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星芽寮交響曲

31話(番外編)『ハロウィンの夜に』

 ←その7『やっぱり尻が好き・ワイセン編 3』 →其ノ4『欲する少年』
10月30日 夕方

 

10月も早いもので、もう末日‥
夕陽に染まりつつある、ウィンダス連邦の町並みは‥例の「ハロウィン」で大賑わいだ。
ぼくだって、この賑やかな雰囲気は好きなんだ‥なんていうのか、心が弾む様な感じがするしね。
ハロウィンといえば、主役はお菓子‥というのはちょっと違うかな?
ともかく、ぼくの勤めているお店でも、ハロウィン用のお菓子を扱っていて、今日は忙しい日だったんだ。
最も、ぼくの勤務時間は終わったから、今はゆっくりと‥え?
そんなことよりも、ハロウィンって何なのかって?
‥うーん、ハロウィンを知らないなんて珍しいね‥あ、そうでもないのかな。
確か前にも‥‥あ、いや‥簡単に説明しよう。

確か、ハロウィンの元になる伝承とか、由来があったと思うんだけど‥
ぼくはピノみたいに、昔の伝承に詳しくはないから‥。
だから、まぁ‥決まりというか、風習というか‥そういうのを説明するよ。
まず‥ハロウィンの主役は子供達。
で、子供達は‥それぞれ思い思いのオバケに変装するんだ。
ゴースト、スケルトン‥中にはアーリマンもあったかな?
あぁ、変装って一口に言っても、服装や化粧で見た目を変えるものから‥
魔法のアイテム‥例えばエンチャント:コスチュームの魔法が掛かったもの‥
そういうのを使う事で、魔法の力を借りて変身する方法もある。
で、オバケになったら‥大人達をおどかすんだ‥とは言っても、勿論ただおどかすだけじゃない。
その時に「トリック・オア・トリート!」‥つまり、「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ」って言うんだよ。
で、大人達は「悪戯されちゃたまらない」とばかりに子供達にお菓子を渡すんだ。
‥最も、大人達だってお菓子を渡すのが嫌じゃなし‥何より、お祭りだからね。
だから大人達は「ハッピー・ハロウィン」って言って、子供達にお菓子を渡すんだよ。
子供達はお菓子が貰えて嬉しいだろうし‥大人達は、喜ぶ子供達を見るのが嬉しいし。
大人も子供も、嬉しくて楽しい‥そんな素敵なお祭りなんだ。

さて、そういう訳で‥夕暮れ時にも関わらず、町中には未だ小さなオバケ達が沢山居る。
でもね‥お昼過ぎが一番凄かったんだ。
ぼくの勤めるお店にも大勢やってきてね‥ふふ、店長が皆にお菓子をあげていたっけ。
ともかく、お昼頃に比べれば‥オバケの数も減ってきているみたいだ。
もうすぐ夜‥夕食の時間、というのもあるだろうし‥それに。
ふふ‥本物のオバケが現れるかもしれないしね。
‥さて、それはともかくとして‥
本来なら仕事を終えた後は、まっすぐアパートに帰るぼくだけど‥今日は違う。
少しだけ寄り道をして‥とは言っても、お店と同じ水の区なんだけど‥
その水の区にある、雑貨屋さん‥ここに買い物をしにきたんだ。
え?何を買いに来たのかって?いや、そんな大した買い物じゃあ無いけど‥
ぼくが買いにきたのは、これ‥「土師器の植木鉢」なんだ。
ぼくは昔‥マウラに居た頃から、鉢植えで栽培をしているんだけど‥
ついうっかり、昨日鉢植えを落として割ってしまって‥だから新しい鉢植えを買いに来た、って訳。
あ、栽培なんて年寄り臭い‥なんて言っちゃあいけないよ?
