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 ←その32『ワランツの想い』 →その34『練習相手にもならない その2』
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その33『練習相手にもならない』

 ←その32『ワランツの想い』 →その34『練習相手にもならない その2』
「はぁ~、つっかれたなぁ‥」
長期間のリンクシェル活動を終えて‥今日、ようやく自分のレンタルハウスに帰ってきたボク。
久しぶりのベッドに、身体を預けた途端‥そんな声と一緒に、溜まっていた疲労感やら軽い睡魔やら‥
さまざまなものがボクの身体にやってくるのを感じる。
‥いや、だってホントに疲れたんだもの。
今回の活動では、キャンプ地にテントを持ち込んでの長期間の張り込みがあったり‥
戦闘にしても、ボクが普段使っている銃じゃなくて‥久しぶりに弓を撃っていたから、もう肩が痛くなっちゃって。
まぁ、ちょっと特殊なモンスターが相手‥だったからね。
あ、言わなくても分かりそうだけど、ボクは狩人をしてるから‥‥って、そういえば自己紹介がまだだっけ。
ボクはユキフィル・サキフィル、みんなからはユキって呼ばれてる。
タルタルの‥冒険者をしていて、主なジョブは‥って、それはさっき言ったよね。
それから‥ああ、これもさっき言ったけれど、ついさっきリンクシェル活動という長旅から久々に帰ってきて‥
ベッドの上に久しぶりにゴロンって寝転がった所なんだ。
 

久しぶりのベッドの上‥久しぶりの天井を見上げながら、ボクは何気ない考えを巡らせる。
‥ふぅ、そういえば明日明後日は、リンクシェル活動がお休みの日なんだ。
予定では、えっと‥そうそう、朝早くからウィンダスに戻らなきゃいけないんだっけ。
‥何も疲れている中、朝早くからウィンダスに戻らなくても‥なんて言われそうだけど、そうもいかない。
明日は付き合っている彼女と、久しぶりのデートの約束があって、飛空挺の発着時間を考えると、朝早くに出なきゃいけない。
朝早いのは大変だけど、久しぶりのデートなんだから‥って、思い出してみれば‥デートのプラン、あんまり考えていなかったんだよね‥。
‥今晩の間にでもじっくり考えよう‥。
ああ、それにしても久しぶりのベッドの感触‥心地良いや。
ここ最近、ずっとテントで寝袋‥って状態だったから。
いや、ホントに‥気を許すと眠ってしまいそうなくらいだ‥。
そうは言っても、まだまだ夕陽が沈み始めた頃‥そろそろ夕ご飯を食べ始める、っていう位に早い時間だ。
第一、ボク自身が夕ご飯を食べてない‥けど、今は空腹よりも睡眠欲の方が勝ってい‥‥ん?
ふと‥何か物音が聞こえたような気がして、ボクは上半身を起こしてみる。
‥そのままベッドに座った状態で、耳を澄ましてみても‥特に聞こえてはこない。
うーん、さっきのはボクの気のせいだったのかな?
まぁ、それならそれで良いや、せっかく身体を起こしたんだから、簡単に夕食でも作‥
ドンドン‥
ん、今度こそちゃんと聞こえたよ!あれは何かを叩く、重い音で‥
しかも音自体は、玄関の方から聞こえてきた‥という事は。
「はぁーい、ちょっと待ってね!」
ボクは少し大きめの声を上げると、寝室を後にしたんだ。
‥そう、きっと誰かがやってきて、扉をノックしている音に違いないだろうから。

「よっ、ユキ!」
扉を開けた先で、そんな陽気な声を上げたのは‥ヒルク?
‥うん、何度見てみても‥やっぱりヒルクだよね。
あ、ヒルクっていうのは‥同じリンクシェルに所属しているヒルク・ラヒルク‥ボクと同じ、タルタル族の男性だ。
ちなみに彼は戦士をしていて、身体は小さいながらも豪快に両手斧を振るうのが‥って、それよりも。
さっき別れたばかりのヒルクが、またどうしてボクのレンタルハウスに‥?
