望んでいた‥感触。
望んでいた‥かぁ。
‥一瞬、頭の中にあの時‥銀河祭の時の事が‥‥ううん、それはもう‥ね。
過去よりも‥今。
今が‥こうしてディルと一緒に居るときが‥幸せだから‥
だから‥‥
「‥ディル‥大好きだよ」
「‥ボクも‥ピノの事、大好きやよ」



「で‥今日は珍しい組合せだね」
いつもの勤務時間を終えたぼくは、普段着に着替えると‥ケーキとお茶を手に持って。
そして‥ぼくはさっきの言葉を口に、見知った顔の居るテーブル席に着く。
四方をイスが取り囲んだテーブル席の‥
向かって右手には、落ち込んでいるヤダン。
向かって左手には、今にも泣きそうなフリスト。
それぞれ、ケーキとジュースを前に、しかし手を出さないで居る‥。
‥この様子だと、よっぽど「何か」があった‥んだろう。
『俺(オイラ)、振られたんだ(ヨ)!』
二人の声が、ハモる様に聞こえてきて‥なるほど。
それは確かに、「こういう状況」になるものだろう。
ケーキやジュースにも手を付けず、がっくりとうなだれている‥という状況に。
‥それにしても‥二人が同じタイミングで振られるなんて、そんな‥
‥と考え始めたぼくの脳裏に、少し嫌な予感が走る。
もしかしたら‥って。
「‥こういう事を聞くのは良く無い事だけど‥二人共、誰に振られたの‥?」
‥本当なら、そっとしておいてあげた方が良い‥と思うんだけど‥
‥いや、言う事ですっきりする事だってある‥のかもしれない。
少なくとも、うなだれたままよりは‥って。
そう考えて、話を聞くぼくに、二人は‥
「‥俺は‥‥ピノに‥」
「オイラは‥ディル‥ニ‥」
それぞれ、元気無く答える二人‥答えた後は、やっぱりうなだれたままで‥。
更には、二人の挙げた名前は、また親しい人達で‥
‥ぼくは二人に、なんて声を掛けてあげれば良いんだろう‥。
‥気を落とすなよ?‥新しい恋を探そうよ?‥それとも‥
言葉を探して、視線を彷徨わせた‥その時。
‥視界の端‥窓から見える風景に、見知った顔を見かける。
ぼくが見ている窓は、南東を向いていて‥水の区の中央を、南北に掛ける橋が見えるんだけど‥
その橋の上を歩いている二人‥しかも、手を繋いでいる二人は‥
「‥ディルと‥‥ピノ‥‥」
ぼくはそう言って‥席を立った。
‥窓に駆け寄ると、そこから改めて見てみる‥やっぱりそうだ。
二人共、幸せそうに手を繋いでいて‥‥あぁ‥そういう事だったのか‥。
「‥ピノ‥‥ディルと‥」
「‥ディル‥‥ピノト‥」
ぼくに続き、二人も窓の側へと駆け寄ってきていて‥そんな声を漏らしている‥。
‥その光景が、二人にとってもショックだったのだろう‥その場へとへたりこんでしまった‥。

「二人共‥‥諦めるのかい?」
何とか二人をテーブル席へと戻して‥ぼくは二人に問いかける。
‥そうだ、このまま‥自分の‥自分たちの想いを諦めるのか‥って。
念の為に言っておくけど、別にみんなの仲をこじらせたい訳じゃ無い。
そんなつもりは念頭無いんだ。
ただ‥‥ね。
これまで、度々このお店にやってきて‥あるいは、他の場面で触れあって。
結果として、色々な表情を見せてくれた二人。
いや、二人だけじゃない‥ピノやディルにしてもそうだ。
色々な表情‥色々な気持ち‥色々な想い‥を、ぼくは見てきた。
だから‥だから。
この二人の気持ちは‥少しでもわかってるつもりだった。
‥二人だって、真剣に‥それぞれの人の事を想っているのだから。
だから‥新しい相手を探す、っていう選択肢もあるとは思う‥思うけど‥
‥でも、その前に‥ぼくは尋ねたかったんだ。
‥諦めるのか、って。
ぼくの言葉に、二人は‥って言うと。
うつむきがちだった顔を上げて‥ぼくの方をじっと見つめて。
そして‥口々にこう言ったんだ。
「‥‥いや、俺は‥まだ諦めねぇ。俺とピノは同室なんだ‥まだチャンスは‥‥あるかどうか分からねぇけど‥」
「お、オイラだって‥ディルの事、諦めないもン!‥弟みたいだなんテ、言わせないくらイ‥たくましくな‥れるのかナ‥」
手を繋いでいた、ディルとピノを見て‥二人にも何か「思う所」があったのかもしれない。
二人の瞳には、さっきまでと違って‥「意志の力」がこめられている‥そんな感じすらしたんだから。
‥自信はまだ、無さそうに思うけど‥ね。
だから‥
「そうだね、諦めなければ、きっと‥」
ぼくの言葉に、二人は力強く頷いたんだ。
‥そうだ‥諦めなければ‥チャンスだって巡ってくるかもしれない。
巡ってこないかもしれないけど‥諦めたら、巡ってくるものも巡ってこない。
だから‥だから。
‥ピノ、ぼくも君の事を、諦めないよ‥。


(星芽寮交響曲 第一楽章・完)

 
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