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ショート

その3『これから その2』

 ←その2『これから』 →その4『これから その3』
あらすじ
 私、タリス・ラカリスと‥エル、ことエリシヴル・キリシヴルは幼なじみだ。
 幼い頃から一緒に過ごし、一緒に冒険者になって‥今も、一緒に活動をしている。
 縁が無いのか、単に私達が悪いだけなのか‥今までリンクシェルにも属さず、二人だけで活動してきた。
 そんな私達‥いや、私に、古い知り合いのバルトからリンクシェルへの誘いが来る。
 ヴォイドウォッチ攻略リンクシェル‥腕が磨け、更には良い装備が手に入る、魅力的なリンクシェルへの誘い。
 だが、リンクシェルは既に前衛過多の為、エルは参加出来ない、と言われてしまって‥
 一旦は誘いを断った私だったが、尚もバルトからの熱心な誘いを受けて、私は‥悩み続ける。

 

「‥‥‥はぁ」
ジュノにある、レンタルハウス‥その一室で。
ソファーに深く腰掛けた私は、さっきからずっと‥ため息を漏らしている。
もう、それが何度目かさえも分からない‥それくらいに数多く。
考えても‥悩んでも‥答えは出て来ない。
バルトに誘われた「ヴォイドウォッチ攻略リンクシェル」に‥参加するか、否か。
二つに一つの問題に‥しかし、容易く答えは出て来ない。
頭の中で、様々な考えが浮かんでは‥消えてゆき。
まるで‥そう、古典的な表現で言えば、私の中で二人の私が論戦を繰り返しているかの様だった。
(何を悩んでいるんだ。エルが参加出来ないのであれば、この話は断る方が良いに決まっているじゃないか)
(何を言う、バルトが自分を頼りに、あそこまで言ってくれた気持ちを汲まず、無下に断るのか?)
(違う、そもそもエルが参加できないのであればダメだ、とこちらから言っているだろう?)
(だからこそ、バルトも「空きが出来ればその時は」と言ってくれたじゃないか)
(それはいつになるんだ?それまでエルを一人で行動させるのか?今までずっと一緒だったエルを)
(一人で行動と言っても、週の半分だけだろう?それに‥互いに一人で行動する事で、磨かれる力もあるだろう)
(それは違う。単に装備が欲しい‥自分が参加したい‥そんな気持ちを正当化するための言い訳だ)
(それを言うならば、参加したくないのは‥己に自信がないからだろう。エルの為、という言葉を隠れ蓑にしているだけだ)
‥自分の中の、色々な気持ちが‥そして考えが‥ぶつかり合い、消えていく。
それぞれの言葉が、私の本心であり‥だからこそ思い悩む私が居る‥。
私は‥どうすればいいんだ‥一体どうしたいんだ‥。
そこまで考えて、ふと‥私はある事に気付く。
‥そうだ‥肝心のエルはどうなんだ。
この状況をエルに伝えたら、エルはどうしたいと言うだろう。
‥いや‥。
以前あった様に「僕は良いから、タリスだけが参加しなよ」と‥そう言われそうな気がする‥。
‥違う。
エルに聞いた訳でも無いのに、考えを予想するのは違うだろう‥それに。
‥エルに聞く、という事は‥その‥
‥エルの答えに全てを委ねてしまいそうな‥そんな気がしてしまう。
エルが「行け」と言うなら参加しそうだし‥「行くな」と言えば‥いや、エルはきっとそうは言わない。
‥エルはきっと‥‥‥‥‥ダメだ。
ちゃんと自分で考えた上で、答えを出さなければ。
‥それは分かっている‥分かっているが‥。
「‥‥‥はぁ」
エル‥‥エル。
考える度に、エルの顔が‥微笑みが、脳裏に浮かび上がっては消えていく。
エル‥私はどうすればいいんだ。
どちらを選べば良いんだ‥
どちらを選べば、私の‥そしてエルの為になる‥。
‥‥エルの為‥‥か。
私はさっきから、ずっと‥エルの事を考えているが‥
エルは‥‥私の何なんだろう。
‥ただの幼なじみ‥ただの友人‥ただの冒険者、そのパートナー‥。
