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 ←その16『復帰』 →拍手のお返事など(H25.6.8)
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その17『確認』

 ←その16『復帰』 →拍手のお返事など(H25.6.8)
あらすじ
 僕はセイル・ルセイル、タルタル族の男で、16歳。
 冒険者の‥黒魔道士を主にしていたんだけど、ある日‥父が倒れてしまい、僕は故郷に帰ることになったんだ。
 それまでお世話になっていた、リンクシェルのみんなには‥お休みを貰う形で。
 そして3ヶ月後、再びリンクシェルに戻った僕を待っていたのは‥みんなとの力の差、装備の差‥だった。
 なさけない事に、リンクシェルに戻って早速、挫けそうになる僕。
 でも、そんな僕を‥友人のケルンは支えてくれた‥勇気づけてくれた‥そして‥
 リンクシェルのみんなに、僕は心から言う事が出来たんだ‥「ただいま」って。

 

「‥そうだね、ケルンの言うセンは考えられるかもしれない。でも、僕としては‥」
「‥いやいやセイル、待ってくれよ。そうするとこっちがダメになっちゃうだろ」
夜‥ジュノ上層にある、吟遊詩人の酒場。
入り口にほどなく近い、一つのテーブル席にて‥僕はケルンと食事をしつつ、議論を交わしていた。
‥いや、議論を交わしつつ、食事をしていた‥って言った方が正しいのかもしれない。
それくらいに、ケルンとの議論は白熱していて‥そして、とても楽しいものだったから。
議論って言っても、題材は色々とあるんだ。
戦術論、戦略論、魔法論‥話す事、交わす意見はたくさんある。
それこそ、目の前に置かれた食事よりも、議論の方が大事!っていう位に。
「じゃあ‥それじゃあ、こっち‥こっちのラインから揺さぶりを掛けるように‥」
「ん‥そうだよな、そっちなら‥って。‥メシが冷めちゃうな‥やっぱり先に食おうぜ」
つい先程運ばれてきた食事をよそに、議論を続けようとしていた僕だけど‥
ケルンは食事の方に視線を向けると、そう言ってスプーンを手に取ったんだ。
‥確かにケルンの言う通り‥今日の夕食はシーフードシチュー、冷めると味が格段に下がる料理だ。
折角議論に熱がこもっているところで、中断するのは少し残念だけど‥
議論は後にして、まずは美味しい料理を食べた方がいいかな。
「ん‥そうだね。それじゃあ改めて‥いただきます」

あれから‥
僕がリンクシェルに戻ってから、およそ1ヶ月の時間が経った。
その1ヶ月の間、僕は幾多の戦闘をこなしてきた。
最初こそ、挫けそうになる‥とまではいかないものの、色々とショックを受けたものだ。
戦闘の流れの違い‥力の違い‥戦術の違い‥色々、色々。
色々な新しいものに触れる度、戸惑う僕を‥ケルンは支えてくれた。
僕がこの1ヶ月間、頑張ってこられたのは‥間違いない、ケルンが居てくれたからだ。
毎日毎日、戦闘に明け暮れて‥勿論、それは少しでも早くみんなに追いつく為で。
僕は一生懸命頑張って‥って言っても、一人で出来る事なんてたかがしれてる。
でも、リンクシェルのみんなが、交代で一緒に戦闘に臨んでくれたから‥
だから、僕も連日戦闘に臨めたし‥それに‥
ケルンだけは毎日、僕に付き合ってくれたんだ‥そう、さっき言った様に‥いつも僕を支えてくれて。
だからこそ、そんなケルンに何か恩返し‥っていう訳では無いけど、何かお礼をしてあげたいな、って思うんだ。
‥でも、具体的に何をすればいいのか、イマイチ考えが思い浮かばない。
ケルンとは、仲が良い‥って言っても、僕がお休みする前は‥リンクシェル活動時に軽くお話とかをする程度だったし。
今話してる戦術論だとか、そんな話をする事は無かったんだ。
で、他のプライベートな話‥例えば趣味だとか、好みだとか‥そういう話もした事が無くって。
‥戻ってきてからは、こうして二人で過ごすことが多いから‥仲良くなってきている気はするんだけど。
ともかく、ケルンの好みが分からない中で、なにかお礼って言っても‥うーん。
まぁ、それはじっくり考えるとして‥
僕がリンクシェルに戻ってきてから、時間も経って‥僕も少しは皆の役に立てるようになってきた‥と思うんだ。
‥最も、装備の方はからっきしで‥こっちはまだまだ時間が掛かることだろうけど。
でも、腕前だとか‥動きだとか‥そっちの方は、少しくらいは成長したかな、って思う。
ケルンなんて「もう追いつかれてる様な気がする」なんて言うけど‥まだまだそんな事は無いよ。
もっともっと‥僕は腕を磨きたい‥強くなりたい。
その為にも、モンスターと対峙したときは腕を磨いて‥
そしてこうしてケルンと居る時は、様々な議論を交わす事で頭脳を磨いている。
僕が元からこういった‥戦術論とか、そういうのを考えるのは好きだったから‥尚更ののめり込んでしまうのかもしれない。
少し前には、食事を前に延々と語りこんで、ケルンから「もう腹ペコだよ」って呆れられた事もあったっけ‥。
まぁともかく、僕だって‥あ、そういえば‥
唐突だけど、さっきの戦略論の話で‥思いついた事がある。
‥うん、そうだ、これならきっと‥!
「ね、ケルン、さっきの話だけどさ‥やっぱり僕は‥」
「ストップ!‥セイル、スープが冷めるからさ‥後で」
‥そうだった、先にスープ‥ってシチューか、これを食べなきゃいけないんだった。
ダメだなぁ、僕も‥つい、熱中すると他の事が見えなくなってしまって‥。
「そうだったね、ごめん。先にシチューを食べちゃおう」
慌ててスプーンを手に、シチューを掬い始める僕に‥
ケルンは困った様な、それでいて可笑しい様な‥そんな苦笑を浮かべる。
「本当にセイルはしょうがないなぁ‥真面目でさ」
ケルンはそう言って、シチューをぱくり、と口に運んで。
僕も同じ様にシチューを口に運びながら‥ケルンの言葉を考える。
真面目‥かぁ‥‥僕、そんなに真面目かな?
