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ショート

その16『復帰』

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「夕陽‥綺麗だけど、なんだか‥‥寂しいな」
ジュノ下層の大通り‥人通りの多い真ん中の筋から、少しだけ外れた場所。
吟遊詩人の酒場の近くで、僕は手すりにもたれながら呟いた。
僕の目の前に広がっているのは、茜色の夕陽が沈んでいく光景。
それはとても綺麗なんだけど‥‥今は寂しくも見えるんだ。
夕陽を見る事自体は、勿論珍しい事じゃない。
でも‥今日みたいにじっと夕陽を見る事は、そうそう無かったと思う。
そして‥夕陽を見て「寂しい」なんて思いを感じたのは‥今日が初めてだ。
いつもと変わらない夕陽だというのに、そんな風に感じるのは‥きっと僕の心が沈んでいるせいなんだろう。
僕の心が沈んでいる理由、それは‥‥
‥ちょっとだけ、おはなしさせてね。
 

おっと、そうだった‥自己紹介とかしていなかったよね。
僕はセイル・ルセイル‥知り合いからはセイル、って呼ばれてるんだ。
16歳のタルタル族‥オレンジ色の少し長めの髪を、後ろで縛っているけれど‥一応男だからね。
職業‥って言ったら良いのかな、一応僕は冒険者をしていてね、中でも黒魔道士を主としているんだ。
12歳で冒険者になってから今までの4年間、ずっと頑張ってきたけれど‥
しばらく、冒険者をお休みする期間があったんだ。
丁度3ヶ月前、一人暮らしをしていた僕の父さんが‥病を患って倒れてしまってね。
命に関わるような病ではないけれど、今までの様に一人暮らしを続けるのは困難‥という状況らしかった。
元々母さんが早くに他界していた事もあったし、子供は僕だけで、更には他に頼れる親類も居ない。
唯一の身寄りである僕は、父さんの元に戻らなきゃいけなくなったんだ。
戻らなきゃいけない‥絶対に戻らなきゃいけないのは分かってる‥
唯一の肉親である父さんが倒れたんだから‥当たり前だよね。
でも、僕は‥‥‥ううん、なんでもない。
とにかく、僕はリンクシェルのみんなに事情を話して‥しばらくの間、リンクシェル活動を「お休み」させて貰う事にしたんだ。
そう‥「辞める」じゃなくて「お休み」させて貰ったんだ。
父さんの病気の、回復の目処だとか‥そういった事が分からないから、僕がいつリンクシェルに戻れるかは分からない。
でも、それでも‥リーダーも、みんなも‥「待ってるよ」って言ってくれたから。
だから、僕はお休みを貰って‥一路、故郷ウィンダスの父さんの元へと戻ったんだ。
冒険者をしていた時に貯めていたお金があったから、治療や生活の費用には困らなかったけど‥
故郷で父さんと暮らす生活は‥とっても慌ただしいものだった。
勿論、父さんの治療なんてのは出来るはずがない。
‥そこは専門家任せだったけど‥例えば家事周りを初めとした、父さんの身の回りの世話とかがあったから。
慣れない間は、要領も悪くて‥四苦八苦してばかりでね。
そんな忙しい中の‥ほんの少しの息つく合間にも、僕は思いだしていたんだ‥
冒険者だった頃の事、リンクシェルのみんなの事‥色々と‥色々と。
でも‥思い出せば思い出すほど、僕の胸が‥きゅうっと痛むんだ。
ああ、どうして僕はここに居るんだろう‥どうして僕は、冒険者として活動していないんだろう‥って。
‥それは決して思ってはいけないことなのに。
そんな思いがあったから‥かな。
時間が経つにつれて、僕は冒険者の頃を‥振り返らなくなった。
日々の生活に慣れ、自由な時間が出来ても‥ね。
ふとすれば頭に浮かぶ記憶を‥振り払って、父さんの世話を続けた。
‥そんな生活を続けて、はや3ヶ月。
幸いにも、父さんは元気を‥そして日常生活を取り戻したんだ。