今までは何となく、ずっと一緒に過ごしてきた。
ずっと一緒に過ごしてきたのは‥心地よかったからだ。
エルと一緒に居ることが、私にとっては‥とても心地よかった。
エルは‥私の気持ちを‥そして意志を尊重してくれる。
‥別に「私の言う事を全て聞いてくれる」とか、そういう意味じゃない。
確かに普段は‥全て私に決定を委ねている‥そんな印象はあるけれど。
モンスターと戦うや、ここ一番の時は‥全然違う。
手強い相手と面したときに‥エルは特に底力を発揮すると言っても良い。
私の思うように‥いや、思う以上に動き、そして‥私を助けてくれる。
私の考えや意志を汲んだ上で、それに添うように力を振るってくれるんだ。
‥少しヘンな言い方をすれば、心が通じているのではないか‥とさえ思う位で。
いざという時は、本当に‥頼りになるんだ。
そんな頼りになるエルが‥もし居なくなったら。
‥私はどうするだろうか。
いや‥もし居なくなったら、じゃないな。
バルトに誘われたリンクシェルに入るという事は‥エルと別の道を歩く事になるんだ。
その時に私は‥一人でやっていけるのか。
いや、勿論リンクシェルには他の人達が居る‥一人じゃないのは分かっている。
でも‥それでも、私はきっと‥。
‥それに。
そもそも、私とエルの二人が「ずっと一緒」のハズが無い。
いつか‥いつかは必ず、別れの時が来るんだ。
今は二人で行動しているが‥いつかはそれぞれ「家庭」を持つ事だろう。
勿論、今はまだ‥そんな事、想像すら出来ないが。
だが、「家庭」を持つということは‥少なからず別の道を歩むという事だ。
いや、もしかしたら‥もっと早くにバラバラの道を歩むことになるかもしれない。
それなら‥それなら。
いっそすぐに‥今からでも別の道を歩んだ方が‥そう、別れは早いほうが‥
‥‥何を言ってるんだ。
そんな訳が無い‥私自身、そんな事を思っているハズが無い‥
少なくとも今の私は‥‥うん?
考えを続ける私の耳に、何かを叩く様な音が入ってくる。
トントン、トントン‥
その音から察するに、それはレンタルハウスの扉をノックする音だろう‥誰か来たようだ。
‥いや、正確には「誰か」じゃないな‥あのノックの仕方は、エルに違いない。
「はーい!」
私は少し沈み掛けた心を戻す為に、少し大きめの声で、扉に向かって答える。
‥エルに情けない姿を、見せるわけにはいかないから。
‥私が頑張らないといけないんだから。
考えるのは‥また後にしよう。

全てを‥全ての悩みを一旦忘れ、エルと活動に臨もうと思った。
本当に、そう思ってエルと出かけたんだ‥‥けれど。
‥活動を始めてすぐに、その考えが甘かったことに気付く事になる。
重なる失敗‥増える見落とし‥度々の不注意‥そんなミスが積み重なっていく。
金策の為の活動を開始して、約1時間。
‥活動は一向にはかどらないまま、エルの「今日は止めない?」という言葉によって、終わりを告げた。
とはいえ‥成果は少ないが、決してゼロという訳では無くて‥ほんの少しだけど成果はあったんだ。
でも、それをお金に結びつける為には、もう一作業が必要で。
そんな作業をする為に、私達は一旦私のレンタルハウスへと戻る事にした。
最初、目的地へと向かうときは、私の心もまだ‥少しは余裕があったのだろう、会話も少しは弾んだが‥
成果や過程の事もって、目的地から帰るときには、一言のかわす言葉も無く‥二人共無言で移動するのみだった。
そして‥レンタルハウスへと戻った後も、無言の時が続く。
私の心にも「このままではいけない」という思いはあったのだが‥
‥色々なものからの重圧に、心が押しつぶされてしまいそうで‥行動に移すことができなかった‥。
そんな空気が悪いのか‥いや、そもそも心というか、気持ちがダメだったのかもしれないが‥
結局、レンタルハウスの中でも‥作業はなかなか進まなくて。
作業量は少ないのに、いつもの何倍も‥時間が掛かり、疲れ果ててしまった。