ヒルクとは特に約束をしていた訳でも無いし‥ヒルクがやってくる理由も特には思い当たらない。
‥まぁ、考えていても理由は分かりそうに無いし‥となれば。
「ん、ヒルク‥どうしたの?‥まぁ、とりあえず上がりなよ」
ボクはそう言うと、ヒルクにレンタルハウスの中へと入って貰ったんだ。
玄関先で立ち話、っていうのも何だしね。
「いやぁ、悪ぃな。飯食ってたんじゃねぇか?」
言葉とは裏腹に、全然悪く思っていなさそうな口調で‥そんな事を言うヒルク。
まぁ‥そういう所は普段の彼、だね。
いつでも豪快、細かいことは気にしない‥でもホントはちゃんと、気を遣ってる‥そんな人だ。
‥まぁ、ボクもヒルクとは、子供の頃からの付き合いだし‥
そうそう、ウィンダスで学校に通っていた頃からの‥って、まぁそれは良いとして。
「いや、今から作ろうかな、って思ってた所だよ」
ボクはそう答えながらも、ヒルクをリビングに案内‥いや、ヒルクだって同じレンタルハウスに滞在しているハズだ。
レンタルハウスの仕組みというか、間取りは知っているハズだよね。
「そうか、だったら良かった。‥これ、晩飯の時にでも食ってくれよ」
リビングに着くなり、ヒルクはそう言って何かの包みを手渡してくれる。
ふふ、ヒルクってば水くさいんだから‥別にお土産なんて良いのに。
‥包みの中からは、とっても香ばしくて良い香り‥ミスラ風山の幸串焼き、かな?
きっと買ってきてくれたんだろう‥ありがたく晩ご飯のおかずにさせて貰おう。
「そんな気を遣わないで良いのに‥ありがとう。‥ちょっと待っててね、お茶でも入れるよ」
ボクは包みを受け取ると、「ソファにでも座ってて」とばかりに手を‥
「おう、悪ぃな!」
‥指し示す前に、ふふ、ヒルクはもう座ってるね‥「勝手知ったる」とばかりに。
まぁ、レンタルハウスなんてどこも同じだし‥って、そういえばヒルクがボクのレンタルハウスに来るのって‥初めてだなぁ。
子供の頃はお互いの家に遊びに行ったりもしたけど、流石に冒険者になってからは、行くことが無くなったし‥
まぁ、リンクシェル活動の時は大抵一緒に行動するから、普段は離れてる‥って訳でも無いんだけどね。
‥逆に考えると‥
そうやって普段会ってるのに、そのリンクシェル活動を終えた後も‥
今まで来たことのないレンタルハウスにわざわざやってくる、っていうのは‥
よっぽど何か大事な用があった、って事なのかな?
‥ヒルクの様子を見ると、全然そういった兆候は見えないけど。
そうそう、さっきまでのリンクシェル活動でもそうだ‥全然普段通りのヒルクだった。
それなのに何故‥って、いけない。
さっさとお茶の用意をしよう‥例えヒルクとは言ってもお客さんだ、お待たせするのは良くないし。

「はい、お待たせ。‥なんの変哲もないウィンダスティーだけど」
ボクはそう言うと、カップに注がれたウィンダスティーをテーブル‥ヒルクの前に置いて。
‥いや、ホント言うとウィンダスティーを入れるなら「湯飲み」なんだろうけど‥あいにくここにはカップしかなくてね。
まぁ、イメージに合わないのは我慢して貰おう。
「いやいや、ありがとうよ。早速‥ん、美味い」
ヒルクは早速ウィンダスティーに口を付けると‥嬉しそうにそう言って。
‥ボクが苦めの方が好きな分、一般的なウィンダスティーよりも「濃いめ」にいれてあるんだけど‥
案外ヒルクも苦めの方が好きなのかな?‥まぁ、彼のことだ‥世辞というセンは無いと思うし。
「そう、それはよかった。ボクも一口‥ん、良い出来だ」
苦みと渋みがグッと口に広がって‥でも、すっきりと抜けていく‥
やっぱり濃いめのウィンダスティーは良いね‥って、お茶の味に浸ってる場合じゃない。
「さて、ヒルク‥一体また、どうしてウチに来たの?‥まさか『お茶を飲みに来ただけだ』って訳じゃあないよね?」
とりあえずカップをテーブルに置くと‥ボクはヒルクに向かって尋ねてみる。
ヒルクもボクの言葉を聞いて‥飲んでいたカップを同じように置いてみせた。
そして軽く腰を浮かせると、まるで改まったかのように、軽くソファに座り直したんだ。
‥そう、今までのくつろいでいた状態ではなく‥「話す体勢」を取るかのように。
「‥あぁ、そうだな。‥実はな、ユキ‥お前に頼みがあって来たんだ」
ボクの言葉に、ヒルクは少し真面目な顔になって‥そんな言葉を切り出してくる。
まぁ‥思った通り、という流れだ。
あ‥一つ言っておくけど、別にヒルクに「頼られる」「頼まれる」事は嫌じゃない。
ボクだってヒルクには普段から世話になってるし‥それを別にしたとしても、ヒルクは昔からの友人だ。
困ってる事には応えてあげたいし、頼りにしてくれる事も嬉しく思う。
「ん、ボクに出来ることならするよ。‥で、頼み事って何かな?」
そもそも、ヒルクからモノを頼まれる‥って事は良くある事だ。
それこそ「小銭を貸してくれ」「装備を貸してくれ」「パーティに付き合ってくれ」‥なんて些細なことばかりだけど。
でも、なんとなく‥なんとなくだけど、今回のはそういったものとは‥少し質が違う様な気がする。
‥わざわざ、こうしてボクの家にまで出向いて来てくれている程だしね。
もしかしたら、何か重大な頼みがあるのかもしれない‥
一生一大の頼み!‥なんて言うくらいの‥いや、それはちょっと言い過ぎかな?