もう、父さんは以前の様に、一人でも生活していける。
僕が父さんの元を離れても、もう大丈夫。
そんな状態になっても‥僕はまだウィンダスに居た‥父さんの元から離れないでいた。
日々、冒険者であった頃を忘れようと考え続けたから‥かな。
その頃にはもう、「このままでも良いかな」なんて思い始めていたんだ。
冒険者なんて、命の危険のある仕事は辞めて‥ウィンダスで何か仕事を探せばいいんじゃないか。
このまま穏やかに暮らせば、良いんじゃないか‥なんて。
‥勿論、僕の中に「冒険者に戻りたい」って気持ちが無かった‥って言えば、それはウソになる。
でも、それ以上に僕の心の中には‥‥いや。
ともかく、僕はいつまで経っても‥ウィンダスを発とうとは思わなかった。
元気になった父さんと共に、ウィンダスでの日々を過ごしていたんだけど‥
ある日‥父さんは僕を呼び出して、こう言ったんだよ。
「セイル、今まで本当に世話を掛けたね。本当に‥ありがとう」
いつもの優しい父さん‥病気のせいか、僕が冒険者になる前よりは、少しだけ老けた‥そんな感はあるけれど‥
その表情は、いつもの様ににこにこと微笑みを浮かべていて。
久しぶりに聞いた「ありがとう」という言葉は‥少し恥ずかしくて、でも‥嬉しかった。
でも‥そんな父さんの微笑みは、すぐに‥悲しそうな表情へと変わっていったんだ。
「でもね‥戻らなくて良いのかい?‥後悔はしないかい?
 お前の居るべき場所へ戻らなくて。お前が本当に居たい場所へ行かなくて」
その言葉を聞いて‥僕の胸はきゅうっと締め付けられるような‥そんな感覚があったんだ。
今まで‥自分で自分の気持ちを抑えつけていて‥
その結果、いつしか‥僕は自分の気持ちから目を逸らしていた。
‥父さんにとっては、それはお見通しのこと‥だったんだ。
‥‥‥後悔。
その言葉を聞いて‥僕は改めて自分の心に‥自分の気持ちに問いかける。
このまま冒険者を辞めて、僕は本当に後悔しないだろうか。
僕の居るべき場所‥僕が本当に居るべき場所は‥
僕が‥本当に居たい場所は‥それは‥‥
‥‥‥そう、それは‥‥‥やっぱりあそこだ。
‥リンクシェル。
3ヶ月前、僕がリンクシェルを離れた時に‥みんなから言われた言葉。
『いつでも戻っておいで』
その言葉が、胸の奥に‥奥底にずっと、輝いていたから。
僕の居るべき場所‥行きたい場所‥それは‥
冒険者としての自分が居る場所‥リンクシェルのみんなと共に居る場所‥
きっとそこだから。
だから‥だから僕は‥
冒険者に‥そしてリンクシェルに戻る決心をしたんだ。

こうして、僕は再び冒険者に戻って‥そしてリンクパールを付けたのが、丁度三日前の事。
事前には誰にも連絡せずに、いきなり戻ったものだから、みんな‥とっても驚いていたっけ。
でも、みんな驚きながらも‥喜んで僕を迎えてくれた。
沢山の「おかえり」「待ってたよ」という言葉を聞いて‥
恥ずかしいけど、嬉しくて‥僕は少し泣いてしまったっけ。
涙が自然とこぼれてしまう位に嬉しくて‥だからこそ「頑張ろう!」って思って‥そして。
僕は翌日から早速、リンクシェル活動に参加する事にしたんだ。
あ、いや‥ホントはリーダーから、少し参加を見合わせるか‥って気遣いもあったんだよ。
僕が冒険者に戻ったばかりで、いきなり活動に参加するのは大変なんじゃないか‥って、そんな気遣いをしてくれて。
‥その時はそう思っていたんだけど、でも‥それは全く違っていたって事を、後になって気付かされる事になる。
さて、肝心の活動の事だけど‥
翌日から二日間‥つまり昨日と今日の二日間だね、皆でNM‥ノートリアスモンスターの討伐を何戦か行ったんだ。
僕も勿論、黒魔道士として参加したんだけど‥
‥散々なモノだった。
正直言うと、その時の僕は‥自分でも「なんとかなるんじゃないか」って思っていたんだ。
3ヶ月前‥僕がお休みに入る前まで、黒魔道士としては‥リンクシェル内でも活躍していた方だった。