太陽もすっかり傾いた頃、ようやく作業を終えた私達。
作業の疲労感‥いや、色々な事象から来る疲労を伴ったまま‥私達はそれぞれ黙ってソファーに腰掛ける。
二人共何も喋らず、無言が支配する‥かと思ったのだが‥
ふと、エルが口を開きはじめる‥‥それも真剣な表情で。

「僕ね、タリスに話さなきゃならない事があるんだ」
何の出だしも‥枕詞も無く、唐突にエルは話し始める。
その表情は‥いつもの微笑みを浮かべてはいなくて‥まるで戦闘中を思わせる様な、真剣な表情だ。
今思えば、今日の活動では‥私のみならず、エルもまた‥どことなくヘンな様子だった。
もしかしたら、エルも‥私と同じ様に何か悩みを抱えていたのかもしれない。
あるいは、悩みとは違う何か‥私にとっては悪い知らせを、持っているのかもしれない。
だからエルはそんな態度を取っていて‥
‥私は何を言っているんだ。
第一、エルはまだ何も話しちゃいないんだ。
そうだ‥まずは、エルの話を聞こう。
「ん‥‥話さなきゃいけない事って‥なんだ?」
私はそう言って、エルが言ったさっきの言葉‥その続きを促した。
しかし、当のエルはというと‥なかなか答えようとはしない。
‥正確に言えば、エルはソファーに腰掛け、軽く俯いたままの状態で‥動こうとしない。
それでいて、珍しく真剣な表情のまま‥口を閉ざしていて。
その様子はまるで「話さなきゃいけない事」を言おうか言うまいか、迷っている‥そんな様子に見える。
エルがそんな様子だから、私もなんだか‥声を掛けることが出来なくて。
なんとも気まずい間‥というか、空気というか‥その様なものが広まりはじめた、その時。
‥静かな部屋‥だからだろう。
エルが軽く口を開いて‥そして、息を吸い込んでいく音が聞こえてくる。
‥その様子は、まるで「さあ、これから言おう」と心に決めた様に思えた。
エルの息を吸い込む音が消え、代わりに‥エルの声が聞こえてくる。
‥先程の真剣な言葉から‥少しだけ、嬉しそうな色が混じった‥そんな声が。
「‥僕ね、今日‥リンクシェルに誘われたんだ」
その言葉に‥私は思いの外衝撃を受ける。
‥エルが‥リンクシェルに‥誘われた‥
もう一度、エルから聞いた言葉を‥頭の中で繰り返して。
そしてすぐ‥私の頭の中に様々な「エルへの質問」が浮かび上がってくる。
何のリンクシェルなのか。
誰に誘われたのか。
そして‥エルはどうするつもりなのか。
つい、矢継ぎ早に口から出てしまいそうな、そんな質問を‥私はグッとこらえて。
ただ一言だけ‥なるべく穏やかな口調で答える。
「‥リンクシェル‥に?」
胸の中で、わずかに膨らみ始めた‥「小さな不安」。
それは、先程私が感じた一つの可能性‥そう、「私にとっては悪い知らせ」の事だ。
それを表に出さないように‥エルに気付かれないように‥気をつけながら。
「うん、昨日、久しぶりに会った知り合いが‥あ、ほら、朝言ってた「会う約束」の人だよ。
 その知り合いがね、僕に言ってきたんだ」
エルは、話し始めたことで「思い切り」が付いたのだろうか。
真剣だった表情が、少しずつ‥穏やかな微笑みへと変わっていく。
‥いや、単にリンクシェルに誘われた事への嬉しさを思い出して‥なのかもしれないが。
私は、そんなエルの様子を見ながら‥そして話を聞きながら‥考えを進めていく。
‥少しずつ膨れあがる「不安」に‥ともすれば悲鳴を上げてしまいそうな‥心を鎮めながら。
「その‥ね、サルベージの攻略リンクシェルなんだって」
‥サルベージ攻略リンクシェル。
エルの言ったその言葉に、私の胸が一際高く跳ねる。
一般のリンクシェルではなく、サルベージ攻略の‥。
最初は‥その、一般的なリンクシェルで‥それならもしかしたら、私も一緒に参加出来るかもしれない、と‥そう考えた。
だが‥サルベージの攻略リンクシェルとなると、当然人員や役割に制限があり、ジョブだって限られてくる。