植物を育てる楽しみと、収穫の楽しみ‥感慨深いものがあるんだから。
‥しかし、それにしても‥
この雑貨屋、いつ来ても思うんだけど‥品揃えが豊富なんだ。
ぼくが買おうとしている植木鉢や、タルタル用の腰掛けと言った家具類‥
釣りのエサを初めとした、釣りの道具に‥狩りに使う矢だとか、そういった道具‥
薬は勿論、香辛料や錬金術の品物に‥果てには爆弾(!)まで置いてあるんだ。
ああ、最後の爆弾は‥冒険者とか、一部の院所属者にしか売ってないらしいけどね。
爆弾はともかく、どうしてこんなに多い品揃えなのか、っていうと‥
そもそも、このお店の歴史はとっても古くて‥昔は魔法の触媒とかを売っていたらしい。
それが300年程前、当時の店主が時代の流れに伴い、雑貨屋さんに変えて‥それが今の姿なんだとか。
300年前と言えば、今と違ってお店だってあんまり無い(と思う)し、きっと手広く品揃えを‥というスタンスになったんだと思う。
まぁ、300年の歴史はともかくとしても‥このお店の品揃えは本当に凄い。
ここに来たら何でもある、という位に幅広いラインナップのお陰もあって、お客さんは比較的多いんだ。
そうそう、ここで誰かと会う事だって、決して少なくは‥
「あ、ユランじゃなイ」
話をしていれば‥早速ぼくを呼ぶ、聞き慣れた声が聞こえてきた。
声のした方を振り向いてみると‥うん、やっぱり見慣れた二人がいる。
あの二人‥「失恋コンビ」が‥ああ、いや、その言い方は正しくないな。
正確には、ぼくを含めて「失恋トリオ」だ。
「やぁ、フリストに、ヤダンも‥買い物かな?」
「よぅ、ユラン。‥別に目的があって来た訳じゃあ無ぇんだけどな‥」
二人の様子を見ると‥なるほど複雑そうな状況が伺える。
どこか怒っている‥いや、どちらかと言うと苛立っている‥という様子が見えるフリストと‥
そして、どことなく困った様な、そんな雰囲気を出しているヤダン。
「そうそウ、何も買い物に来た、って訳じゃあ無いんダ。たダ‥」
フリストはそう言うと、何かを口ごもる様な‥そんな様子を見せる。
‥何か言い辛い事でもあるのだろうか。
「買い物じゃない、となると‥何をしにきたの?」
「あ‥うん、寮に居るとサ、その‥二人の仲の良いのが、見てられなくなっテ‥」
単刀直入に聞くぼくに、フリストは「言い辛い事だけど」とばかりに話し始める。
‥二人の仲の良いのが見てられない‥
フリストの言う「二人」とは、言わずもがな‥フリストが好きなディルと、その相手‥ピノの事だろう。
でも、二人の仲が良い事なんて、普段からの事だと思うけれど‥
そう思うぼくだったけど、まるでそんなぼくの思いを知っているかの様に‥ヤダンは言ったんだ。
「いつもならさ、見てられない程でも無ぇんだけど‥ほら、今日はハロウィンだろ?
 そのせいなのか知らねぇけど、なんだか二人の仲が‥なぁ?」
困惑したような表情で、ヤダンは話し続ける。
なるほど、ハロウィンが話の種となって、二人の話に華を咲かせたのか‥
‥あるいはもっと‥‥いや、止めておこう。
ヤダンは最後にフリストを見て‥フリストも同意見だ、とばかりに頷いていた。
「おまけに、だヨ?今夜は星を見に行こウ、なんて言うんだかラ‥もう、嫌になっちゃう」
更に語気を強めながら、フリストはそう言うと‥最後はため息で締めくくった。
その様子を見て、今度はぼくがため息をつきそうになる‥いや、勿論抑えたけどね。
確かに‥二人の仲を意識するのはぼくも同じだけど、フリストは‥人一倍意識している気がする。
‥特にピノに対しては、それが顕著‥だ。
どことなく冷たい態度を取ってみたり‥
あるいは「それは言い過ぎじゃないか」と思える様な事を言ったりと‥ね。
‥ぼくだって、フリストをたしなめようとしたことはある。