装備だって凄く良い‥とまではいかないけど、ほどほどに良いものは持っていたし‥
多少カンが鈍っていても、なんとかなる‥って思っていたんだ。
‥でも。
3ヶ月という時間は、僕とみんなとの力量差を大きく広げていた‥。
僕の腕がなまっていた、というのもあるのかもしれない。
いや、それ以上に‥みんなは強くなっていた。
それは、みんなと共に戦った僕だから分かる。
みんな‥驚くほど強くなっていた。
それに、力量だけじゃない、装備だってそうだ。
たった3ヶ月‥いや、されど3ヶ月って言っても良いだろう‥その間に、みんなの装備は大きく変わっていて‥
戦闘の始まる前、みんなに見せて貰った装備は‥僕にとっては信じられないものばかりだった。
‥少なくとも、装備の知識が3ヶ月前で止まっている僕にとっては。
力の差は歴然‥装備だって大きな差がある‥そんな状況で。
吟遊詩人や、コルセア‥あるいは支援型の赤魔道士なら、まだ‥まだ活躍の場は広がったかもしれない。
でも‥不幸にも僕は黒魔道士だ。
モンスターに精霊魔法を‥あるいは弱体魔法を撃ち込む事で、ダメージを与えたり能力を弱らせるのが仕事だ。
そんな黒魔道士が‥あぁ、そうだ、それだけじゃないんだ。
更に言うなら、戦ったノートリアスモンスターが悪かった。
対峙し、戦ってみた限り‥僕を除いた他の面々でも手こずる様な強さで。
他の黒魔道士の人達が、なんとかダメージを与えている‥という状況で、僕が‥どれだけ役に立っただろうか。
‥戦闘には問題無く勝てた‥けれど‥けれど。
力及ばない僕を、みんなもいたたまれなく思っていたんだと思う。
戦闘を終えた後、皆が口々に「気にするなよ」って言葉を掛けてくれたけど‥
‥僕は無理して微笑みを返すのがやっとだった‥。
結局‥昨日、今日の二日間で‥自分の力の無さを嫌と言うほど味わった僕。
三日前のあの時‥リーダーからの参加を見合わせる申し出に「今回はやめておきます」と答えていれば。
あるいは、冒険者に戻る前に‥事前に相談していれば。
‥いや、そんな事を今更言っても仕方無いのは分かってる。
分かってるけど‥それでも思わずにはいられなかったんだ。
そんな‥気分の沈んでいる僕に。
今日のリンクシェル活動を終えた後で、僕の復帰祝いを兼ねた食事会を、吟遊詩人の酒場で開いて貰ったんだけど‥ふぅ。
こんな状況だ‥僕自身、とてもじゃないけど楽しむ気分になれない、っていうのもあって‥
復帰祝いの主役が、そんな沈んだ顔をしてたから‥かな。
みんなだって、今ひとつ盛り上がりに欠ける様な‥そんな雰囲気があったんだ。
そういった空気を、僕はひしひしと感じてしまって。
徐々に僕が責められているような、そんな気分になってしまったんだ。
勿論、みんなにそんな気持ちなんて全然無い事は、僕にだって分かってる‥分かってるけど‥でも。
結局‥食事の途中で「ちょっと風にあたってくるね」なんて言って‥お店を抜け出してきたんだ。


「風が‥気持ち良いなぁ」
賑やかな酒場から出て、もうしばらくの時間が経つかな。
ぼーっと夕陽を眺めながら‥気持ち良い風に吹かれて。
‥勿論、場所が場所だ‥夕方って言っても、ジュノ下層はそこそこに交通量がある。
雑踏からこぼれる雑音や喧噪‥そんな様々な音が僕の耳に入ってくる‥‥でも。
それでも、酒場の中に居るよりは‥心地よい響きに感じた。
ふと‥そこまで考えて、僕は自分でも驚いてしまう。
‥あれほど‥あれほど戻りたかったリンクシェルなのに、今は‥こんな風に思ってしまうなんて。
でも、何気なく考えた事だけど‥それは事実だ。
事実、僕は‥僕はリンクシェルに‥
「‥戻ってこない方が、良かったのかな‥」
何気なく‥何気なくぽつりと‥口を突いて出てきた言葉。
その言葉は、風に飛ばされ‥喧噪に紛れて消える‥‥訳じゃあなかった。