エルは「朝の約束の人」に誘われたと言っていたから‥吟遊詩人の酒場で会っていた人物‥あの赤魔道士から誘われたのだろう。
そう考えると‥同じ赤魔道士の私が必要という事は‥あまり考えられない。
そうなると‥誘われたのはやはり、エル一人だけ‥。
そうだ‥私は‥不要なのだ。
私の頭の中で、そんな結論にたどり着いて‥私は‥私は。
‥胸が‥きゅうっと締め付けられるのを感じてしまう。
‥でも、幸か不幸か‥エルは私のそんな様子に気付いていない。
気付かずに‥話を続けていく。
「で、モンクが居なくて‥それで、って。でも‥」
自分が誘われた理由を、少し嬉しそうに話すエルに。
‥私はの口からは‥思わず言葉が漏れてしまった。
自分でも聞いた事の無いような‥低い声で。
「‥勝手に‥しなよ」
「‥え?」
そうだ‥エルなんて勝手にすればいい‥
必要とされてるなら、行けばいいじゃないか。
私の事なんて放っておいて、一人で行けばいいんだ。
半ば自棄に‥私はそんな考えに到達して‥そして。
‥ハッと我に返った。
な‥何を‥何を言ってるんだ、私は‥そんな‥違う、そうじゃない。
‥いや、確かに一瞬、私はそう思ったのかもしれない‥でも、それは‥
‥私が不要だと言われた様な気がして‥その‥落ち込んだ余り、そう思ってしまっただけなんだ。
だから‥
そんな事‥本心では思ってないんだ‥私は‥本当はエルと‥。
‥と、とにかく、謝らなきゃ‥
見れば、エルだって驚いてる‥私の言葉に「どうして?」って‥そんな表情をしてる。
ダメだ‥ちゃんと謝らなきゃ‥。
「‥ごめん‥。違うんだ‥私は、なんだか‥いや、それよりも。誘われるのは良いこと‥だし、その‥」
そうだ‥違う方に考えるんだ。
たまたま、私だってヴォイドウォッチ攻略リンクシェルに誘われている‥
エルと同じリンクシェルに参加出来なくとも、お互い‥なにがしかのリンクシェルに参加することが出来る。
その中で‥私達それぞれが成長すれば‥良いじゃないか‥。
私も、エルも‥腕を磨いて‥それに、装備も手に入れば‥良いじゃないか‥。
それに、少なくとも週の半分は会う事が出来る‥あ、いや‥エルの参加日が関わる‥か。
そうだな、それを確認しておこう‥うんうん。
「その‥サルベージの攻略リンクシェルって、参加の曜日とか‥日程とかは決まってるのか?」
もしかしたら、私の‥ヴォイドウォッチ攻略リンクシェルと曜日が一緒‥とかもあり得るだろう。
そうだ‥根拠は無いが、そういった活動は週末がピークだとか‥。
とにかく、もしそうなら‥残りの半分、週の半分は一緒に‥
そう思う私だったが‥勿論、それは‥甘い考えに過ぎなくて。
‥現実は‥そんな甘い考えを、粉々に打ち砕いていく。
「あ‥‥う、うん、毎週の前半、火曜日から‥」
「そんな!」
エルの言葉を聞くや否や‥私は思わずソファーから立ち上がった。
しかし、急に立ち上がったから‥いや、きっと愕然とした思いから‥だろう。
目の前が真っ暗になる様な‥そんな状態に襲われ、私は再び‥ソファーに座る‥いや、倒れる事になる。
「た‥タリス‥?」
倒れ込んだ私は‥ショックのせいか、エルの言葉すら‥聞こえていなかった。
‥もう、耳にすら‥エルの声は届いていなかったんだ。
‥‥だって‥だって‥
‥絶望的、じゃないか‥。
私が自由なときは‥エルがサルベージ攻略に参加していて‥
エルが自由なときは‥私がヴォイドウォッチ攻略に‥‥だなんて‥。
そんな‥そんな‥。
「‥‥タリス‥ねぇ、タリス?」
でも‥それでも‥お互いにとって、それはプラスになる事なんだ。
良い装備を手に入れ、腕だって磨くことが出来る‥少なくとも、今まで以上に。
だから‥私達二人にとって、プラスになる事だから‥
別々に過ごすのだって、きっと一時的‥一時的な事だから‥
きっと‥少しの間の、別れなんだから‥
だから‥‥だから‥‥
‥‥だから‥‥?