‥なんて、ボクは色々と考えていたんだけど‥
そんなボクの考えを余所に、ヒルクは表情を一変させる‥そう、にっこり微笑んだんだ。
そして言ったのが‥‥この言葉だった。
「ああ、大丈夫‥簡単な事だ。‥俺とキスの練習をしてくれ」
‥‥え?‥‥なんだって?
ヒルク‥今なんて言ったの?
思わずそんな言葉を反射的に言いそうになるのを‥ボクはグッと飲み込んで。
えっと‥えっと‥‥落ち着けよ、ボク。
ヒルクはとんでもない事をサラリと言った様な気がするけど‥いや、やっぱりとんでもない事じゃないか!
‥そりゃあまぁ、出来ないことは‥ないけど、それはちょっと‥そう、ちょっと‥ねぇ?
とりあえず‥突然の話に頭の中で考えがまとまらない、ボクの口から零れた言葉っていうのは‥
「‥‥‥え゛?」
言葉になっていない様な気はするけれど‥ま、まぁまぁ。
いや、話があまりにも突飛すぎて、考えが追いつかないんだよ‥。
「だから‥キスだよ、キス!‥俺さ、明日の休みに‥彼女と初のデートなんだよ。だからさ」
そんなボクの言葉を、ヒルクは「もう一度言って?」っていう意味に捉えたんだろうね‥
改めて「頼み」を主張してくる。
‥分かった、分かったからその‥「キス」って言葉を連呼するのは‥
‥‥ん?ヒルクって彼女居たんだ‥‥まぁ、ボクに居る位だから、居てもおかしくはないけど‥
確かに、ヒルクのルックスは‥それほど悪く無い‥いや、むしろ男のボクから見ても格好いい方だと思う。
性格だって‥まぁ、悪く無いし‥うん、そりゃあ彼女が居てもおかしくないよね。
ヒルクとは長い付き合いだけど、昔から根は良いヤツだったし‥ふふ、ちょっと悪戯好きな所はあるけど‥
あ、でも最近はそういう所、見なくなったかな?うん、純粋にかっこよくなってきたって思う。
あはは、そういえば昔はボクの事を‥いやいや、そうじゃなくて。
現実逃避に走っていちゃダメだ‥とりあえず、話を元に戻そう。
えっと‥ヒルクに彼女が居て、更には初めてのデートをする、って事だったよね‥
彼女が誰なのかは知らないけど‥それはまぁ、この際置いておくとして。
初めてのデート、初めてのキス‥そりゃあ練習しなきゃって思うよね‥それだったらしょうがな‥‥い訳が無いじゃないか!