「ん‥真面目って‥そうなのかな?僕はそんなつもりは全然無いんだけど‥」
確かに僕は、戦術論とか‥議論をよくしてるけれど‥
でもそれは、戦術論とか考えるのが好きだからしている訳で‥
別に真面目って訳じゃあ無いと思うんだけどなぁ。
「真面目だよ。食事中でも戦術論とか話したりするの‥えっと、向上心、っていうのか?
 とにかくそれがあって、偉いとは思うけどさ」
僕の言葉に対しても、ケルンは首をかしげながら‥そういう風に言ってくれて。
‥向上心かぁ‥でもなぁ‥‥その向上心だって、結局は自分がしたいからしている訳だし‥
うーん、真面目と言うよりも、欲望に忠実というか‥
「‥‥でも、ホントはもっと、違う話だって‥」
僕があれこれと考え事をしていたから‥かな。
ケルンがぽつりと言った言葉が‥よく聞き取れなくて。
「え?何?ケルン‥なんて言ったの?」
ケルンに改めて耳を傾けて、そう聞き返したんだけれど‥
「‥なんでもないよ」
僕の言葉にケルンはそう答えて、意識をシチューのお皿へと向けてしまったんだ。
どこか誤魔化したかの様にも思える、ケルンの言葉に、
僕は謝ってもう一度聞き直してみる、っていう事も考えたんだけど‥
‥なんとなく、そう答えたケルンの表情が‥不機嫌そうに見えたから。
だから‥声を掛けるのは止めたんだ。
‥これが僕の勘違いならいいんだけど‥。

「やっぱりね、状況から事前予測、判断、行動と‥迅速な思考の流れを作った上で、不測の事態にも対応できるように‥」
シーフードシチューは、すっかり綺麗に食べ終えて‥今は食後のグレープジュースを飲んでいる。
あ、勿論僕とケルンは、食事前にしていた議論の続きをしているんだ。
ちなみに今話しているのは、戦闘時‥主に掃討戦や連戦における行動についてなんだけど‥
ケルンの表情は先程までとは違って、あまり冴えない。
熱意が見えない、というか‥疲れてきた、っていう風にも見えて‥うーん。
ケルンは、戦術論とかのお話をすると、嬉しそうにしているから‥そういう話は好きなんだと思うけど‥
もしかしたら、こういう話はあまり好きじゃないのかな‥?
とりあえず、一旦グレープジュースを飲みつつ‥今後の展開を考えてみよう。
えっと‥
「‥‥うーん、俺、そこまでついていけないなぁ‥。
 セイルはもしかしたら、学者が向いてるんじゃないか?確か学者って、そういった‥一歩先を読んで行動するジョブだろ?」
考える僕に、ケルンはそんな言葉を掛けてくる。
なるほど‥僕の方が少し勇み足だったみたいだ。
ケルンはどうやら、こういう話が好みじゃないみたいだし‥だったら、別の話題に話を振っていこう。
そうだなぁ‥妥当なのは、丁度題材に上がった「学者」‥についてかなぁ。
学者‥うーん‥
確かに、学者というのはケルンが言う様なジョブだ、っていう話は聞く‥聞くけれど。
僕の所属するリンクシェルには、学者を主としている人が居なくて。
更には、リンクシェル外の知り合いにも‥やっぱり居ないものだから、僕は学者というジョブの本質をよく知らないんだ。
僕としては興味があるんだけど‥
「そうだね‥セイルは学者に向いているかもしれないね」
学者か‥と考える僕に、全然意識していなかった方向から、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。
テーブルを挟んで目の前にいるケルン‥を正面に見て、左手の方向。
僕は首を曲げ、左の方へと視線を移すと‥テーブルから少しだけ離れたところに、見知った顔が居たんだ。
「ん‥?あれ、ウェイン‥こんなところでどうしたの?」
そう、そこに居たのはリンクシェルメンバーのウェイン・ジェインだった。
ウェイン‥僕達と同じ、タルタル族の男で‥確か年は僕より1つ上の17歳だった筈だ。
でも、リンクシェルには僕達とほぼ同じ時期に入った‥つまり同期だから、おしゃべりだってよくする方なんだ。
ウェインはいつもの格好‥赤魔道士のアーティファクトに身を包み、身体を少し傾かせるようにして立っていた。
‥彼曰く、「この姿、この角度がボクを一番格好良く見せるんだ」という事らしい。
確かに、顔立ちは良いし‥髪だって長くて綺麗な銀髪だし。
きっと女の子のファンが多いんだろう‥と思う、多分。
それはともかくとして、僕はウェインにさっきの言葉を尋ねたんだ。
‥ここは吟遊詩人の酒場だし、お酒を飲みに来たか‥あるいは食事を食べにきたのか、そのどっちかだとは思うけれどね。
ともかく、僕の言葉にウェインは‥ゆっくりと僕達のテーブルに近づきつつ、説明を始めたんだ。
「ふふ、さっきから近くに居たんだけどね‥二人がとても熱心に話していたから、声を掛けそびれてしまったんだよ。
 ちなみに、ボクは夕食を食べに来ただけなんだけど‥いや、ラッキーだね。丁度探していた二人に会えたんだから」
なるほど、食事を食べに来たら‥丁度探していた二人に会えた、と。
‥話の流れからすると、「探していた二人」っていうのは、僕とケルンの事‥かな?