‥‥‥
「‥イヤだ‥」
‥ぼくは‥震える声で‥言葉を漏らす‥
それは‥とても小さな声だった‥そう、最初は。
「タリス‥?どう‥したの?」
いつの間にか、エルはソファーから立ち上がっていて‥ぼくのすぐ側に来ていた。
そうか、きっとぼくの様子が不自然だったから‥だから‥
エルは不安げな顔をして、ぼくの顔を覗き込んで‥
エルを‥エルに不安そうな顔をさせちゃいけない‥それは分かってる。
エルには笑顔が似合うんだ‥だから‥そんな顔させてちゃいけないんだ。
分かってる‥分かってるけど‥
‥僕だって止まらないんだ‥
気持ちが‥もう‥抑えられない。
ぼくは‥‥ぼくは‥
‥大きな声を出して‥気持ちを露わにする。
「イヤだ‥イヤだよ!エルと離れるなんて‥ぼく、イヤだよ!」
そうだ‥イヤなんだ‥!
イヤだ‥例え少しの間でも‥エルと全然会えないだなんて‥ぼくはイヤだよ!
これまでずっと一緒だったのに‥ずっと‥一緒に歩いてきたのに‥
それが‥離れるなんて、イヤだよ!
「イヤだ‥エル‥ぼくから離れていっちゃ‥イヤだ‥!」
感情を露わにして、泣き叫ぶぼく‥
そう、まるで子供の様に、涙を流して‥声を上げて。
エルの前では、今まで必死に‥そんな所見せちゃダメだ、って思って‥頑張ってきたけれど。
‥一旦堰を切って溢れ始めた感情は‥そして涙は‥治まろうとしない。
「た‥タリス?どう‥したの?一体何があった‥の?」
そんなぼくの変わりように、不思議そうな‥ううん、困惑した顔をするエル。
仕方無いよね‥急にこんな所‥見せたりしたら。
でも‥でも、治まらないんだ‥
涙が‥気持ちが‥治まらないんだ。
「ぼく‥ぼく‥‥」
言葉を続けようとするけれど‥涙が‥嗚咽が‥言葉の邪魔をする。
でも‥それでも、言わなきゃ‥ちゃんと‥言わなきゃ‥
エルはちゃんと「言わなきゃいけないこと」を話してくれたから‥ぼくには分かった。
でも、ぼくはまだ何も話していないから、エルは全然分かっていないんだ。
だから、ぼくもちゃんと説明しなきゃ‥‥ダメだもの‥
ぼくは、なんとか涙を‥そして嗚咽を抑えて‥ううん、交えながらも説明を始める。
「ぼくも‥ぼくも、リンクシェルに誘われたんだ‥ヴォイドウォッチの‥でも、週の後半が参加で‥
 そんなのに参加したら‥お互い、全然会えなくなっちゃうよ‥そんなの‥イヤだよ‥」
涙ながらに‥ぼくはなんとか説明しようとするんだけど‥
‥自分でも分かってる‥説明になってない、って。
でも‥それでもエルは‥‥分かってくれたみたい‥で‥。
「タリス‥そうだったの‥」
優しい‥とても優しい声で‥そう言ってくれる‥。
「でも‥でも分かってる!お互い参加した方が、強くなれる‥装備だって手に‥でも‥」
ぼくは、エルにそう言って‥そして‥また涙が溢れてきてしまう。
そう‥分かってるんだ‥参加した方が、お互いの為だ、って事は‥。
分かってるけど‥でも、心が‥気持ちが‥イヤって言うんだもの‥。
結局の所、再び行き当たってしまう「どうすればいい」という思いに‥
でも‥エルは‥
「ふふ、タリスも慌てん坊なんだね」
優しく微笑んで‥そう言ったんだ。
‥ぼくが‥慌てん坊‥?