「何言ってるんだよ!そんな訳無ぇだろ!」
突然聞こえてきた、軽い怒りを含んだ言葉‥それも、僕に向けて発せられた言葉に。
僕は慌てて声のした方‥真後ろを振り向いた。
‥そこには、いつの間に近づいてきたんだろう‥同じリンクシェルメンバーのケルン‥‥ケルン・ルナケルンが居たんだ。
「け‥ケルン‥?いつからそこに‥」
ケルン‥僕と同じ、タルタル族の男で‥僕より年下‥確か一つ下の15歳、だったかな。
年下なんだけど、ため口なのは‥リンクシェルに入ったタイミングが同じだったから、かな。
それに、彼も僕と同じ黒魔道士を主としていて‥互いに共感する所があり、仲良くなったんだ。
同じ黒魔道士をしていたから、お互い腕を競い合っていてね。
でも、いつも僕の方が上‥だったんだよね‥‥3ヶ月前までは。
‥今では、完全に逆転してしまったけれど。
ともかく、そんなケルンが‥僕を見て怒っている‥それは表情や、仕草にも表れていて。
両手の拳をぎゅっと握りしめて‥余程力が入ってるんだろう、肩だってわずかに震えている。
顔だって赤くして‥綺麗な茶色のまげだって、怒っているせいかいつもより逆立ってるようにも見える‥気のせいかもしれないけど。
そんな怒りの表情を崩さないまま、ケルンは言葉を続けたんだ。
「んなことどうでも良いんだよ。それよりも!‥『戻ってこない方が良かった』なんて言うんじゃねぇ!」
ケルンの声は、周囲を歩く人にだって聞こえる位、大きな声‥それも怒声に近い声で。
初めて見る、ケルンの怒り‥そして強い意志の言葉に。
‥僕は驚いて‥上手く言葉が出て来ない。
「‥それは‥‥でも‥」
「『でも』何なんだよ!」
そんな僕の言葉が気にくわない‥のかもしれない。
ケルンの語調は更に強く‥熱意だってヒートアップして、僕を問い詰めるような勢いだ。
その勢いに‥僕も圧されてしまって。
‥弱気な言葉を‥放ってしまったんだ。
「‥僕なんて、役に立たないから‥」
言ってしまった後で気付くこと‥
こんな事言ったら、ますますケルンは怒ってしまう‥かもしれないって。
‥でも、そんな僕の思いに反して、ケルンは怒りはせずに‥ただ、一つ大きく息を吸い込んだ。
まるで深呼吸するように、大きく息を吸い込んで‥大きく息を吐いて。
自分を落ち着かせる為にしたのかな‥その表情からも、ゆっくりと怒りの色は消えていった。
そしてケルンは再び話し始めたんだ‥静かに、でも力強い声で。
「セイル‥お前、変わったな」
「‥え?」
ケルンの言葉‥「僕が変わった」という言葉の意味、意図がすぐに理解できなくて‥僕は素っ頓狂な声を上げてしまう。
でも、少し考えて‥なんとなく‥なんとなくなんだけど、ケルンの言葉、その意味が‥解り始める。
「‥少なくとも、リンクシェルを休む前のお前は‥‥輝いてたよ。
 いつも一生懸命に‥頑張って、腕を磨いて、動きを研究して‥俺には輝いて見えたよ」
気落ちしたような‥残念そうな‥そんな表情で紡がれる、ケルンの言葉。
‥ケルンの言いたい事は、なんとなく解る‥
思い出せば、あの頃‥3ヶ月前の僕は‥一生懸命だった。
‥輝いていたかどうかは分からないけど‥。
装備の一つ一つを見直し、自分にとってのベターは何かを探した。
自分の腕を‥そしてスキルを磨いた。
他の人の動きを研究し、よりよい動きを模索した。
‥何のために‥?それは勿論‥‥自分のために。
努力を重ねる毎に‥そして成果を上げる毎に、みんなから‥嬉しい言葉を貰えたから‥
みんなに‥褒めて欲しかったから‥認めて欲しかったから‥
だから、もっと‥もっと‥強くなりたかった。
強くなるために、僕は一生懸命努力したんだ‥
‥‥でも‥‥でも。
今の‥今の僕は。
もう、あの頃とは違う‥‥弱いんだ。
強くなんて‥ないんだ。
だから‥
「もう、僕は‥弱」
「確かにさ、今のお前は‥弱ぇよ。でもさ、だからって‥それで終わるのか?終わっちまうのかよ?