「二人って‥俺達か?」
ケルンも僕と同じ様に思ったんだろう、僕が聞き返すよりも早く、ウェインに聞き返していたんだ。
「そうだよ。ラケさんからさ、伝言を預かったんだ‥君たちに」
「ラケさんって‥ああ、リーダーの事か。で、何なんだ?俺達に伝言って」
ラケさん、というのはケルンの言う通り、僕達のリンクシェルリーダーの事だ。
勿論それはあだ名なんだけど‥ウェインっていっつも、他人に面白いあだ名を付けるんだ。
あ、ちなみに‥リーダーの事を「ラケさん」って呼ぶのはウェインだけだよ。
「明日の活動、訳あって中止になったみたいだから‥その連絡にね」
なるほど、明日予定していたリンクシェル活動が中止‥と。
それで僕達に知らせに来てくれたのか‥って、んん?
「なんだ‥それくらいなら、リンクパールで‥あ」
それくらいならリンクパールで言えば良いのに‥と思っていた僕だったけど‥そう。
言われて気付いたんだ‥今はリンクパールを付けていない事に。
そもそも、今日の夕方にあった戦闘で‥集中の妨げにならないように、と‥僕達はリンクパールを外していたんだ。
どうしてもリンクシェル会話が聞こえてくると、集中出来なくなっちゃう‥っていう事もあるからね。
で‥そのままリンクパールを付けるのを忘れていた、っていう訳だ。
「ふふ、分かったかい?君たち、リンクパールを外してるものだからさ」
「しまったぁ‥うん、丁度集中しなきゃいけない事があったから、つい‥ごめんね」
軽く微笑みながら発せられる、ウェインの言葉に‥僕は少し恥ずかしくなって、頭をポリポリと掻いてみせる。
だって、あまりに初歩的な失敗だし‥ね?
「いやいや、構わないよ。‥おかげでボクは、こうして‥‥ね、セイル?」
照れ隠しに頭を掻いている僕に、ウェインは近寄ると‥そっと僕のあごへと触れてくる。
人差し指と親指で、まるで僕の顎をつまむ様に‥そっと指で触れてきて‥
更にはその指を動かし、僕の頬をなぞるように‥左耳の方へと撫で上げてきたんだ。
「‥え?」
ウェインの突然の動きに、僕は変な声を漏らしてしまう。
だって‥ね?いきなり顔に触れてくるなんて‥
‥いや、勿論痛くは無いし、優しく触れているから‥どちらかといえば心地よくも感じるんだけど‥
少し戸惑う僕に、ウェインはにっこりと微笑みながらこう言ったんだ。
「うん、キミも段々良い表情になってきた。これなら‥」
「お、おい、ウェイン!‥せ、セイルから手を離せよッ!」
ウェインが話を終えるよりも早く。
ケルンは音を立てて立ち上がると、戸惑うような‥しかしどこか怒っている様な‥そんな声をウェインに向けたんだ。
ウェインの手に戸惑っていた僕だけど、ケルンの動きに‥そして言葉に僕はびっくりしてしまって。
だって‥ケルンってばホントにいきなりなんだから。
‥でも、どうしたんだろう?僕は別に、顔に触れられる位は構わないけど‥
「‥ん?‥なるほどなるほど、そういう事か」
ケルンの言葉に、ウェインはそっと視線を彼の方へと向けると‥
軽く頷きながら、そんな言葉を言ったんだ。
自分で何かを納得したような、そんな様子を見せていて。
「‥そして‥ふふ、なるほどね」
更には、僕の方へと視線を戻して‥またもや、何度か頷いてみせた。
‥その様子は、やっぱり何かを納得したように見える‥‥僕にはそれが何なのかは、分からないけれど‥。
そんな一人納得しているウェインが、ケルンは気に入らなかった‥のかもしれない。
「な、なんなんだよッ!」
また大きめの声を出すと、ウェインにくってかかるような‥そんな表情をしていたんだ。
相当怒っているのか、顔は真っ赤になっていて‥
僕はとりあえず落ち着かせよう、って考えて‥ケルンに声を掛けようとしたんだけど‥
「け、ケルン、ちょっと‥」
「いや、いや‥いいよ。邪魔者は去るとしよう‥‥頑張ってね、ケルるん」
今度はウェインが僕の言葉を遮って、そう言ったんだ。
更には、言い終わるなり踵を返して‥お店を出て行ってしまって。
とりあえず、ケルるん‥っていうのはケルンの事だよね‥?
‥っと、それよりも。
「‥うるせぇ、お前に応援される筋合いはねぇよ!」
去っていくウェインの背中に、ケルンはそんな言葉を投げかけていて。
まるでウェインの背中に、怒りをぶつけているようだった。
ウェインが去った後、ケルンは席に座って‥すぐに様子も落ち着いてきたみたいだ。
そんなケルンを見ていると‥僕はますます分からなくなってしまう。
ウェインがやってきてからの、少しの時間‥
その少しの時間の中に、色々な事があって‥しかも、それが「どうしてこうなったのか」が僕には分からなくて‥
えっと‥つまり、ケルンはウェインに対して怒っていたんだよね。
その‥多分、ウェインが僕の顔を撫でた事に。
‥僕が顔を撫でられるのが嫌だと思ったから?それとも‥ケルンはウェインの事が嫌いだった?
でも、ウェインはケルンを応援している様だったし‥ほら、「頑張ってね、ケルるん」って。
でもでも、ケルンはウェインに応援されるのが嫌みたいで‥
うーん‥えっと、つまり‥
「ね、ケルンとウェインって‥仲悪かったっけ?」
‥こういう事を本人に聞くのもどうかな、とは思うんだけど‥それでも。
もし、二人の仲が悪いんだとしたら、なんとか二人の仲を取り持つことが出来れば‥って思ったんだ。
折角同じリンクシェルに居るんだからね。
でも‥そんな僕の考えは、まるっきり徒労に終わったんだ。
「‥違うよ‥別に仲が悪い訳じゃなくて‥あいつがその‥‥分かりすぎてるだけだ‥」
ケルンは普段通りの表情で、そう言ったから。
その様子はウソをついている様には見えないし‥二人の仲が悪くない、っていうのはきっと本当の事なんだろう。
ただ‥ケルンがその後に言った言葉が、また‥僕には分からない。
‥ウェインが‥分かりすぎてるだけ‥?