「‥え‥?」
訳も分からず、間抜けな声で返す言葉に。
エルは優しい微笑みを崩さずに‥言葉を続ける。
「あのね、僕はね、リンクシェルには参加しないよ」
「‥‥‥えっ?」
エルの言葉を聞いて‥そして理解するまでに。
ぼくは少し‥時間が掛かってしまった。
だって‥エルは嬉しそうにしていたのに‥リンクシェルに誘われて、嬉しそうにしていたのに。
きっとリンクシェルに参加‥‥あぁ‥‥
そういえば、以前‥エルはリンクシェルに参加するのは、乗り気じゃない‥という様子を見せていた。
もしかして‥エルは‥
「‥僕は、装備や‥腕よりも‥‥タリスと一緒に居たい。タリスのそばに居たいから‥だから‥」
続けてそう呟いた、エルの表情は。
さっきまでの優しい微笑みに加えて‥その‥
‥頬が少しだけ、朱くなっていたんだ。
でも、そんなエルの言葉に‥ぼくは何て言えばいいのか‥分からなくて。
戸惑ったままのぼくに、エルは言葉を続ける。
「‥ね、タリス‥僕達はどうして強くなろうとしてるのかな。何の為に‥強くなろうとしてるのかな」
少し真面目な表情をして‥そう問いかけてくるエル。
‥何の為に‥強くなろうとしている‥だって?
それは‥‥えっと‥
「それは‥‥‥その‥‥」
何かを言おうとして‥何かを言わなきゃ、って思って‥ぼくは口を開くけれど。
‥でも、答えは出て来ない。
そんなぼくを見て、エルは更に言葉を続けていく。
「僕はね、タリスの為だよ‥タリスを守るため‥強くなりたい。
 勿論、強い装備は単純に欲しいよ。でもね‥それ以上に、僕は‥タリスと一緒に居たいな」
「‥‥ぼく‥と‥」
今までに余り聞いた事の無い‥真面目なエルの言葉。
いつも僕に「タリスの好きにすればいいよ」と言っていたエル‥
あるいは、にこにこと微笑んで‥頷いていただけのエル‥
そんな普段の‥エルとは違う‥
‥思いがこもった言葉。
「‥僕はタリスの事が‥‥好きだから。好きだから‥ずっと一緒に居たい」
真剣な表情のまま‥いや、少し優しく微笑んで、エルが呟いた‥「好き」という言葉に。
‥ぼくの胸が、トクン‥と跳ねる。
‥さっきまでの様な‥胸がドキッとする様な、嫌な跳ね方じゃない。
それは心が弾むような、そんな‥嬉しい跳ね方で。
でも‥
「好きって‥えっと‥」
ぼくには‥まだ、それが理解できない‥。
だって、その‥‥ぼくは‥そしてエルも‥男だし‥。
それなのに、その‥好き‥だなんて‥
そんな事、急に言われても‥‥‥急に?
‥急な事、だったのかな。
その‥「好き」って言われる事自体は確かに急だけど‥
エルは今まで、ずっと‥「好き」って事を示してくれていたんじゃないかな。
そう考えると‥過去のエルの挙動が、全て‥繋がってくる。
ぼくへの言葉‥
ぼくへの行動‥
ぼくへの‥信頼‥
それは全て、「好き」という言葉に‥由来するものだったんじゃないかな‥って。
そう考えたら‥ぼくは‥ぼくは‥
「タリスを‥抱きしめたい‥‥タリスと‥えっちな事が、したい‥
 それくらい‥僕はタリスの事が、好きだよ」
考え込むぼくに、エルは‥まるでトドメを刺す様な、そんな‥言葉をぶつけてくる。
今まで以上に、その‥積極的なエルの言葉に。
今度はぼくの顔が朱く‥ううん、真っ赤になっていく。
だ‥抱きしめる、って‥そ、それに‥えっちな事、って‥
そんな‥え、エル‥本気、なんだよ‥ね?
「え‥えっちって‥その‥」
「タリスは‥いや、かな‥?」
戸惑いながら、そう答えるぼくに。
エルは‥真面目な顔に、少しだけ残念そうな表情を浮かばせながら‥尋ねてくる。
そんな‥そんな風に言われたら‥ぼくの答えは‥
‥うん‥ぼくの心は決まってる‥‥エル‥なら。
エルと‥なら。
「‥‥ううん‥イヤなんかじゃ‥ないよ」
そう答えるぼくに、エルは抱きつくように、飛び込んできたんだ。
身体中に触れる、エルの‥温かな身体の感触に。
ぼくは懐かしさと、それから‥‥何と言えばいいんだろう。
‥そう、これから始まる幸せの予感‥を、感じていたんだ。


 
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