でも、その度にピノから「気にしないで」と‥釘を刺されるんだよね。
確かに‥フリストの気持ちだって解らない事もない。
ディルを想う分、ピノに対してはどうしても‥悪く見えてしまうのだろうけど、それでも‥。
まぁ、とりあえずはフリストの事は置いておこう。
ともかく、ピノとディルが星を見に‥かぁ。
「星‥あぁ、目の院の屋上かな?今日は天気も良いし、良い星空に‥」
「もう、星よりもオイラは、ディルの事が‥うゥ。ホントはオイラが‥」
単純に星を見ることの良さを言った、ぼくの言葉が‥フリストは気に入らなかったようだ。
ぼくの話を遮る様に、強い語気で‥言葉をぶつけてくる。
でも、ディルへの想いを込めた、フリストの言葉‥その力強さも、徐々に失われていって‥
最後には消え入りそうなほどに小さな声になってしまう。
‥さっきも言ったけれど、フリストの想いや気持ちが解らない訳じゃ無い‥。
フリストは、ディルに対しての真剣な想いを持っていた‥いや、今でも持っている‥それなのに‥
ディルからは「弟の様に思えるから」と言われて‥悲しい思いをしたんだ。
‥別に、ディルを責めている訳じゃない‥ディルだって、ピノへの想いがある‥‥それは分かっているから。
それでも、やっぱりフリストが‥‥不憫でならない。
そう思うのは、ぼくも同じ状況だから‥?ぼくもピノに‥‥いや。
‥同じ状況なんかじゃ‥無い。
フリストは‥少なくともディルに告白している‥そう、自分の想いを伝えている。
それに比べてぼくは‥ピノに告白さえ出来ていないんだから。
‥いや、ぼくの事は良いんだ‥それよりも‥
なんとかフリストに、ディルと‥そしてピノとも上手くいってほしい。
いや、何もディルがピノと別れ、フリストと恋人同士になって欲しい‥という訳じゃ無い。
そこまではいかなくとも、もう少し‥ディルがフリストの事を意識する様になって。
更には、ピノとフリストが‥
‥と、そこまで考えて‥慌ててぼくは我に返ったんだ。
今まで考えに没頭していたせいで、全然周囲の状況が見えていなくて。
よく見ると、ヤダンがフリストを慰めるように、肩をポンポンと叩いていた。
「まぁ‥ほら、星を見るのだってよ、二人だけで行くんじゃ無ぇんだ‥俺達も誘われたんだしさ」
‥なるほど、さっきの「今夜星を見に行く」のは、二人だけではなく‥他にも居る、と。
星を見る‥口の院屋上‥‥そして、丁度今は‥‥うん、良いかもしれない。
「なるほど、なるほど‥‥ね、フリスト‥こういうのはどうかな?」
ある事‥ほんの些細な事だけど‥
小さな企みを考えついたぼくは、フリストそう言って声を掛ける。
「‥‥エ?」
不思議そうな顔をして、ぼくの方を見るフリスト。
そんなフリストに‥そしてヤダンにも聞こえるように、ぼくは話し始める。
‥ただ、場所が場所だ‥他の誰にも聞かれないように、小さな声で。
「ごにょごにょ‥‥ごにょ」
ぼくが話を進めていくと‥みるみるフリストの表情が変化していく。
それまで落ち込んでいた顔が、徐々に‥元気になっていく様に。
「うん、それ良いネ!それならディルも、オイラの事‥‥よし、そうと決まったラ‥早速準備しないト!」
ぼくが話し終えると、フリストは「いてもたってもいられない」とばかりにそう言って‥
慌ててお店を出て行ってしまったんだ。
‥恐らく寮に戻り、今夜の為の準備をする為‥だろう。
「あっ‥お、おい、フリスト‥‥行っちまいやがった‥‥でもユラン、本当にそんなんで上手くいくのか‥?」
走り去るフリストを見送るように‥いや、呆然と見ている様だったヤダン。
そんな彼も、ぼくの方を見て‥そして疑問符を頭に浮かべている。
‥ヤダンが不思議に思うのも当然だ、きちんと説明しないと。
「‥確かにね、これでディルがフリストと‥ってなる事は無いかもしれない。