ウェインが一体何を分かってる‥分かりすぎてるって言うんだろう。
僕は首をかしげ、頭をひねってもみたけれど‥勿論答えは出て来なかった。
更には、そんな様子の僕を見て‥
「はぁ‥‥。いや、セイルが分かってねぇだけ‥なのかな」
そんな言葉と共に、ため息をつくケルン。
えっと‥僕が分かってないだけ‥?‥‥な、何を‥?
ますます混乱した僕は、ケルンに「どういう意味なの?」って聞いたんだけど‥
‥結局、ケルンは教えてくれなかったんだ。

「さてと。なぁ、セイル‥明日さ、急に時間が空いたけど‥どうする?」
ケルンは、僕の質問を軽くはぐらかすようにして‥そんな事を言ってくる。
僕としては、さっきの言葉の意味を知りたいところ‥だけど。
‥この様子だと、ケルンは僕の質問に答えてはくれそうにないし。
しょうがない、さっきの事は置いといて、今はケルンの話に乗るとしよう。
ウェインさんの話にあったように、明日は当初、リンクシェル活動に出かける予定だったんだ。
それも、お昼過ぎから夜まで‥結構長い時間、活動予定時間があったものだから、結構な空き時間を作る事になる。
さて、それじゃあ‥一体何をしようかな。
‥よし、ここはやっぱり‥
「うーん、そうだね‥やっぱり、ここは一つ腕を磨‥」
「やっぱりかぁ」
僕がしゃべり終えないうちに、ケルンは正に「やっぱり」という表情でそう言ってきた。
‥ふふ、ケルン‥ひっかかったね?
「‥と思ったけど、二人で羽根を伸ばさない?」
そう‥僕が本当に提案したかったのはこっちだ。
さっき僕が考えていた「ケルンへのお礼」‥これを兼ねて、何かしてあげられたら‥って思って。
‥ホントだよ?ケルンがあんな表情をしたから‥じゃないからね。
「えっ!?‥本当に?」
僕の言葉に、ケルンは予想以上にくいついてきて‥
ふふ、とっても嬉しそうな顔をしてる。
‥もしかしたら、ケルン‥疲れてたのかな?
ここのところ、ずっと僕に付き合ってくれていたし‥
ともかく、ケルンが喜んでくれるなら‥僕だって嬉しいし。
「うん、ずっと僕に付き合ってくれたケルンに、お礼もしたいしね」
僕はそう言ってにっこりと微笑んだんだ。
‥とは言え、「羽根を伸ばす」って言っても‥一体何をしたらいいんだろう、っていう思いもあるんだけどね‥。
気ままにお買い物を楽しむとか‥
チョコボに乗って、駆け回るとか‥
それとも‥のんびりと釣りをする、っていうのもいいかも?
まぁ、詳細は追々考えよう‥うん。
‥なんて、考えを巡らしている僕だったけど‥ふとケルンの方を見てみると。
「そうかぁ‥ふふ、そうなのかぁ‥楽しみだな」
嬉しそうに目を細めながら、そんな事を呟いていて‥
ふふ、どうやらケルンも楽しみにしているみたいだし。
明日‥楽しみだな。


翌日。
お昼を少し回った頃、僕達は待ち合わせて‥ジュノにある「とあるお店」にやってきていた。
目的は‥ショッピング。
昨夜、ケルンと別れる前に‥軽くだけど今日の予定を話していて。
僕が挙げたいくつかの「こういうのはどう?」っていう羽根の伸ばし方の中から‥ケルンが選んだのがこれだった。
たかが買い物くらい、いつでも出来るじゃないか‥なんて思うかもしれないけれど、今日のお店はトクベツらしい。
なんでも「どうしても行ってみたいお店がある」けれど「一人で行くのはちょっと‥」とも言っていて、おまけに顔を朱らめたりもして。
その時は、お店の名前も教えてくれなくて‥僕は一体どんな店なんだろう、って思っていたんだけど‥。
今日、いざそのお店に行ってみると‥なるほど、ケルンの気持ちが分かった‥様な気もする。
‥とは言っても、実は僕自身‥何回かこのお店に来たことがあるんだ。
それというのも‥うん、品揃えがとっても良いからなんだ。
‥え?何のお店なのかって?それは‥
「‥な、なぁ‥やっぱりその‥男二人でここに入る、ってのは‥」
お店の扉‥その前で。
ケルンはまだ、そんな事を言っていて‥その様子はどことなく逃げ腰にも見える。
‥ふふ、いつもは元気なケルンが、こんなに‥なんて、からかっちゃダメだね。
「大丈夫だよ。僕も何度かお店に入ってるし‥きっとケルンも気に入るものが、見つかるよ!
僕はにっこり微笑んでそう言うと‥片手でケルンの手を掴み、もう片方の手で扉を開けて‥お店の中へと引っ張り込んだんだ。
お店の中に入り、扉が締まると‥空気が一変するのを感じる。
町の喧噪から少しだけ離れ‥静かな音楽が聞こえてきて‥そして。
「うわぁ‥凄い‥」
お店の中を見て、ケルンもびっくりしたんだと思う。
驚いた様な‥それでいて嬉しそうな声をあげていて。
そして‥お店の中、四方八方を見渡し始めたんだ。
‥ケルンだって一目見ただけで夢中になる、このお店は‥そう、簡単に言えば生活雑貨のお店なんだ。
ただ‥一般的な雑貨屋さんと違うのは、取り扱う品物の種類、その多さと‥デザインが凝っていること。
中でも可愛いデザインの雑貨が多くて、更にはそれがお店の外観にも現れているから‥
だから、男性だとお店に入りづらい‥って人が多いらしい。
‥勿論、ケルンもそんな中の一人って訳で。
‥‥え?僕?‥僕はまぁ‥一回入ったら気にならなくなった‥かな。
それに‥タルタルの男でも、結構ここに来る人って居るんだよ?