 ‥‥違ぇだろ?お前は‥お前はそんなヤツじゃねぇだろ!?」
僕の言葉を遮るように、力の込められた言葉が‥ケルンの口から放たれる。
意志の込もったケルンの言葉は、僕の心を責め立てるように‥‥いや、それは違う。
ケルンはそんなつもりじゃない‥ただ、一生懸命なんだ‥一生懸命、僕に‥伝えようとしてくれている。
普段のケルンなら、あまり表に出そうとしない、強い心、熱い心で‥
僕に‥発破を掛けようとしてくれている。
それは、分かってる‥‥分かってるつもりだけど‥
僕にはまだ、それに答える言葉が‥出てこない。
そうだ、僕には‥
「俺の好きな‥いつも輝いてるお前に、戻って欲しいんだよ!」
その言葉‥ケルンの言葉を聞いて、僕の胸が‥一瞬だけ跳ねたんだ。
ケルン‥‥以前のケルンは、いつも強気で‥元気で‥わんぱくで。
年下、って事も考えると、なんていえば良いのか‥手の付けられない弟、みたいなイメージがあった。
彼がピンチの時、僕が声を掛けても「全然大丈夫だ、なんともない!」なんて意地を張ってみせたりとか。
勿論、そんな事を言われても、僕は手助けをしたものだけど。
‥その時のケルンは、そう‥恥ずかしさ半分、うれしさ半分‥って表情をしていたっけ。
本当に‥ふふ、弟みたいに思っていたんだ。
でも‥その癖「よくある弟像」とは違って、自分の希望とか、我が儘とかは全然言わなくて。
いつも「俺は後で良いんだ」なんて言ってたっけ。
‥そう、僕はケルンが「あれが欲しい」とか‥「これをしたい」って言うのを聞いたことがなかった。
でも、決して装備だとか、スキルだとかを軽視していた訳じゃない。
ケルンはいつも、他人には見えないところで努力して‥装備を調え、腕を磨いていたから。
‥そんな彼の努力は、同じ黒魔道士をしている僕にはよく分かった。
そんな‥そんな彼が。
普段は我が儘を言わない彼が‥今、僕に我が儘を言っている‥いや、言ってくれている。
‥その‥あの頃の僕‥輝いていた僕に、戻って欲しい‥って。
「‥ケルン‥」
僕は思わず、ケルンの名前を呟いて‥そして、彼の瞳を見つめる。
感謝というか‥なんというか‥上手くは言い表せない、あたたかい気持ち‥
そんな気持ちを‥僕の心に湧き出させてくれたのだから。
‥すると、ケルンの表情が急に変わっていくのが見えたんだ。
それまで真剣な表情をしていたケルンが、急に何かに気付いたかのような表情へと変わって‥
更には、顔をみるみる間に朱く染めていったんだから。
何か‥あったのかな?