 でも‥二人は良い方に向かうと思うよ‥きっと、ね」
‥自分で言う程、きちんとした説明じゃない‥とは思ったけれど。
それでも‥うん、ヤダンは分かってくれた‥様だった。
「‥うーん、そんなモンかねぇ‥」
頭を掻きながら、ヤダンはそう言うものの‥
ヤダンの言葉には、「分からない」というよりも「そうかもしれない」というニュアンスが込められていて。
納得しつつあるヤダンに、ぼくは「突っつき」を入れる。
「で‥ヤダンは良いの?ピノに‥」
「お‥俺はさ、その‥今は良いんだ。‥無理矢理二人を引き裂いて、っていうのはなんか違うと思うし‥上手く言えねぇけど‥」
突然自分の話題を振られて‥ヤダンも慌てたみたいだ。
ぼくが言い終える前に、ヤダンは慌てて話し始める。
‥ヤダンはぼくと同じで、ピノの事を想っている‥言わばぼくとは「恋敵」なのかもしれない。
でも‥勿論ぼくは、ヤダンの事を嫌な様には思ってない‥ディルの事も。
そして、今の話を聞くかぎりでは、ヤダンもまた‥ぼくと同じ気持ちなんだと思う。
だから‥うん、まだこのままで良いと思うんだ‥‥まだ。
「と、とにかく‥今晩の為に、俺も準備しないとな。とりあえず、寮に戻るよ‥じゃあ、な」
そういえば、とばかりに‥ヤダンはそう言って軽く手を振る。
「じゃあね‥ヤダンも頑張って」
ぼくも‥ヤダンに手を振り返して。
さて、ぼくだって準備を進めなきゃいけない。
とりあえずは、この「土師器の植木鉢」を買って‥‥っと、そうだった。
‥もう一つ、買うものができたんだった。


夜‥すっかり陽は沈んで、空にはお星様が光ってる。
普段なら、団らん室で話をしたりだとか‥部屋に戻ってゆっくりとしている‥そんな時間。
でも‥今日は違う。
「あ、ほら、あの星がオーディンの‥」
「ん、どれや‥‥お、あれと‥あの輝いとる星がせやな?」
オイラの隣で、二人‥ピノとディルの二人が、そんな会話を交わしているのが聞こえる。
そう、オイラ達は星を見に来ているんだ。
本当は‥本当はオイラとディルがそんな会話を交わせていたら‥って思う。
でも‥今はそう、ピノが‥ディルの隣にいて、話をしている。
‥ピノの事を考えると、オイラ‥どうしても嫌な方に考えてしまう。
でも、ピノの事が嫌い、っていう訳じゃないんだ。
ピノは、そりゃ‥‥友達‥だし‥。
でも‥友達だけど、ディルの‥恋人で‥。
だから、ついオイラは‥ピノと話をする時に、キツい態度をとってしまいそうになる。
‥ううん、時々キツめの態度が出てしまってる時もある‥。
それでもピノは‥オイラに優しくしてくれて。
本当はオイラだって、素直に‥‥い、いや、そうじゃなくて。
‥その話は良いんだ‥今は置いとくんだ。
それよりも‥そう、今日は星を見に来ていて‥って話だった。
場所は勿論、目の院の屋上‥ここには、多くの天体観測用の望遠鏡が備え付けられている。
普段ならテルの様な、目の院の中でも天体観測部の面々しか使っちゃいけないんだけど‥
今日はディルやピノの口利きで‥オイラ達のような部外者にも使わせて貰っているんだ。
‥まぁ、部外者って言っても、同じ五院に勤めているんだから‥っていうのもあるみたいだけど。
ともかく、オイラもじっくりと星を‥いやいや、見るんじゃなくて。
そうなんだ‥オイラはここに、とある「作戦」を持ってきたんだ!
‥とは言っても、作戦を考えてくれたのは‥友人のユランなんだけどね。
え?作戦ってどんなものなのか‥って?
よくぞ聞いてくれました、簡単に説明するとね‥
 1.ピノをディルから引き離す
 2.ゴーストに扮したヤダンが、ディルを驚かせる
 3.オイラがディルをかばって、良い所を見せる。
 4.ディルはオイラにくびったけ‥!
え?単純すぎるって‥?