「さ‥それじゃあ折角の機会だし、じっくりと見ていこうね」
ともかく、ケルンにとっては初めて来るお店‥しかもずっと気になっていたお店なんだろうし。
お店の商品をじっくり、色々と見ていきたいだろうから。
だから、僕はそう言うと、近くの棚に向けて‥おっと。
危うく、ケルンと手を繋いだまま‥歩き出すところだった。
流石にもう、ケルンと手を繋いでおく必要は無いよね‥そっと離して‥‥あ。
‥ふふ、ケルンってば‥商品を見るのに夢中で、僕の手をぎゅっと握りしめたままなんだ。
強くふりほどくのも何だし、それに‥きっとこのお店には僕達の知り合いは居ない‥と思うし。
だったらもう少し、このままにしておいてあげようかな。
‥なんて僕が考えている間に‥
「あっ‥わ、悪い‥その‥俺、夢中で‥」
ケルンは顔を朱くしながら、そう言って‥そっと手を離してきたんだ。
その様子を見ていると‥流石にちょっと恥ずかしかったのかな。
そんなケルンに、僕は軽く微笑みながら‥声を掛ける。
「良いよ‥ケルン、じっくり見ようね」
僕の言葉に、ケルンは僕の顔を見つめながら‥静かにこくり、と頷いたんだ。

「あ、これ‥可愛いなぁ」
僕達はそれぞれ別行動で、店内の品物を見回りはじめた。
こういうものは、ワイワイと話をしながら見るのも良いけど‥一方でじっくり見たい、っていう気持ちもある。
ケルンを見ると、魅入る様に商品を見始めたから‥僕も別行動で見て回ることにしたんだ。
で、僕は今‥タルタル用食器コーナーで、綺麗に並べられていたカップを一つ一つ、手にとって眺めている。
タルタル用と謳うだけあって、僕達の手に実にしっくりとくる大きさ。
他種族のヒュームやエルヴァーンにしてみれば、まるで子供向け‥と言ってもおかしくない大きさだけど、
カップの縁や取っ手の部分とか、作り込みはしっかりとしていて、子供向けなんて言えない。
それになにより‥側面に描かれている様々な絵が良いんだ。
ウィンダスにある、星の大樹を描いたものや‥ワイルドオニオンだとか‥中にはマンドラゴラの絵の描かれたカップまである。
こういう可愛い絵が描かれているカップで、美味しいコーヒーを飲んだら‥ふふ、幸せそうだなぁ、なんて。
中には色違いの、ペアカップとかもあったりして‥いや、僕にはまだ関係の無い話だけどね。
カップコーナーのお隣にはティーセットの‥
「セイル!これ‥見てくれよ、セイル!」
ティーセットのコーナーも見てみよう‥と、思った途端、斜め後ろのコーナーに居たケルンから、そんな声を掛けられた。
その声は嬉しそうで‥更に言えば、少し興奮しているようでもあって。
ケルン、何か凄いものでも見つけたのかな?
僕は振り向き、ケルンの方へと近寄って‥そして。
ケルンの見ているコーナーを覗き込んだんだけど‥そこにあったものは。
「わ‥良いね、これ‥!」
ケルンの指さすものを見るなり、自然とそんな声が出てしまう‥
それくらいに「良いな」って思えるものだったんだ。
「これ‥良いよな。俺、気に入っちゃった」
ケルンはそう言うと、大層気に入ったらしいもの‥ペンダントを棚から掴み上げたんだ。
ペンダント‥って言っても、女の子向けの可愛いものとかじゃなくて。
先が少し折れ曲がった麦わら帽子‥そう、まるでウィザードペタソスの様なオブジェがついていて。
更にはそこに、幸運のアイテムとして知られる‥マンドラゴラの四つ葉を模した、緑色の天然石がついているんだ。
いや、天然石の名前までは分からないけどね‥僕、彫金は苦手で。
それに、オブジェ自体が決して大きく無くて‥多分普段付けていても邪魔にはならないだろうし‥
何より、可愛いと思うけれど‥色合いとかからしても、男が付けていても可笑しくは無さそうな‥そんな雰囲気がある。
‥いや、そんな理屈なんてどうでもいい‥かな。
だって、ケルンも僕も一目見て‥すぐに「良い」って思ったんだから。
そんな「良い」って思えるペンダント‥だけど、普通こういうのって‥高そうだよね。
僕はそう思って、こわごわと値札を見てみたんだけど‥大丈夫、それほどは高くないし‥いや、ちょっとは高いけど。
これなら、充分僕でも買える値段だから‥あっ!そうだ、そうだよ。
ふふ‥良い事思いついちゃった‥うん、我ながら良いアイディアだ。
僕の頭に浮かんできた、良いアイディア‥それを実行するためにも、僕は早速ケルンに声を掛けたんだ。
「ね、ケルン‥気に入ってる様なら、それ‥僕がプレゼントするよ」
そう‥この1ヶ月間、たっぷりと付き合って貰ったから‥せめてそのお礼に、このペンダントを‥って、僕は考えたんだ。
ケルンだって欲しがってるみたいだし、きっと喜んでくれる‥そう思ったから。
でも‥
「えっ!?‥‥うーん、嬉しいけど‥良いよ」
ケルンは一瞬、嬉しそうな顔をしたけれど‥でも、すぐに‥少し困った様な顔をして、そう言ったんだ。
別に遠慮しなくても良いのに‥その、すごく欲しそうな顔してるし‥。
「これくらいなら大丈夫だよ。その‥僕が戻ってから1ヶ月近く、ずっと付き合って貰ったし‥お礼としてさ」
僕は正に「大丈夫!」って表情を見せながら、そう言ったんだけど‥
肝心のケルンの答えは、って言うと‥
「それはその‥お、俺が好きで付き合ったんだし‥。それに‥ほら、セイルだってもっと装備整えなきゃいけないだろ?