「いや、キスは分かるけど‥練習って‥?普通にすればいいんじゃない‥の?」
そうだよ‥キスの上手下手なんて、そんな気にするものでも無い‥と思うんだけど。
‥‥ボクだって、彼女とまだキスしたこと無いのに‥。
ともかく、最初はヘタでも、その彼女と何度もキスをして、練習すれば良いじゃないか‥って言いたかったんだけど‥
その言葉は、ヒルクの次の言葉に潰されてしまったんだ。
「ほら、失敗したくねぇからさ。その‥場合によっちゃあ、その後‥ごにょごにょ」
「失敗って‥うーん」
失敗したくない‥か。
その気持ちは分からない事もない‥んだけどね。
ボクとヒルクの、あまり多くない共通点の一つに‥「慎重な性格」がある。
たとえば大きなイベント‥そう、NM戦だとかは、挑む前に下調べとか練習を徹底的にする方で‥
でも、今はそんな性格が仇になってしまってる‥のかな。
‥あぁ、さっきヒルクが言った「場合によっちゃあ」の後は‥まぁ、想像は付くけど触れないでおこう‥。
それよりも‥とりあえず、このままだとヒルクを説き伏せるのは無理そうな気がするし‥。
‥少し違った路線で話してみようか。
「‥でも、またどうしてボクと?」
そうだよ‥そもそもヒルクはどうしてボクと「練習」したい、って思ったのか。
‥いや、こっちの話を進めても、解決の糸口は見つかりそうに無い気もするけど‥と、とにかく。
ボクが気になったことは確かなんだから‥確認だけはしておきたいんだ。
「ほら、確かお前‥結構長いこと付き合ってる彼女居るだろ?だからキスだって上手いんだろうなぁ、って思ってさ」
グサッ!
‥む、胸に何かが突き刺さる‥そう、まるでサイドワインダーの様に。
た、確かに彼女とは付き合ってもう‥三ヶ月位になるけど‥で、でもキスはまだなの!そ‥そういうのは大事にしたいのッ!
‥って、ボクの事はとりあえず置いておくとして。
恥ずかしいけど‥素直に言うしかないかなぁ‥。
そうしたら、ヒルクだって考えを改めてくれるかもしれない。
ボクはそう思って、ヒルクに向けて口を開いたんだ‥‥けど‥。
「い、いや‥その‥た、確かに付き合ってる彼女は居るけど‥でも‥」
「こんな事頼めるの、ガキの頃から友達のお前しか居ねぇんだって‥頼むよ!」
ボクの言葉は、最後まで言い終える前に‥ヒルクによってかき消されてしまって。
‥おまけとばかりに、両手を合わせて拝み込む「頼むよ!」までが付いてしまった。
そこまで言われたら‥もう、腹をくくるしかない‥ね。
ただ、最後に一つ‥一つだけ、確認しておこうかな。
「‥でもね、ファーストキスなんでしょ?‥相手がボクなんかで良いの?」
そうだ‥そもそも「ファーストキスの為の練習」なのに、ボクとキスしたら‥ボクとファーストキスをする事にならない?って。
そう思ってボクは聞き返したんだけど‥
「あぁ、そこはほら、男相手のは数に入らねぇ、って事で」
にこやかに笑って答えるヒルク‥‥
そうですか‥そういう事ですか‥。
自己中心的‥とまではいかないまでも、どことなくマイペースで自分らしい、そんなヒルクの言葉に、ボクは‥
「全く‥都合良いんだから」
あきれた顔でそう答えるのがやっとだった。

ボクは正に「覚悟を決めた」とばかりにソファーを立つと‥
‥いや、まぁ‥ホントはまだ、覚悟が決まってないんだけどね‥。
それでもゆっくりと‥テーブルを迂回して、ヒルクの座るソファの方へと歩いて行く。
そんなボクを見て、同じようにソファから立つヒルク。
ヒルクの表情は、練習する事になったから‥かな、どことなく嬉しそうな表情をしていて。
全くもう‥本当にしょうがないんだから。
「へへ、悪ぃな、ユキ」
そうは言っても、表情は全然「悪い」って言ってないんだってば。
ホント‥嬉しそうな顔しちゃってさ。
でも‥
「全く‥まさかヒルクとキスする事になるとはね‥」
なんだか不思議だな‥「男とキスするなんて嫌だ」って思ってたけど‥
不思議とヒルクの嬉しそうな顔を見ると、そうは思わなくなってしまって。
ヒルクの為になるんならまぁ、キスくらいは良いか‥なんて思ってね。
‥あ、念のために言うけど、ヒルクとキスするのが嬉しい‥なんて事は全然思ってないからね。
そうじゃなくて‥そうそう、ボクだってキスの練習が出来る事だし、うんうん。
なんて‥そんな事考えてる場合じゃない‥か。
そうだ‥ボクは今、ヒルクのすぐ前に立っているんだ‥。
ボクの目の前‥ほんの数イルム先には、ヒルクの顔がある‥多分今迄に経験した事の無い位、近い距離に。
そこまで近い場所に、ヒルクを感じて‥いよいよボクの中に「実感」が湧いてくる。
とうとう‥しちゃうんだなぁ‥キス。
ボクの初めての‥‥い、いや、ヒルクも言ったじゃないか。
男が相手のは数に入らない、って。
だから‥‥覚悟を決めて、キス‥しよう。
「よし‥それじゃあ、始めるぞ」
ボクの思いが聞こえたのか‥いや、そんなハズは無いけど‥でも。
ヒルクはさっきまでの嬉しそうな顔を一転させて‥真面目な表情でそう言ったんだ。
そんな顔されたら‥ボクだって真面目にするしかない。
ボクは、顔がぶつからない程度に軽く頷くと‥‥えっと‥
‥き、キスの時は瞼を閉じるんだよね‥でもって‥
ヒルクの練習なんだから、ボクは‥ま、待ってれば良い‥よね?