そんなケルンの表情の急な変化に、僕は軽く首をかしげると‥
「あ‥い、いや、その‥好きってのは‥その‥」
なるほど、ケルンはさっき自分で言った「好き」という言葉に反応してしまった‥のかな。
それまでの熱い語調から打って変わって‥まるでぼそぼそとつぶやくような声で話すケルン。
その様子にしても、少し慌て、戸惑っている様子が見えて。
そんなケルンを見てると、僕は‥思わず顔がほころんでしまう。
だって‥ね?
ケルンの性格からしても、「好き」だなんて‥とても普段じゃ言えない言葉だものね。
きっと恥ずかしかったんだと思う。
そんな事を考えたから‥かな。
「‥大丈夫、分かってるよ」
僕はケルンが‥ふふ、可愛く思えてしまってね、気がついたら笑顔を見せていたんだ。
あ‥笑顔、って言っても‥ほんの少し微笑む程度だったけど。
それでも‥作り笑いじゃない、本当に心からの笑顔を‥見せられたんだ。
そんな笑顔をケルンに見せて、一つ分かった事がある。
不思議なものだけど、少し微笑んでみたら‥少し‥少しだけ、気分が楽になった、って言うのかな。
気休めかもしれないけど、でも‥「これからも、案外なんとかなるんじゃないかな」なんて、思う様になったんだよ。
‥状況は何も変わっていないのに‥不思議だね。
思い返してみれば、僕は‥昨日の活動再開から今日‥今まで、全然笑っていなかったかな‥なんて思う。
‥作り笑いを除いたら‥ね。
余裕が無かった‥皆に追い詰められた様な気になっていた‥なんて言ったら何だけど‥
‥でも、それは元はと言えば、自分でまいた種だしね。
そして‥そんな自分を解放してくれたのは‥そう、ケルンだ。
僕に‥熱い言葉を、そして思いを伝えてくれて。
そして‥偶然にせよ、こうして笑顔までくれたんだから。
だから、ちゃんと‥ちゃんと僕も伝えないと、ね。
「‥ケルン、ありがとう」
僕の「ありがとう」の言葉に、ケルンは更に恥ずかしそうな顔をして‥軽く顔を背けた。
でも、恥ずかしいっていう思い以上に、言いたい事があったんだと思う。
再び僕の方へと向き直ると、少しだけ嬉しそうな表情になって‥改めて口を開いたんだ。
「‥お、おう‥‥と、とにかくさ。
 3ヶ月って時間は、そう簡単に埋められ無ぇかもしれねぇ。でも‥ちょっとずつ‥ちょっとずつ、努力しようぜ。
 俺も‥いや、他のヤツらだって、一緒に頑張るからさ!」
「‥ケルン‥でも‥」
ケルンの言葉‥申し出は凄く嬉しい。
さっきからケルンの言葉に背中を押されるようにして、僕は元気を‥頑張ろうって気を取り戻しつつある。
‥でも、その一方で‥そこまで世話になって、迷惑を掛けてもいいものだろうか、って思いもあるんだ。
だから、僕はそんな消極的な言葉を漏らしてしまう。
でも‥そんな消極的な言葉すらも、摘み取ろうと‥ケルンは言葉を続ける。
「セイルが休む前まではさ、俺達の方がセイルに色々と手伝って貰ってただろ。
 いつだって、どんな時だって「手伝うよ」って言ってくれて‥俺だってそうだ、その‥沢山手伝って貰ったしさ。
 それから、なんて言えばいいのかな‥‥俺は、セイルを追い越すつもりで頑張ってた。
 でも、それは俺だけじゃなくてさ‥みんなそうだったと思う‥みんな、セイルに引っ張られてたんだと思う。
 ‥だからさ、今度は‥‥なっ?」
ケルンの語調は一変して優しい声色になっていて。
声だけじゃない、表情だってそうだ‥本当に嬉しそうな‥そんな表情を、僕に向けてくれた。
そんな‥そんな優しい事言われたら、僕は‥‥僕は‥‥。
‥良いのかな‥甘えちゃっても‥良いのかな‥。
自分の心の中で、そんな甘い迷いが生まれていく。
でも、そんな甘い迷いすらも、断つように‥
目の前のケルンは、嬉しそうにこくり、って頷いたんだ。
まるで‥そう、僕の悩みすらも見抜いているように。
‥良い‥よね?良い‥んだよね?