いやいや、あくまで簡単に、要点だけを言ってるから‥もうちょっと細かい内容は詰めてあるんだからね。
で、ここまで言ったら分かると思うけど‥そうなんだ、この「作戦」の目的は、ディルの心をオイラにグッと引き寄せること!なんだ。
ふふ‥この作戦が成功すれば、きっとディルはオイラに‥
『フリスト‥ボクが間違ってたんや。その‥ボクと付き合って欲しい。ピノとは別れるから!』
ディルはオイラの事をじっと見つめながら‥アツい言葉を掛けてくれる。
更には両手を広げて「さぁ、この胸に飛び込んでおいで」とでも言う様に。
その言葉‥その眼差し‥オイラはずっと待っていたんだ。
ふふ、抱きつくのはちょっと恥ずかしいけどね。
でも、良いんだ‥ディルが望むなら、オイラは例え人前でもディルの胸に飛び込むよ‥!
「ディル、受け止めて‥オイラを‥そして、オイラの気持ちを‥!」
「どうしたんや、フリスト‥なんや、嬉しそうな顔してるけど」
突然聞こえてきたディルの言葉に、オイラは我に返る‥
いけない、つい妄想に浸って‥言葉が口から出ちゃってたみたいだ。
ディルはオイラのすぐ隣に居るんだから‥充分気をつけないと。
でも、ディルの表情を見てみると‥うん、オイラの言った事は、聞こえてなかったみたい‥かな?
とにかく、これから大きな作戦があるんだ‥気を引き締めないと‥うん。
「あ、ううン、何でも無いヨ。星が綺麗で嬉しいナ、って思ってサ」
オイラはとりあえず‥誤魔化すようにディルにそう言うと、空を見上げる。
ちゃんと星を見てる‥フリをしないと。
「せやな‥故郷では星見る事なんて、あんまり無かったしな‥」
感慨深げに空を見上げるディル‥
ああ‥空を見上げている、その横顔も‥格好いいよ、ディル‥。
星を見るフリをしながら、横目でチラチラとディルを見ていたオイラだったけど‥
「あ‥ピノ、ねぇ、ちょっと良いかな」
ディルを挟んで、オイラとは反対側に居るピノに‥そんな声が掛けられるのが聞こえて。
‥オイラは息をのむ。
ピノに声を掛けてきたのは‥オイラの同室者で、目の院天体観測部に所属しているテルだ。
で‥そのテルが、ピノへと声を掛けたのは‥さっき言った作戦の一つ。
オイラが事前にテルにお願いして、ピノをディルのそばから離してもらう‥っていうものだ。
テルはピノに対して、小声でごにょごにょと話しかけていて、そして‥
「‥‥あ、うん、分かったよ。‥ディル、フリスト‥ちょっとだけ僕、席を外すね」
ピノはオイラ達の方に振り向くと、そう言って‥テルと共に歩いて行ったんだ。
近くにある階段を下りて‥1階の方へと向かったのかな?
まぁ、とにかく‥これで第一段階「ピノをディルから引き離す」は成功だ。
これでオイラとディルは二人っきりで星を見‥‥って違う違う。
確かにそれも楽しいけど‥オイラが欲しいのは「今二人で居る時間」じゃない。
‥「これからずっと二人で居る時間」なんだから。
その為には、ここは‥
「ディル、ごめン‥オイラ、ちょっとトイレに行ってくるネ」
オイラはそう言って、慌てて階段の方へ向かう。
「あぁ、ちょっと冷えるからなぁ‥ゆっくり行ってきたらええよ」
背中にかけられる、ディルの優しい言葉に‥後ろ髪引かれる思いを抱きながら、走り去るオイラ。
‥とは言っても、階段は降りきらないで‥陰からそっとディルの様子を伺うようにする。
よくよく考えると、ここでピノが戻ってきたら鉢合わせしてしまうんだけど‥
テルが上手くやってくれているんだと思う‥ピノが戻ってくる気配は無いし。
後は、予め屋上の隅で隠れていたヤダンが、ゴーストの格好をしてディルを襲いに来れば‥!