そんな事を考えたボクは‥そっと目を閉じて‥そして。
キスがしやすい様に、軽く顎を上げたんだ。
こうすれば、ヒルクだってやりやすいハズ‥
‥なんて考えが、終わらないうちに‥
ボクの唇に‥何かが触れる感触が訪れた。
それは勿論‥柔らかな‥ヒルクの唇の感触‥だ。
初めてのキス‥それはあっけないくらい、突然に訪れて‥そして。
‥あっけないくらいにあっさりと‥終わる。
そう、ヒルクの唇は、ボクの唇に触れるなり‥すぐに離れていってしまったんだから。
‥多分、時間にして1秒くらい‥かな?
あまりにもあっさりとしたキスに、ボクは思わず‥瞼を閉じたまま唖然としてしまう。
そんなボクが瞼を開けたのは‥
「ど‥どうだ、俺の‥キス」
ヒルクのそんな声が聞こえてきてから、だった。
‥想像以上に短くて、唇が軽く触れるだけのキス‥もう、びっくりしてしまう位の軽いキス‥
と、とにかく、あんな短いキスで「どうだ」なんて聞かれても‥答えに苦しむよね‥。
とは言っても、何て言えばいいのか‥うーん‥
‥そうだ!
論より証拠、百聞は一見にしかず‥って言葉がある。
習うより慣れろ‥とも言うし‥いや、だからって訳じゃないけど‥
「‥ダメだよ。こんなんじゃ」
ボクは瞼を開くなり、厳しくヒルクに言ってみせる。
そんなボクの言葉に反応した‥んだと思う、ヒルクは「ギョッ」って言う様に驚いた顔をしていて‥
ヒルクはダメ出しされるなんて、思っても見なかったのかな?でもね‥
本当にヒルクが驚くのは、これから‥かもしれないよ?
ボクはヒルクの顎にそっと手を添えると、何も言わずに顔を近づけて‥そして‥
‥唇を重ねたんだ。
しっかりと唇を重ねる様に‥でも、優しく唇を押しつけて‥
柔らかなヒルクの唇の感触を、ちゃんと記憶するかのように。
‥あ。
い、いや、その‥ほら、言うじゃない?
二度あることは三度ある、とか‥そうそう、「一回やったら二回、三回やってもおんなじ」って感じかな‥。
と、とにかく‥一回キスしちゃえば、抵抗なんて‥っていう意味だよ。
それに、その‥ボクだってキスが上手くなりたいし‥その為にもしっかりと練習をしなきゃ、ね?
そんな事を思いながら、しばらくの間‥ボク達は唇を重ねて。
でも、息苦しくなる前にそっと、唇を離していく。
唇を離して、瞼を開けたそこには‥顔を真っ赤にしながらも、呆然とした表情をしたヒルクが居たんだ。
ふふ‥やっぱりヒルク、驚いたみたいだね。
まだ呆然と‥あ、我に返ったのかな?ヒルクってば、慌てて指で唇をなぞりながら‥こう言ったんだから。
「ちょ、ちょッ‥!ユキ、お‥お前‥」
ボクがキスをした事‥ヒルクはよっぽど驚いたみたいだ。
まぁ、ボクがそれまでは全然乗り気じゃなかったから‥っていうのもあるのかもしれないけど‥
それはともかくとしても、どうせやるなら‥ね?ちゃんと練習しておかないと。
「ホントのキスはこうじゃないかな?ヒルクくん」
だから‥ふふ、ボクは左手を腰に、右手の人差し指だけを立てて、左右に振る‥そんなポーズをとりながら‥
ヒルクに向けてそう言ったんだ‥まるでどこかの学校の先生のように‥ね?