 金は大事にしとけよ‥な?‥これは俺が自分で買うから」
そう言って、改めてペンダントを持つと‥「この話は終わり」とばかりに僕に背を向けたんだ。
‥参ったなぁ‥確かに、その‥ケルンの言う通りではあるんだけど‥
僕はケルンに返す言葉が無くって‥結局ケルンはそのまま、ペンダントを自分で買った様だった。
僕はと言うと‥「金は大事にしとけよ」っていう言葉が効いたから‥って訳じゃないと思うけど、
どの品物を見ても、なんとなく‥買う気が起こらなくて。
結局僕は、何も買わずに‥お店を後にしたんだ。

お店を出た後‥何気ない会話を交わしつつ、少しだけジュノの町を歩いて‥そして。
僕達はマーブルブリッジへとやってきた。
まだまだ夕暮れまでは少し遠いような、そんな時間だけど‥
少し休もうか、っていう思いと‥さっきのお店でのやりとりのせいなのか、お互い少しだけ口数も減っていて‥
少し重い空気をなんとか晴らしたい、っていう思いがあった‥んだと思う。
僕も‥そしてケルンも。
「その‥さ、セイル‥あの店‥雑貨屋での事なんだけど‥」
客数の少ない、マーブルブリッジ‥そのタルタル専用テーブルに、僕達は向かい合うようにして座って。
それぞれオーダーを終えた後‥早速、とばかりにケルンが口を開いた。
「うん、何?」
「別にその‥俺は、セイルに「物を買うな」って言ってる訳じゃないんだからな‥その‥
 俺に買う、みたいな‥無駄遣いはやめろ、って言ってるだけだからな」
やっぱり‥ケルンもさっきのお店での事を、気にしていたみたいだった。
どことなく申し訳なさそうな‥そんな空気を出しつつも、言葉を繋げていく。
多分‥多分だけど、あのお店で僕が何も買わなかったのは、自分の言葉のせいだ‥って思ってるんだと思う。
確かに‥確かに少しは、そんな思いもあるけど‥でも。
ケルンにプレゼントをあげるのが、無駄遣い‥っていうのは違うと思うし。
‥その‥自分に買うものは、もう少し抑えようかな、って思っただけだし‥
ともかく、僕はケルンに感謝の思いを伝えたくて‥って言おうとしたんだけど‥
「‥もう‥どうしてケルンに買ってあげるのが、無駄遣いになるの?僕はただ、ケルンに感謝の‥」
「いや、だからさ‥その‥感謝って言うなら、お金とか物じゃなくて‥その‥」
僕の言葉を遮る様にして、ケルンはそう言ってきたんだ。
‥でも、いざ僕の言葉を遮ってはみたものの‥どことなく勢いの無い‥
そう、何か言い辛そうな語調へと変わっていく。
「お金とか物じゃなくて‥?」
僕はケルンの言葉、その先を促そうと、そう言ったんだけど‥
ケルンは少しだけ考えた後、やはり言い辛そうにして‥話を続けたんだ。
「えっと‥その‥‥言葉とか‥気持ちで表してくれたら‥良いから‥」
なるほど、ケルンが言い辛そうにしていたのは‥言うのが恥ずかしかったから‥なんだ。
ケルンがその言葉を言い終えた後、彼の顔も‥頬も‥ふふ、朱色に染まっていたんだから。
「お待たせしました」
その時‥丁度ウェイトレスさんがやってきて、僕達の前にジュースを置いていく。
僕も、ケルンも‥それぞれ思いを抱えつつ、グラスに口を付けて。
二人共が、軽くジュースを飲んだ後‥僕は改めて口を開いた。
「言葉かぁ‥そうだね、今思えば、ケルンにちゃんと言って無かった‥よね。
 ‥ケルン、今まで付き合ってくれて‥ありがとう」
なんだかこう言うと、「二人で行動するのは今日までだね」といったお別れの言葉にも聞こえるけれど‥勿論そうじゃなくて。
ちゃんと今までの感謝を込めて‥ありがとうの気持ちを込めて‥僕は言ったんだ。
ありがとう‥って。
「お‥おう‥‥さっきも言ったけど、別に俺は、その‥自分が好きで付き合ってただけだからな‥」
ケルンは、僕の言葉に‥ふふ、さっきまで以上に頬を朱くしていて。
それに‥そんな言葉の中にも、僕への気遣いが見えたんだ。
ケルンの言う「自分が好きで付き合ってただけだ」っていうのは、僕が無理矢理付き合わせてたんじゃないぞ‥って言いたいんだと思う。
本当にケルンってば‥優しいんだから。
そんなケルンの言葉が‥心遣いが‥僕には嬉しい。
嬉しくて‥ケルンにもっと、伝えたくなるんだ‥‥僕の思いを。
「うん‥ケルンの気持ち、とっても嬉しいよ。‥これからも‥出来ることなら、ずっと一緒に頑張りたいな」
ヘンな打算とか、そういうのじゃなくて‥心の底から、ケルンとずっと一緒に頑張りたい、って思うんだ。
二人で一緒に、腕を磨いて‥頑張って行きたいと思う。
だから‥と、僕はケルンに向けてそう話したんだけど‥
「‥俺の‥気持ち‥‥か‥」
ケルンはさっきまでの恥ずかしそうな‥嬉しそうな表情から一転して、真面目な表情に変わっていた。
真面目な表情で‥視線だって少し伏せるようにして‥
僕、何か変な事を言った‥かな?