ふふ、ヤダンは一生懸命ゴーストの衣装を作っていたんだ。
きっと凄い出来映えになってるハズで‥ディルはきっと驚く事になるハズだ。
でも、作るのに凝りすぎて‥時間が掛かりすぎたみたいで。
結局オイラ達と一緒に、目の院には来なかったんだよね。
そうそう、「すぐ追いかけるから‥先に行っててくれ」なんて言って。
あれ、でも‥オイラ達が目の院に来てからも、ヤダンを見た記憶が無い‥。
もしかして‥ヤダンはまだ、目の院に来てない‥かも‥?
だとしたら‥‥と、オイラが考えた丁度その時。
ディルから見て、オイラの居る階段とは反対方向‥その物陰から、黒い人影が現れる。
その姿は正に‥ゴースト。
ヤダン、いつのまに物陰に‥いや、きっと姿を消す魔法で‥ああ、そんな事よりも‥‥凄い。
何て言えば良いのか、本当にオバケのようなその姿に‥オイラは思わず息をのんだんだ。
ヤダンって‥案外手芸とか、そういうのが得意なのかな‥なんて思っちゃう位、リアルなんだもの。
でも、近くに他の人が居なくて良かった‥先に他の人に見つけられたら、大騒ぎになっていただろうから。
ともあれ、ヤダンはゆっくりとディルに近づいて‥って、近づき方も凄いんだ。
本当のゴーストの様に、ゆら~りゆらり、と揺れながら近づいてくるんだもの。
その独特の気配が近寄ってくる‥その感覚に、ディルも気づいたんだろう‥ヤダンの方を振り向いた。
そして‥やっぱり、と言うかなんと言うか‥その姿を見て驚きの声を上げると、慌てて‥1歩、2歩と引き下がる。
「な‥な‥‥ッ‥‥なんやぁッ!」
叫び声‥とまではいかないけど、慌てふためいているのが分かる、少し大きめの声。
そろそろオイラが出て行った方が‥ああ、いや、まだだね‥もう一つ、ヤダンがする事があったんだから。
そんなオイラの気持ちが分かる‥とでも言う様に、早速ヤダンは‥‥話し始めたんだ。
「お~ば~け~だヨ!‥ディル、覚悟して~ネ」
‥た、確かに‥オイラの話し方には似てるし‥その‥声も似てる‥のかな?
でも、これだけ聞くとなんだか‥い、いや、ヤダンだって一生懸命やってくれているんだ。
そんな事言っちゃいけないね。
「な‥なんや、フリストか‥驚かせんといてや‥」
オイラの真似をしたヤダンの言葉に、ディルはすっかり騙されたみたい。
そう言ってホッと一息付いてみせたんだから。
‥ふふ、ここまでは筋書き通り‥あとは‥
「なに、ディル?‥オイラに何か用かな‥?」
そう‥オイラがそう言ってディルの前に現れるんだ。
‥ふふ、オイラが変装していると思っていたゴーストが、オイラじゃないと分かって‥
果たしてディルの反応は‥どうかな?
「なあッ!?フリスト‥って事は、こ、こ、このオバケは‥!」
驚いてる‥驚いてる!
うん、ユランの筋書き通りだ‥後はここでオイラが!
「わあッ、ご、ゴーストメ!‥ディルには指一本触れさせないゾ!‥オイラが相手ダ!」
オイラはそう叫んで、ディルとヤダンの間に入り込む。
両手を広げて‥ディルを守る、とばかりに。
‥でも、間近で見ると‥本当に上手く作ってあるなぁ‥ヤダン。
っと、感心してる場合じゃないや‥何か、追い払うマネとかした方が良い‥のかな?
とりあえず、それらしく腕でも振って‥‥なんて思っていたオイラだったけど‥
ユランはゆら~りゆらりと大きく揺れると、オイラのすぐ隣を抜けて‥逃げるように階段へと向かって行ったんだ。
‥ふぅ、とりあえずはこれで‥作戦完了かな。
あ‥いや、最後に一つ。
そう‥ディルがオイラにくびったけになるというシナリオが‥!