ま、まぁ‥そりゃあボクだってキスは初めてだけど‥でも。
きっとこんなんじゃないかなぁ‥って思うんだよね。
‥少なくともヒルクがしたキスよりは、よっぽどちゃんとしたキスらしい‥よね?
「お、お前‥い、いや‥確かにその‥それっぽいけど‥い、いや、そうじゃなくて!‥え‥えっと‥」
ヒルクってば‥ふふ、ぐうの音も出なかったみたい。
ボクに返す言葉も無い、とばかりに言葉に詰まると‥恥ずかしそうにうつむいたんだから。
うつむいたままで、顔を朱く染めているヒルクを見ていると、なんだか‥
と、ボクが考えている間に‥ヒルクの脳裏にひらめいたことでもあったのかもしれない。
不意に上げた顔には、まるで何かを思いついた様な‥ハッとした表情を浮かべていて。
そして‥
「‥お、俺だって‥ユキに負けないキスくらい出来るんだからな!」
そんな言葉を言うや否や、再びボクとの距離を詰めてきたんだ。
‥そこは戦士の腕‥って言ったらヘンだけど‥
ボクが身構えるよりも早く、ヒルクの左手がボクの右肩に伸びて‥
それと同時に、ヒルクの右手がボクの後頭部へと伸びる。
あッ、と思ったときにはもう、時既に遅し。
ボクの身体は自然にスッと引き寄せられるようにして、ヒルクの方へと導かれて‥そして。
再びボク達の唇は重なったんだ。
唇が重なって‥再びあの感覚‥ヒルクの柔らかな唇の感覚を感じて。
突然の事に、瞼を開いていたボクだったけど‥そっと瞼を閉じて、唇に意識を集中させる。
‥い、いや、その‥ほら、唇に集中して、練習しないと!‥ね?
ボクが瞼を閉じるなり、ヒルクは顔を傾けるようにした‥んだと思う。
その‥ヒルクの唇がボクの唇に優しく‥押しつけながら、なぞる様に動いてきたんだ。
更には‥それで終わりじゃなかった。
「ん‥ッ!?」
その‥ヒルクの舌が、ボクの唇をこじ開けるようにして‥いや。
ボクだって、キスがその‥ちょっとだけ‥ちょっとだけ気持ちよかったから‥つい、力が抜けてしまって。
そんなボクの唇を、割って入るようにして‥ヒルクの舌がボクの中へ入ってきたんだ。
初めて‥初めて、口の中に‥他人の舌が入ってくる感覚をボクは感じて‥。
唇を合わせるだけのキスよりも、一層強くヒルクの「味」を感じる事が‥‥い、いや、その‥。
ともかく、これがヒルクの言うところの「ユキに負けないキス」なんだと思うけど‥思うけど‥
こんなの‥こんなのって‥ダメだよ‥‥そんな、男同士なのに‥こんなに凄い‥。
‥う、ヘンな事を考えちゃダメだ。
その‥きっと突然すぎたから、ヘンな風に考えちゃったんだよね。
そうじゃなくて‥これは練習、そう‥キスの練習の一環だものね。
だから‥ボクはそう考えたから‥その‥ボクも練習することにしたんだ。
来るべき「彼女とのキス」に向けての‥練習。
とりあえずボクは、侵入してきたヒルクの舌に、その‥舌を絡ませたりとか‥
舌の先でなぞってみたり‥えっと‥表面でれろれろ‥って擦ってみたり‥考えつく限りの、舌の動きを‥試し‥て‥‥あぁ‥
舌が‥舌が触れあう度に‥気持ちいいよぉ‥。
その‥自然とボクの口に入ってくる、ヒルクの唾だって‥なんとなく美味しい気がするし‥
もっと‥もっとって、舌を‥ヒルクの舌を求めちゃう。
「ん‥ちゅ‥‥」
ヒルクの舌をちゅう‥って吸ってみたり‥優しく舐めてみたり‥
‥それだけじゃなくて、もっと‥そう、ヒルクの口にだって、入っちゃおう。
‥ヒルクの味を、もっと感じる為に‥ヒルクの口の中へ‥ボクは舌を忍び込ませる。
「‥ん‥‥ん‥‥ちゅ‥」
ヒルクだって、舌を入れられるのには抵抗がないみたいだ。
ボクの舌を、優しく受け入れて‥受け止めて‥舌を絡ませてきて。
そうやって舌同士が触れあうのが‥とっても気持ちいい‥
自然と鼻から漏れる吐息に、時々ヘンな声が混じっちゃうくらい‥
‥‥って、ち、違うよ!?‥その‥キスをするのが凄い訳で、ヒルクがどう、とかじゃないから!ホントに!