少し‥少しだけ‥。
みんなと‥そしてケルンと‥一緒に居たいから‥。
だから‥。
「‥ケルン‥‥ありがとう‥ありがとう‥。
 僕‥もう一度頑張ってみるよ‥ううん、頑張るよ。ケルンに追いつく‥いや、追い抜く為に」
気がついたら、僕の目から‥涙がこぼれていた。
勿論、悲しくて泣いたんじゃない。
もう一度リンクシェルでやりなおせる、っていう安堵感と‥そして‥
ケルンの優しさに‥温かさに触れて、嬉しかったから‥だから‥
だから‥。
「ふふ、ちったぁセイルらしい顔つきに戻ったな。でも、俺だってさ‥まだこれから頑張るんだからな。
 そう簡単には追いつかせねぇよ!」
ケルンは、僕のこぼした涙には何も言わずに‥
今日一番の嬉しそうな顔をして、そう言ったんだ。
「うん!」
僕も‥僕も、いつまでも涙なんて見せてられない。
慌てて服の袖で涙を拭うと、ケルンに大きく頷いてみせた。
そんな僕に、ケルンは‥肩を並べると、軽く背中を押し始める。
「さ、そうと決まりゃ‥メシ食いに戻ろうぜ。‥食事会のやり直しだ!」
一緒に吟遊詩人の酒場へ戻ろう、と言う様に。
一緒にこれからも歩んでいこう、と言う様に。
ケルンの手に背中を押される様にして‥僕も歩み始める。
そうだ‥僕だって、これから‥しっかりと歩んでいかなきゃいけない。
もう、立ち止まらないように‥しっかりと‥しっかりと。
‥酒場の中に居るみんなにも、ちゃんと言おう‥
一人でいじけて、ふさぎ込んでごめんね、って。
これから頑張って、みんなに追いつくよ、って。
だから、これからもよろしくね‥って。
酒場の出入り口‥扉の前で。
僕は、もう一度溢れてきた涙を拭うと‥深呼吸を始める。
大きく息を吸い込んで‥そして吐いて。
息を吐き終えた、その時‥僕の手に、ケルンの手がそっと触れる。
僕の手を包み込むように、優しく握ってくれる‥ケルンの温かな手。
思わずケルンの表情を見ると‥真剣な表情に、優しい微笑みを浮かべながら‥こくりと頷いて‥こう言ったんだ。
「な、セイル‥みんなにさ、言って無かった言葉、あっただろ?
 戻ってきてから、みんなに直接言って無かった事‥なっ?」
ケルンのその言葉に‥僕は思い返してみる。
そういえば‥そう、そういえば。
戻ってきた時に、リンクパールの会話では‥似たことを言ったけれど‥
こうして直接みんなと会った時に、言って無かった言葉があった。
言わなきゃいけない言葉‥言った方が良い‥よね、今更かもしれないけれど。
僕はケルンにこくりと頷き返して‥そして。
僕は扉を開けたんだ。
‥扉を開けると、不思議と‥酒場の中は静まりかえっていて。
他のお客さんだって居るのに、それでも‥とっても静かで。
それというのも、リンクシェルのみんなが‥揃って扉の方、つまり僕の方を見ていたから‥かもしれない。
その独特な雰囲気を、他のお客さんも察知して‥って。
とにかく‥僕が言い忘れていた言葉を言うなら、今しか無い‥僕はそう思ったから‥だから‥
僕は改めてケルンの手を、ぎゅっと握りしめると‥大きく息を吸い込んだんだ。
大きな声を‥お腹の底から、大きな声を出す為に。
みんなに‥ちゃんと伝わるように。
思いを込めて‥色々な‥思いを込めて。
僕は‥声を出したんだ。

「みんな‥ただいま!」

 
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