オイラはそっと、ディルの方を振り向いてみる。
すると‥
ディルはオイラの方を見て、少し驚いた様な‥いや、感動したような表情を浮かべている。
更には、うっすらと頬を朱らめさせて‥ゆっくりと口を開いたんだ。
「フリスト‥ありがとう、その‥」
ディルは恥ずかしそうな素振りで‥少しだけ視線を逸らして。
そして、オイラに対して‥
「わぁーーーッ!」
その時、階段の下からそんな叫び声が聞こえてくる。
‥あの声は‥ま、まさか‥!
「今の声‥まさかピノ‥‥ピノッ!?」
ディルはそう言うと、慌てて‥階段の方へと走り出したんだ。
そう‥オイラの事は放っておくようにして‥。
と、ともかく‥オイラも追いかけなきゃ‥うん。
「ま‥待っテ、ディル!」
オイラもディルと同じ様に、階段の方へと向かって‥そして。
そこで見た光景は‥‥あぁ。
ピノと向かい合うヤダン‥‥そして、その間に割って入ったかの様なディル‥。
おそらく‥ピノはさっきのヤダンと鉢合わせして‥そして‥あぁ。
これじゃあ、まるで‥まるで‥。
「ピノは‥ボクが守る!指一本触れさせへんで‥!」
さっきオイラが言った様な、そんなセリフをディルが言って‥そして‥
ヤダンはディルに近づいたかと思ったら、くるりと身を翻して‥
‥そしてそのまま、どこかへと‥去って行ったんだ‥。
残された二人‥ディルとピノは‥
「ディル‥ありがとう‥僕‥」
「‥大丈夫やで、ピノ‥」
ああ‥オイラの目の前で、二人は‥抱き合って‥。
こんな‥こんな事って‥‥。
オイラは‥オイラは、目の前が真っ暗になるような‥そんな感覚が‥
‥‥‥?
思わず膝をついて座り込んでしまいそうな‥そんな感覚がしたオイラだったけど‥
ディルがそっと‥オイラの方へと歩いてくるのが見えて、気を確かに保ったんだ。
ディル‥ピノと抱き合っていたのに‥‥オイラに何か‥?
多分‥不思議そうな顔をしていたオイラに。
ディルは近くまで歩いてくると‥こんな事を言ってきたんだ。
「フリスト‥改めてやけど、ありがとう。フリストのお陰で、勇気を貰えたような‥そんな気がするんや」
柔らかな‥優しい微笑み‥いつものディルの‥微笑みを浮かべていて。
でも‥「勇気を貰えた」なんて‥。
本当はゴーストだって、偽物だし‥‥なんだかオイラ、凄く悪い事をしてるみたいだ‥。
ショックな気持ちのオイラに‥更にディルの言葉が、追い打ちを掛けてくる。
‥そう、まだ‥ディルの言葉は終わってなかったんだ。
「‥勇気‥か。‥ボクも、勇気を出して‥その、ずっと言えんかった事を‥言うわ。
 今更やけど、その‥フリストの事、弟みたいにしか見えん、なんて言うて‥悪かった‥な。
 あの時は確かに、そう思ってたけど‥勿論、今は違うで‥フリスト」
ディルが言った、突然のその言葉に‥オイラは思わず「ぽかん」と口を開けてしまう。
だって‥その‥今になって、告白の時の事‥た、確か1ヶ月くらい前の‥い、いや、それよりも。
‥えっと‥ディルが言ったのは、その‥
オイラの事は、前と違って‥もう弟の様には思ってない、って事‥だよね。
それってつまり‥オイラを、その‥恋の対象として意識して‥ああ、いや、そこまではいかないかもしれないけど‥
とにかく‥オイラにだってまだ‥チャンスはある、って事だよね。
それなら‥!