‥と、とにかくボクは、ヒルクの口中で舌を動かして‥ヒルクの舌に絡ませて‥舐め合って‥。
ヒルクもボクの舌を‥そして唾を吸ってくる。
ホントにもう、ヒルクってば‥‥い、いや、あくまで練習だからね。
練習‥そう、練習の成果はたっぷりあったみたい。
ボクもヒルクも、段々と要領を得てきた‥っていうか、キスをするのが上手になってきて。
でもね、その‥ほら、ボク達ってお互い、向上心が強いから。
もっと気持ちよ‥いや、もっと上手くなりたいって思いが絶えなくて。
延々と‥唇を合わせて、舌を吸っていたんだ。
しんとした‥静かな部屋の中で‥ただ、唇を合わせる音‥水音だけが響いて‥
そして‥ボクは‥‥
‥ぼ‥ボクは‥ああ‥ボクは‥!
「ん‥んッ!」
ある事に気がついたボクは、その‥ヒルクの胸にそっと手を当てて。
そして‥ヒルクの身体ををそっとボクから離したんだ。
「ん‥‥」
唇を離して‥顔を離して。
そして瞼を開けた先にいたのは‥
頬を朱く染めて‥気持ちよさそうな‥嬉しそうな‥それでいてどこか残念そうな‥そんな複雑な表情をしたヒルク。
でも、ボクが瞼を開けたから‥かな?
ヒルクはすぐにいつもの表情に戻って‥そして。
何気ない言葉で‥こう言ったんだ。
「へへッ、俺もちったぁキス‥上手くなったかな?」
まるで‥そう、子供みたいな純粋な笑顔で言うんだから。
そんな表情で言われたら、ボク‥ボク‥。
‥ボクの心に、なんとも言えない「負の気持ち」が広がっていく。
ヒルクはきっと、純粋にキスの練習をしていたんだ‥今の笑顔からもそれは分かる。
でも‥でも、ボクは‥。
‥‥‥。
「そ‥そうだね、うん、上達したと思うよ」
とりあえず‥ぎこちない笑みを浮かべながら、ボクはそう答えた‥んだけど。
‥心の中には‥はっきりとしない「気持ち」が残ってる。
その‥さっきボクがいきなり、ヒルクの身体をはねのけたのには‥勿論理由があるんだ。
その理由っていうのは‥えっと‥‥
‥ヒルクには、絶対に気付かれたくない事があったから。
‥それと、自分自身でも‥信じられない事があったから。
それというのも、その‥ボクの身体に「ある変化」が生じた訳で‥
‥え?分からない?‥もう。
その‥ボクの‥‥‥が‥大きくなっていたから‥。
もう、こんな事全部言わさないでよ‥。
と、とにかく‥その‥キスをしてる間に、なんだか‥気分が高ぶってしまって。
そんなヘンなつもりは無いのに、ボクのが‥大きくなっちゃったから。
流石にそれを、ヒルクに気付かれるのはマズい、って思ったから‥ボクはヒルクの身体をはねのけたんだ。
それから‥そうだね、さっきも言ったけれど‥ボク自身、信じられない思いがあった‥
そんなハズ無い、って思いたかったから‥尚更ヒルクをはねのけたんだと思う。
‥ヒルクとのキスで、その‥大きくなっちゃうなんて‥そんなの‥ち、違うと思ったから‥。
だって、ボク達男同士なんだよ?それで‥反応するのって、やっぱりおかしい‥じゃない?
だから‥だから‥。
そんな心の中での‥揺らぐ気持ち。
でも、そんな気持ちからも‥きっともうすぐ解放される。
だって、「練習」は終わったんだもの。
だから‥‥
‥そんなボクの「考え」は‥
すぐに打ち砕かれてしまったんだ‥。


 
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