「うん?どうしたの、ケルン‥?」
「‥ずっと‥一緒に‥‥か‥」
僕はケルンに尋ねてみたけれど‥ケルンはそんな言葉を漏らすだけで。
まるで‥そう、何かを自分に問うているように‥自分の心に話しかけるように‥ケルンは呟いていた。
「‥‥ケルン?」
僕がもう一度声を掛けると‥ケルンはハッと顔を上げて。
そして‥僕の目をじっと見つめてくる。
‥とても真剣な眼差しで。
「セイル‥俺は‥その‥‥隠すのが下手‥だから。だから‥言おうと思うんだ」
真剣な眼差し、真剣な表情、真剣な声‥その様子は、なんだか‥僕に嫌な予感を思わせる。
ケルンがここまで真剣に話しているんだ‥これから言う事は大事な事、なんだと思う。
でも‥隠すのが下手だから‥言おうと思う、って‥
それってきっと、僕には言いづらいこと‥なんだろう。
もしかして‥それって‥
「‥うん‥‥ケルン、もしかして‥僕の事‥」
そうだ‥きっと‥きっとケルンは‥
恐る恐る、言葉を吐き出していく僕‥
「‥ああ、俺は‥」
その合間に、ケルンは言葉を重ねてくる。
‥勿論、真面目な表情のままで。
やっぱり‥‥ケルンは僕の事が‥
「‥嫌いだったとか‥?」
「ち、違ぇよ!俺は‥お前の事が好きなんだよ!」
僕の言葉に、ケルンは驚いた様な顔をして‥そんな言葉を言い返してくる。
‥なんだぁ、僕の事が嫌い、って訳じゃないんだ‥良かった。
で、えっと‥なるほど、ケルンは僕の事が好きだった、と。
ふふふ、ケルンってば‥そんな事、言わなくても僕は分かってるのに。
それに‥僕だって。
「あ‥うん、僕もケルンの事、好きだよ?」
そうだ、僕だってケルンの事が好きなんだから。
だから‥僕はケルンにそう答えたんだけど‥でも。
「‥違う‥」
「‥え?」
ケルンは再び真剣な顔になって‥そう言ったんだ。
その答えに‥そして真剣さに‥僕は思わずびっくりして声をあげてしまう。
だって‥その、ケルンの言う「違う」っていうのは‥一体何の事なのか。
その‥僕にはさっぱり分からなかったから‥。
「お前の言う『好き』と、俺の言う『好き』は、違うんだよ!」
‥僕の言う「好き」と‥ケルンの言う「好き」は‥違う。
‥‥違う?‥僕の気持ちとケルンの気持ちが違う‥って事?
でも‥好きは好き‥だし‥えっと‥
「ち、違うって‥どう‥」
どういうこと、って続けようとした僕の言葉は‥しかし、最後まで出なかった。
ケルンがいきなり席を立ち、そして‥ぐるりとテーブルを回りこむようにして、僕の席‥の横へとやってくる。
突然近づいてくるケルンに、僕は何も言えなくて‥そして。
「‥‥こ、こういう事だっ!」
ケルンはそう言うなり、僕の顔に顔を‥いや。
僕の口に‥口を近づけてきて‥こ、これって‥!
僕がそれを認識する、その前に‥僕の口はケルンの口に‥塞がれていたんだ。
唇と唇が重なる‥‥キス。
‥僕の初めての‥キス。
それが‥その‥ケルンの唇で‥えっと‥
で、でも‥僕もケルンも男だし‥えっと‥
キスの間も、そんな考えが頭の中を巡っていて‥
気がついたときには、ケルンの唇はもう‥離れていたんだ。
唇に残る、ケルンの唇の感触‥温もり‥
‥えっと‥えっと‥
ケルンは‥ううん、ケルンの「好き」って‥それって‥
「え‥‥えええッ!?」
キスをした事に‥そして、そこから考えられる「事実」に驚いて‥僕は大きな声を上げてしまう。
だって‥だって、その‥キスだよ?‥初めてのキスで‥しかもそれがケルンが相手で‥
あ、いや、嫌じゃないんだ‥嫌じゃなくて、その‥
だ、だって、キスなんて‥その‥恋人とするものだって思ってたし‥
‥つまりそれって、ケルンは僕を‥
慌てふためいていた僕は、そばにいるケルンの事まで全然気が回らなくて。
‥気がついたら、ケルンの‥その‥恥ずかしそうな、それでいて‥‥寂しそうな声が聞こえてきたんだ。
「これが‥俺の『好き』なんだ‥。‥俺の事、これで‥嫌いになっただろ‥‥‥じゃあ、な‥」
ケルンのその‥悲しい決意の様なものを秘めた「じゃあな」って言葉に。
僕は慌ててケルンの方を振り向いたんだけど‥
‥その時には、もう‥ケルンは走ってお店を出て行ってしまってたんだ‥。

ケルンがお店を出て行って‥すぐに。
僕も後を追う様に、店を出たんだ‥慌てて支払いを済ませて、ね。
‥でも、ケルンの姿はもう見えない‥
夕陽が傾きつつある中、僕はジュノの街中を走り回って‥ケルンの姿を探して。
そして‥探しながら、考え続けたんだ。
勿論それは‥ケルンの事。
復帰後、ずっと僕に付き合ってくれたケルン。
昨日の、ウェインが僕にした事への‥ケルンの反応。
今日、ケルンが言った‥「好き」という言葉。
そして‥ケルンのしてくれたキスの意味‥。
全ては繋がって‥そして‥‥僕の鈍さが恨めしい。
もっと早く、気付いていたら‥ケルンの気持ちに、気付いてあげられたなら。
‥でも。
その時僕は、どうしただろう‥
僕はケルンに、何をしてあげる‥?何をしてあげられる‥?