‥でも、ディルがそう言ってくれたのは‥オイラの「お芝居」を見たから‥だよね。
そう‥「お芝居」のオイラが言われたんであって、「本当」のオイラが言われた訳じゃないんだ‥。
オイラは‥まだまだ子供で‥‥ううん、そんな事思ってちゃ、ダメだよね。
オイラも‥オイラも、ちゃんと成長しなきゃ‥もうディルから「弟みたい」なんて言われないように‥成長しなきゃ。
その為には‥ちゃんと‥ちゃんと「向かい合う」必要が‥あるんだ。
ちゃんと‥ちゃんと。
オイラは心に決めると‥まっすぐピノの方へと向き直ったんだ。
言わなきゃ‥ちゃんとピノに言わなきゃ。
「オイラも‥その‥‥ごめン‥。ディルの事が好きデ‥ピノにずっト、酷い事してタ‥。
 ピノはずっト、優しくしてくれたのニ‥それなのニ、オイラ‥」
今まで‥ピノに言った事‥こんな「ごめん」の一言で、許されないかもしれない。
ピノにしてみれば、きっと‥辛い事だったと思う‥それなのに、ピノは‥オイラに優しくしてくれて‥。
‥そんなオイラの言葉に、ピノは‥
「ううん、僕がね、フリストの立場だったら‥きっと同じ事をしてたよ。だから‥ね?」
やっぱり‥やっぱり、優しい声で‥優しい表情で‥オイラにそう言ったんだ。
そんな‥そんなに優しくされたら、オイラ‥。
「ごめン‥ごめんネ、ピノ‥。オイラ‥オイラ‥」
さっきから、ずっと堪えていた涙‥それが溢れてくるのを、止められなかった。
オイラは涙を流しながら、謝り続ける‥ただそれだけしかできなかったんだ‥。
そんなオイラを、ピノは‥そっと抱きしめてくれて。
そして‥オイラが泣き止むまで、背中をさすってくれていたんだ。

しばらくの時間の後‥オイラはようやく泣き止むことができた。
‥もう、どれだけ泣いたのか分からないくらい、泣き続けて‥
でも、泣き止んだ後は‥お陰でスッキリしたなぁ、なんて思う位だった。
そう、涙を流してスッキリしたのと‥ピノに対するわだかまりが解けて、スッキリしたのと‥ね。
とりあえず‥泣き止んだ後、ディルとピノには‥もう一度目の院の屋上へと上がって貰って。
‥オイラはまだ、下に居る。
その‥少しくらいなら、二人だけで星を見てれば良い、って思ったからだ。
でも!オイラはディルを諦めた訳じゃ無い。
そう、きっと‥ディルを振り向かせてみせるんだ‥オイラの本当の魅力で。
それまでは‥うん、ディルをピノに貸しておいてあげるよ。
そんな‥小さな強がりを心に抱きながら‥オイラはそっと、空を見上げる。
星の‥とても綺麗な空を。
オイラにはまだ、どの星がどの星座で‥なんて事は分からないけど‥それでも。
星が綺麗だ、って事だけは‥分かるから。
うん‥少なくとも、昨日までの星よりは、ずっと綺麗に‥思うから。
だから‥
「オバケ~だ~ヨ」
「え‥わ、わあッ!?」
空を見上げるオイラに‥横からヘンな声が聞こえてきて‥思わず声の方を振り向く。
すると、そこには‥何やら黒い布を纏った人が‥‥って、アレ?
「えっト‥その声ハ‥‥もしかしテ‥‥‥ヤダン?」
「もしかしなくてもそうだよ。‥悪かったな、来るのが遅くなって。えっと、俺は確か‥」
この‥黒い布に、ところどころヘンな模様?の入ったものを着ていたのが‥ヤダン。
しかも、「来るのが遅くなった」って事は‥つまり‥それって‥!
「ちょ、ちょっと待って‥‥それじゃあ、さっきのゴーストは‥!?」
まさか‥本物‥!?

目の院から、少しだけ離れた所で‥ぼくは彼らの様子を眺める。
とりあえずは‥上手くいったみたいだ。
うん‥フリストもピノと仲直りが出来たようだし‥
ディルもフリストの事を、少しだけど意識するようになった‥かもしれないし。
‥ふふ、フリストとヤダンは「オバケ」の事を不思議がっているかもしれないけど‥
少しだけ黙っておく事にしようかな。
‥それにしても‥最近の「変身グッズ」は便利だよね‥しかも雑貨屋さんで売ってるんだから。
さぁ、そろそろぼくは帰ろう‥植木鉢に水をあげないといけないからね。


 
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