いや、それ以前に。
‥僕の、ケルンに対する気持ちは‥
‥‥僕の‥気持ちは‥‥
僕は‥走り続けた。
ケルンを探しながら‥僕の気持ちを探しながら‥。

「ふぅ‥やっと見つけた」
地平線には沈み掛かった夕陽が見えて‥空は茜色に染まっている、そんな時間。
僕はようやく‥ケルンを見つけることが出来たんだ。
ケルンが居たのは‥ジュノ下層にある、吟遊詩人の酒場‥その近くで。
そう‥1ヶ月前のあの時、僕が‥ケルンと話をした、あの場所だ。
ケルンは、まるであの時の僕の様に‥手すりに手を着いて、地平線を眺めていた。
僕はさっきの言葉を掛けて‥ケルンの後ろから近づくけれど‥ケルンは何も答えない。
答えたくない‥いや、もしかしたら聞こえていなかったのかもしれない。
僕はそう思ったから‥一歩一歩ケルンに近づきつつ、言葉を続けていく。
「ケルン‥探したよ」
「‥なんだよ。俺の事なんか、放っときゃいいだろ‥」
僕の言葉に、今度はちゃんと答えるケルン。
‥でも、僕の方を振り向かずに‥地平線を見たままだ。
それに、返事って言っても‥どこかなげやりな風に受け取れる。
‥しょうがないな、ここは‥
「放っといたらいいだろ、なんて言うもんじゃないよ!」
「‥せ、セイル‥?」
僕の、お腹に力を込めて言った‥強い言葉に。
ケルンは飛び上がるようにびっくりして‥そして振り向いた。
‥うん、話はちゃんと‥顔を見てするものだしね。
「丁度1ヶ月前の‥あの時みたいだね。でも‥ケルン、今度は僕が言うよ。
 ね‥ケルンは、自分の気持ちだけを僕に押しつけて‥僕の気持ちは何も聞かないで‥逃げるの?」
あの時は‥ケルンが僕に言ってくれた‥叱ってくれた。
それはきっと‥僕の事を思ってくれていたから。
そして、もしかしたら‥その頃にはもう、僕の事を想ってくれていたからかもしれない。
だから‥だから今度は僕が。
僕が‥ケルンに言ってあげないと。
「そ、それは‥でも‥」
僕の言葉にたじろいでいるのか‥ケルンは珍しく、言葉を濁している。
表情だって、どこか‥泣き出してしまいそうな雰囲気があるくらいで‥
‥でも、ここでちゃんと言わなきゃ。
「『でも』‥なに?
 本当は僕‥ケルンの言葉を聞いて‥ケルンにキスされて‥‥嬉しかったのに」
‥やっぱりだめだ‥僕にはケルンに、強く言うことはできそうにない‥。
本当はもっと、ビシッとケルンにいうつもりだったんだ‥
そんな弱気なケルンはケルンじゃない、とか‥。
けど‥そんな事よりも、今は‥
‥‥僕はゆっくりとケルンに近づいて‥そして。
「‥セイル‥それって‥わッ」
‥ケルンの身体を包み込むように‥抱きしめたんだ。
僕の突然の行動に、ケルンもびっくりしたんだと思う。
身体の動きを通じて、慌てているのが分かるから。
そんなケルンを‥僕は抱きしめたまま、ケルンに伝える。
‥僕の気持ちを。
「‥1ヶ月前の‥ケルンの真似をしてね、格好良く言おうとしたけど‥ダメだね、僕は。
 あのね、ケルン‥僕は‥ケルンよりも子供みたいだ。自分でも、ケルンの事が『好き』なのか‥えっと、その‥
 恋人として『好き』なのかどうか‥‥分からなくて。‥なんて言って良いのか分からないけど、でも‥」
僕は目を閉じて‥そして、僕の気持ちをなんとか伝えようと‥言葉を探したんだ。
上手く‥上手くは言えそうにないけれど‥でも‥
‥ケルンにこの気持ちが、ちゃんと伝わるように‥その為に‥
「‥でも‥?」
僕の言葉に、ケルンはそう言って‥答えてくれる。
僕の答えをせっついているんじゃない‥ゆっくり‥柔らかな言葉で‥僕の言葉をじっくり聞くような‥そんな言葉で。
そんなケルンの言葉が、僕の気持ちを‥ゆっくりとほぐしてくれる。
気持ちをほぐして‥気持ちの中にある「ケルンへの思い」を、「言葉」としてくれる。
「今はね、ずっとケルンと一緒に居たい、って思うんだ。明日も‥明後日も‥一年後も‥十年後も‥ずっと‥‥ずっと。
 ずっとケルンと一緒に居たい、って思うんだ‥ケルンのそばに居たい、って。‥これって『好き』って事‥かな?」
今のこの気持ち‥上手く言えない、この気持ちだけど‥でも。
ケルンは僕の言葉に応える様に‥ぎゅっと僕の身体を抱きしめてくれた。
そして‥こう言ったんだ。
「‥あぁ、きっと‥そうだよ」
とても優しいケルンの声‥そして言葉を聞いて。
僕は‥そっとケルンを抱きしめていた手を緩める。
ケルンもまた、僕と同じ様に‥抱きしめていた手を緩めて‥そして。
少しだけ身体を離すと、ケルンの顔を改めて見たんだ。
‥そこには‥嬉しそうな表情で‥でも、涙を流しているケルンが居た。
ケルンって案外、泣き虫なんだな‥なんて、思った僕だけど‥
‥他人の事は言えないよね。だって、僕も‥涙がこぼれていたんだから。
「ふふ、良かった。‥ね、ケルン‥好き、だよ」
「セイル、俺も‥好きだ‥好きだから‥‥ずっと‥ずっと一緒に‥居たい」
お互いにそんな言葉をかわして‥そして。
僕はケルンの顔に‥顔を近づけていく。
‥ケルンはそっと、目を閉じて‥勿論僕も。
やがて、僕とケルン‥二人の唇が重なって‥そして。
唇を重ねる事で‥僕の気持ち‥ケルンを好きだ、っていう気持ちが、どんどん大きくなっていくのを‥感じたんだ。
もっと‥もっと‥ケルンを好きになりたい‥
もっと‥もっと‥ケルンを感じたい‥
ケルンの唇を‥
ケルンの気持ちを‥
ケルンの‥全てを‥
そんな気持ちに駆られるままに、僕は‥ケルンとのキスを続けた。
ケルンもきっと‥僕と同じ気持ちだったんだと思う。
ずっと‥ずっと‥僕とケルンは唇を重ねていたんだ。


 
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